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マテール・プレアー  作者:
第一章
8/23

暗闇の中で

☆☆☆

ぴちょんっと水が落ちる音が聞こえる。

窓も何もないここで、ただひたすらに眠る。

もう何百年待っただろうか。

自分がなぜここにいるのかすら思い出せない。

誰を待ってるのだろうか。

ただ果たすべきことだけが身体を駆け巡り、

[死]から遠ざけている。

いつ現れるか、どんな人なのかもわからない

その人を待ち続け、少女は眠り続ける。

☆☆☆

「おら、さっさと入れ!」

背中を唐突に蹴られ、前方に前のめりに倒れる。

無論手は縛られている為、地面に顎を強打する。

「ガッ!グッ…」

「こっちが温厚に話してやっているというのに、貴様は二言目には勇者勇者…。全く、どこの街の者だ?親の顔が見てみたいね!」

「オレはこの街出身だ!この街唯一の勇者家系の息子だ!さっきからそう言ってるだろう?なぜ信じてくれないんだ⁉」

「まぁたその話かぁ?だからな、貴様の言う

[勇者]は半年前に廃業したのだ。この街も例外ではない。唯一あったその勇者家系は2年前に転職したのだ。今は…。うーむ、思い出せん。とにかくだ、貴様は少し頭を冷やすことだ。その牢の中で一日過ごせば落ち着くだろう?これは私の慈悲だ。出て来たらもう一度話を聞くぞ?その時も変わらないのであれば…。じゃあしっかり頭を冷やすのだぞ」 「ちょっ、待てよおっさん、お前の職業はなんだ!昔はこんなことするような街じゃなかったぞ⁈」

