女神の神託で婚約破棄することになってしまった愚かな伯爵子息のお話
「私たちは婚約破棄をしなければならなくなった」
「ええ、承知しております」
重苦しい口調で切り出した伯爵子息シアレルスに対し、子爵令嬢アルエジディアは落ち着いた声で答えた。
貴族たちの通う学園の敷地内にはある庭園。その一角にはガゼボがある。生垣によって周囲からの視線は遮られ、防音の結界まで張られているその場所は、予約制の密談場所だ。
学生と言えど貴族には人には聞かせられない話をする場を要することがある。そうしたとき、学園へ申請して使用できる特別な場所だった。
空は晴れており。周囲には花が咲き誇っている。テーブルの上の紅茶は上品な香りを漂わせている。婚約者同士のひそやかな付き合いにもつかわれるそこは、本来なら穏やかでくつろげる場所だ。しかし今、席に着く一組の男女の間にある空気は張りつめている。穏やかとはとても言えない状態だった。
伯爵子息シアレルス。さらりと流れる金髪に、切れ長の瞳の色は碧。その整った顔立ちは、美形の多い貴族の中でも目を引くほどのものだ。その美貌から浮いた噂も少なくない。華麗で涼やかな青年だった。
子爵令嬢アルエジディア。肩まで届くしっとりしたシルバーブロンドの髪に、すこしたれ目がちなブラウンの瞳。令嬢に望まれる華やかさにはやや欠けるたところがあるが、その落ち着いた佇まいは月下に咲く一輪の花のように美しい。清楚で物静かな令嬢だった。
同い年の二人は10歳のころに婚約関係となった。そして17歳となった今、その婚約関係を破棄することとなった。
婚約破棄と言えば、通常なら一方的に告げられるものだ。小説や演劇において婚約破棄は恋愛のもつれから生じるものだが、本来は家同士の問題だ。婚約相手に致命的な瑕疵が見つかった、相手の家が没落した、何らかの理由で名声の失墜した……そういった家同士のつながりを断たざるをえない深刻な問題が発生したとき、婚約を破棄することとなる。通常、その話し合いは当主が行うものであり、当事者だけが事前の話し合いをすることなどまずありえない。
だがこの王国においては少々事情が異なる。ある『特定の条件』における婚約破棄は当事者が事前の話し合いをするという取り決めがある。
『特定の条件』とは、女神の神託が下されること。この王国において、婚約破棄は女神に捧げる神事となることがあるのだ。
建国時から王国が信仰を捧げるのは愛の女神エルオーヴェ。愛しあう者に最大の祝福をもたらすと言われる神だ。
女神エルオーヴェは愛をテーマとした芸術を好む。王国では芸術活動を推奨しており、絵画や小説、演劇など、愛を描いた数多くの作品が日々生み出されている。そして、その年で一番評判となった恋愛作品は女神に奉納される。
ある時、婚約破棄をテーマとした小説が歴史的なヒットを記録した。いくつもの演劇が公演され、人々の間でも大変な評判となった。原作小説は女神エルオーヴェに奉納された。
すると王国にこんな神託がもたらされた。
――侯爵子息ペイシークは伯爵令嬢シーレクティナに対して、夜会で婚約破棄を宣言しなさい。
指名されたのは小説の人物ではなく、当時実在した貴族だ。
これには王家も驚いた。これまで女神が、王家の血筋の者でもない個人を名指しすることなど無かったからだ。
早速調査すると、侯爵子息ペイシークは婚約者がいながら浮気していたことが発覚した。通常なら内々で婚約解消がなされていただろう。しかし今回は女神の神託がある。
夜会で婚約破棄を宣言するなど架空の物語の中だけのことだ。貴族にあるまじき無作法であり、実行すれば宣言した方も貴族社会での立場を失うことになる。
だが王国が信仰をささげている女神からの正式な神託だ。無視するという選択肢はなかった。
「私は真実の愛を見つけた! 伯爵令嬢シーレクティナ! 君との婚約は破棄させてもらう!」
侯爵子息ペイシークは演劇のごとく夜会で婚約破棄を宣言した。
その後、侯爵子息ペイシークは失脚した。平民に落ち鉱山に送られ、過酷な労働に従事することになった。浮気相手は侯爵子息ペイシークから離れ貴族社会から消えた。その後、王都から遠く離れたとある街高級娼館で、よく似た娼婦を見かけたとの噂が立った。その真偽のほどは定かではない。
伯爵令嬢シーレクティナは隣国の王族に見初められ結婚した。王からの寵愛を受け幸せになった。
まるで演劇そのままのあまりにできすぎた展開だった。これらの出来事は誰にも止めることもできないほど滞りなく進行したという。ただの偶然とは思われず、女神エルオーヴェが干渉したことは明らかだった。
そしてその婚約破棄による影響は、当事者だけにとどまらなかった。
