表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第01話 全ての始まり

スコッピ2話執筆中

休み頃に上げます

 ガタンと上下に揺れる振動で目が覚める。だが目を開けても真っ暗で何も見えず、自分が目を開けているのか、それとも閉じているのかさえも分からない。手枷と足枷を付けられた私は体の自由を奪われ、動く事はできない。猿轡もされており、今の私は呻き声しかだす事が出来ないため、声を出せる芋虫ほどの価値しかない。


分かる事は、何者かに攫われ移動中、攫ったのは男2人組ぐらいで、何年ながら攫った本人の顔は確認できなかった。確認できていたとしても、今の状態をどうにかする事は不可能なので、それはひどく意味のない事柄だろう。一つだけ確かなのは私に身体的な危害は及んでいないという事だ。


 そのためか、私を死なないようにするため、攫った男が何度か私の口に酷くまずい流動食のような物を押し込み呑ませようとしてきた。最初は抵抗したのだが、体力の無駄であると同時に、何も食わずに死ぬのはとても悔しい、なので与えられる流動食は全て食べるようにしている。怪しい薬の類は入っていないようなのが幸いだ。時間の感覚がない今の私はこれが数少ない楽しみの一つと言う異常事態だ。もう一つの楽しみはと言うと私を攫ったと思わしき2人組の会話を聞くというものだが、あまり口数が多くないので正直面白くない。


 私にこれから起きる事を考えるのもいい暇つぶしにはなるだろうが、小心者の私は、行きついた考えに対し、みっともなくも恐怖のあまり涙を流し錯乱してしまうだろう。さすがにそれだけは避けたい。きっと永遠とも思えるこの長い時間に、物語の一つでも考え本にすればそれなりに面白い物が一つ作れるであろう。


 暇と恐怖感を誤魔化すためにも一つ夢想でもしよう、そう考えた矢先、再び大きな振動が来て上下に揺れ、私の体はあらぬ方向に力が加わる。手枷と足枷が鎖で壁と床に繋がれるため、体が床に打ちつけられる事態は避けられたが、手首の骨が軋みズキズキと痛みだした。


 「おいお前、そこを退け!!」

 男の怒号が耳に入る。私を攫った男の一人だろう。何か異常事態が起きたようだ。

 「そうだぜ、いっそてめぇをぶった切るか、馬に轢かせてもいい」


 威圧感を込めた別の男の言葉も聞こえる。

 馬に轢かせるという事は、私は馬車に乗せられ移動していたようだ。気づかないのも滑稽だが、私の考える力もそれなりに低下していたのだろう。


 「いやいや、別に通せんぼをしようとしている訳じゃない。この辺に賊の隠れ家があると聞いてな、あんたら何か知らんか?」


声で判断するに男だ。もしかしたら助かるチャンスかもしれない。私はやっと巡ってきたチャンスを生かすため、一つの行動を起こした。


 「そのような事知らぬ、もう一度言う、退け」


男が威圧するように再び言った。同時に私は助けを求めようと呻き声をあげた。


「ウゥー!!!!ウゥー!!!!」


同時になけなしの力を振り絞り、私を壁と床に縛り付けている鎖を思いっきり揺らす。ガチャガチャと辺りに耳障りな音が響き、外の男たちは反応を示した。


 「クソ!!」

 「あ?なんだこの音?」


届いた。私はもっと激しく鎖を揺らし、腹のそこから声ともつかない音を発する。


「ウァァァァァァッァ!!!!!!!」


私の音を聞いたのは攫った男も例外ではなかった。


「畜生!!まだ力が残ってやがったか!!」

 「口封じだ!!男を殺すぞ!!」


 二人の男が物騒な事を言いはじめ、鉄と何かが擦れる音が聞こえる。恐らく刃物の類を抜いたのだろう。


 「本気か………?」


足止めをしていた男の呆けた、何とも情けのない声が聞こえる。


 「本当だ、恨みはねえが死んでもらうぜ」

 「すまんな、これも仕事だ」


 月並みな言い回しをする二人の男、私はこの時酷く後悔した。もし通りすがりの男が武芸の心得がなかったのならばどうするのかと。無関係な人間を巻きこんでしまった事を、今更ながらに気づき、良心が私を攻め立てる。自身に危険が及んでいたとして、何とも身勝手なのだろうか。

