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僕の“鑑定眼”は未来まで見通します~【神眼】スキルを持つ辺境貴族、滅びの運命(デッドエンド)を回避してハーレムを築く~  作者: のびろう。
第1章 デバッグ不可な異世界

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赤子の視界とデバッグツール

(……なんだ? 温かい……それに、すごく柔らかい……)


意識が、まるで深い水の底からゆっくりと浮上してくるような、不思議な感覚に包まれていた。最後に覚えているのは、無機質なデスクの硬さと、全身を支配する鉛のような疲労感。それが嘘のように、今は羽毛の雲の中にでもいるかのような、絶対的な安心感が全身を満たしている。


微かに聞こえるのは、穏やかで優しい歌声。心地よい揺れ。そして、ふわりと鼻腔をくすぐる、陽だまりのような甘い香り。

佐藤翔太――いや、カイル・ヴァルモットが次に目を開けた時、ぼやける視界に映ったのは、愛情という概念そのものが形になったかのような、美しい女性の顔だった。


艶やかなダークネイビーの髪が、彼の頬を優しくくすぐる 。そして、慈愛に満ちたその瞳は、自分と同じ、どこまでも深い蒼色をしていた 。彼女は、腕の中にいる小さな存在――カイルを優しく抱きしめ、まるで世界で最も尊い宝物を見つめるかのように、聖母のような微笑みを浮かべていた。


『あらあら、カイル。お目が覚めたのね、私の可愛い坊や』


(カイル……? 僕の名前か? それにしても、この声……脳に直接響くような……)


言葉が、鼓膜を震わせる音としてではなく、意味を持った情報として直接魂に刻み込まれるような、奇妙な感覚。混乱する頭で、彼は自分の身体に目をやろうとした。そして、愕然とする。

視界に入ったのは、小さくて、丸々として、まるで焼きたてのパンのようにふっくらとした、赤ん坊の手だった 。



自分の手だ。

その事実を認識した瞬間、カイルの思考は完全に停止した。


(……は? ……え?……て、手……?)


動かそうと脳が指令を送る。だが、返ってくるのは、自分の意思とは全く関係のない、ゆるやかな痙攣にも似た動きだけ。首を動かして周囲を見渡そうにも、まるで鉛の塊が乗っているかのように持ち上がらない 。話そうとすれば、喉から漏れ出るのは「あー」とか「うー」とかいう、意味をなさない音の羅列のみ。



絶望的な事実が、彼の三十年分の社会経験と知識が詰まった脳を、無慈悲な鉄槌のように直撃する。


(嘘だろ……俺、赤ん坊になってる!?)


これが世に言う「異世界転生」というやつか! 前世では小説やアニメの中だけの話だと思っていた現象が、まさか我が身に起こるとは。混乱と驚愕が思考のキャパシティを埋め尽くそうとした、その瞬間だった。

彼の混乱に追い打ちをかけるように、脳内に凄まじい量の情報が、まるで決壊したダムの水のように流れ込んできた。


【神眼が発動しました】


(なっ……!?)

視界の全てが、光の線とテキスト情報で埋め尽くされる。まるでPCのウィンドウのように、彼の視界に半透明の情報パネルが次々とポップアップ表示されるのだ 。


【対象:エレノア・ヴァルモット(母親)】


【種族:人間】


【年齢:28】


【ジョブ:貴族婦人 Lv.5】


【ステータス:HP 120/120, MP 85/85】


【状態:幸福、母性愛(最大)】


(なんだこのUI……いや、UIとか言ってる場合じゃない! ステータス!? ジョブ!?)

目の前で優しく微笑む母親が、ゲームのキャラクターのように解析されていく。中でも【状態:母性愛(最大)】という項目が、カイルの心を温かいような、それでいてどこか気まずいような複雑な感情で満たした。


パニックに陥る彼の意思などお構いなしに、【神眼】はさらに情報を表示し続ける。視線を、自分を包んでいる寝具に向けると、即座に新たなウィンドウが開いた。


【対象:天蓋付きベビーベッド】


【素材:オーク材、シルク】


【状態:老朽化(一部に腐食あり)】


【耐久度:45%】


(な、なんだこれは!?)


優しい顔で自分を覗き込む母親のステータス、部屋の調度品の素材、果ては天井を支える太い梁の耐久限界値まで 。視界に入るありとあらゆる情報が、彼の意思とは無関係に表示され、脳に叩き込まれてくる。そのウィンドウのデザイン、フォント、情報の表示形式は、前世で彼が嫌というほど見慣れた、あの『アナザー・ガイア』のデバッグツールそのものだった 。


規格外すぎるユニークスキル【神眼】。その力に戸惑い、情報過多でパンク寸前の頭を抱えようとしても、柔らかな赤ん坊の腕は虚しく宙を掻くだけ 。



自分が一体どこに、何者として生まれ変わったのか。この奇妙な能力は一体何なのか。

謎が謎を呼ぶ状況の中、カイルはただただ呆然とする。そして同時に、予感せずにはいられなかった。


これほどまでに詳細な情報が見えるということは、それだけこの世界が「情報を知らなければ生き残れない」危険な場所であるという証左に他ならないのだと。

こうして始まった第二の人生が、決して平穏なものではないということを。

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