伯爵令嬢シーレクティナが王族となったことをきっかけに、隣国との関係が強化された。隣国は海に面した貿易国だった。海を介した貿易が盛んとなり、王国は大きな利益を得ることになった。
その後も何度か「夜会で婚約破棄をしなさい」という神託が下った。その間隔はまちまちで、数年で神託が下ることがあれば10年以上神託がないことがあった。
神託通りに婚約破棄を実行すると、王国に恩恵がもたらされた。
兵士が英雄として覚醒し、長年王国を苦しめていた王国北部の魔物の群れの長を討伐に成功した。不作に苦しんでいた王国南部が豊作となった。王国西部で蔓延していた疫病の終息した。王国東部で大規模な金鉱脈が見つかった……などなど、恩恵はいずれも王国の動向を左右するほどのものだった。
「婚約破棄の小説が流行ったら、それを真似する愚か者が出てきたかもしれない。女神エルオーヴェ様は無謀な婚約破棄を抑制するために神託を下されたに違いない!」
「浮気者は罰を受け、不幸な令嬢はしあわせになる! しかも王国に恩恵をもたらされる! いやはや、なんと優れたご裁決! まさに神がかり!」
「素晴らしい! やはり女神エルオーヴェ様は最高だ!」
信仰深い信者達はそんなふうに語り合った。しかし女神エルオーヴェは理由について語ることはなく、その真意はようとして知れない
女神の意図は不明だが、神託に基づく婚約破棄の実行が、多大な利益をもたらすことだけは確かだ。
王国は神託による婚約破棄を神事と定めた。指名された者が逃げ出さないよう様々な法律を制定までして、この神事が滞りなく行えるよう取り計らった。
「まったく、なんでこんなことになってしまったんだ……」
「あなたが浮気した……それ以外の理由は思い当たりません」
深々とため息を吐く伯爵子息シアレルスに対し、子爵令嬢アルエジディアは淡々と答えた。その声には怒りも恨みも感じられない。ただ事実を述べただけという響きだった。
しかし痛いところを突かれたシアレルスは大いに慌てた。
「そ、それはっ! ……確かに悪かったと反省している! だが彼女とは一線を越えてはいない! ちょっと軽い触れ合いをしたり、デートをしたりした程度なんだ! 浮気と言うほどのことではない!」
「その程度の付き合いならば命まで失うことはないでしょう。よかったですね」
アルエジディアの冷ややかな言葉はシアレルスの顔を青ざめさせた。
この王国において、夜会で婚約破棄を宣言することは貴族社会で死を迎えることを意味する。王国が信仰を捧げる女神に『悪役』と認定されて身の置き場があるはずもない。たとえ貴族の地位を保ったとしても、誰も顧みない日陰者として一生を終えることになる。
それだけでも深刻だが、『悪役』にはその先がある。
ある者は、平民に落ち過酷な鉱山で働くことになった。ある者は、魔物の出没頻度の高い僻地に飛ばされた。ある者は、かつての婚約者の家の下働きとなり一生こき使われた。
それでも健康でいられれば幸せな方だ。
事故に遭って自分の足で歩けなくなった者がいる。重病を患い寝たきりとなった者がいる。僻地に行くことになり、その道中で運悪くドラゴンと遭遇して命を落としたなどという事例すらある。
もちろん『悪役』にされた者も対策を様々な講じた。神託が下ってから婚約破棄されるまでにはある程度の猶予がある。その間に地位を失わず身の安全を確保するよう手はずを整えていた。しかしそれがうまくいった試しはない。様々な不運や情勢の変化により、ため込んだ金は失われ、親交を結んだ人々は去り、確保した土地は災害に見舞われた。人の身で女神の与えた運命に抗うのは容易なことではない。
婚約破棄した浮気者のたどる末路は悲惨だ。「いくら間違いを犯したからと言って、罰が重すぎる」と苦言を呈する者もいる。だが世間では「浮気者が悲惨な末路を迎えるのが当然だ。むしろもっとやれ」といった意見が主流を占めていた。
そうした王国であっても浮気をする者は絶えない。恋というのは突然で、制御できるものではない。それに女神の神託が下る周期は一定ではなくまちまちで、選ばれる確率はかなり低い。
「まさか自分が選ばれるはずがない」。人は時として根拠もなく、自らの安全を信じてしまう。シアレルスもそうした者の一人だった。しかし彼は、こうして選ばれてしまった。
「ああ、いったいどうすれば……!」
自らの未来に待つ恐ろしい運命を考え、シアレルスはうめいた。アルエジディアは目を伏せため息を吐いた。
婚約破棄の宣言は女神にささげる神事だ。その流れに滞りがあっては女神の機嫌を損ねると言われている。だから婚約者同士の事前相談は認められている。アドリブだけで婚約破棄の舞台をやり遂げるというのは意外と難しいものなのだ。
家同士の相談は推奨されていない。どのみち『悪役』が不幸になるのは避けられない。下手に介入すれば家ごとその不幸に巻き込まれかねない。実際、それで没落の憂き目に遭った家もある。
