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第三九章 神宮大会/期末テスト

台湾出身の陸坡と申します。


發見してみると、以前使用していた翻訳AIは、台湾の文章を日本語に翻訳する際に多くの誤りが生じていました。現在は新しいバージョンの翻訳AIを使用し、誤訳となる文章は減っています。時間を見つけて、あらためて小説を翻訳し直すかもしれません。申し訳ありません。


この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

鹿児島代表『神村学園』対、数年ぶりに近畿大会優勝を果たした京都の野球名門『龍谷大平安』。 神宮球場という全国の舞台で激突する両校。試合の空気は極限まで張り詰めていた。


四回表、神村学園の攻撃。 二本のヒットで一死一三塁のチャンスを作り、打席に向かうのは五番打者。 鹿児島の安打製造機と呼ばれる一年生——**國分 コクブ・ダイ**選手だ。


「國分選手が打席に入ったところで、龍谷大平安がタイムを取りました! ……そしてついに、ついにマウンドに上がります! 一年生エース・壬生公平ミブ・コウヘイ! 今大会、日本各地の一年生たちは本当に目覚ましい活躍を見せていますね、高田さん」


実況アナウンサーが興奮気味にまくし立てる。 その隣で解説を務めるのは、元プロ野球選手の**高田仁三タカダ・ニゾウ**だ。 引退後は公立高校の野球部監督に就任し、公立校を率いて私立の強豪と渡り合い、十数年の間に二度の甲子園出場を果たした名将である。現在は監督業を退き、その的確で穏健な分析スタイルで、長年明治神宮大会の解説席に座っている。


「ええ、ここで壬生君の投入です。彼は近畿大会で京都国際や大阪桐蔭の強力打線を抑え込んだ実績がありますからね。 平安の監督としても、この回、神村学園の得点の流れを断ち切り、主導権を握る必要があると判断したのでしょう。五番・國分君との勝負に彼を当てるのは、非常に理にかなった采配だと言えます」


「これで両校ともに一年生の新星同士の対決ということになりますね? いやはや、驚きましたよ、高田さん」


「その通りです。しかし同時に、一年生にとって最大の課題は『安定感』です。 両校の監督は、後輩の勢いが二、三年生の士気を鼓舞することに期待を寄せているとも言えます。確かに、以前の試合運びではあまり見られなかった大胆な起用ですね」と高田氏は語る。


【BSO/スコア表示】

神村学園  0

龍谷大平安 2


マウンド上、壬生公平がセットポジションに入る。


「第一球、壬生君投げた! ……ストライク! 沈む球ですが、國分君は手を出していません」


「様子見でしょうね。やはりエースの勝負球、慎重になっています」


「さあ第二球……おっと、牽制! 牽制です! 壬生投手もランナーをかなり警戒していますねぇ——」


「これが龍谷大平安の天才一年生か? 大したことないやんけ!」


朝の明治神宮大会・録画中継。 ミーティングルームに集まり、勉強会の合間に試合を見ていた野球部員たちの中で、田中龍二が悪態をついた。


画面の中の壬生公平を見下すような口ぶりだが、すぐに野次が飛んでくる。


「グラウンドにおらん奴ほど、デカい口叩くよなぁ~」 「出たわ、生意気な田中二号」


「うるさいわ! 殺すぞ!」


後ろにいた中西と大河のツッコミに、龍二が食ってかかる。 中西は大げさに「うわー、怖っ」と肩をすくめ、大河の肩を叩いた。 すると大河が、スマホを見ながら真顔で言った。


「なあ龍二。ネットの記事で読んだんやけど、『坊主+野球部+声デカい』男子は、女子高生が嫌いな男子ランキング堂々の一位らしいで」


「嘘つけ! 男は顔や、顔! 顔が良けりゃモテんねん!」


龍二が必死に反論するが、二人は冷ややかな視線を送る。


「顔かぁ……」 「それこそ、大したことないやろ?」


「あぁん!? お前ら、表出ろやコラァ!」


「りゅ、龍二、声デカいって! お前らも落ち着けって……!」


同室の女房役・木村陸斗が慌てて仲裁に入る。 だが、時すでに遅し。


ガラッ!!


