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僕の“鑑定眼”は未来まで見通します~【神眼】スキルを持つ辺境貴族、滅びの運命(デッドエンド)を回避してハーレムを築く~  作者: のびろう。
第3章 商人の娘と積み荷の行方

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エピローグ 世界で最も価値ある投資先

フォルクマン商会の隊商が、予定とは違う、南へと続く安全な王家の街道ルートへと出発していく。

城門の上に立ったカイルは、その長い列が地平線の向こうに小さくなっていくのを、ただ黙って見送っていた。


やがて、隊商の最後尾が見えなくなると、彼は、張り詰めていた糸がぷつりと切れたように、体からすっと力が抜けていくのを感じていた。


(……よし。これで、デッドエンドは回避されたはずだ)


安堵。

心の底から込み上げてくる、深い深い安堵感。

それと同時に、どっと鉛のような疲労感が、彼の幼い身体にのしかかってくる。


未来を視て、それに介入し、人々の行動を自分の望む方向へ誘導するという行為は、彼の精神を想像以上に消耗させるらしかった。

まるで、前世で三日三晩、不眠不休でクリティカルなバグを修正した後のような、脳が焼き切れる寸前のような疲労感だ。


だが、彼の胸の中には、その疲労感を上回る、確かな満足感が満ちていた。

一人の少女とその家族の、笑顔と未来を守ることができた。

その事実が、彼の心を温かく満たしていた。


そして、運命の日から数週間後。


七都市同盟の一角、活気ある商業都市の一室で、クロエ・フォルクマンは衝撃的な報せに耳を疑った。

父グスタフの旧知であるマーティン商会の隊商が、ウルフモウ渓谷で壊滅的な被害を受けた、と。

その日時は、もし自分たちが予定通りに進んでいれば、間違いなくその場所に、その時間に、いたはずの日だった。


全身から、急速に血の気が引いていくのが分かった。


偶然ではない。


幸運でもない。


彼女の明晰な頭脳が、即座に結論を弾き出す。

脳裏に、あのヴァルモト辺境伯領での、出発の日の朝の光景が、鮮明に蘇る。


自分をまっすぐに見つめてきた、あの深い蒼色の瞳。

子供らしからぬ、全てを見通すかのような、静かで、真剣な光。

彼は、カイル・ヴァルモットは、この未来を知っていたのだ。


『カイル様……あなたは、一体何者なのでしょう?』


震える唇から漏れた呟きは、誰に聞かれるでもなく、部屋の喧騒に儚く溶けていった。


あの時感じた、彼の言葉の奥にある不可思議な説得力の正体が、今、はっきりと分かった。

彼は、ただの領主の息子ではない。

計り知れない、世界の理にさえ干渉するほどの「情報」という名の力を持つ、規格外の存在なのだ。


その瞬間、クロエの中で、恐怖や畏敬といった感情は、別の、もっと熱い感情へと昇華された。

彼女の蜂蜜色の瞳に、商人としての、燃えるような光が宿った。


それは、生涯を賭けるに値する、最高の「逸材」を発見した者の輝きだった。

この世界で、商人にとって最も価値のあるものは何か。

金か、宝石か、希少な産物か。


違う。


全て違う。


最も価値があるのは、「確実な情報」だ。


未来を知る力。


リスクを完全に排除し、リターンを最大化する力。

それは、どんな王の権威よりも、どんな大国の軍事力よりも、価値がある。


(カイル・ヴァルモット様。あなた様は、この世界で最も価値のある、最高の投資先ですわ)


彼女の中で、一つの、生涯を貫くであろう決意が固まった。

自分の商人としての全てを賭けて、この謎めいた少年の価値を最大化させる。


彼の行く道を、資金面で、情報面で、全力で支える。

彼の夢を、彼の目的を、実現させるための駒となる。

それが、自分の商人としての生涯の目標であり、命を救われたことへの、最高の恩返しになるはずだ。


この出来事をきっかけに、彼女のカイルに対する感情は、単なる友情や好奇心から、絶対的な信奉と、ビジネスパートナーとしての強固な意志へと、その姿を確かに変えたのだった。

二人の子供の出会いが、やがて世界の経済をも動かす大きな歯車となることを、まだ誰も知らない。

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