だから原則として、家はこの神事に手出しせず傍観する。冷酷なようだが、貴族は家を存続させることを第一に考えなければならない。これは当然の措置だった。
シアレルスは救いを求めてアルエジディアのことを見つめた。
シルバーブロンドの髪は絹のように滑らかだ。華やかさには欠けるところはあるが、目鼻立ちは整っている。成績も優秀で魔力も申し分もない。礼儀作法もきちんとしている。伯爵家に迎え入れるにふさわしい令嬢だ。
なぜこんなにも美しく優秀な婚約者がいたのに、他の令嬢に目が行ってしまったのか。それはシアレルスにとって、彼女がつまらない令嬢になってしまったからだ。
二人が婚約関係になったのは7年前。二人とも10歳だったころだ。初めて会ったばかりのころはこんなに物静かな少女ではなかった。やや引っ込み思案なところはあったが、明るくてよくしゃべる少女だった。
しかし年月を経るにつれ、彼女は変わっていった。所作を磨き上げ、礼儀作法を重んじるようになり、感情をむやみに表に出さなくなった。時折笑みを見せることはあったが、社交的な笑みにすぎない。
それは貴族令嬢としては正しい姿なのだろう。しかし礼儀作法に則った形式ばかりを重んじる婚約者との付き合いは、シアレルスにとってはあまりに退屈なものだった。
そんなときに出会ったのが男爵令嬢クリシーシャだった。ストロベリーブロンドの髪にぱっちりとした薄桃色の瞳。男の庇護欲をそそるかわいらしい顔。それでいて胸は大きくスタイルはいい。爵位は低いが男子生徒の間で話題に上ることも多い令嬢だった。
そんなクリシーシャがシアレルスに近づいてきた。彼女の意図にはすぐに気づいた。冷めた関係の婚約者にちょっかいをかけて人間関係に不和をつくり、自分の属する派閥に有利な状況を作る。そんな策謀の元、彼女は何人もの男子生徒に愛想を振りまいているようだった。
婚約破棄の神託によって、浮気が致命的な破滅につながりかねないこの王国において、それはあまりに危険な行いだ。
最初は興味本位だった。ちょっと見た目がいい程度で無謀な行為に走る愚かな令嬢がどんなものか。からかってやろうと思っただけだった。
だが実際に話してみるとクリシーシャは見た目通りの愚かな令嬢ではなかった。自分がどれだけ危険なことをしているか理解していた。詳しい事情を話そうとはしなかったが、どうやら上位貴族から命じられ、捨て駒扱いでこんなことをさせられているようだった。
心の底で絶望しながら、しかしそれを表に出さない。恋に溺れた愚かな令嬢を演じ、その容姿を最大限に生かして周囲に愛想を振りまいているのだ。
シアレルスはそんなクリシーシャに興味を惹かれた。話す機会が増え、徐々に距離が縮まっていった。
婚約者であるアルエジディアとの付き合いは形式ばっていて肩がこる。だがクリシーシャにその気遣いは必要ない。事情も立場をわかっているし、お互いの腹黒さも理解している。だから気兼ねなくざっくばらんに話すことができる。その関係が心地よかった。恋人というより悪友のような距離感だった。
学園の校舎裏であいびきをしたり、休日はいっしょに出かけたりした。ハグやあいさつ程度のキスをかわすこともあった。でもその程度だ。浮気と呼べるほどのことはしていない。
それなのに、神託で選ばれてしまった。
「それで、本当にクリシーシャ嬢とは一線を越えていないのですか?」
不意に問いかけられ、シアレルスは現実に引き戻された。アルエジディアの声だ。いつの間にか考え耽ってしまっていたようだ。
アルエジディアはじっとこちらを見ている。ひどく真剣な目だった。
「……ああ、間違いない。クリシーシャ嬢とは軽い付き合いだった。夜をともにしたことはない。女神に誓ってもいい」
シアレルスはアルエジディアの目を見つめ返してそう言った。
この王国で、愛に関する問題で『女神に誓ってもいい』と口にするのは簡単なことではない。もし偽りを口にすれば女神は恐るべき罰を下すと言われている。
それでもアルエジディアはしばらく見つめてきたが、やがて納得したように息を吐いた。
「……どうやら本当のようですね。わかりました。それならばシアレルス様を救う手立てがあります」
「なに!? そんな手立てがあるというのか!?」
「シアレルス様は『元鞘』についてをご存じでしょうか?」
「『元鞘』? 男女がよりを戻すことか?」
「ええそうです。一度は別れた男女が最終的にはお互いにまたひかれあって結びつく。『元鞘』は恋愛小説においてもそう珍しくない展開です。そうした結末を好まない人は少なくありませんが、支持する人も一定数いるのです。女神様は恋愛小説のような婚約破棄の場面をお望みです。ならば恋愛小説の作法に則って結末を変えるなら、受け入れてくださるでしょう」