入り口の引き戸が乱暴に開けられ、寮の管理人が仁王立ちしていた。 全員がバネのように飛び上がる。


「休憩時間とはいえ、限度があるだろう!」


管理人の冷徹な声が響く。


「白井先生から、寮での規律について教わっているはずだが?」


「は、はい……大変申し訳ありませんでした……」


全員で直立不動の謝罪。 テレビ視聴禁止こそ免れたものの、たっぷりと油を絞られた。


「そういや、一年坊主らがおらんな?」


説教が終わり、中西がキョロキョロと辺りを見回した。 あの小柄なヨウダの姿が見当たらない。


その時、引き戸が開き、夜間のウエイトトレーニングを終えた藤田迅真が入ってきた。 汗を流してサッパリした様子の藤田の横を、佐久間圭一が通り過ぎざまに声をかける。


「迅真、ユニフォーム洗っといたで。ついでにパンツも一緒に洗っといたわ」


「おう、サンキュ。圭一」


藤田は何の疑問も持たずに礼を言った。 あまりにも自然な、熟年夫婦のようなやり取り。


それを見ていた田中龍二が、眉をひそめ——そして、チラリと横にいる木村を見た。 その目は明らかに語っていた。 『ええなぁ、アレ。俺もやってほしいなぁ』


木村は龍二の思考を瞬時に読み取り、食い気味に拒絶した。


「ユニフォームは自分で洗う! パンツもな! 龍二!」


「チェッ……お前、俺は何も言うてへんやろ」


龍二はあからさまにガッカリした顔をした。


「藤田、ヨウダ知らんか?」


中西が尋ねると、藤田はスポーツドリンクを飲みながら答えた。


「あいつなら部屋で勉強や。期末テスト近いしな」


「勉強かぁ……。はぁ、そら遊ばれへんな」


中西が深いため息をつく。 その態度に、藤田は不思議そうな顔をした。


「中西、大河。お前らは勉強せんでもええんか?」


「俺は諦めた」


中西が親指を立てて即答する。 続いて大河も、自信満々に胸を張った。


「今日の朝のテレビでやっててんけど、試験当日の俺の血液型占い、ヤマ勘の的中率が五割五分らしいで!」


「…………」


会議室に静寂が訪れた。 五割五分。野球の打率なら超一流だが、テストの正答率なら赤点ギリギリかアウトだ。


「……出ろ」


耐えきれなくなった龍二が立ち上がり、木村と共に二人を捕獲した。 このままでは野球部から「赤点による試合出場停止者」が出る。


「どっちも部屋戻って、ワーク終わらせてこい! このバカ二人が!」


「うわあああ! 放せぇぇぇ!」


二人が廊下へ放り出されたのと同時に、テレビの実況が叫んだ。


『打ち上げました! 外野フライ、アウト! 神村学園、この回無得点です!』


どうやら、こちらの馬鹿騒ぎと同様、神村学園の攻撃もあえなく終わってしまったようだった。


十月の文化祭が終わると、阪海工の生徒たちは十二月末まで続く、底なしの**「試験地獄」へと突き落とされる。 国語、英語、数学といった普通教科だけではない。 二学期からは海事、工業などの専門科目の試験に加え、就職に直結する「国家資格」**の取得試験ラッシュが始まるのだ。 さらに二年生は、提携工場での一週間に及ぶインターンシップ(実習)もこなさなければならない。


とはいえ、阪海工を選ぶ生徒の大半は、漁業や造船関係の家庭出身だ。 親の背中を見て育ち、幼い頃から家業の手伝いや工場の雑用で小遣いを稼いできた彼らにとって、実技はお手の物だった。


例えば、実家が釣り船屋の宇治川。 彼はまだ免許こそ持っていないが、母親の操船を手伝って夜釣りに出ているため、「小型船舶操縦士」の実技など目をつぶってもパスできるレベルだ。


一方、藤田、木村、田中龍二の「野球脳」トリオは、実技も筆記も平均点ギリギリの綱渡り。 七月の遠泳テストだけは驚異的なタイムを叩き出したが、佐久間からは「さすが筋肉ダルマ、脳みそまで筋肉でできてる」と冷ややかな称賛(?)を浴びていた。


成績優秀な学年トップの栄郎シゲロウ、元々地頭の良い玉里、そして大学受験を控えた兄を持つ田中廉太(兄の方)は、心配無用。 蓮と流星も、宇治川の厳しい監視下で鞭を打たれながら勉強している。 意外だったのは蓮だ。「危険物取扱者」の試験において、彼は驚くべき高得点を叩き出して周囲を驚かせた。


だが——。 彼ら日本人ならまだしも、台湾からの留学生であるヨウダにとって、これらの専門用語の壁はエベレストよりも高かった。


頼みの綱は、OBの川頼カワヨリさんが残してくれた「秘伝のノート」だが……。 そこに書かれているのは、独特な日本語の専門用語と、謎の関西弁スラング。もはやヨウダにとっては日本古文の解読作業に近かった。


「……『気合で締めろ』?」


ヨウダはノートの殴り書きと、その横に描かれた謎のイラストを睨みつけた。 これは技術的な指示なのか? それとも精神論なのか? まるで文字謎解きだ。


「ああ、それは『気合を入れて、ギュッと力いっぱい締めろ!』っていう意味や! 南極基地におった時、自衛隊の兄ちゃんらもよう言うてたわ!」


南極が横から解説を入れる。手には相棒のペンギン人形。 そして、人形の手を振り回しながら、ふざけた調子で応援を始めた。


「キアイデ! キアイデ!」 「『気合で行け!』『気合入れろ!』」 「『気合だぞ、お前!』」


「気合でなんとかなるかぁぁぁーーッ!!」


ヨウダは机に突っ伏して叫んだ。 ああ、もう嫌だ。 これなら「阪海地獄(グラウンドへ続く激坂)」を十往復走る方がマシだ。 たとえ吐くまで走らされたとしても、このわけのわからない日本語の海で溺れるよりはずっといい。


「この間の『危険物』の資格は取れたやんか」 「あれはマークシートだったし、実技がなかったからだよ……」


川頼さんの「昭和のド根性関西風ノート」は、確かに理解の助けにはなる。 教科書や授業の内容も、頭では分かっている。 問題は、実技試験だ。


日本の技術試験には、独特の文化がある。 自分の操作を一つ一つ口に出して復唱しなければならないのだ。 手順を間違えないだけではダメ。動作と専門用語を大声で宣言する。 外国人であるヨウダにとって、これはハードルが高すぎた。


「なんで合ってるのに、いちいち口に出さなきゃいけないんだよ……」


「言われてみれば、せやな?」 「だろ? なんでなんだよ」


ヨウダの愚痴に、南極は「ふむ」と考え込んだ。 周りの日本人は、作業しながら独り言のように動作を確認するのを「当たり前」だと思っている。先生たちもそれを強要する。


「ヨウダ、それは多分……」


南極は何かを閃いたように顔を上げた。


「周りに『わかったで!』って知らせるためちゃうか?」


「……わかった?」 ヨウダは怪訝な顔をした。


南極はペンギン人形の翼をパタパタと動かしながら、解説を始めた。


「南極の皇帝ペンギンはな、巣を作らんと集団で身を寄せ合うねん。 そん時、あいつらは『声』で相手を見分けるんや。 誰がどの声か、何をする時の声か、子供を探す声か……いろんな鳴き声がある。 その声を聞けば、相手が誰で、今から何をしようとしてるか一発でわかるんよ」


