二話、あのね風呂に入りたいのは分かるけど色々大変なのよ。の巻
私、鈴木太郎は今、午前中の入浴介助を
行っている。
今日の私が入浴担当をする利用者様は男性、
(吉田和重)年齢78歳、既往歴74歳の時に
脳梗塞を起こし右片麻痺、高血圧、
性格時々カッとなるが
普段は温厚なおじいちゃん
(西沢利三)年齢68歳、男性、
既往歴C型肝炎、右足白癬菌による爪の肥厚
性格、物静か、あまり話す事を好まない
というおじいちゃんの二人である。
最初は特浴と呼ばれるストレッチャーで
入浴をする吉田さんからお風呂だと
声掛けをする。
吉田さんは自分で着替えを準備していたので
お預かりしてそのままお風呂場へと向かった
吉田さんがバスチェアーに座ると左手に
ボディーソープを付けて泡立てた垢擦りを
渡す
使える左手を上手く使い器用に身体を洗っていた。
何故職員が洗ってあげないのかと
思う人もいるだろう。
だが介護の世界では利用者様が自分らしく
生きる、(自立支援)という考え方が基本なのである。
故に現存している左手で自分で出来る事は
自分でやり難しい所は職員がお手伝いをするのだ。
そうしてADL(日常生活動作)が衰えるのを
防ぎ今現存している能力を維持していく
それが福祉に携わる者達の責務なのである。
吉田
「洗い終わったでタロちゃんお湯かけてくれや。」
というのでシャワーを出してまず自分で
温度を確認して吉田さんの足元にお湯を掛け
お湯の熱さを確認してもらう。
大丈夫だと言うのでお湯を掛けて泡を
落として流す。
吉田様は浴槽に自分で入ることが難しい
なので機械浴である。
ストレッチャーへ横になってもらう。
吉田さんは右片麻痺なので右側では温度が
分かりにくい
なので左手にお風呂のお湯を掛けて熱さを
確かめてもらう。
そして本人の確認をとるとストレッチャーをゆっくり湯船に下ろす。
吉田さんが湯船に浸かると気持ち良さそうに鼻歌を歌い始めた
吉田
「やっぱ風呂は良いな…暖まるで。」
鈴木
「吉田さん湯加減は大丈夫ですか?」
吉田
「ああ丁度良いわ、タロちゃんいつもありがとな。」
吉田
「タロちゃん一つ聞いても良いかい?」
鈴木
「またあの事ですか…」
吉田
「そうだけんど気になるけぇ、いい加減何の妖怪なのか教えてや。」
鈴木
「だから私は人間です。」
吉田
「いんや、そんなわけねぇ。」
吉田
「よくユキちゃんが言ってるわ。」
鈴木
「何をですか?」
吉田
「抑えているけど、妖気が凄いから絶対齢1000年は生きてる妖怪だ!っと言っとるぞ。」
吉田
「ワシの見立てではタロちゃん恐らくドラキュラじゃろ。」
鈴木
「成る程ドラキュラですか…」
鈴木
「そうかも知れないですね。」
その様な雑談を吉田さんとしていると
機械浴のカーテンを少し開けて
バケギツネのユキちゃんこと(風間理深雪)が
「吉田さんその事は言わないでって言ったでしょ!」
と吉田さんに文句を言っていた。
私は
「風間理さん、吉田さんがお風呂に入っている時は一言掛けて入って下さいね。」
と利用者様が入浴中はプライパシーの事も
あるので注意すると
怯えた眼で私を見詰めて
「鈴木さんごめんなさい!」
と言いお風呂場から出て行こうとする。
吉田さんが
「ユキちゃんなら別に良いわ。」
「タロちゃんも怒らんといてや。」
「もう身体も暖まったででるわ。」
と笑いながら言うので声掛けをして
ストレッチャーをゆっくり上げ浴槽から
吉田さんを出す。
私はストレッチャーの高さを吉田さんの足が着くところまで下げて暖かいシャワーを
掛けて上がり湯をかける。
そしてあらかじめ用意していたバスタオルを吉田さんに広げてある程度の水気を取る。
車椅子を側に置くと吉田さんの身体を起こす。
そしてあらかじめバスタオルを引いてある
車椅子に移乗するために斜めに立つと前屈みになって職員が支えて移乗するのだか
吉田さんは、右側の麻痺がある。
その為座る時は麻痺のある方(患側)に職員が立ち倒れ込むのを見守り
車椅子に移る時などは必ず
麻痺の無い方(健側)に設置する等
少し動くだけでも色々と注意が
必要なのである。
まぁそんな感じで車椅子に移ると
着替えをするのだが
吉田さんが
「着替えは自分でやるけぇタロちゃん後は
良いで。」
と言って動く手で上手く着替えをしていた。
私はまだ介護を始めたばかりで
研修中の風間理さんに
「では個浴の準備をしてくるので
吉田さんの見守りをお願いします。」
「何かあったら必ず呼んで下さい。」
と伝えてスタッフコールを渡し