神託を一番先に知るのは教会の聖女で、その次が王族だ。当事者に知らされるより先に対象者は監視がつけられる。この密会用のガゼボに人影はないが、その出入口は間者が見張っていることだろう。神事を怠れば、王国は女神の怒りを受けることになる。それを避けるためなら王国はなんだってする。過去、逃亡に成功した者はいない。
だがそんな王国も、神事そのものにはあまり干渉しない。かつてはより効果的に神事を行うため、プロの脚本家に台本を書かせてその通りに演じるという案もあったらしい。だがそれは女神の神託によって廃案となった。女神が望んでいるのは演劇ではなく、リアルな人々の反応らしい。
だから、当事者間の合意のもと、婚約破棄の舞台という体裁を保ったまま、『元鞘』を実現できるのなら。女神の機嫌を損ねることはないかもしれない。それは確かに破滅を目前に控えた『悪役』にとって唯一の救済となるだろう。
シアレルスが思いもしなかった解決策だ。やはりこうしたことには女性の方が向いているのかもしれないと感心した。
だがどうしても聞かずにはいられないことがあった。
「だが……いいのか? 私と違って、君はなにもしなくても幸せになれるはずだ。そもそも……私のことが憎くないのか?」
シアレルスにとって、男爵令嬢クリシーシャとの関係は浮気と呼べない軽い付き合いだ。
だがアルエジディアにとっては違うだろう。彼女は賢い令嬢だ。クリシーシャのことを少しは察していただろう。
そして婚約破棄の神託が下った。アルエジディアからしてみれば、婚約者が浮気したと神が保証したも同然だ。プライドが傷つけられたことだろう。そんな状況で復縁を申し出るなんて、シアレルスの理解を超えた行動だった。
アルエジディアは眉をわずかに跳ね上げた。それでも淑女としての態度は崩さず、毅然として答えた。
「憎いかどうかという問題ではありません。これは貴族令嬢としての義務です」
その声にはためらいというものがなかった。ただ固い意志が感じられた。
「この7年間、わたしたちが結婚することを両家は動いてきました。たとえ女神様の計らいででわたし個人が幸せになるとしても、家には少なくない損害が出ることになるでしょう。家のことを思えば婚約関係を維持することを考えるのは当然のことです。個人の感情など問題にすべき状況ではないのです」
己を捨てて家の繁栄に身を費やすことこそ貴族の義務。家でも学園でもそう教えられてきた。
だがその理念をこうまで実行できる人間がどれだけいるだろうか。礼節を重んじて貴族令嬢であろうとするアルエジディアのことが気に入らなかった。それでもここまでの覚悟を示されれば、シアレルスも胸に響くものがあった。
「自分の身の安全ばかり考えていた自分が恥ずかしい。君の貴族としての矜持、実に見事だ。感服した」
そう言って、シアレルスは深々と頭を下げた。
「……それで、『元鞘』展開にするとして、具体的になにをすればいいのだろうか?」
お互いにお茶を口にして落ち着いた頃。シアレルスは改めてそう切り出した。
「これを使います」
アルエジディアが取り出したのは古ぼけた木製の髪留めだった。
花をあしらった彫刻の出来は悪くない。おそらく腕のいい職人が彫ったのだろう。だが木材は高級なものではなく作りも簡素だ。明らかに安物で、貴族令嬢が身に着けるような物ではなかった。
「なんだ、これは?」
シアレルスがそう問いかけると、アルエジディアは軽く目を見開き息を呑んだ。普段、感情を表に出さない彼女にしては珍しく、驚きをあらわにした。
アルエジディアは目を伏せ答えた。
「……これは、まだ婚約したばかりのころ。平民に扮して秋祭りに行ったとき、シアレルス様が買ってくださったものです」
そう言われてシアレルスはようやく思い出した。
婚約したばかりこのころ。シアレルスは婚約相手と仲良くならなければならないと思った。そこで平民に扮して共も連れずに二人で平民の町で行われていた秋祭りに出かけた。
その時、彼女にアクセサリーをプレゼントした記憶がある。
「ああ、あの時の……まだ、持っていたのか」
「婚約者からの贈り物を大切にするのは、貴族令嬢の義務です」
アルエジディアは落ち着いた声で答えた。先ほどの驚きは消え、いつもの淑女の顔に戻っていた。
シアレルスはなんだかばつが悪くなり、とにかく話を進めることにした。
「それで……その髪留めを使ってどうするんだ?」
「婚約破棄の場で、この髪留めを取り出して思い出を語ります。シアレルス様は話を合わせてください。そして過ちを認め、謝罪してください。わたしがその謝罪を受け入れて『元鞘』になったということにします」
「それで本当に大丈夫だろうか?」
