第十一章:告白のロジックと、タカハシの助言
吉岡さんとの出会いは、翔平に一つの確信を与えた。自分の名前の規格外さは、自分の平凡な人生を否定するものではない。むしろ、「平凡さ」こそが、この名を持つ者の最も珍しい個性なのだと。
この確信を得たことで、里美への恋心という「非ランダム誤差」を放置すべきではないと、彼は論理的に結論付けた。
カフェテリアで、タカハシにその決意を伝えた。
「タカハシ。俺は、里美に告白する」
タカハシはポテトを頬張りながら、驚きもせず、冷静に言った。「遅えよ。で、お前の告白のロジックは?」
「ロジックなんてない。でも、俺の行動を、統計学的に説明するならこうだ。俺は、里美への好意という『対立仮説』を立てる。そして、里美が俺を友人としてしか見ていないという『帰無仮説』を、棄却(否定)したい。棄却するためには、行動という『有意水準』を設定して、その結果を見るしかない」
「つまり、フられるのを覚悟の上で、検証するってことか」
「そうだ。もしフられても、それは里美の好意が対立仮説を支持しなかった、という『データ』を得ただけだ。そのデータがあれば、俺は里美への恋愛感情という『ノイズ』を、論理的に、そして潔くデータクリーニングできる」
タカハシはポテトを置き、真剣な目になった。
「なるほどな。お前らしい、回りくどい告白のロジックだ。だが、一つだけ助言してやる」
「なんだ?」
「告白は、統計学の講義室じゃなく、ランダムな場所でやれ。そして、里美が優秀な『大谷将兵先輩』のイメージを引きずっているなら、そのイメージを完全に破壊しろ。お前は野球のスターでも、優秀な先輩でもない。ただの、里美と課題で一緒に笑った、自炊に失敗する、お前自身で勝負しろ」
※対立仮説:「差や効果がある」という、本来証明したい主張のこと




