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重工のメカロニカ  作者: 赤間世穹
第三楽章:世界

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第11番:決意

 集会が一度終わり、金はセリウムの頭上に乗っかったままの海生脊椎動物について「あれについて何か心当たりは?」と導師に尋ねた。導師は補給班に同行した際に上から見た景色も同時に思い出すが、やはり全く見たことがない。しかし、導師は以前に聞いたことがある伝説をはたと思い出した。関係があるかどうかは不明だが、もしかしたら手掛かりになるかもしれない。

 「…………天海竜、銀河棲生物、“ウラノピスキス”──国や人によって色んな伝承があったが、いずれにせよ──(そら)を泳ぐ巨竜は、古来より岩石から星を護る。地域によって内容は違ってくるけれど根本は皆同じで、そんな話が一部ではかなり有益だと信じられていたが、私もその中のひとりだった。 ……勿論、実際に見た者の証言なんて記録に残っていない。だからこそ伝説や伝承として尾ひれがついて語り継がれたんだ」

 もしかしたら、それかもしれないが。そんなことを付け加えて話すと金は少し考え込んだ。そしてちらりとセリウムの方──頭上の海生脊椎動物を見た。海生脊椎動物はかなり怯えているが、反抗心は無いようで、セリウムの髪にしがみつき、まるで蛇に睨まれた蛙のように縮こまっている。愛くるしいが金は特に何も感じないのか、それとも頭脳の回転に集中しているだけかじっと静かな攻防のようなものは続いた。

 「なぁ、オーラム。これはどうやら導師くんの言う通りかもしれんぞ、出てきた成分は全て宇宙()のものだ」

 セリウムはそう言い放った。

 「だが一部、全く未知の成分が検出された。それこそが、鍵ではないか? なぁ、そうだろう。オーラム」

 先程まで萎縮していたセリウムとは異なりかなり堂々とした佇まいだ。頭に呆けたトカゲが乗っていなければ威厳があっただろう。

 金はうむ、と頷いた。

 「導師、どう思う?」

 「私にもさっぱり……」

 「何か、俺たちの知らない成分について、あなたなら分かるのではないかと」そう言いながら白金は歩み寄って来た。

 「どこから来て、何者なのか。もう一度問うことになるか」

 金はそう目を伏せた。

 察することは出来る。自分自身が経験したことのあるものを淡々と並べ、それらの関係する職業を割り出せばいい。しかしそうすることに意味があるだろうか。どこから来たのか、それは明白だ。だがそれすらここでは何の意味も持たない。ただの記号の羅列に彼らは縋り付くほどまだ知識が足りていない。技術はあれど、人類よりも遥かに先を行っているように見えても、やはりここは牢獄や鳥籠のようなものなのかもしれない。閉鎖的な場所で生まれた物はいずれ外へ興味を抱くが、その外を知らなければ興味すら持つことはない。彼らは知ってしまったのだ。外からの来訪者によって、牢獄(この場所)以外の存在を。

 言ってもいいものだろうか。いや、知らなくてもいい事実、どうでもいいことだ。

 導師は記憶を手繰り寄せた。

 目の前の指導者の問いかけに熟考する異種の一挙手一投足を全て、セリウムは観察と分析をしていた。

 「この世界は、あまりにも広い」

 ついて出た言葉はとても浅はかな言葉だった。

 「興味や関心で片付けられない、君たちの知識欲は全て、この星そのものを知るための道具で、そして我々と同じようにその為に最善を尽くし、同じように過ちを犯す。それでもここには(ルール)が無い。倫理も道徳も無価値で、自然そのものだ。だからこそ魅了されてしまった人間たちは哀れだった。そして私も──その一人だったんだ」

 指導者も科学者もじっと静かに聞いていた。独白は続く。

 「けれど、完全に記憶が戻ったわけではない。私自身の事は、本当に覚えていない。ただ言えるのが、点と点を繋げば推測出来る。そして何者か答えようと思えば答えられるかもしれないということ。だがそれでは、違う気がするんだ。 ……私は彼ら異生物──銀河棲生物(ウラノピスキス)と呼ぼうか。ウラノピスキスは、伝説や伝承の中では“一体しか”描かれない。だから、群れで行動していること自体、そもそもおかしいのかも……しれない。すまないが、これも証拠は無い。ただの言い伝えだ」