「残念ですがこの手立て以外にシアレルス様を救う方法はありません。両家の繁栄のため、貴族として死力を尽くしてください」
アルエジディアは固い声で告げた。
他に有効な策などない。せっかく譲歩してくれたアルエジディアに、不安をぶつけてどうするのか。どのみちシアレルスに他の選択肢はない。
「すまなかった。どうかよろしく頼む」
そう言ってシアレルスは再び頭を下げた。
そして運命の日がやってきた。学園の夜会が執り行われる日がやってきた。
女神の神託に日時までは指定されていない。だが大抵は学園の夜会の一か月前くらいに神託が下る。次の夜会で婚約破棄を宣言するというのが暗黙のルールとなっていた。
シアレルスはこの夜会に際し、自分の手持ちの中で最も立派な式服で婚約破棄に臨んだ。黒を基調とし、金糸で縁取った一級品だ。本来なら夜会出来ていくようなものではなく、王家主催の式典にでも着ていくような装いだ。
髪も整え緊張の面持ちを浮かべるシアレルスは、まるで魔物との決戦を前にした騎士のようだった。
その傍らに寄り添うのは男爵令嬢クリシーシャ。ふわりとウェーブのかかったピンクブロンドの髪に、きらめく大粒の薄桃色の瞳。その顔立ちは可憐で愛らしい。それでいてその体つきは悩ましく、大人の色香がある。
身に纏うのは薄桃色のドレス。色合いだけなら彼女の髪とよくあっている。しかし、フリルがふんだんにあしらわれたそのドレスは、16歳の貴族令嬢の装いとしてはあまりに派手で少女趣味が過ぎる。
だがそれは婚約破棄における『浮気相手』の正装だ。本来は演劇の舞台でしか見かけないようなドレス、いつの間にか神託による婚約破棄でも使われるようになった。貴族の間では『死に装束』と揶揄されることもある。
クリシーシャはまるでぶら下がるようにシアレルスの腕にまとわりついている。令嬢としては無作法な行いだが、咎める目を向ける者はいない。これは婚約破棄における作法の一つだ。
『浮気相手』に選ばれた令嬢は破滅が確定している。だが愛の女神エルオーヴェは愛し合う者を祝福する。こうして愛しているとアピールすることで少しでもマシな未来をつかもうとする、哀れで涙ぐましい姿なのだ。
二人の装いは貴族たちの集う夜会において、明らかに浮いてしまう派手なものだ。しかし奇異の目を向ける者はない。むしろ憐みの視線を送る者が多い。会場の者はみな、事情を知っているようだ。
神託について公布されることはないが、人づてに自然と伝わる。参加者が事情を知っていた方がトラブルが少なくなるため、意図的にそうしているらしい。
「愛しています、シアレルス様……」
会場を進むなか、クリシーシャはささやいた。とても演技とは思えない、切なく熱のこもった声だった。クリシーシャも少しでも女神の慈悲を受けようと必死なのだろう。だがシアレルスが目論むのは『元鞘』だ。もしアルエジディアとよりを戻したら、クリシーシャはどうなってしまうのだろうか。
まず貴族社会から去ることになるだろう。あるいは愛する二人をたぶらかした『悪役』として厳しい罰が下されるかもしれない。
そのことを考えるとシアレルスは胸が痛んだ。しかし何もしなければ二人そろって破滅するだけだ。今更『元鞘』をやめるわけにはいかなかった。
そして会場の中央にたどり着いた。そこに子爵令嬢アルエジディアがいた。
シアレルスたちが近づくにつれ、周囲の者が離れていき、会場の中央に導かれた。特にそう決められているわけではないが、参加者たちが事情を意識して動くと自然とそうなるのだ。
アルエジディアはシルバーブロンドの髪をアップにまとめていた。身にまとうのは白いドレス。けがれないその装いは、自らの潔白であることを示しているかのようだ。あるいは何色でも受け入れる覚悟を示す姿なのかもしれない。彼女はシアレルスという浮気者を、『元鞘』で受け入れると提案したのだ。
凛としたブラウンの瞳はシアレルスに向けられていた。腕にまとわりつくクリシーシャのことは目に入っていないかのようだった。
場は整えられた。ならばシアレルスのすることは一つだけだった。息を深く吸い、胸を張り、そして声を張り上げた。
「私はこの男爵令嬢クリシーシャとの間に真実の愛を見つけた! 伯爵令嬢アルエジディア! 残念だが、君との婚約は破棄させてもらう!」
型通りの婚約破棄の宣言。心臓が高鳴る。身体が震える。事前に練習も重ねていた。だが実際の婚約破棄の宣言は、想像以上にシアレルスの精神を苛んだ。自分自身で身の破滅につながる行動をしなければならない。それがこんなにも苦しいことなのだと初めて知った。
その時、クリシーシャがぎゅっと彼の腕を抱く力を強めた。その温かみをありがたいと思った。しかしそんな彼女を見捨て、自分だけ助かろうとしている。シアレルスは自己嫌悪のあまり胸をかきむしりたくなった。