身長195cm近い巨漢が、小さなペンギン人形を使って「自然教室」のような授業をしている。 その光景はあまりにもシュールで、おかしくて。 (こんなデカい図体して、やってることが可愛すぎるだろ……) ヨウダの脳裏に、そんな感想が浮かんだ。 南極にしか許されない、奇跡の愛嬌だ。


「ワイらもグラウンドでそうやんか。白井先生にも言われるやろ? 『こっち行くで!』『ボール来い!』『ナイス!』『あざっす!』って、必ず声出せって。 試験もそれと一緒やと思うねん。 口に出すことで『ワイは理解したで!』『今からやるで!』って自分にも周りにもスイッチ入れるんや。 まさにペンギンと一緒やな!」


「何がペンギンと一緒だよ。ペンギンは試験ないだろ……あーあー、もう!」


ヨウダは降参したように再びノートに視線を落とした。 文句を言いながらも、不思議とイライラは収まっていた。


「……それにしても日空。お前、よくこんな文字だらけのノート読めるよな」


「え? おもろいやん、これ」


野性児に見えて、意外と活字に強い南極。 勉強家に見えて、日本語の壁に苦しむヨウダ。 凸凹コンビの試験勉強は、まだまだ続きそうだった。


「そんなこと考えたこともなかったわ。学校の教科書って、めっちゃ分かりやすいやん」


「分かりやすい? 冗談だろ?」 ヨウダは目を丸くしたが、南極の表情は大真面目だった。


「せやかて、南極基地におった頃な、日空博士オカンや隊員のオッチャンらが読んでる本、ちんぷんかんぷんやったで? 自衛隊の兄ちゃんに見せてもろた『砕氷船操作マニュアル』とか、読んでも動かし方さっぱり分からへんかったし」


「…………俺は、勉強に戻るよ」 「おっ、また『気合』注入したろか?」 「結構だ。気合はもう勘弁してくれ」


ヨウダは固く心に誓った。 死んでも南極には行かない。マニュアルと睨めっこするだけの生活なんて御免だ。


** ** ** **



「正式名称は**『指差呼称しさこしょう』**っていうんよ」


休み時間、教室移動の廊下で陽奈が教えてくれた。 ヨウダが初めて聞くその単語を口の中で反芻すると、陽奈は先生のように発音を直してくれた。


「シ・サ・コ・ショ・ウ。 昔、造船所にいた先生が言うてたわ。元々は国鉄(日本国有鉄道)時代からの伝統なんやって。 目で見るだけやとエラー率は約2%あるけど、対象を指差して、口に出して確認すると、エラー率は0.3%まで下がるらしいで」


「指差して声に出すだけで、そんなに効果があるのか?」 ヨウダは半信半疑だ。


「さあね。でも、そういう伝統がずっと続いてるってことは、効果があるんやろね。 ……私は、南極くんの『ペンギン説』の方が可愛いらしくて好きやけど」


そこで陽奈は言葉を切り、ヨウダの顔を覗き込んで、意地悪そうに微笑んだ。


「学校じゃあんなキャラやないのにね。 ああいう可愛い一面は……特定の誰かの前でしか見せない顔、なのかな?」


「……やっぱり、日空の言う通り声出しは必須か。恥ずかしいけどやるしかないな」


ヨウダは無表情で話題をスルーした。 (こいつ、本気で気づいてないフリしてんのか? それとも天然でスルーしてんのか?) 陽奈はもう少し突っ込んでみたくなったが、あまり追い詰めるのも可哀想だと思い直した。 二人の関係性を壊すのは本意ではない。


「ま、どっちにしても赤点はまずいわよ。 補習とか部活停止じゃ済まへんからね。専門科目の資格が取れなきゃ、この学校は卒業できへんよ。それに……」


陽奈は周囲に人がいないことを確認すると、ヨウダの腕を引いて、ぐっと自分の方へ引き寄せた。 触れた腕から、カッと熱が伝わってくる。 冬だというのに、野球部の男の子の体温はどうしてこんなに高いのだろう。あの極寒のグラウンドで、汗だくになって走り回れる理由がわかった気がした。


陽奈はヨウダの耳元で、悪魔のように囁いた。


「もしあんたが卒業できんかったら……南極くん、どうなるんやろね?」


「え? どういう意味……?」


なぜ自分の卒業と南極が関係あるのか。 ヨウダが困惑し、そして陽奈との距離の近さにドギマギして身を引こうとした、その時だ。


「おーい! ヨウダ!」


背後から聞き慣れた大声がして、次の瞬間、ガバッと後ろから抱きすくめられた。 いつもの南極だ。


「ヨウダ! 先生がな、野球部は特別に実習室使って練習してええって! 今週は部活休みやし、放課後はみっちり実技の特訓できるで!」


「お、マジか! 助かった……まだ手順が怪しいところがあったんだ」


ヨウダは陽奈の手から逃れるように、南極の方へと向き直った。 さっきの陽奈の謎かけなど、すっかり頭から吹き飛んでいる様子で、試験対策の話に花を咲かせている。


そんな二人を見て、陽奈は苦笑した。 目の前で男同士が密着し、顔を見合わせて笑い合っている。 別にそっちの趣味(腐女子)があるわけではないけれど、これ以上邪魔をするのは野暮というものだろう。


