04
しかし、この部屋も、もう少し綺麗ならもっと広く使えるのにな。
よし! 今度一気に片付けるか!
いつになるか分からない予定と、今日の晩御飯を何にしようか考えながら、てきぱきと掃除を終えていった。
「それにしても、一人で帰るのは久しぶりだな」
最近は、なんだかんだで、怜と風華にいろんな所へ引っ張りまわされるのだ。
別にいやではないのだが、帰りが遅くなるのと妙に疲れるのが難点なんだよな。
怜と風華がいなかった時にはトミカと一緒に帰って……。
あいつ、今何してるんだろうな……。
トミカはあの日から、一度も姿を見せなかった。
学校側では風邪だと言っていたが、おそらく俺達と接触しないために休んだんだろう。
あくまで予測なんだが、いずれ、あいつとは衝突することになると思う……。
トミカと喧嘩するのは初めてかもしれないな。
靴に履きかえようと靴を取り出すと一枚の紙がひらひらと落ちてきた。
どうやら、メモらしい。
「4時に校舎裏に待っています」
悪戯かと思ったけど、この筆記は見覚えがあった。
「あ、そうか! 風華だ! でも、なんでわざわざ校舎裏なんだ?」
何か俺はやらかしたのだろうか?
時計をみると、すでに4時を過ぎていた。
俺は慌てて校舎裏に向かった。
周りを見渡しても、誰もいなかった。
あれ? 怒って帰ったのかな?
しばらく、きょろきょろしていると上から声が聞こえた。
「こっちこっち!」
どっかで、見たことあるシーンだな? いわゆるデジャヴってやつか?
非常階段の踊り場から飛び降りる少女。
残念ながら本日彼女はスパッツを履いているのです。
「で、何の用事だ? 俺は帰って飯の支度をせねばならん! 用件は手短に頼むぞ?」
「ひどっ! そんな言いかたは無いでしょ」
しばらく、無言の風華、何か考え事でもしてるのだろうか?
「きょ、今日は……1人で帰るの?」
「見りゃわかるだろ? お察しのとおり、俺は今日も1人寂しく帰りますよ」
「そ、それじゃあ、私が付いて行ってあげる」
風華と帰って、俺のよりたいところに行けたためしがないんだよな。
常に、あの店この店ってフラフラと入っていくけど、まあいっか、どうせ帰っても1人だし、飯作る以外やることもないし。
「別にいいけど、今日は寄り道はしていかないからな!」
決まり文句を言って、さっさと学校を出るべく、校門へ向かった。
「――ちょ、ちょっと待って……もう1つ……話があるんだけど……」
うつむいている風華の耳が真っ赤になっていた。
「ん? どうした? 何かあったのか?」
「わ、私……ね? えっと、そのなんていうか、あ、あれだよあれ!」
「どうした? なんか変だぞ?」
俺が風華に近づこうとした時、下を向いていた風華がバッと顔をあげた。
「す、す……好きなの! あきらの事が!」
風華は顔を真っ赤にしながら半ばやけくそみたいに、叫んだ。
もちろん、俺は聞こえているけど、突然すぎて、何がどうなっているのか分からないのだった。
どう返していいのか分からない俺はしばらくフリーズしてしまった。
思考がまとまらず、何を言えばいいのか分からず口を金魚みたいにパクパクさせていた俺はあまりにもダサかっただろう。
しびれを切らした風華が再び口を開く。
「ね、ねえ! 答えて? あきらは私のことどう思ってるの、そ、その恋愛的な感情の方向で……さ」
上目使いでぐいぐいと近寄ってくる風華。
接触もしてないのに、能力が発動してもおかしくないぐらい鼓動が速くなってきた。
うう、なんという破壊威力……。
「そ、そりゃ、突然だし、答えにくいかもしれないけど、答えを先延ばしにされるのは一番嫌いなの」
こ、これは……答えるしかないな。
逃げたら、最低な男になるだろう。
「こ、こんな俺で、よ、よければ……」
ずっと、下を向き気味だったのが、ぱあっと晴れたような顔をする風華。
あ、これも初めて見る顔だ。
「ね、ねぇ? 帰ろっか……」
「お、おう……」
どこか、ぎこちなくなってしまった俺と風華はなぜか、今までよりも離れて歩いていた。
「あ、あのさ……う、うう、腕組んでもいい?」
「いいけどさ、身長的に大丈夫か?」
「私はそんなに小さくない! いいから腕組むの!」
怒ってるようだけど、顔は笑っていた。
離れている距離を一気に詰めてその勢いで俺の腕に風華の腕が絡まった。
これは、なんというか……嬉しいような、ちょっと恥ずかしいような、何とも言えないそんな気分だった。
風華の方を見ると頬を緩めて「にへへへー」と嬉しそうに笑った。
俺もおんなじように笑って返した。
辺りは夕焼けの茜色に染まっていた。