「そんな! わたしたちは7年もの間、婚約者としてお付き合いしてきたではないですか!」
悩むうちにアルエジディアが言葉を返した。彼女の話に合わせなければならない。破滅を避けるにはそれしかない。シアレルスは胸の痛みを抑え込み、事前の打ち合わせ通りに言葉を紡いだ。
「ああ、私たちは7年間やってきた。だが君は礼儀作法を重んじるあまり、冷たく退屈な令嬢になってしまった。愛が冷めるのも当然というものだろう」
「わたしはただ……伯爵家の妻にふさわしい気品を身に着けようと必死に励んでいただけです。あなたの隣にいるために努力してきたのに、こんな仕打ちをなさるなんて……!」
「形ばかりに囚われて心を通わそうとしなかった君が悪いのだ!」
「だから浮気をしたというのですか!? そんなの、あんまりです!」
アルエジディアは瞳は潤ませ、頬を赤くして訴えた。
アルエジディアは感情を隠さなかった。その言葉は演技とは思えないほどの熱が感じられた。それに引きずられるようにシアレルスもまた普段から胸に秘めていた不満を口に出していた。
会話の流れは演技でも、お互いの言葉は真実なのかもしれない。
もし、アルエジディアが礼儀作法にこだわりすぎず、もう少し心の内を見せていれば。あるいは、シアレルスが表面に囚われず彼女の努力を察していれば。こんなことにならなかったかもしれない。
しかし既に神託は下ってしまった。後悔はあとでもできる。『元鞘』さえ成功すれば、その過ちは取り返せるはずだ。
「これを覚えていますか?」
そう言ってアルエジディアが懐から取り出したのは、あの思い出の髪留めだ。会場がざわめいた。その髪留めが貴族令嬢に似つかわしくない安物であることは、貴族であるならわかることだろう。
「その髪留めは、まさか……!」
「ええそうです。平民に扮して秋祭りに行ったとき。あなたが買ってくださったものです」
「まだ持っていたのか……」
「これはあなたが下さった初めての贈り物。初めてあなたの愛を感じたときの思い出の品。なくしたりしません」
アルエジディアはぎゅっとその胸に髪飾りを抱きしめた。事前に打ち合わせした通りの会話の流れだが、彼女の声も仕草も真に迫っている。髪飾りを胸に抱くその姿はあまりに切なく、美しかった。
もしかしたらアルエジディアは本当のことを言っているのかもしれない。そうでなければあんな安物の髪留めをずっと持っているはずがない。それなのに、言われるまで思い出せなかった。今更ながらシアレルスはそのことがひどく気まずく思えた。
「君のシルバーブロンドの髪には似合わない品かと思ったが、あの時は似合うと思ったんだ。その時のことを、忘れるはずがない」
ごまかすようにそう口にした瞬間。アルエジディアは目を見開き顔を青ざめさせた。先ほどまでの熱はすっかり失せてしまった。
なにか、言葉を間違えた。致命的な失敗をした。そうに違いない。だがその理由がわからない。シアレルスは不安にさいなまれたが、どうすることもできなかった。
アルエジディアは顔を伏せると、暗く沈んだ声で問いかけてきた。
「あなた先ほど真実の愛を見つけたとおっしゃいましたね……?」
シアレルスは動けなかった。肯定も否定もできなかった。何をしても恐ろしいことになるように思えた。でも何もしなくても、ひどいことになるという予感もあった。
「だったら! あの日、わたしにくださった愛は! 偽りだったということですね!」
アルエジディアは髪留めを床に叩きつけた。それどころか靴で踏みつけた。古ぼけた木製の髪留めは砕けてしまった。
シアレルスは彼女の行動が理解できなかった。あの髪留めは彼女にとって大切なものだったはずだ。シアレルスにとっても『元鞘』を達成するための大事な品だ。
なぜアルエジディアはこんな暴挙に走ったのか。彼女は泣いていた。ただ悲し気に泣いていた。
その泣き顔を見たとき。あの日の光景が脳裏によみがえった。
平民に扮して秋祭りに行ったあの夜。アルエジディアは泣いていた。
つい先ほどまでは笑っていた。たっぷりとハチミツの塗られたパンを、この世で一番おいしいものみたいにニコニコしながら食べていた。だがそれを、人ごみに押されて落としてしまったのだ。
シアレルスは焦った。なんとか泣き止ませないといけないと思った。辺りを見回すと、近くの露店の髪留めが目に止まった。これしかないと思った。
すぐに髪留めを買うと、アルエジディアにつけてやった。彼女はまだめそめそとしていたが、露店に備え付けられた鏡に髪留めをつけた自分を映すと、すぐに笑顔になってくれた。
シアレルスはほっとした。とっさに選んだ髪留めが、彼女の『ブラウンの髪』によく似合っていた。鏡の前でくるくるとポーズを変えて髪留めを見る彼女がかわいらしくて、でもおかしくて。自然と笑ってしまった。
