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第六章 神社のそばの潮風グラウンド

台湾出身の陸坡(ルポ)と申します。

高校野球とカツ丼が好きです!(`・ω・´)b


この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

「うわっ、めっちゃ可愛い子おるやん!」


廊下を歩いていた高校生三人組のうちの一人が、阪海工の女子制服を着た茶髪の長い髪の子を見て、思わずそう言った。うっすらメイクをした可愛い顔立ちと、スカートと白いソックスの間から伸びるすらりとした脚。男子高校生の視線は釘付けだ。


でも、その隣の二人は全く動じず、スポーツ系のノリでその子に声をかけた。


「おーい、柴門!」


「柴門、中学の頃と全然変わらんなぁ。」


気軽な感じで話しかける二人を見て、一緒にいた同級生は驚いた。まさかこんな自然に女子高生に話しかけるなんて。でも、その美少女はニコッと微笑み、堂々と腰に手を当ててこう言った。


「今は堂々とスカートが履けるからね。前はズボンしか選べなくて本当に困ったよ。」


「悪い男に目つけられんように気ぃつけや、柴門!」


一人がからかい半分に言うと、柴門はすかさず返す。


「アホか、私が男にチャンスなんか与えると思う?」


髪をふわりと揺らしながら振り向くその姿は、まるでテレビのシャンプーCMみたい。柴門はちょっと挑発的な笑みを浮かべて、二人にこう言い放った。


「お前ら、高校三年間ずっと独り身でいろよ。じゃあね!」


「うわー、めっちゃ辛辣やん。」


「ほんま、女より女らしい存在やで……」


二人は柴門の背中を見ながら、どこか楽しそうに言い合った。


さっき「可愛い」と言っていた同級生は、納得がいかず聞いてみた。


「え、あの子、友達なん?」


「ちゃうちゃう、元同級生やで。……あ、そっか、お前うちの中学ちゃうかったな。」


「やから柴門のこと知らんのやな。あいつ、中学でめっちゃ有名やったで。」


「有名?あの女子?」


「ちゃうちゃう、あれ男やからな。」


「……え?男? えええええっ!?男子なんかい!」


男子高校生は目を丸くして驚き、それを見た二人の同級生は声を上げて笑った。


「みんな最初はそうなるねん。」


「いやぁ、でも……すごいな、あれは。マジで女子高生にしか見えん……うわあ……」


クラスメートの顔が赤くなっているのを見て、かつて柴門と同じ学校だった二人は顔を見合わせた。そのうちの一人、柴門と同じクラスだった男子が言った。


「まあ、確かにアイツはマジで可愛いけどさ、本気で柴門に告白するのはやめといたほうがいいぞ。彼女できなくても、絶対それだけはやめとけ。」


「柴門に告白した男の末路、みんなエグいで。」

「ま、そういうことや。身の安全のために、下半身の暴走は控えときや。」

「えっ、別に俺、なんもしてへんやんか!?」


まるで心の中を見透かされたかのように慌てた表情を浮かべる男子高校生。その横で二人の同級生は楽しそうに笑った。


入学初日からずっと女子の制服を着ている男子高校生・柴門玉里が自分の教室に入ると、見慣れた顔が目に入った。席でこっそり課外雑誌『報知高校野球』を読んでいる田中廉太。柴門はすかさずその雑誌を抜き取った。


「うわ、オカマ!本返せや!」


田中はびっくりして、てっきり先生にバレたかと思って謝りかけたが、顔を上げると柴門だったので、すぐに口調を変えた。


「三号!またこんなもん読んで…今どき、こういう情報ネットで全部調べられるやろ。」


柴門は田中のあだ名を呼びながら、野球の名家として町で有名な田中家の三男、田中廉太をからかった。


「三号言うなや、このアホ!」


田中廉太の兄は三年生の田中央一、阪海工野球部のキャプテンで、最近チームを春の甲子園出場に導いたことでちょっとした有名人だ。二番目の兄、田中龍二も今、阪海工野球部の一員だ。そして、中学時代から柴門と同じ野球部だった田中廉太は、兄たちに続く三番目の野球部員になるのが確実視されている。