(……ま、私が手出しせんでも、勝手に進展していきそうやな)


陽奈は一歩引いて、生温かい目で見守ることにした。 当事者になるより、外野席で観察している方が、よっぽど面白そうだ。


這段劇情非常細膩地描寫了友達的**「青春期自我認同危機」**。


這裡有三個層次的情感:


學業壓力與羞恥心:作為留學生,成績不好是現實問題,但他更不想讓南極看到自己「不行」的一面(自尊心)。


南極的直球關心:南極想幫忙卻被推開,這種笨拙的溫柔反而讓友達感到內疚。


朋友以上的困惑:白井教練一句「你們是朋友吧」,直接觸發了友達的內心警鈴。那句記憶中的「我喜歡友達喔」,讓他開始質疑這段關係的定義。


在翻譯上,我會注重:


白井教練的威嚴與溫柔:他對這群笨蛋很嚴厲,但對留學生的困境其實很體諒。


友達的推拒 (Tsundere?):把南極推出去時的害羞與慌亂,以及之後的內疚感。


內心的獨白:最後那段關於「朋友」定義的思考,要寫得有點迷惘、有點酸澀。


以下是輕小說風格的翻譯:


第三十九章 神宮大会/期末テスト(5)

明治神宮大会の熱戦が続く中、阪海工は試験週間に突入していた。 実技と学科、二つの学習進度が入り乱れる十一月中旬。 この時期に行われるのは学科の中間考査だ。国語、英語、数学、そして社会科などの総合科目が対象となる。専門科目の実技試験はなく、学科試験のみだ。 この時点での点数が悪くても、即座に部活動停止になるわけではない。


だが……。


「野球の技術が向上するのは喜ばしいことだが、忘れるな。私はお前たち一、二年の英語担当でもある」


放課後の教室。白井先生の声が低く響いた。


「豊里、中西、浅村、吉岡……そして林友達! 私は、高校時代を野球と勉強だけで終わらせるつもりはない。だが、将来役に立つことは身につけてもらいたい。 プロ野球選手になるにしても、海外へ渡るにしても、海事関係の仕事に就くにしても、英語でのコミュニケーションが必要な場面は必ず来る。高校時代に基礎を固め、将来について考えるべきだ」


白井先生は眼鏡の奥から鋭い視線を送った。


「十二月の期末テストでは、野球部員として恥ずかしくない点数を取れ。 ……話は以上だ。名前を呼ばれた者は片岡先生のところへ行け。 それと、林友達。お前は職員室に来なさい。話がある」


普段から成績を軽視していた野球部員たちが、白井先生の雷を落とされた。 ヨウダは不安な気持ちを抱えながら、職員室のドアをノックした。 中に入り挨拶をすると、デスクに座っていた白井先生が顔を上げ、眉をひそめた。


「……日空。お前は呼んでいないが?」


「え?」 ヨウダが振り返ると、背後には南極が立っていた。 気まずそうに笑いながら、頭をかいている。明らかに言い訳を考えていなかった顔だ。


「い、いやぁ……その、野球のことで教練コーチに質問しようかなーって、ついでに……」


「日空。そんな子供だましの嘘をつくな。 ……友達のことが心配でついてきたんだろう?」


「えっ……?」


図星を突かれたヨウダは、カッと顔を赤くした。 (こいつ……俺が怒られると思って、ついてきたのかよ……!) 恥ずかしさが爆発し、ヨウダは南極の背中をグイグイと押した。


「日空、出てけよ! 心配なんていらないから!」


「ええ? でもヨウダ、部屋で『点数悪かったらどうしよう』って言うてたやんか」


「余計なこと言うな! いいから出てってくれよ、南極!」


「なんでやねん?」


南極は納得がいかない様子だ。部屋ではあんなに不安がっていたのに、なぜ今は拒絶するのか。 見かねた白井先生が、助け船を出した。


「これ以上騒ぐなら、お前も友達も明日の練習はなしだ。寮で謹慎させるぞ」


「……うっ。わかりました」


さすがに練習禁止は堪えるのか、南極は渋々と部屋を出て行った。


ドアが閉まる音を聞きながら、ヨウダは安堵した。 だが同時に、胸の奥にチクリと刺さるものがあった。 (……なんか、俺、ひどいことしたな)


ただ利用して、邪魔になったら蹴り出すような真似をしてしまった。 自分はなんて最低なんだろう。 でも、南極には見られたくなかったのだ。自分が先生に説教されている、情けない姿だけは。


「座りなさい」


白井先生に促され、ヨウダは丸椅子に座った。 机の上には、ヨウダの答案用紙が広げられている。 見事に赤ペンだらけだ。視覚的なインパクトだけで胃が痛くなる。


「林。正直に言おう。もう少し頑張りが必要だ。 今回のテストは英語だけでなく、全体的に難易度が高かった。日本人の生徒でも苦戦している」


白井先生は、いつもの厳しい口調ではなく、諭すように言った。


「母国語じゃないお前にとって、短期間でこれらを理解するのが難しいことは分かっている。 だが、野球部のルールは絶対だ。『赤点の選手は試合に出さない』。 これは国籍に関係なく、阪海工の選手である以上、例外は作らない。……分かっているな?」


「はい……すみません」


「謝る必要はない。お前の点数は、どれも合格ラインまであと数点だ。決して悪いわけじゃない。あと少しの努力だ。 数学や専門科目の選択問題はよくできている。分からないことがあれば、私や担任に聞けばいい。 それに、クラスメイトや野球部の仲間に頼るのも手だ。 ……南極も、お前のことを心配している。友達だからな」


友達。 その言葉を聞いた瞬間、ヨウダの脳裏にある記憶がフラッシュバックした。


『ワイ、友達のこと好きやで』


いつだったか、南極が言った言葉。 白井先生の言う「友達」と、あの時の南極の言葉。 同じ日本語なのに、なぜか違って聞こえた。


「……はい。友達、です」


ヨウダは答えた。 だが、口に出した瞬間、違和感が喉に引っかかった。 南極はルームメイトで、クラスメイトで、チームメイトだ。 一緒に練習して、飯を食って、風呂に入って、くだらない話をして。 それは間違いなく「友達」の定義に当てはまるはずだ。


でも、「友達です」と言い切った時、心の中の何かが**「違う」**と囁いた気がした。


じゃあ、何なんだ? 友達じゃないなら、俺にとって日空南極って、どういう存在なんだ?