シアレルスはようやく思い出した。秋祭りの夜。彼女の色はブラウンだったのだ。シルバーブロンドの髪では目立ってしまうから、魔法で髪の色を変えていたのだ。
それなのに、たった今。「君のシルバーブロンドの髪には似合わない品」なんて言ってしまった。
今この時まであの日のことを思い出せなかった。礼儀作法を重んじて冷たくなったアルエジディアのことが疎ましくて、昔のことを思い返さないようにしていた。この最も重要な場面で、婚約者を顧みなくなったこと報いを受けることになった。
アルエジディアは一途にシアレルスを想っていた。浮気したことを知ってもなお、『元鞘』を提案してくれた。
それなのに間違えた。絶対に忘れてはいけないことを忘れてしまっていた。これでは差し伸べられた手に泥を投げつけたも同然だ。そこまでされては、アルエジディアがどれほど慈悲深い女性だろうと許してくれるはずなどない。
アルエジディアは泣いている。だがシアレルスはどんな言葉をかければいいかわからなかった。今さら思い出したと弁明して何になるのだろう。
彼女は既に愛が失われたと確信した。だから髪留めを自らの手で壊してしまったのだ。
もう何一つ、取り返しはつかない。
「そこまでだ!」
どうしようもない状況の中。銀髪をなびかせながら、割って入る者がいた。
「何者だ!?」
「私は伯爵子息トランカルドだ! 彼女をこれ以上傷つけることは許さない!」
割って入ってきたのは伯爵子息トランカルドだった。
肩まで届くプラチナブロンドのストレートヘアに切れ長の瞳は青。そのあまりに整った顔立ちに魅せられた令嬢は数多い。
そんな美貌を持つトランカルドだったが、17歳になったのに婚約者はまだいない。彼は伯爵家の三男であり、政略のためにあえて婚約者を作らずに温存されているのだとうわさされている。
シアレルスともアルエジディアとも同学年というだけでこれと言った交流はない生徒だ。クリシーシャは謀略のために声をかけたことはあったと聞いたが、相手にされなかったとのことだ。
「部外者が入ってきていい場面ではないぞ!」
「私は以前から、アルエジディア嬢のことを慕っていた! 彼女には婚約者がいるからと身を引いていたが……彼女への非道の数々! とても黙っていられなくて出てきたのだ!」
トランカルドは臆面もなく堂々と、アルエジディアへの想いを語った。
これが他の場なら、恋に溺れた愚か者の戯言と一笑に付されていたに違いない。
だが、会場に笑う者はいない。むしろ戦慄に身を固くする者ばかりだ。
これは神託に基づく婚約破棄だ。過去、政略的な理由で、あるいは一方的な恋心で、婚約破棄の場へ乱入を試みる者はいた。しかし成功例はない。女神エルオーヴェの望んだ婚約破棄の舞台だ。それを邪魔しようとする者は必ず何らかの不幸に見舞われ、乱入を阻まれる。
しかしトランカルドは婚約破棄の場に割って入った。そればかりか、こうして婚約破棄の『悪役』であるシアレルスに対して真っ向から、アルエジディアへの想いを叫んだ。
これまでの神託による婚約破棄ではないことだった。
だがシアレルスは奇妙な納得を得ていた。アルエジディアは今は戸惑っている。それでも、なぜだか二人は「お似合い」に見えた。
何よりトランカルドの瞳に込められた決意は並々ならないものが感じられた。彼はきっと、この場が神事であろうとなかろうと割って入ったに違いない。そう確信させる熱があった。
女神はトランカルドの愛が本物であると認定し、この場に介入することを認めたのだ。
婚約者の愛にも気づかない愚かな貴族子息を排除し、ふさわしい新たな男と引き合わせる。この婚約破棄の筋書きはそういうことなのだろう。
もう『元鞘』は不可能だ。ならば、シアレルスが『悪役』としてできることはただ一つだった。
「ふん! もう付き合ってられるか! 婚約は破棄したのだ! その令嬢のことなど、もう知ったことか!」
そう捨て台詞を残すと、クリシーシャを連れてその場を立ち去った。
婚約破棄の騒動の後。シアレルスはクリシーシャと共に会場に設えられた控室に入った。
シアレルスは『元鞘』を計画してい事について、クリシーシャに語った。
「私は婚約者の愛にも気づかず、君のことを切り捨てようとしたクズだ。早く私のそばから立ち去るんだ。君が不幸になることは避けられないかもしれないが、それでも私の近くにいるよりは少しはマシなはずだ」
シアレルスは自分の愚かさにあきれ果てていた。きっと厳しい罰を受けることになるのだろう。もう何もかもが手遅れだ。それでも目の前のこの女性を最後まで突き合わせるわけにはいかないと思った。彼にもその程度のプライドは残っていた。
それに対するクリシーシャの回答は簡潔なものだった。
