03
――朝
たまたま、目覚ましよりも5分早く目が覚めてしまった。
「珍しいこともあるもんだな」
まあ、すっきり目が覚めたことだし、さっさと着替えて学校に行く準備でもするか。
部屋で着替えていると、ノックもなしに部屋の扉が開く。
もちろん、俺が開けたわけではなく、風華だったりする。
真夏の朝、暑いものは仕方がないけど、なぜかパンツ一丁の状態だった。
いや、着替えの途中だったんだっけ?
「あ、あのーさ、もうちょっと待ってて、くれるか?」
「――き、着替えてるなら、そういってよ!」
まさか、今日の最初にパンツ一丁で、風華と話すことになるとは、我ながら、とんだ間抜けだったな。
さっさと学生服に着替え、下に降りる。
リビングのテーブルには、一枚のメモ用紙があった。
「早出なのでもう行きます、ちゃんと彼女と仲良くするんだよ ps:時と場所と場合を考えてやりなさいよ!」
早出の報告と、よくわからん一言付だった。
テレビをつけてソファーに座ってる風華がいた。
「あ、おはよう! さ、さっきはごめんね、ノックするの忘れてたよ」
「おはよ、まあ、それは気にするな、ところで朝飯食ったか?」
「まだだよ、私が作ったら、昨日みたいになっちゃうじゃんか?」
おいおい、パンとかなら焼けるだろ、と、突っ込みたくなったが、ここは堪えて、にこやかにスルーを選択。
「――ここは、ご飯ぐらいならよそえるだろ、って突っ込むところじゃないの? それと言っておくけど、あきらの突っ込み役が私と付き合ったからって、無くなった訳じゃないんだからね!」
「俺突っ込み役だったの!?」
初めて知ったよ、そんな事実。てか、いつからそんなのが、決まってたんだろうか?
「あ、そうだ、怜先輩もなかなかのツッコマーだよね!」
「――えっと、ツッコマーって何?」
「ツッコマーって言うのは、突っ込み役の人の事を指すんだよ! 今私が考えた!」
「今考えたんかい!」
あ、朝からこのテンションで行くと、これから毎日体力が持たないんじゃないかと、心配になってきたぞ……。
「さ、朝ご飯にしようよ!」
「そうだな、朝はごはんか? それともパンか?」
「朝はフレークかな?」
そんな欧米な朝食、この家にはないんだよ!
「んじゃ、ご飯とみそ汁でいいな?」
「うん、それでいいや、フレーク探したけどなかったからね」
――えっと、この子今なんて言った? 探したとか言いました? 荒らされた形跡はなんだけど、ところどころ物の配置が変わってるから、母さんが何か探してったのかと思ったけど、まさか風華が犯人だったとは思ってもみなかったな。
「うーん、かってに人の家の台所荒らすなよ? 物の置き場所が変わると、変な感じがするんだよ」
昨日作っておいた、みそ汁を温めなおして、ご飯を茶碗によそった。
「それはゴメンね、今度から気を付けるよ」
テーブルにご飯とみそ汁、それから、解凍した焼き鮭を並べた。
「それくらい俺に言ってくれれば、いいのに」
俺が言ったことに返答することなく風華は、黙ってテーブルの席に着いて、ご飯をつつきだした。
「そういえば、今日から旅行だっけ? 一回自宅に帰らないと、まずいかもしれないんじゃないか? 用意とか何もしてないだろ?」
「あきら、行くところは私たちの別荘よ? 向こうに必要なものは揃ってるに決まってるでしょ?」
ああ、そういえば鈴峰の別荘に行く……そんなことだった気がする。
おぼろげに昨日の議題を思い出していたら、インターホンが鳴った。
インターホンの画像を見るとそこには怜がいた。
「誰?」
「怜だ」
すると、もう一度インターホンが鳴った。
俺は慌てて、玄関に向かう。
「おはよう、あきら君! 今日は旅行の日だよ!」
怜の隣にはオレンジ色の小さなキャリーバックが置いてあった。
そういえば、昨日あんなことがあったせいで、準備なんて一切してなかった。
いるものって言ったら何があるだろうか? とりあえず着替え、洗面用具、お菓子は300円までって言うのは冗談で、何がいるかなんて、言われてないからな、実際向こうに何があって何が無いのかなんてわかんねーしとりあえず、着替え、洗面用具で十分だな。
俺が、玄関で考え込んでいると、リビングから風華が出てきた。
いや、別に「出てくるな」と言ってあった訳ではないから、何もおかしいことではないのだが、もちろんそれは事情を知ってる俺と風華だけの話で、怜は何の事情も知らないわけで、もちろん唖然としていた。
「おはようございます、怜先輩! 今日は旅行ですよー!」
「お、おはよう……じゃなっくて、なんで風華があきら君の家にいるの?」
別に怒った様子でもなく、ただ、純粋に気になっているみたいだ。
俺は言うかどうか、迷っていたら風華が突然腕にしがみついて、ついに言った。
「私とあきらは付き合うことになりました! だから、昨日はそのまま、あきらの家に泊まりに来たってだけですよ?」
平然とそして、淡々と言葉を並べているくせに、きちんと耳は真っ赤になっていた。
もちろん、隣でそんなことを言われて、恥ずかしくないわけがないので、鏡を見れば、俺も真っ赤になっているに違いないだろうが。
ただ、怜だけは、下を向いていた……。
「そ、そうなんだ……あ、ごめんね風華、私邪魔になるから先に行くよ……じゃ、学校でね……」
そういって、走っていった怜の背中を見ると、なぜだか、理由も分からないけど、ちくりと胸を刺す痛みがした、そんな気がした。