ヨウダはハッとした。 自分は今まで、南極のことをどう思っているのか、一度も真剣に考えたことがなかったことに気づいたのだ。



** ** ** **



「あ、あ、あの……日空君? 何して……」 「シーッ! 声デカいって栄郎! 中の話が聞こえへんやろ」


練習後の片付け中、道具の破損状況を報告しようと教官室を訪れた**金井栄郎カナイ・シゲロウ**は、奇妙な光景を目撃した。 教官室のドアに、巨大な蜘蛛のようにへばりつく男——日空南極の姿を。


南極はドアに耳を押し当て、必死に中の様子を伺っていた。 どうやら、中にいる白井先生と林ヨウダの会話を盗み聞きしようとしているらしい。 その滑稽なポーズとは裏腹に、表情は真剣そのものだ。


(南極君、本当にヨウダ君のこと心配してるんだなぁ……)


栄郎は感心しつつも、声をかけるべきか迷った。 するとそこへ、もう一人、ボールケースを抱えた男が現れた。


「無駄だよ。この教官室は木造じゃなくてコンクリートの増築だ。そうやって張り付いても、中の会話なんて聞こえやしない」


現れたのは、野球部きっての台湾オタク、**小林芝昭コバヤシ・シバアキ**だ。 通称『台湾小林』。


「えっ……!」 「なっ……!」


南極と栄郎が驚いて振り返る。 南極は不服そうに言った。


「せ、せやかて、なんか声が聞こえる気ぃするもん!」


「それはプラシーボ効果(思い込み)だ。仮に聞こえたとしても、断片的な単語だけで全体像を把握するのは不可能だよ、南極。 ……こういう時は、科学の力を使うべきだ」


小林は白衣のポケットから(着ていないが)、ドラえもんのように二本のペンを取り出した。


「ボールペン型ボイスレコーダーと、蛍光ペン型ピンホールカメラだ」


小林は不敵に笑った。


「さあ、南極。こいつをドアの隙間に差し込めば……台湾人・ヨウダの秘密はすぐに丸裸だ」 「わあ、すげえ!」 「犯罪だよ! 犯罪!」


栄郎が慌てて止めに入る。


「ダメだよ日空君! 盗聴なんてしてヨウダ君の秘密を知っても、ヨウダ君は喜ばないよ!」 「でも、秘密が分からんと解決できひんやん」 「だからって……!」


栄郎が言い淀むと、小林が悪魔の囁きを続ける。


「科学で解決しようじゃないか。『目的のためなら手段を選ばないことこそ、解決の礎である』……アインシュタインもそう言っていた」 「ア、アインシュタインはそんなこと言ってない!」


栄郎の必死のツッコミを他所に、南極は小林の手にある二本のペンを見つめ、少し考えてから頭をかいた。


「……おおきにな、小林」


南極は笑って、首を横に振った。


「俺、白井先生に追い出されたんよ。それに、ヨウダも俺に聞かれたなさそうやったし。 めっちゃ知りたいけど……盗み聞きはやめとくわ」


南極はドアから離れた。


「ヨウダが俺に聞かせたい言葉やなかったら……聞いても意味ないからな」


「…………」 「そうかい」


小林はつまらなそうにペンをポケットにしまった。


栄郎は一瞬言葉を失ったが、気を取り直して優しく声をかけた。


「あ、あのね、日空君。ヨウダ君が言いたくないのは、もしかしたらテストの点数のことかも。誰だって成績のことは知られたくないし……。 だ、だから! もしヨウダ君が勉強で困ってるなら、僕のノート貸すよ! 野球は下手だけど、勉強には自信あるから!」


「はは、助かるわ。ありがとうな、栄郎。 でも、やっぱり最後は……ヨウダ自身が決めることやと思うわ」


南極はそう言って笑った。 その屈託のない笑顔を見て、栄郎は胸の奥がチクリとした。


(いいなぁ……)