「イヤです」
そう言って、クリシーシャはシアレルスの胸に飛び込むと、ぎゅっと抱きしめた。
「な、なんのつもりだ!?」
「まったく、仕方のない人ですね。わたしがあなたのことを好きだって、まだ気づかないんですか?」
「そ、そんなはずは……」
クリシーシャとは確かにそれなりに多くの時間を過ごしてきた。放課後に時間があれば合って、休みの都合が合えば出かけた。気兼ねなく愚痴や誰かの悪口を言い合ってきた。軽いハグや、あいさつ程度のキスをかわすこともあった。
ただそれだけの悪友のような関係だったはずだ。
「知っての通り、わたしは色気と愛想で派閥の関係を乱すために学園に送り込まれた捨て駒です。そんなわたしを対等の友人として扱ってくれたのは、あなただけなんです」
「そ、そんな理由で……たったそれだけのことで私と一緒に破滅すると言うのか!?」
「自分でもバカみたいだと思います。でも、好きになってしまったのだから仕方ないじゃないですか」
「私は君を見捨てて自分だけ助かろうとしたんだぞ……!」
「そのことは一生根に持ちます。絶対忘れません。でもたった今、わたしを逃がそうとしてくれたじゃないですか。それがとても……うれしかったんです」
クリシーシャはシアレルスを抱きしめながら、彼のことを見上げた。視線には熱がある。それはまさしく恋する乙女の目だった。
「は、ははっ……! なんだそれは……! 婚約者の愛から目を背け、大事なことを忘れてしまう! こんなに近くにいた君が好きになってくれたことにすら気づかない! 私はなんて愚かなんだ! 女神様も立腹して神託を下すわけだ! は、はは! あはははははっ!」
シアレルスは笑った。自分のあまりの愚かしさに笑うしかなかった。
クリシーシャを抱きしめたまま、シアレルスは笑い続けた。
ひとしきり笑った後、シアレルスはぽつりとつぶやいた。
「すまない。私は君を幸せにすることはできない……」
神託に基づく婚約破棄の『悪役』となった。その愚かしさを思い知らされた。しかし『悪役』に科せられる罰がその程度で済むはずがない。
これからシアレルスは不幸になる。貴族の立場を失うだろう。まともな暮らしもできないに違いない。これからの人生は過酷なものになるはずだ。
しかしクリシーシャは微笑みながら、彼にそっとささやいた。
「……いいんですよ。どんなに生活が苦しくても、わたしにとってあなたと離れるよりも不幸なことはありません。だから、いいんです……」
そう言って、クリシーシャは愛する人の胸に顔をうずめた。シアレルスはそんな彼女のことを、ぎゅっと抱きしめた。
あの婚約破棄から数年が過ぎた。
婚約破棄された子爵令嬢アルエジディアは、しばらくの間はふさぎ込んでいた。だがトランカルドが根気よく誠意をもってアプローチを続けた結果、頑なだった心は溶かされ、そして彼の愛を受け入れた。そして二人は結婚した。
今では貴族社会でも評判となるほど仲の良い夫婦となり、誰からも祝福されるようになった。
シアレルスはその後さまざまな不幸が襲い掛かった。貴族としての地位を失い、王都にとどまることもできなくなった。最終的に辺境の村で農民として働くことになった。元貴族の男性にとって、あまりに過酷な生活を送ることになった。
しかし、彼の不幸はそれだけではなかった。
ある日、村の中に魔物の群れが襲ってきた。村に駐屯していた騎士たちだけでは防ぎきれず、何匹か村の中に侵入した。
元貴族であるシアレルスは魔法が使えた。村を守るために必死で戦った。なんとか撃退には成功した。それと引き換えに顔に深い傷を負った。顔の右半分に三筋の爪痕が深々と残り、右目の視力も失った。かつては貴族たちの話題に上がることも少なくなかった美貌は失われた。
そんな不幸があったが、シアレルスは仕事を投げ出すことはなかった。傷が治るとすぐに畑仕事を始めた。そんな彼を甲斐甲斐しく支え続けたのは、妻となったクリシーシャだった。
人々はシアレルスは婚約破棄の『悪役』としてしかるべき罰を受けたのだと評した。しかし、浮気相手だったクリシーシャを娶ることができたのだから、罰が足りないと述べる者もいた。
その後の人生でシアレルスが幸せになれたかどうかはわからない。ただ、彼は老人となり鍬を握れなくなるなるまで、懸命に働いたと伝えられている。
終わり
「なんでわざわざ夜会で婚約破棄を宣言するんですか?」
「女神さまからそういう神託が下ったからです」
「えっ」
そんなネタを思いつきました。
それが成り立つようにキャラや設定を詰めていったらこういう話になりました。
当初はアルエジディアがメインになるはずでしたが、気が付いたらシアレルスの方がメインのになっていました。
なかなか思い通りになりません。
お話づくりはやっぱり難しいです。