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第六章:外れ値の追跡と平凡の価値

翔平と里美は、統計学の教員に掛け合い、匿名化されたアンケートデータから、例の「学習時間ゼロ、満足度最高」の学生の学籍番号を知る許可を得た。


「この学籍番号、経済学部ですよね。まさか、真の天才か?」翔平は緊張した面持ちで言った。


「アンケートによると、この学生はスポーツ系サークルにも、アルバイトにも属していません。本当に『学習時間ゼロ』の学生が、最高の満足度を維持しているの?」里美は疑問を呈した。


二人は、経済学部の掲示板でその学生の授業の予定を調べ上げ、ついに学食でその学生を見つけ出した。彼は、ごく普通のアニメTシャツを着て、笑顔で友人と談笑している、どこにでもいる大学生だった。彼にオーラはなく、平凡そのもの。しかし、その瞳には、どこか満たされた明るい光があった。


翔平は、その学生に近づき、意を決して声をかけた。


「あの、少しお話を聞かせていただけませんか。統計学の課題で、あなたの回答がすごく興味深くて…」

彼は、学習時間がゼロなのに満足度が最高である理由を尋ねた。


学生はきょとんとした後、笑いながら答えた。


「ああ、あれですか?俺、大学の授業に一回も出てないんですよ」


翔平と里美は顔を見合わせた。欠席による学習時間ゼロ。


「でも、それで『満足度最高』って?」


「はい。だって、大学に入った目的は、地元の友達と遊ぶための時間を確保することだったんで。授業は全部オンラインで動画だけ見て、サークルの飲み会や、友達とのゲームのために時間を使ってる。目標を完全に達成してるから、満足度は最高点ですよ!」


翔平は、その答えに拍子抜けし、同時に深い衝撃を受けた。


「予測不能な外れ値」の正体は、高尚な哲学でも、天才的な効率化でもなかった。それは、「自分の目標」を「自分の物差し」で測り、それを単純に達成したという、あまりにも平凡で、あまりにも個人的な幸福論だったのだ。


彼は里美と別れた後、一人で夜のキャンパスを歩いた。


(規格外の幸せも、規格外の才能も、規格外の名前も関係ない。彼は、自分の小さな目的に正直に生きただけだ)


彼は、ふと自分の平凡な人生を振り返る。運動は苦手、料理は失敗、合コンではただの「名前のラベル」として消費された。しかし、彼はその平凡な日常の中に、里美との知的な共同作業や、タカハシとの馬鹿げた友情、そして統計の課題を解く静かな喜びといった、彼自身の目的を見つけていた。


「俺は、大谷翔平だ。野球のスターとは似ても似つかない、ただの統計学の課題に悩む大学生だ」


彼は、空を見上げた。夜空には、平凡で、しかし確かに瞬く無数の星があった。その一つ一つが、誰かの目には規格外の光に見えるのかもしれないし、誰かの目には単なる凡庸な点に過ぎないのかもしれない。


初めて、自分の名前が、ただの「自分」を示すラベルとして、彼の胸の中に落ちてきたような気がした。

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