「ん、私の職業か?私は[処刑人]だ。今は考察の仕事だ。下手なことは辞めとくんだな」

「あ、おい、待てよおっさん、牢閉めんな!出しやがれ!……クッソ、なんでこんな目に…」

処刑人…その名の通りなのだろう。

しかし、2年前と変化があり過ぎる。

それにこの場所は一体どこなのだろうか。

門兵に捕らえられた後、留置所から目隠しでこの場所まで連れて来られたが、街の中であることは確かだろう。

手の錠も足の錠もかかったまま。

脱出、いや脱獄するにはまず錠を外さねばならない。

「まさかこんなところで使うことになるとは…。…よし」

頭に想像するのは蛇…細く、細く、もっと細く、細く、錠を抜けられる細さの蛇…。

「はぁぁっ!」

頭に自分の姿を思い描き、だんだんと細い蛇へと変化する姿をイメージする。

これが[変化]の基礎だ。

自分の姿からなりたいものへ徐々に変化する。想像を、力の開放とともにイメージする。

そうすることにより、イメージとともに実際の体も変化する。

「はぁ、はぁ…うまくいった…」

いつもは自分の姿が変わっていくというところで気持ち悪くなり失敗するのだが、今回はそう悠長にしていられないのが幸いしたのか一発で成功した。

しかし、変化は体力消耗が激しく、しかもまだ不安定な為すぐに元に戻る。

「さて、錠は外れた。あとは牢だけか…。これは強化で無理矢理こじ開ければいいか…。よしっ、ハァァ、フンッ!」

--3分後--

「あ、開かねぇ⁈いくらなんでも強化に耐えられる牢ってないだろう⁉クソッ、あともう一息なのに…」

変化と強化の連続使用により体力を回復する為一休みする。

自分の牢以外は誰かがいる気配もなく、どこからか水が落ちる音だけが聞こえてくる。

「あなたはだぁれ?」

不意にどこからか消え入りそうな声が聞こえる。

周りを見回すが、そこには広がる闇しかない。

「しょくぎょうは?」

「答える前に、お前は何者だ!どこにいる!姿を見せろ!」

「わたしのしつもんがさき。あなたのしょくぎょうはなぁに?」

むぅっとしてしまうが、もしかすると助けてくれるかもしれない。

この手を逃すわけにはいかない。

「オレは[勇者]だ。愛称はジュニアだ。次はオレの質問に答えてもらおうか!」

返事はない。

変わりに 「ゆぅしゃ?」という言葉だけが繰り返し聞こえてくる。

ふっと、突然前の牢に光が瞬き、人のような形を作る。

呆気に取られていると光はますます収束し、そして、一人の少女を形成する。

「お、お前は何者なんだ?」

「ゆぅしゃ?ほんもの?ゆぅしゃ?」

「あ、あぁ。オレは勇者だ。使うスキルは少し違うが、紛れもない勇者だ」

「ゆぅしゃ!」

その場でなぜか喜ぶ少女。

「な、なんでそんなに喜んでいるんだ?」

「んーと、はい!」

少女は古ぼけた手紙を差し出す。

「えーと、『我子孫の勇者に我が使い魔を託す。勇者が現れた時、再び眠りから覚めるであろう我が使い魔を…… そ…て、はや…使い魔………にいる………倒し……由な……を』……なんで最後欠けてるんだ?」

「えーと、だきながらねてたの!おきたらあちこちぬれてたの!ふいたらこすれちゃった!」

「…そっかぁ…。んで、お前が使い魔で合ってるのか?」

「うんー!」

「職業は?」

「うーんとねー!えーとねー!わかんなーい!」

すごい使い魔残しやがったな。

「まぁいい、話は後だ!お前、この牢を壊すことはできるか?」

「んーと、できるー!」

「な…、じゃあ頼む、この牢を壊してくれ!」

「やだー!」

……はっ?

「ど、どうして?お前は勇者の使い魔なんだろう?だったら…」

「けいやくまだー!」

「け、契約?オレは何をすればいいんだ?そもそも契約なんてどういったものかわからないのだが…」

「かんたーん!わたしのおねがいごとかなえるー!けいやくかんりょーするー!ねがいかなえるー!いうこときくー!」

「…つまり、お前の願い事をきいた分だけ俺の為に動くと?」

「うんー!」

「……いいだろう、じゃあまず、なにをして欲しい?」

「えーと、えーと……。じゃあまず」

さぁ、こい!

「めのりんく!」

「め、目のリンク?」

「あなたがみたものわたしもみえるー!わたしのみたものねがえばみれるー!つかいまのだいいちのぎしきー!」

「な、そんな儀式があるのか…。というよりこれが願いなのか?」

「うんー!りんくー!はやくー!」

覚悟を決める。

「よし、受けるぜ!」

その瞬間、使い魔の体が光、目の色が変わる。

「我ここに使い魔の契約を交わす!我の目を汝に。汝の目を我に。我の叫びは汝に。汝の叫びは我に。古の誓いを、永久に!」

叫び終わると同時にその周りが光だす。

突如左目に違和感が芽生える。

「ぐっ、な、なんだ⁈熱い!」

目が焼けているような感覚が続いたあと、恐る恐る目の存在を確かめる。

どうやら目はついているようだ。見え方も変わっていない。特に変化はなかったようだ。

「契約、完了」

言い終えると同時に元の目の色に戻る。

「りんくできたー!」

「あ、あれがリンクなのか?オレにはよくわからないんだが」

「できたー!」

「じゃあ、早速この牢を壊してくれ!」

「やだー!」

「な、なんで⁈」

「おかしたべるー!おかしー!」

「……出してくれたらいくらでも買ってやるよ」

「やくそくー!くれなきゃけいやくにしたがってはいじょになるー!」

そんな恐ろしいものと契約したのか。

「ぜ、絶対だ!約束だ約束!」

「わかったー!」

すっと両手を水をすくうように広げる。

その上に光が収束し、鍵を形成した。

ガチャリと音がし、牢のドアが開く。

「お、おい今の!いや、今は逃げるのが先決だな…。よし、行くぞ!」

「おかしー!はやくおかしー!」

急かされるままに走りだすが、途中で牢の鍵を落とし、音が響き渡る。

しかし、幸いなことに誰も気付いていないようだ。

街に戻る理由が変わりつつある勇者の背中からのおかしコールだけがただひたすらにこだまし続けていた。

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