今の私には仏に祈る事と、無関係な男に謝る事しか出来なかった。自分の情けなさに両の瞳から涙が零れ、ゆっくりと頬を伝う。


 しかし、次の瞬間私の涙を吹き飛ばすような火薬の破裂音が2つ響いた。あまり聞き覚えのない音であり、少なからず恐怖を覚える。

 まるで破裂音が全てを消し飛ばしたのかと錯覚してしまうような静寂、その後、扉についているであろう南京錠を弄る音が聞こえた。その後、錠前が外される音が聞こえると私は久しぶりの日の光を浴びることとなった。








 とある晴れた日、時間は昼の少し前の事である。周辺の村々と港を繋ぐ小さな道で何とも怪しげな男が一人歩いていた。名を風祭かぜまつり 善吉郎ぜんきちろうと言った。


善吉郎はこの国では珍しく非常に大柄で、一見すると侍のような格好をしていた。しかし腰を見るとそれは違うと断定できる。腰には武士の魂とも言える刀を差しておらず、代わりにあるのはヤクザ者が好んで使う短刀を差しており、思わずこの男はヤクザ者ではないかと勘ぐってしまう。


 その大きな体もそうなのだが、服装と髪もその勘ぐりに拍車をかける。髪もボサボサで着物も薄汚れており、育ちはいいほうではなさそうだ。


だが、腰に差している小刀は対照的に中々良い一品のようで、柄と鞘は白樺で出来ており盗んだものかもしれない。


「一体どこに……?酒の席で出た冗談だったのか?」


善吉郎はポツリと漏らし、木々の間を覗きこみながら街道を進む。それから三里ほど歩くとある事に気が付いた。道の遠くのほうで二匹の馬が馬車を引いてこちらに向かってくるのが見えた。


馬車の進行方向は港しかないので、もしかしたら辺りに詳しい行商人と考えた善吉郎は、一つこの辺りの事を聞こうと考えた。善吉郎街道の真ん中に立ち馬車を待ち受ける。


 時を待たずにに馬車はものすごい勢いで近づいてきた。馬車を操る男は前方に人が立っている事を知ると、どうにか避けられないか右に左にと移動するが、道の幅は馬車より少し大きいぐらいしかなく、両端には木々が並んで立っておるために避ける事は出来ない。


 馬車を操る男は、道を塞ぐ男を見つけると少し悩んだような素振りをして、ドウドウと手綱を引き手前で止まった。


「おいお前、そこを退け!!」


 馬車には二人の男が乗っていた。しかもどうにも噛みあわなそうな凸凹コンビである。威圧するように叫んだのは腰に刀を差した武士らしき男であった。少し細身だが顔に傷があり、修羅場をくぐってきた事を物語っている。


「そうだぜ、いっそてめぇをぶった切るか、馬に轢かせてもいい」


そしてもう一人が坊さんのように髪を剃った小太りの男、頭頂部から左頬にかけて大きな刀傷があり、本職のヤクザのようだ。


 だが、道を塞ぐ善吉郎も恐ろしげな二人組に威圧される事なく飄々と受け答えをした。


 「いやいや、別に通せんぼをしようとしている訳じゃない。この辺に賊の隠れ家があると聞いたんだ、あんたら何か知らんか?」


 笑みを浮かべ愛嬌があるように振舞う、しかし馬車に乗る男達には酷く気に障ったらしく、もう一度武士風情の男は威圧感を込め言った。


 「そのような事知らぬ、もう一度言う、退け」


この時、馬車の男二人は気づいていないようであったが、この馬車事態怪しいと善吉郎は踏んでいた。馬車の外装は通常の物とは異なり、全て木の板で覆われており日の光を取り込むはずの窓は木の板が打ちつけられていた。