小林と一緒にボールケースを運びながら、栄郎はポツリと漏らした。


「南極君、本当にヨウダ君のこと好きなんだね。 自分もあんな風に、誰かのことを一番に考えて行動できる親友がいたらなぁって……ちょっと羨ましくなっちゃった」


「そう? 結局、ヨウダの件は何も分からずじまいだけどね」


小林は淡々としていた。栄郎はふと思い出して、小林を咎めるように言った。


「小林君、さっきのは本当にダメだよ。盗聴とか盗撮とか……大体、なんでそんな危ないグッズ持ってるの?」


栄郎の剣幕に対し、小林は再びあの二本のペンを取り出し、栄郎に手渡した。


「よく見てみろよ」


「え?」


栄郎が確認すると、それはどこにでも売っている普通のボールペンと蛍光ペンだった。 カメラのレンズも、マイクの穴もない。ただの文房具だ。


「僕はただの高校生だよ。探偵小説じゃあるまいし、そんなスパイグッズ持ってるわけないだろ」


「な、ならなんであんな嘘ついたのさ!」


「試したんだよ」


小林は無表情のまま言った。


「南極の言う『ヨウダが好き』が、どういう種類の『好き』なのかを知りたくてね。 やっぱり、ヨウダが台湾人だから好きなのかな?」


「……それ、なんか違う気がする」


栄郎は首を傾げた。


「南極君は、ヨウダ君という『友達』が好きなんだと思う。台湾人とか日本人とか関係なく」


「でも、ヨウダは台湾人だろ?」


「そうだけど、そうじゃなくて……うーん……。 あ! じゃあ逆に聞くけど、小林君がヨウダ君に構うのは、彼が台湾人だから?」


栄郎は何気なく聞き返した。 その瞬間。


「…………」


小林が黙り込んだ。 いつものすました表情が崩れ、何か言いようのない奇妙な感情が顔をよぎった。


「え、あ、ごめん!?」


栄郎は小林の急な変化に狼狽した。地雷を踏んでしまったのか?


「と、とりあえず! もしヨウダ君が勉強で困ってたら、小林君も手伝ってあげてよ! 同じ一年生だし!」


「僕が?」


小林は我に返ったように聞き返した。


「僕に何ができるって言うんだ?」


「えっと……まあ、なんかあるよ! きっと!」


栄郎はあいまいに笑って誤魔化した。 これ以上、この話題を掘り下げるのは危険な気がしたからだ。



** ** ** **



「やっぱり……」


白井先生との面談を終え、ヨウダが外に出ると、案の定そこには南極の姿があった。 まだユニフォーム姿のまま、グラウンドの隅に体育座りをしている。手にはどこから拾ってきたのか、小枝を持って地面をいじっている。 まるで森の中で迷子になった童話のクマのようだ。


「日空。寮に戻ろう」 「おっ! ヨウダ、終わったんか? 白井先生の説教」 「終わったよ。やっぱりガッツリ絞られた」


二人は倉庫裏の簡易更衣室で着替え始めた。 ふと、南極はある変化に気づいた。


以前のヨウダなら、他人に裸を見られるのを極端に嫌がっていたはずだ。 南極と二人きりの時でさえ、タオルで隠したり、背中を向けたりしていた。 だが今はどうだ。 ヨウダは当たり前のようにユニフォームを脱ぎ捨て、裸になり、トレーニングパンツからボクサーパンツへと履き替えている。


最近では風呂場でもそうだ。かつてのような恥じらいは消え失せている。 南極自身もまた、その光景を当たり前のものとして受け入れていることに驚いた。 いつの間にか、ヨウダは自分の隣で、どんな姿でもさらけ出せるようになっていたのだ。


(あいつのナニが丸見えでも、もう怒られへんようになったなぁ……)


「日空、日空、日空、南極?」 「え、あ、はいっ!」 「何考えてるんだ? 話聞いてなかっただろ」 「あ……ごめんヨウダ……何の話やったっけ?」


グラウンドを後にし、自転車を押しながら寮へと続く坂道を歩く。 ヨウダが何か話しかけていたらしいが、南極の頭の中は、さっきの着替えの光景と風呂場の記憶で占められていた。


「さっきのこと、気にしてるのか?」


ヨウダは尋ねた。てっきり、職員室から追い出されたことを気にしていると思ったらしい。 南極は慌てて首を振った。まさかヨウダの裸のことを考えていたとは言えない。


「気にしてへんで」


「……実は、ちょっと恥ずかしかったんだ。正直言うと、情けないっていうか」


街灯以外に明かりのない夜道。車も通らない静かな坂道を、二人の影だけが伸びている。 ヨウダは南極の方を見ずに、前を見据えて言った。


「日空には色々手伝ってもらったのに、あんな点数しか取れなくて……。お前には知られたくなかったんだ」


「せ、せやかて! ヨウダは頑張ってたやんか! テスト前の休みもずっと勉強して……」


「頑張ったのにあの点数だから、余計に情けないんだよ。 白井先生も言ってた。あと少しで合格点だったって。 でも……もし俺がいくら頑張っても、成績のせいで試合に出られなくなったら……笑えないだろ」


「ヨ、ヨウダ!」


ヨウダが言い終わるのと同時だった。 ガシャンッ! 自転車が倒れる音と共に、南極の巨体がヨウダを包み込んだ。 身長差30センチのハグ。


「俺が責任取るから! 学科も実技も、俺がなんとかするから! せやから諦めんといて!」


まるでドラマの告白シーンのようなセリフ。 だが、ヨウダは冷静だった。


「何してんだよ、日空。誰も諦めるなんて言ってないだろ」


「え? でも、今にも泣きそうな声で……」


「泣いてないって。ただ、もっと本気で勉強しなきゃって思っただけだよ」


ヨウダは抱きつく南極の腕をほどき、真剣な眼差しで言った。


「白井先生に言われて気づいたんだ。陽奈や他のみんなも、見えないところでちゃんと勉強してる。 俺だけが甘えてたんだ。お前らに頼ればなんとかなるって。野球さえ上手けりゃ、成績が悪くても使ってもらえるって、心のどこかで思ってた。 ……そんな甘い考えは捨てなきゃダメだ」


ヨウダの声に力が宿る。


「もっと頑張ってみるよ、日空。 ただ羨ましがるんじゃなくて、目の前のことを一つ一つ、真剣にやってみる」


「うん、そっか……」


南極は倒れた自転車を起こしながら、複雑な心境だった。 ヨウダが前向きになったのは嬉しいはずだ。 「もっと頑張る」という決意は、素晴らしいことのはずだ。


でも、なぜだろう。 胸の奥に、冷たい風が吹き抜けるような寂しさがあった。


翌日から、ヨウダは有言実行した。 授業態度はさらに真剣になり、野球の練習にも一層熱が入った。 川頼さんの難解なノートとも格闘し、恥ずかしがっていた「指差呼称」も、必死に声に出して練習している。


