ハズレくじは大当たり
今日はなんだかツイてる。
いつもは満員で座れない電車に、ちょうど私の目の前が空いて座ることが出来たし、いつもは売り切れで買うことの出来ないメープルパンが、ちょうど一つだけ残っていて買うことが出来た。
そして――
カランコロン。
「大当たり〜!」
――商店街の福引きで、一等を当てるという偉業をなした。
ここまではラッキーだと思ってた。私ってツイてるって。
「お嬢ちゃん、おめでとう!一等の"彼氏"だよ」
「……は?」
――だけどおかしなことに、その賞品は、"彼氏"だった。
「千里ちゃん!」
「寄るな鬱陶しい!」
商店街の福引きで"コイツ"を当ててから、何故か私に彼氏というものが出来た。
我が物顔で私のアパートに入り浸り、私の稼いだお金で暮らす最悪な男が。
「もう、まだ不満なの?いい加減諦めて僕を彼氏として認識しなって」
「やだよ!なんで福引きなんかで私の彼氏を当てなきゃなんないの!」
「仕方ないじゃん、僕を当てたのが千里ちゃんだったんだからさぁ」
そう。そこなのだ。
私が気にかかっているのは、私ではない他の奴が"コイツ"を当てたら、"コイツ"は誰の彼氏にもなる、ということ。
「……千里ちゃん、いい加減機嫌直してよ〜」
「……」
私を後ろから抱きしめて――むしろ縋りついて離さない"コイツ"が、私は嫌いだ。
「……体にリボン巻きつけて『僕が景品です!』なんて変態を彼氏になんかしたくない」
「言い方に語弊があるよ〜。僕は景品なんだからラッピングしなきゃ駄目でしょう?」
「その言い方が気持ち悪いッ!」
体をくねらせる自称彼氏は、どさくさに紛れて私の頬にキスを落とした。
「ちょっ、なにやってんの?!」
「何って、恋人同士なんだからナニは必要でしょう?」
「キモいッ!」
触れられた頬をさすっていると、くすりと笑う声が聞こえる。
「なに笑ってんの?!」
「いや、だって……」
不意に体が動いたかと思ったら、目の前に彼の整っている顔があって。
無理やり体を反転させられたのだと気付く。
その唇が綺麗に三日月の弧を描くのを見つめながら、顔に血が集まっていくのを感じていた。
「……だって千里ちゃん、イヤイヤ言いながら、抵抗しないんだもん」
そう言った声が先か、はたまた私の唇に落ちた感触が先か、わからない。
ニヤリと笑う目の前の男が、私は嫌い。誰のものにもなる彼が大嫌い。そして、そんな彼を……。
「あの日、千里ちゃんが僕を連れて帰った時点で、僕は千里ちゃんのもので、千里ちゃんは僕のものだよ」
「……私は、アンタのこと、」
――目の前の"彼氏"は、言葉の続きを言わせてくれなかった。