「さてはこれが理由か?」柴門は田中の文句を気にせず雑誌をパラパラめくると、面白いインタビュー記事を見つけた。それは田中の兄、央一へのインタビューで、二番目の兄、龍二の話も出ている。しかし、廉太の名前は載っていなかった。代わりに、二年生で阪海工を引っ張ると期待される投手・藤田の名があった。


『報知高校野球』は日本で最も歴史のある高校野球専門誌で、強豪校の選手や甲子園を目指す新星をたびたび取り上げる。雑誌に載ること自体が高校球児のステータスの一つだ。ざっと目を通した柴門が言う。


「なるほどな。兄貴たちの話は載ってるのに、お前の“三号”はスルーされてるから、悔しかったんやろ?」


「ちゃうわ!はよ返せ!」


田中は雑誌を奪い返し、柴門の女装姿に気づいて眉をひそめた。


「お前、その女装癖、高校でも続けるつもりか?」


「どないしたん?私、めっちゃ似合ってると思わへん?」

柴門玉里はわざとセーラー服の襟元を広げて鎖骨を見せ、田中の机の上に腰掛けながら、女の子っぽい声を作って、ちょっとエロい感じで言った。

「もし三号やったら、玉里ちゃん、オッケーやで。うふ~ん♡」


「やめろや、このオカマ女!」

田中は柴門が変なことをしようとする手をガシッと掴んだ。こいつは女子高生なんかちゃう、ゴリ押し系の化け物ババアや!


「見つけた!ほんまに見つけたで!台湾の生徒!」

玉里と廉太が言い合いしているとき、メガネの小林芝昭が走ってきた。開口一番、田中に向かって言った。

「さっき流星と蓮のクラスでその台湾の子見かけたで!生きた台湾人や!」


二人はまるで何かとんでもない発見でもしたかのような小林を、ぽかんとした表情で見つめた。小林は思い出したように慌ててズボンのポケットからスマホを取り出し、残念そうな顔をした。

「やばい、緊張しすぎて写真撮っていいか聞き忘れた……」


「お前さ、人間は動物園のトラやライオンちゃうで、やりすぎやろ。」

田中はさすがに小林一家の台湾への異常な執着には慣れていたが、写真まで撮ろうとするのにはストップをかけた。正直、なんであんなに台湾に夢中なのか理解できへん。


「台湾人見たかったら大阪市内行けばぎょうさんおるやろ?」

柴門が言う。テレビでも毎年、来日外国人ランキングで台湾は常にトップ争いやし。


「いやいや、そんな単純やないねん。」

小林はメガネをクイッと上げ、まるでジャーナリストのように手帳を取り出して得意げに話し始めた。

「調査によると、うちの学校におる林友達くん、ただの台湾人ちゃうねん。日本語ペラペラで、しかも……めっちゃ小柄。」


小林は手でその身長を示す。遠くで何も知らずに“撃たれた”友達はその瞬間くしゃみをした。


「ちょ、お前そこまでメモるとか、ガチで気持ち悪いぞ小林。」

「捕まる前に、やめときや。」


田中も柴門もドン引きしながら忠告するが、小林は全く気にせずメモをめくり続ける。


「職員室で聞いた話やけど、林友達は日本に来る前、台湾の中学野球部で全国大会に出た投手らしいで。高校からも誘われてたみたいやけど、なぜか今は日本にいるとか。どう?なかなか面白いやろ?日本に遊びに来る台湾の観光客とは全然ちゃうし、これからもっと台湾のこと調べられるかも……」


――台湾中学で全国大会に出たピッチャー?ほんまか!?