ヨウダが変わっていく。 強く、逞しくなっていく。


南極はその成長を喜ぶべきだと頭では分かっている。 だが、心は追いつかない。 ヨウダが一人で立てるようになるにつれて、自分の中にあった「ヨウダを支える場所」が、一つまた一つと消えていくような気がした。


それは、言葉にできない喪失感だった。


明治神宮大会、決勝。 最後に笑ったのは、東京代表・帝京高校だった。 下馬評では優勝候補筆頭と目されていた京都・龍谷大平安を相手に、劇的な幕切れを演じてみせた。


最終回、外野へのヒットで二塁ランナーが一気に本塁へ突入。 クロスプレーの末、判定はセーフ。帝京が土壇場での逆転サヨナラ勝ちを収めた。 帝京にとっては1986年、1995年に続く三度目の栄冠だ。


この激闘により、帝京の一年生エース・真壁久牙と二年生捕手・荒谷慧のバッテリーは一躍全国区となった。 一方で、敗れたとはいえ、龍谷大平安の一年生エース・壬生公平が一人で163球を投げ抜いたことについても、賛否両論を含めて大きな議論を呼んでいた。


寮の談話室では、二年生の先輩たちがスマホやタブレットで試合のハイライトを見ながら、興奮気味に議論を交わしている。 だが、その後ろの席で、南極は一人ポツンと座っていた。 熱狂から取り残されたように、その背中はどこか寂しげだ。


その時、ヌッと視界に手が伸びてきた。 その手には、白いパウチ型のゼリーが数個握られている。 見上げると、二年生エースの藤田迅真だった。


「佐久間からもろた高タンパクゼリーや。アミノ酸が入ってて筋肉の修復にええらしい」


藤田は返事も待たずに、南極の大きな手にゼリーを押し付け、隣に腰を下ろした。


「自分だけか? ヨウダはおらんのか」


「ヨウダは部屋で勉強してます……。一緒に見ようって誘ったんすけど、断られました」


「ふーん。あいつ、最近頑張っとるもんな。 ……食ってみろ。美味いで。味せんけど」


藤田は言いながら、自分も封を切ってゼリーを口に含んだ。 チュウチュウと吸い込み、満足げに頷いている。 「味がないのに美味い」とはどういう理屈なのか。 南極も言われるがままに口に運んだ。 ……確かに味はしない。ただのドロっとした物体だ。だが、身体が欲しているのか、不思議と悪くない気がした。


「……うん、美味いっすね」 「せやろ?」


二人の「野球バカ」は、味のないゼリーを共有した。


「藤田先輩。……先輩は、こんな気持ちになったことありますか?」


表彰式の映像と、騒ぐ先輩たちの声をBGMに、南極は唐突に切り出した。


「喜ばなあかんことやのに、素直に喜べれへん……みたいな」


「ん? 嬉しいけど嬉しない? 調子良かったのに試合に勝てんかった時みたいなことか?」


「うーん……ちょっと違うんすけど。 最近、自分が要らんようになったんちゃうかなって、思うことがあって」


南極はゼリーの容器を指先で弄りながら、モゴモゴと言語化できない感情を吐露した。


「相手が頑張ろうとしてんのはええことなんですよ。 でも、その相手が頑張れば頑張るほど、自分の出番がなくなる気がして……。 なんか、相手が強なるんを邪魔したくなるような……そんなこと考えてまう自分が、嫌になるんすよ」


友達の成長を祝うべきなのに、彼が自分を必要としなくなるのが怖い。 彼がいつまでも自分の助けを必要とする弱い存在であってほしいと、心のどこかで願ってしまう。 そんな醜いエゴを持つ自分が、どうしようもなく嫌いだった。


「ああ、あるで。俺も一時期、ようそんなこと考えとったわ」


藤田はあっさりと肯定した。


「え? ほんまっすか?」


「中学三年の時な。 もし俺がおらんかったら、佐久間はピッチャーを諦めんで済んだんちゃうかって。 あいつが俺とバッテリー組むためにピッチャー辞めた時……嬉しかった反面、すげえモヤモヤしたわ。 もしあいつが他の奴とバッテリー組んだり、別のチームでピッチャーやって活躍したりしたらって想像したら、面白くない。 ……俺も大概、ワガママで自分勝手やろ?」


「えっ! 佐久間先輩って、元ピッチャーやったんすか!?」


南極は驚いて目を見開いた。


「おん。俺の球を受けるために、あいつはキャッチャーを選んだんや」


藤田は懐かしむように目を細めた。 目の前にいる、自分より遥かに図体がデカいくせに、中身は子供のように純粋で未熟な後輩。 たかだか一、二歳しか違わない自分に、高尚なアドバイスなどできるわけもない。 だが、藤田はこの不器用な後輩たちが——地元を離れてやってきた異邦人たちが、少しだけ愛おしく思えた。


「やっぱり、友達(ヨウダ)のことか?」


「うん……」


南極の思考回路は分かりやすい。隠そうともせず、ヨウダのことで悩んでいると認めた。


藤田迅真は「手ぇ出せ」と顎でしゃくった。 南極が素直に両手を差し出すと、藤田は持っていた高タンパクゼリーを、ありったけその大きな掌に乗せ、さらにズボンのポケットにまでねじ込んだ。