 申し訳なく思う導師は項垂れた。しかし金の瞳はいっそう輝いた。そしてセリウムも。

 「ああ、良い! そうさ! それでいい!」

 高らかに歌うように金は言った。

 「嗚呼、兄弟よ。それでいい。分かっているじゃないか、君のことなどちっぽけなものだ。今の君を見ていれば分かることだったな。そして……ウラノピスキス、か。確かに奴らは喧嘩はするが二体で行動することは報告されていない。食事をしているところも、睡眠をとるところも、ほとんどの行動は一体で周囲では好き勝手に各々が暮らしているように見える。ランタンがよく観察してくれているが、ならば、これは……」

 再びセリウムの頭上に目を遣る。ウラノピスキスはきょとんと小首を傾げた。

 「アルカリたちが喜びそうだ」と白金は苦笑した。

 「それならば研究にも使おう! 思う存分使おう! そしてこれを我々に従属させるのだ!」

 物騒な事を言うが、セリウムはこういうところがあるのだろう。ぐはははと高らかに笑うセリウムに対して金は特に何も言わなかった。ただふっと笑った。これからまた騒がしくなりそうだ、そう言いたげに。

 「おはなしはおわった?」

 白金の背後からひょっこりと現れたのは先程目が合った元素体(エレメンタム)だった。

 「うん? ああ、水素か」

 「え、水素?」

 「水素だよぉ! ちゃんとおはなしできてなかったよね? わたしは水素っていうの。ふれてみる?」

 「水素は気体……って、そうか。元素体は」

 「非金属(セクンディニカ)も元素だ。ここでは意志を持つことができる。自由に動ける脚があり、世界を見る瞳があり、空気を感じることだって出来る。我々は、君たちと同じようなものだ」

 そう言って金は水素に微笑んだ。

 「水素はチーム全体の結束を強める能力を持つ。だからこそ今回の編成には必要不可欠な存在だな」

 そんな金の説明にそんなことはないけど、ともじもじとしながら水素は謙遜している。セリウムも鼻が高いようで水素の背中をばしばしと叩いて笑っている。人の姿をしていると触れられるのかと妙に感心してしまった。

 「これからどうするの?」水素は導師を見上げて言った。

 これからか、と考え出そうとしたその時、「なぁ、異種」と声がした。水素の背後からカルシウムがいつの間にか現れた。水素はすいっと軽やかに避けると、カルシウムは前へ出た。顔を合わせづらいのか俯いたまま。

 「敵意は無いと、信じていいのか?」

 そして真っ直ぐ顔を上げて導師を見た。その表情はあまりにも不安げで、今にも壊れてしまいそうなほど繊細さを帯びていた。

 「ずっと考えていた。だが、先生がああ言ったのは必ず理由があるはずだ。あんたにそうさせる何かがあるって……今の話聞いて、少しだけ分かった気がする。 ──私たちも、個の能力はあれど、ひとつで完結するものではない。連結してはじめて強くなれる。あんたは分かってるだろうけれど……他の元素体に対する言動は、どこか白金先生に似ている気がする。まだ他所者として扱って欲しいならそうするが、私は導師(ドクター)を信じて仲間として認めたいと思った。だが万一にも、私たちに害をなすのであれば、その時は容赦なく崩壊させる。一線は引かない。それでいいか?」

 真っ直ぐ見据えた緋色の瞳には決意が宿っていた。散々悩んだだろう。仲間を傷つけられた、家族を傷つけられた過去があれば誰であれ警戒する。それでも信頼する金を信じたい気持ちが強いのかもしれない。その気持ちに応えたい、導師もまた決意した。彼らと利害が一致しただけではない、研究仲間と言うだけではない、同じように“家族”のように思ってもらえたら。それはとても難しい願いかもしれないがそれだけ信頼して貰えるように励まなければならない。

 ──あの研究室の皆のように。

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