田中は台湾のことにはまったく興味がなかったが、小林のその一言には思わず耳を傾けてしまった。柴門も腰に手を当てて、面白そうに聞いてきた。


「ほんまに?その台湾の子、阪海工で野球やるってガチなん?」


「うん、先生たちもそう言ってたよ。」小林がうなずく。


「オレから見たら、その台湾の子は騙されて来たか、野球を諦めたかのどっちかやろな。」柴門が言うと、田中はジト目で彼を見てツッコミを入れる。

「何言うてんねん、うちは春の甲子園出場校やぞ。」


「でも一回戦で報徳学園にボロ負けしたやん?」柴門が冷静に返す。この一言には田中も反論できなかった。


「そんなん言うけど、柴門、お前ほんまはその台湾人の実力、見てみたいんちゃう?聞いたことあるけど、台湾の中学校野球部って、特別編成のクラスで、一日中ずっと野球してるらしいで。放課後にちょこっと練習するうちらとはちゃう。ピッチャーのレベル、もしかしたらお前や三号……いや、もしかしたら藤田先輩でも敵わんかもな。」

小林が言う。教室が古いせいか、それとも太陽の光がメガネに反射したのか、この瞬間だけは小林の話に妙な重みがあった。


「最近は日本のプロ野球でも台湾の選手の名前、たまに聞くやん?でも阪海工からプロに行った選手は……」


……一人もおらん。


「いててっ!」

田中は呆れたように野球雑誌で小林の頭を軽く叩き、「台湾小林」とあだ名で呼んだ。


台湾の話になると、小林はいつも自慢げに語り続ける。もちろんその内容は台湾を褒めることばかりで、田中には正直どうでもいい話だった。大阪の田舎に住む自分にとって台湾がどんなに良くても関係ない。でも田中はふと思い出した――あの朝、野球部でもなく坂海工の他の運動部でもない、見知らぬやつが朝ランしてた後ろ姿のことを。


もしかして、あれが台湾のやつかも?

田中は思い出した。そういえば、用事で一度家に帰った兄貴が、「男の寮にはおもろい二人組が住んでる」って言ってたっけ。


――おもろい二人組?

少し離れた席でこの会話を全部聞いていた金井榮郎も、台湾から来た野球少年のことに興味津々だった。そういえば、以前ネットの掲示板で連絡を取った、北海道日本ハムファイターズの熱狂的なお母さんファンが、「台湾の大王」とかいう選手に夢中だったっけ。


あの台湾の子も、自分と同い年くらいかな?

15、16歳で一人で外国の学校に来るなんて、ほんまにすごいわ。自分やったら絶対にできへん――金井榮郎はそう思っていたところ、前の席の女の子がいきなり自分を褒めてくれた。


「わあ、さすが榮郎。あっという間に直しちゃったんやね!」

小学校から今の高工までずっと同じクラスの白石堇子は、榮郎が自分のハンカチの穴をさっと繕い、さらに可愛い猫の刺繍まで加えてくれたのを見て感心している。


「でしょ?絶対堇子が気に入ると思ったから、どうやって加えようかさっき考えてたんや。」


「何それ、見せて見せて!榮榮、ほんまこういう可愛いもん作るの得意やんな〜。」

クラスでも数少ない女子の堇子の周りにはすぐに男子たちも集まる。みんな昔からの仲やから、自然と榮郎のことを「榮榮」って呼んでいる。


「榮榮、ほんまに手先器用やな。」

「めっちゃ上手やん、すごいわ榮榮!」


「そんなことないよ。妹もおるし、よくお母さんの手伝いもするから……あ、ちょっと待って。」

榮郎は男子の制服の襟がちょっと曲がってるのに気づいて、すぐに直してあげた。立ち上がった榮郎は身長180センチ近く、ゴツい手なのに細かいところまで丁寧に直し、優しく微笑んで言う。


「ちょっと曲がってただけやわ。これでバッチリやな。」


男子は榮郎を見上げながら、肩に手を置いてため息をつく。

「はあ〜、榮榮が女の子やったらよかったのに。こんな優しい人、なんで男なんやろ……結婚したいわ。」


「アホなこと言うなや。」

榮郎は友達の大袈裟な演技に思わず笑ってしまう。


「ダメよ、私が許さへんで!榮郎を嫁にしたいなら、まず私の許可がいるんやからな。うちの榮郎、簡単には猿みたいなやつに嫁がせへんから!」

白石堇子は男子たちの手を払いながら、さっきまでとは違う顔で「保護者モード」になる。


「お願いします、白石さま。どうか榮郎さんをお嫁にください!」


「そしたら昼休みに購買で一番ええ焼きそばパン、買ってきてや。」


「はい、白石さま……って、お前、使いっ走りにする気やろ!」


一見おとなしそうな金井榮郎の幼なじみ、白石堇子。でも実は、榮郎よりも男子と打ち解けているところもある。こうしてみんなで「お嫁に出すごっこ」をしたり、堇子と男子のボケツッコミのテンポについていけず、榮郎はいつも苦笑いしてしまう。