「ヨウダにも食わしたれ。あいつ、今日もウエイトやっとったし、筋肉の修復に要るやろ」


「あ、うん。わかった」 南極は素直に頷いた。


立ち去り際、藤田は背中越しに言った。


「南極。これは俺の経験則やけどな……」


藤田は少しだけ足を止めた。


「直接口に出してもええことだってあるで。 ……お前が言葉にせな、あいつには伝わらんこともある」


「口に出す……?」 南極はその言葉を反芻し、強く頷いた。


「あ! 日空」 「ヨウダ? あ、あ! えっと、その、ワイ、あの!」


決心を胸に、階段を駆け上がって部屋のドアに手をかけようとした瞬間、中からヨウダが出てきた。 鉢合わせになった南極は、テンパって手足が同時に動くような有様だ。


「何してんだよ?」 不思議そうなヨウダに対し、南極は慌ててポケットから白いパウチを取り出した。


「ふ、藤田先輩がいっぱいゼリーくれたんよ! 食うか?」


「ああ、それなら今日、中西先輩にもたくさんもらったよ」 ヨウダは南極の手にあるゼリーを見て、冷静に答えた。


「あ? そ、そうなん……」 南極の手が空を切る。せっかくの作戦が不発に終わった。


「どうしたんだ? ……あ、そうだ日空。お前、『製図』のノートまとめてあるか?」


ヨウダは少し申し訳なさそうに切り出した。


「俺のノート、整理が下手でさ……。もしよかったら貸してくれないか?」


その言葉を聞いた瞬間、しょげていた南極の表情がパァァッと明るくなった。 まるで飼い主に呼ばれた大型犬のように、尻尾が見えるようだ。


「おん! ノートならあるで! ヨウダ、他には? 『図学概論』のノートもあるけど要るか?」


「お、いいのか? 助かるよ、頼む」 ヨウダは救われたような笑顔を見せた。


その笑顔を見て、南極はさっきの藤田の言葉を思い出した。 『言葉にせな、伝わらんこともある』


南極は自分のノートを取り出し、ヨウダに手渡す時、意を決して言った。


「あのな、ヨウダ。もしよかったら……もっとワイを頼ってくれへんか?」


「ん?」


「あの時、ヨウダがワイに野球の打ち方とかルール教えてくれたみたいに……。 ワイも、試験勉強とか、こういう時はもっと頼ってほしいねん。 だってワイらは……友達、やろ!」


友達、か。


その言葉を聞いて、ヨウダの脳裏にまたしても昼間の白井先生との会話がよぎった。 なぜ自分は、「友達」という言葉に違和感を抱くのか。 「そうじゃない」と心が否定するのか。 まだ答えは出ない。


だが、目の前で必死に「頼ってくれ」と訴えてくるこの男を、無下にすることなんてできなかった。


ヨウダは手を伸ばし、南極の太い腕をポンと叩いた。


「頼むよ。……俺はずっと、お前に頼りっぱなしだろ。 だからこうして、ノート借りてるんじゃないか」


そう言いながら、ヨウダは少し恥ずかしかった。 体育会系で育ってきた自分が、異国の地でこれほど誰かに頼り切っている。 もし南極がいなかったら、ここまで必死に勉強しようとも思わなかったかもしれない。 「頼る」ことで「頑張れる」。そんな関係も悪くないと思った。


そして迎えた十二月中旬。 野球部員たちの期末テストの結果は——。


全員、無事通過。


赤点回避はもちろん、資格試験も合格ラインに達していた。 これには、今まで散々ガミガミ言ってきた白井先生も、深い深いため息をついた。


「まったく……。 優しく言っても聞かんくせに、『部活停止』をチラつかせた途端にこれか。 お前らという奴は……」


やはり、野球バカにつける薬は「野球を取り上げるぞ」という脅ししかなかったようだ。 ともあれ、これで阪海工野球部は、誰一人欠けることなく冬を迎えることができた。


「ヨウダ、神宮の決勝見ようや!」


寮の洗面所。 歯磨きをしていた南極が、鏡越しにスマホの画面を見せてきた。


同じく歯ブラシを口にくわえていたヨウダは、泡だらけの口で呆れたように言った。 「日空、お前それもう見ただろ? 同じ試合を二回も見て面白いのか?」


「……二回目が見たいねん」


南極は少しむくれたように答えた。 本当は言いたかった。 『お前と一緒に見たいからや』と。 でも、改めてヨウダの顔を見ると、急に照れくさくなって言葉が喉に詰まってしまったのだ。


「ふーん。まあ、いいけど」


ヨウダはうがいをして口を濯ぐと、パジャマのポケットをごそごそと探った。


「あ! そうだ。南極、食うか?」


ポイッ。 放り投げられた物体を、南極はナイスキャッチした。 藤田先輩からもらった、あの高タンパクゼリーだ。


「おう、サンキュ」


その後、二人は部屋に戻り、小さなスマホの画面を並んで覗き込みながら、決勝戦の再放送に見入った。 帝京のサヨナラ勝ちが決まる瞬間、二人は同時にゼリーを吸い込んだ。


「んー、やっぱ味しねえな」 「せやな、美味いけど味せえへんな」


二人は顔を見合わせて、ふと気づいた。


「「……あれ?」」


数分前、洗面所で念入りに歯を磨いたばかりだということを。


「俺たち、なんで歯磨きした直後にゼリー食ってんだ?」 「アハハ! ほんまや! 意味ないやん!」


「バカだなぁ、俺たち」 「せやな、バカやなぁ!」


深夜の男子寮。 バカバカしくて、愛おしい時間が流れる。 画面の中の熱狂よりも、隣で笑う相棒の体温の方が、今の二人には心地よかった。

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