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重工のメカロニカ  作者: 赤間世穹
第二楽章:交錯

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第8番:瞳

 銀はじっと観察していた。

 眼前には巨大な宙を舞う海、周囲には岩石とナトリウムたちの母胎となる岩塩群。そして、その中の異物である金属片。

 この金属片は導師が乗っていた物の一部だろうことが推測された。銀はこれをどう取引に使おうかと悩んでいた。

 すると、セリウムが何かを抱えて降りてきた。

 「やぁーセリウムの旦那ぁ。 ……それは……?」

 いつもの調子で背を丸めて顔色を伺うように問う。セリウムの顔を見ると、何だかそわそわと落ち着きが無いように見える。セリウムならいつものことだが、今はいつもと違う。

 「これ、海生脊椎動物の遺伝子だ。全く脅威がない異物だよ。気にならないか? 僕は奴らにばれずに研究したいと思っている。君も興味あるだろう?」

 畳み掛けるように興奮した調子で言い、海生脊椎動物をその場に置くとそれは好奇心で満ちた目で銀を見上げた。

 「お、おぉ……な、なるほどぉ……? んー、まぁー……自分としましてはぁ……危険が無い、とは限らないものには、手を貸す訳にはですねぇ……」

 取引で最も重要なのはどれだけ自分に利益があるかどうかだ。損をすることが分かりきっているならばそれを覆す程の得が無ければ成立しない。これはエメルドをどれだけ貰ったとしても割に合わない取引だろう。セリウムがどう出るのか、銀は下手に出つつも目は商人よりも審判官のような、審議し判決を下す側のような冷徹さがあった。

 セリウムは一瞬考えたのち、

 「奴らが暴れる本当の理由、知りたいと思わないか?」

 毅然とそう言いのけた。

 銀はきょとん、と呆気にとられた。

 まさか、価値のありそうな情報と引き換えに協力をしろと言うのか。

 何故暴れるのか、人型を見ると発狂するように威嚇し襲って来る奴らは危険ということで長らく放置されていた。

 銀も知りたくても知ることが許されない状況は一向に変わらなかった。それが今目の前にぶら下がっているとなると、食わなければならない。食らいつかざるを得ない。

 銀が知りたいことはただの情報では無い。取引価値のあるものだ。セリウムと結託すれば金と白金に売ることが出来るのではないか、皆が食らいつく最高の商売となるのではないか。

 銀は腹の底から笑いが込み上げた。

 「ふふ、くく……あっははは! いやぁ! セリウムの旦那ぁ! 分かってますねぇ! 分かってますよぉ! ただねぇ自分はぁ、何もしたくないんですよぉ。分かりますぅ? トランジといえね、戦闘なんて真っ平ごめんですよ!」

 セリウムを試そうと、「どう安全にそれをやり遂げるのか」を聞いた。

 しかし分かっていた。セリウムの能力があると。

 「ふっ、簡単なこと。僕たちを透明化する」

 そう言うと指を鳴らした。ぱちん、と空気が揺れるが、特に何かが変わった様子は無い。

 「これで見えないはずだ」

 「ほう! これはこれは」

 「これならば問題無いだろう? 本題はここからだ」

 セリウムの言葉を聞きながら、銀は海生脊椎動物を抱き上げた。


  *


 ある程度往復した鉄は、「疲れたー!」と言って浜に身を投げ出し倒れ込んだ。

 その様子を苦笑しつつ見ていた導師は身震いをした。何か悪寒がした。何かは分からず、周囲を見渡すが、特に変わった様子は無い。

 それに気付いた鉄は「どうしたー?」と聞くが、導師はただじっと考え込むだけだった。

 「んじゃあ、合流するかぁ」

 よいしょ、と立ち上がると導師からバッグを受け取り、ツルハシを元の位置に戻すと肩に背負って歩き出した。

 導師は鉄が歩き出したことに気付かず、考え込むばかりだった。

 「ドクター!」

 何かを感じた。しかしそれが何なのか正体が掴めずにいる。鉄は一切気が付いていない。海のあらゆる方向を見ても、上には岩石が浮かんでいたり、浜の近くに岩石群が密集していたり、今までと変わった様子がないのだ。これから何が起ころうと言うのだ。

 「ドクター! どうしたんだよ」

 鉄に肩を叩かれてようやく気が付いた。鉄は不思議そうに顔を覗き込んでいる。

 「あ、うん」

 「言えよ。何があった?」

 報告はすべきだろう。しかし、これと言って決定的なことは何も無い。

 導師は悪寒がした、何でそう感じたのか理由がはっきりしないと伝えた。鉄は周囲を見渡すがやはり何も無い。

 「そうか、先生に一応報告しといてくれ。俺は先に向こうに行くぞ」

 心配はあるが、今やるべきは補給チームとしての仕事。鉱石を採ることだ。先にと言いつつ、歩いてゆっくり向かっていった鉄は導師が後から着いてこれるように配慮した結果だろう。

 導師は言われた通り金に連絡をとった。

 〈…………セリウム〉

 話を聞いた金はぼそりと呟いた。

 〈カルシウムが防御壁にいた時、幼い海生脊椎動物が現れたそうだ。水銀にその場を任せたがその後、セリウムが邪魔をしてね。そのセリウムが、海生脊椎動物の遺伝子を抱えてどこかへ消えたそうだ。水銀の話によれば、彼はきっと群れに戻すことはしないだろうと〉

 海生脊椎動物は人型を見ると暴れる、襲って来る、そんな風な話があったにも関わらずその海生脊椎動物の子供は襲うことはなく近づいてきた。それに興味を持っただろうセリウムは、それを抱えて姿を消した。

 彼は誇り高い研究者だ。きっと自分の安全を優先しつつ、邪魔の入らないような場所で研究に勤しむことだろう。

 導師は「海なら……ここで、悪寒がしたのも」と呟いた。

 金は頷いた。

 〈だろうな。まあ、構いやしない。だが、そちらに危険が及ぶようならば鉄とベリリウムなどもいることだし、上手く対処してくれ〉

 分かった、と頷くと通信は切れた。

 金は全て分かった上で放置する選択をとったようだ。やはりここは本当の意味で無法地帯ということか。そもそも人間がいない時点でそれは確定事項ではあるが。

 導師は鉄を追いかけ、そして枉磊(おうらい)の晶窟へ入った。


  *


 「……ふむ。興味深い」

 掌に浮かぶ白い炎の中で、その生態系を垣間見ていた。

 宇宙の真中に銀河棲生物(ウラノピスキス)に乗ったティアは炎をしまうと立ち上がった。

 「刻を進む、歪みは波と成り、灯火は朽ち果てる。点は線を描き、線は湾曲し、回り回る星のその歪さ、まさしく黄金比! これぞ美術、これぞ自然の美しさたるや…………もっと、もっとだ。主よ、もっと私に」

 主は答えない。

 舞台に立つ演者のように振る舞うティアは再び白い炎に映し出した。

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