「何回見ても堇子はすごいなあ……」榮郎は感心して言う。


「まあまあやなぁ。でもさ、さっき三号と女ボス(田中と柴門)見て、何考えてたん?」

堇子が指すのは田中と柴門。この二人は昔から野球部でも目立つ存在で、榮郎みたいに三年間ベンチだった人間とは違う。榮郎が野球好きなのは知ってるけど、堇子はああいう体育会系の雰囲気が榮郎に合うと思ってへんから、もう一回聞く。


「もしかして、高校でも野球部……入るつもり?」


「う、うん……やっぱり入りたい。」

榮郎は気まずそうに笑った。堇子が野球部やサッカー部みたいな上下関係キツい部活をあまり好かないことは分かってる。自分は昔の野球部でもいじめられたわけじゃないけど、正直、空気みたいな存在やった。同じく試合に出られなかった小林の方が、田中たちのグループに溶け込めてたし。でも――


「今回こそ、ちょっと頑張ってみようかな、みんなの応援ぐらいはしたいなって思ってる。」

榮郎は笑ってそう言ったけど、堇子はため息をついて「ほんまに……また同じことにならへんように、頑張りや。」とちょっと投げやり気味に返した。


部活動の体験時間は、放課後の午後三時半から。生徒たちは自分が申し込んだクラブに直接向かうことになっている。林友達が野球部のグラウンドに着くと、もうかなりの人が集まっていた。


台湾ではこんな光景、なかなか見ない。みんな野球が好きとはいえ、「好き」と「実際にやる」は別問題だ。


「うわあ、こんなにたくさん来るんや、すごいなぁ!」


後ろからついてきたのは日空南極。その大きな体格と筋肉で、周囲の視線を一身に集める。林友達が見上げると、南極はもう野球ユニフォームに着替えていて――あいつがどうしても着たいって言い張ったから、また遅刻しかけたんやな……と友達は思う。


けど、こないだ一緒にキャッチボールした時の南極の様子を見て、なんで彼がこんなに野球にワクワクしてるのかちょっと分かった気もする。


南極はその場で何人いるか数え始め、「おお、もう六十人近くやで!」と興奮気味。友達も公立校の野球部にこれだけ人が集まるとは思わなかった。強豪じゃなくても、野球部の人気はやっぱり高いんやな……と感じていたところ、背後からまた聞き覚えのある声がした。


「やっぱり田中が言った通りやな。」

「まあ、公立やしな……。」


「お、流星!蓮!来てたんやなー!」


南極がまたみんなの名前を呼び捨てにする。友達は、制服姿でゆっくり近づいてくる同級生――豊里流星と浅村蓮――を見ていた。遠くからでも南極に手を振る流星、なんだか最初から友達みたい。みんなの注目を集めて、すぐクラスメイトと打ち解ける南極。まるで漫画のキャラやな……と林友達は思い、こんな人本当にいるんだなと感心する。


「えっと、君は……あ、台湾から来た……えーと……あ、ともだち?」


「ぷっ!」

流星のいきなりの間違いに、後ろの蓮は思わず吹き出して笑う。「ごめんごめん、だってその顔、可愛すぎるやろ。流星、マジやばいで。先生さっきクラスの台湾の子と仲良くしろって言ってたばっかりやん。」