それに男が操る馬車は狭い街道ではありえないほど速度を出している。この状況を鑑みて善吉郎は様々な考えを張り巡らせ、次の行動を考えていた。


その時、何か声が聞こえた。勿論善吉郎の物でもなく、馬車の男の声でもない。何かが呻くような声だ。


「畜生!!」


ヤクザ者が脂汗を流し悪態をつく。


 「この音は一体?お前ら獣でも運んでいるのか?」


 善吉郎が疑問を素直に口にすると、今度は応えるように再び大きな呻き声と、鉄が擦れるような音が聞こえた。


「わあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」


善吉郎は確信した。この2人は何かを隠していると。馬車の二人も隠しきれないと思ったのか、腰の刀を抜き善吉郎の目の前に躍り出た。


「畜生!!まだ力が残ってやがったか!!」

 「口封じだ!!男を殺すぞ!!」


 男二人は左右に分かれゆっくりと、かつ確実に善吉郎ににじり寄る。その光景をみた善吉郎は一瞬呆けたような顔をした。


 「マジかよ………」


 何とも情けない声ではあるが、その表情は喜びに満ちていた。


 「まじだ、恨みはねえが死んでもらうぜ」

 「すまんな、これも仕事だ」


 男二人は善吉郎の腰の小刀を警戒しつつ、同時に斬りかかった。見事に息の合った二人はそれぞれ違う場所を切りつけようとする。武士風情の男は左から、ヤクザ者は右から。


 善吉郎はまるで分かっていたかのように反応した。懐に手を入れると無骨な鉄の塊を取り出した。この時武士風情の男は獲ったと確信したが、火薬の破裂音が聞こえた後、一瞬のうちに意識は落ち、崩れ落ちていた。


 ヤクザ者は武士風情の男の額に黒い穴が開くのを見た。その光景に一瞬目を奪われたヤクザ者は、自分の額に鉄の塊が突き付けられている事に気がついた。


 「あ?」


 それがヤクザ者の最後の言葉となった。体は糸の切れた操り人形のように崩れ落ち地面を血で濡らした。血なまぐさい香りが鼻孔を刺激して、清々しい辺りとは裏腹に周囲は死の匂いを漂わせていた。


倒れた男2人の眉間の穴からは絶え間なく血が流れ続けていたが、善吉郎はそのような事には気にも留めず死体となった男の服を探り始めた。金目の物を探しての行動であろう。その後も善吉郎は匠の者が操るからくり人形のように動き続けた。


死体から財布と鉄の輪に括り付けられた鍵を手に入れると、財布を懐に入れ馬車の後ろに回る。予想通り扉は南京錠により固く閉ざされており、善吉郎は南京錠の鍵穴に鍵を差しこみ回した。すると解錠される音が聞こえて南京錠を外す。金目の物に出会えるであろうと言う期待を込め、ゆっくりと扉を開いた。


「金目の物は………」


馬車の扉を開くと同時に感じたのは喜びでも、はたまた悲しみでもなかった。真っ先に感じたのは不快感、その後、鼻につく酢のような匂いが鼻孔を擽り思わず一歩引いてしまう。馬車の中は薄暗く、粗末な布切れの塊が転がっているだけだと見えた。しかし良く見るとそうではないようだ。粗末な布切れの塊だと思っていた物は髪があり、目があり、そして鼻もあった。ピクリとも動かず人形かと思いはしたが、目は爛々と光りジッと善吉郎を見ている。


「先ほどのうめき声はお前か?もしや化生に憑かれた人ではあるまいな?」


善吉郎は警戒しつつゆっくりと近づく。良く見ると手枷と足枷をした少女である事が分かった。着ている服に乱れはないが非常に薄汚れており、長く美しいであろう黒髪も埃で汚れていた。


「う……うぅ………ん」


善吉郎を見つめる少女の瞳には、何か訴えかける物があった。善吉郎は一先ず少女の猿轡を外し、続いて手枷と足枷も残りのカギを使い外すと少女を日の元へ連れ出す。


少女は日の光を浴び眩しさのあまり目を閉じた。長い間暗闇の中にいたために目が眩んでしまったのであろう。


「口は利けるか?」


何とも温かみのない言い方であるが、元々不器用な善吉郎にとっては精一杯の優しさだ。


「水を………」


少女は蚊の鳴くような声で言った。善吉郎は少し考えを巡らせると、近くに水場があったことを思い出した。


「しばし待て」


短くそれだけ言うと、少女を小脇に抱え木々をかき分けつつ進んでいった。少女に木の枝や葉が当たらないようにと最低限の注意をしているようで、少女にとっては非常に快適であった。物数分で少し開けた場所に出ると、岩場の隙間から湧水を発見する。水は岩場に落ち、そこには澄んだ水が溜まっていた。湧水の前に少女を連れていくとぐったりしていた少女は勢いよく飛び出した。