個浴側の浴槽にお湯を張り
今日の個浴側で入浴する利用者様を呼びに
行く。
西沢様の居室に行き扉をノックして入る。
ベッドで横になっている西沢さんに
「西沢さんお風呂の準備が出来たので着替えの用意をしますか。」
と伝えると
「もうお風呂の時間ですか…。分かりました
用意します。」
とボソッと小声で言い西沢さんが入浴の準備をし始める。
私は、西沢さんに
「ではまた後で来ますね。」
と伝えて吉田さんの所に戻る。
すると怒鳴り声が脱衣場から聞こえる。
私は急いで向かうと風間理さんに
「妖怪の癖に人間様に逆らうんじゃねぇよ!」
と怒鳴る大柄の男がそこにいた。
その男は風間理さんの身体をいやらしい
目つきでなめ回す様に見ている。
風間理さんは、耳を垂らし大声で怒鳴る男性に怯え震えていた。
私がこの施設に潜入している理由の一つで
ある
この男性(大塚清二)32歳男性
介護福祉士の職員である。
あれは3ヶ月前…
妖怪管理局に匿名で電話が来た
「社長と大塚は妖怪を道具としか見ていない。」
「このままだと何をされるか分からない。」
「お願い、助けて…。」
そう言うので施設の名前を聞くと
(ほしのひかり)と言ってすぐ電話が切れた。
日本妖怪管理機構(AYAKASHI)は、
妖怪達が安全に暮らせる様に
生活等様々な悩みの相談や支援
そして問題が起きた時、
妖怪達の権利を擁護するために
設立されている。
当初の妖怪達の長ぬらりひょんと
総理大臣の藤川琥珀がお互いの権利を尊重して共に共存していく。
という協定を結んだが実際は、
人間達がいないと妖怪達が
この世に存在できないという現実が
しれ渡ると人間は手の平を返し妖怪達を
奴隷のように扱う様になった。
まぁこの話しはまた改めて話しますが
今は、目の前にある問題を解決しなければならない。
鈴木
「大塚さんどうしましたか?」
大塚
「あぁ鈴木さん、いや何かこいつ妖怪の癖に俺が飲み会に誘ってやったのに断りやがって!」
大塚
「マジムカつく!」
風間理
「いや…あの…その日は母の誕生日だから
一緒に家で凄そうと思って…。」
大塚
「妖怪が誕生日祝うなんて人間の真似事かよ!」
と本当に下心丸出しの身勝手な事を話す
愚か者の話しを聞いて、私は反吐がでる!と思いながら
大塚さんに淡々と
「人間も妖怪も権利や人権を尊重しなければならないと法律でも決まっています。」
「大塚さん、我々は共に働く仲間ではないですか?」
「それに妖怪に危害を加えると妖怪管理機構に目をつけられますよ。」
と伝えるとチッと舌打ちをして大塚さんは、
事務所に入って行った。
風間理さんは泣きそうになりながら
「鈴木さん庇ってくれてありがとうございます。」と御礼を言うので
私は,「それより吉田さんの着替えは終わりましたか?」
とわざと冷たく対応する。
私が妖怪管理機構の者だとばれる訳には
いかない。
風間理さんは背中を丸め
「はい…もう着替えは、終わり居室に戻りました。」と言ってトポトポとお風呂場に戻って行く。
私はお風呂のお湯がたまったのを確認して
西沢さんを呼びに行った。
西沢さんの入浴が終わりお風呂掃除を始めると黒く肌が焼けた男性が
「ちょっと鈴木君!」
「大塚君が風間理に仕事の注意をしていたら文句を言ったらしいね。」
「これだから若い見た目の女妖怪を職場に
入れるとこんな問題が起きるんだよ!」
「鈴木君、あなたも正義感ぶって妖怪を守るのは勝手だけどあんたを雇っているのは僕だからね!」
「今度こんな事があったら鈴木君あんた
首だから!」
「それと風間理!お前も自分の立場を理解して働きなさい!」
そう言うと事務所に戻って行く。
この男は介護施設の社長
(渡辺進)48歳である。
恐らく大塚は社長に告げ口をしたのだろう。
まぁどうでも良いがこの他にこの社長には
悪い噂がある。
妖怪達を積極的に雇う事で国から補助金を
沢山貰う。そして自分と大塚に逆らう妖怪は首にする。だが補助金が減るのを恐れて妖怪が辞めた事を秘密にして補助金の不正受給をしている。
という疑いがある。
しかし今の所、証拠が見付からず今に至る。
だが妖怪を雇う企業には
毎月15日以降に日本妖怪管理機構の抜き打ち監査が入る。
なので今回の大塚が妖怪である
女性のバケギツネ風間理さんに対し行った
行為は報告することにした。
そう思いながら壁掛け時計を見ると
まだ11時45分だ。
深いため息をしながら急いでお風呂掃除を
済ますと
制服に着替えお昼ご飯の呼び掛けを
利用者様にして回った…。