「え?何かしたっけ?」流星は本気で分かっていない顔で蓮を見てから、友達を見つめる。


「ゆうだい。」


林友達が言いかけた時、横の南極がきちんとした発音でフォローしてくれる。「彼の名前は友達ゆうだい、野球めっちゃ上手いで。」


「ほぉ……そうなん?」

南極のこの一言で、流星の表情が一変する。言葉は分からなくても、友達にはすぐ伝わる――これは「勝負したい!」って目だ。流星は拳を握って、わざと大げさに言う。


「あの直球を打てるなら、俺もメジャーへ行けるはずだ!」


「えっ?」

流星のノリについていけず、固まる友達。


「おぉ!『メジャー』やん!茂野吾郎がアメリカに挑戦するセリフ。アニメ全部観たで!」

南極が即座に共感を示して、流星は嬉しそうに「最高やな、南極ボーイ!」とハイタッチ。


「気にすんな、また発作や。えーっと……林友達?」

今度は蓮がちゃんとした名前で呼んで、友達に頷いて見せる。


「知ってるやん、俺の名前。」

「クラスの自己紹介で。」

「そっかそっか。」蓮は納得してから、流星を指さす。「あいつはオタクやで、アニメとか好きすぎてたまにウザい。でも根は素直や。」


「オタク?」


「ま、アニメとマンガめっちゃ好きなやつのことやな。俺もあんま詳しくないけど。あ、そういや、君も昔野球やってたんやろ?ポジション何?俺は外野。」


「僕はファースト(一塁手)や。」


急に誰かが会話に割り込んできて、友達は振り向く。すると自分と同じく坊主頭の男子が目の前に立っていて、その後ろには茶髪ロングの……女の子?最後はメガネをかけた小柄な男子がいた。

友達は「あれ、このメガネの子、どこかで……」と記憶をたどり、数秒後に思い出して声をかける。


「啊、君だね!」


「すごい、覚えてくれてた!」小林が嬉しそうに言う。


(いや、あの変な行動は忘れたくても忘れられへんやろ……)

その場にいた全員が心の中でツッコミ。


「へー、あんたが小林が言ってた台湾の子か。顔、確かに日本人っぽくないもんな。」

茶髪ロングの柴門が近づいて、わざと色っぽいポーズで自己紹介する。


「柴門玉里。前はセカンド守ってた。」


「田中廉太、ファースト。で、この子が小林芝昭。打つのも投げるのも下手やけど、情報集めは得意やねん。」

友達と同じ坊主頭の田中が続けて言う。友達も自分の名前を言う。「林友達、台湾人や。」


裕太ゆうた?」

柴門が発音だけで確認する。


「違う、音は同じやけど、漢字が違うんや。」

そして、友達は柴門を見てふと気づき、尋ねる。


「君って……男の子?」


この一言に、柴門はちょっと意外そうな顔をして、すぐに微笑む。「えー、バレた?やるやん。どうして分かった?」


「なんとなく。君は女の子じゃないって感じがしただけ。」

「直感か……ほんま、よう分からんヤツやな。」柴門は呆れたように笑う。


「友達、サインインしに行こ!」

南極が友達の腕を引っ張って進もうとする。他のメンバーにあまり興味がなさそう。友達は困りながらも、南極に引っ張られるのをやめさせようと抵抗する。


「ちょ、ちょっと自分で歩けるから、引っ張らんといて。」


「ごめんごめん。」


サインインのとき、友達は隣の人にぶつかってしまう。「すみません!」

振り向くと、そこにはまた身長180cmはあろうかという大柄な男子。ずっと160cmちょいの友達は、周りを背の高い人に囲まれてる感じがしていた。


「い、いや、こっちこそごめん。僕、大きすぎて……」

大きな体に似合わず、優しい声。南極とはまた違うタイプだ。友達も頭を下げて、「林友達です。よろしくお願いします。」


「え……金井榮郎かない えいろうです。よろしくね、友達くん。あの……もし間違ってたらごめんやけど、君……日本人じゃない?」

榮郎が尋ねると、友達は迷いなく「うん、台湾から来た。日本で高校に通ってるんや。」


「この子があの台湾の子か!」

榮郎は自分の肩ぐらいしかない友達を見て、坊主頭、少し長めの黒い制服、小さな手足――


(ほんまに……めっちゃ可愛いな!)