「水!!」


躊躇いなく口をつけ呑みだした。善吉郎は何も言わずにただその光景を見ているだけだが、ある事に気付いた。それは少女の服装だ。薄汚れてはいるが、よくよく見ると相当上等な生地で作られていることが素人目でも分かった。それを踏まえて推測すると、少女はやんごとなき身分の者なのかもしれない。


「お嬢ちゃん、水を飲むのもいいが、そろそろ質問してもいいか?」


善吉郎はそう聞くと、少女は水を飲むのをやめ振り返った。


「申し訳ない………久しぶりの新鮮な水だったのでつい……」

「そんなに長い間捕まっていたのか?」

「分からない。だが不味い飯を食わされた回数は覚えている。十六回だ」


一日二食と考えると、捕まっていた日数は八日と少し。かなりの距離を移動したと考えられる。


「お前の住んでいた場所はどこだ?」

「北川城だ、そこで暮らしている」

「北川か……遠いな」


この時、善吉郎は眉をひそめた。北川城と言えば渡良わたらという一族が治めている北川と言う土地だ。北川は川に挟まれており、毎年のように水害に悩まされているが、そのおかげで川から栄養のある土が運ばれ、よい田畑を作ると言う。

四方が川に囲まれているために、北川に入る手段は船に乗るしかない。橋はない事はないのだが、現在改装中のはずだ。


「その………頼みがある、聞いてもらえるか?」


この言葉を聞いた善吉郎は心中穏やかではなかった。賊を襲い生計を立てている善吉郎にとって、この申し出は非常に面倒であり、しかし絶対に断れるものではなかった。なぜならば善吉郎は根無し草だからだ。港で聞いた山賊の話は嘘の可能性もあり、今のうちにお金を手に入れないとこれから先生きていくことは出来ない。


「条件次第だ」


心中焦りつつ、善吉郎は少しでも好条件を出そうと頭を働かせる。

「仮に俺がとんでもない金額を報酬にふっ掛けたら、お嬢ちゃんは払えるのかい?」


「勿論払う……だが、後払いだ」


少女は苦虫を噛み潰したような顔をして、絞り出すような声色で言った。この交渉は少女にとって何とも歯がゆい物であった。本来、大きな金品が動く交渉ごとは前金というものがある。相手を信用する意味でもある程度まとまった金額を、相手方に渡すものだが、今の少女にはそれはできない。口では自分は金持ちで、後で幾らでも払うと言ってもまだ十かそこらの小娘がいっているのだ。説得力など微塵もない。


「後払いねぇ………?」


善吉郎は少女を訝しげにジッと見つめた。その目は蛇のように鋭く冷えていた。少女は獲物となった自分が品定めをされているようで、正直良い気は全くしていなかった。


 「駄目か?」

 「後払いというのが何ともな………」


善吉郎は契約を反故にされた場合も考え、前金代わりになるものはないかと思っていた。


「じゃあこの着物を受け取ってくれ!!これは父が用意してくれた値打ち物だ。売れば前金ぐらいの値段にはなるはずだ!!」


そういうと少女は一枚だけ服を脱いだ。その下は肌襦袢になっており、思いのほか小柄であることが分かった。


「…………」

「足りないか?それだとあと金目のものは肌襦袢しかないのだが………」


少女は心底困った顔をしていた。きっと肌襦袢も相当な値段なのだろうが、さすがにそこまで欲しがる善吉郎ではなかった。


「別にそこまでしなくてもよい。前金代わりに着物を受け取ろう」


あきれ顔でそう言うと頭の中で金勘定を開始した。


「では依頼を受けてくれるのか!?」


少女は目を輝かせて言った。


「ああ、だがその前に二,三条件だ」


そして善吉郎は条件を語り始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