「か、可愛……」

可愛いものが大好きな榮郎は、途中で自分の発言がまずいことに気づき、慌てて口をつぐんだ。(危ない危ない、男に可愛いって言われて嬉しい奴なんかいないやろ…)

しかも、友達の後ろから、さらに大きな男子が振り向いて声をかけてきた。


「こんにちは、日空南極です。君も野球部に入るの?」

「う、うん、はい。金井榮郎です、よろしく。」


「君も野球上手なんやろ?思ったより野球やりたい人多くてびっくりしたわ。」南極が言う。


「いや、そんなことないよ……」榮郎は少し戸惑って答えた。


その時、サインイン受付にいた野球部の二年生の先輩が「見学の人は、こちらでサインしてくださいね!」と大きな声で呼びかけた。

友達と南極は、たくさんの人がサインしたあと、すぐにリュックを背負ったり、自転車を押して校門の方へ向かっていくのを見た。


「え、どういうこと?」友達が不思議そうに聞く。


「実は、クラブ見学ってサインだけしたらもう終わりってことになってるから、ほとんどの人はサインだけして帰っちゃうんだよ。」榮郎が説明した。

横を見ると、肘をついて無気力に足を組み、あくびをしながら座っている野球部の先輩の姿もあった。


「さっき先輩たちからそう聞いたから……期待させてごめんね。」榮郎が謝る。


友達と南極は思っていたのと違う状況に少しがっかり。

時間が経つにつれ、サインだけして帰る生徒がどんどん増えていき、最後まで残ったのは10人にも満たなかった。その中には流星、蓮、田中、柴門など、さっき顔を合わせたメンバーが大半を占めていた。


「今年もこんなもんやな。」

野球部二年の先輩たちが立ち上がって、友達たちを見ながら全然驚いた様子もなく言う。「やっぱりみんな岬阪中学野球部の出身か。」


「がっかりさせてすみません、先輩。」流星がニコニコしながら言うが、全く悪びれた様子はない。

二人の先輩は苦笑して、流星を見てこう言った。


「豊里、お前ってなぁ……なんでそこに立ってるだけでイラっとくるんやろな。なぁ、浅村もそう思わへん?」


「そんなんちゃうわ!」

「うんうん、先輩、ほんまに分かってるわ。」蓮がノリ良く合わせる。


「おい!蓮、それひどいやろ!」流星が抗議する。


みんながわっと笑い声をあげた。


(全然分からんわ……)

日本人のユーモアはやっぱりまだよく分からない。さっきの笑いどころも正直ピンとこなかった。でも榮郎が言っていた通り、今残っているのは本当に野球に興味がある人たちだけなんだな、と友達は思った。


さっき話してくれた金井榮郎も、このグループの中に残っているのが少し嬉しかった。


「いち、に、さん、し……八人。今年もこんなもんやな?」

二年生の先輩が点呼を終えて、もう名前を聞くのも面倒くさそうな顔をした。


そのとき、友達は見覚えのあるシルエットが近づいてくるのに気づき、思わず体がピンと張りつめて、変な熱気がこみ上げてきた。思わず声が出る。


「ふ、藤田先輩?」


「おう、お前も来てたんか。野球部入るん?えっと……友達、やったっけ?」

藤田は友達の名前を一瞬考えた後、ちょっと怖い顔で聞いた。「名前、間違ってへんやんな?」


「ううん、藤田先輩、間違ってません!」友達は答える。

藤田は友達の肩をポンと叩き、そのままさっきまで受付をしていた二人の先輩の元へ歩いていった。


(藤田先輩、俺の名前覚えててくれたんや……)

心の中で喜びを感じていた友達。その横で南極は、友達の嬉しそうな表情をじっと見てから、さっきやって来た藤田先輩に視線を移し、こう言った。


「友達、なんか先輩のこと見て、めっちゃ嬉しそうやな?」


「え、そ、そうかな?」

南極にそう言われて、友達は慌てて笑顔を引っ込める。

そして南極は、じーっと藤田先輩を見つめたまま、友達にこう聞いた——


「藤田先輩って、強いん?」

「うん、二年生のキャプテンで、エースピッチャーだって聞いたよ。」と友達が答える。


「へぇ、すごいやん……」

南極は小さくつぶやき、しばらく藤田をじっと見つめていたが、急に友達の方を向いて言った。


「決めた!俺も阪海工のエースピッチャーになる!」


突然の宣言に、友達は藤田先輩から南極に視線を移した。


「投手やりたいん?」

南極はうなずく。


「そう、俺はピッチャーや。俺のストレート……めっちゃ速いからな!」


この点に関して、友達は否定できなかった。南極の球速は、今の自分じゃ受けきれないし、自分でも投げられないレベルだ。台湾の中学時代でも、日空南極みたいな球を投げる投手は見たことがない。


「そこの君、隠れとらんと、こっち来いや!」


その時、藤田先輩の声がして、見ると藤田が一人の生徒を連れてきた。その生徒は、同じクラスの宇志川翔二だった。渋々とついてきた宇志川は、ぼそっと「別に来るつもりなかったし……」とつぶやく。藤田は彼の隣で、「そんな意地張らんでええやろ、宇志川。ホンマに来たくなかったら、野球部体験なんか申し込まへんし、近くをウロウロしたりせえへんて」と静かに言った。


宇志川翔二はその言葉に口をつぐみ、ふっと友達の方をちらっと見てから、また視線をそらした。


こうして藤田が人数を確認し、今年一年生で野球部体験に来たのは全部で九人。ちょうど野球のメンバーがそろう人数だった。


「ほな、あとはよろしく頼むで。」

藤田は、同じく二年生の二人の部員に引き継いで、そのまま軽くジョグしながらその場を離れた。


「藤田先輩、どこ行くんですか?」と友達が声をかけると、藤田は立ち止まり、いつものちょっと怖い表情で、上の階段道を指さして答える。


「グラウンドは学校の裏山や。男子寮を越えて、岬阪神社の近くにある。」

「向こうで待ってるからな。」


そう言い残し、藤田先輩はユニフォーム姿で一人ゆっくり坂道を駆け上がっていった。


「これが藤田先輩か……なんかめっちゃ怖そうやな。」

南極は藤田の背中を見送りながら言い、同時に林友達が藤田をじっと見ている表情にも気づき、友達の腕を軽く引いた。


「ほら、集合やで、友達!」


「お、おう。」

友達はそう返事して、南極と一緒に小走りで集合場所に向かった。


本当に藤田先輩の言う通り、二人の先輩がみんなを練習場まで案内するらしい。学校の裏門から上へ登っていく道を二十分ほど歩くと着くらしく、急がないと日が暮れてしまう——そう言われて、一同は急いで出発した。


「文句言うな、入部したらすぐ慣れるから。」

学年上の先輩が後ろでぼそっとつぶやいた。山道の坂が続くが、友達にとっては親しみのある風景だ。台湾の台東にある自分の学校や家の周りも、ちょうどこんな感じだったから。


「友達、藤田先輩って、強いん?」

隣を歩く南極が聞いてくる。友達は首を振って答える。


「分からない。でも二年生のエースやし、来年は阪海工三年のエースになるんちゃう?」


「へえ……じゃあ、俺のことはどう思う?強いと思う?」


「なんでそんなに俺に聞くの?」


「ええやん、気にすんなって!」


南極がやたらと自分と藤田先輩のことを気にして聞いてくる理由が、友達にはよく分からない。たしかにこの前南極の球を見て、同い年とは思えないスピードにびっくりしたけど、それでも自分は南極に負けるつもりはなかった。


「球速は確かに速いけど、でも南極、お前ってもしかして——」


「遅いで!走るで、一年生はちゃんとついて来いよ!」


二年生の先輩二人がゆっくり歩くのをやめ、ユニフォーム姿でいきなり走り出した。まだ制服の一年生たちも慌てて後ろからついて走ることになり、みんな三々五々のランニング隊列になる。


この前のキャッチボール以来、友達は南極に聞きたいことがあったが、なかなか聞き出せずにいた。


しばらく走った先、神社の石段を通り抜けると、前方に古びた木板が現れる。板には矢印と「潮風グラウンド」と大きく書かれていた。そのままもう少し走ると——


阪海工の潮風グラウンドが、息を切らせた一年生たちの目の前に広がっていた。

なぜか小説を書いているとき、

いつもスキマスイッチの「かなで」を聴いてしまいます。

やっぱり『熱闘甲子園」』の影響かな? ٩(ˊᗜˋ*)و

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