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第三八章 真心、私欲、そして青春

台湾出身の陸坡と申します。


發見してみると、以前使用していた翻訳AIは、台湾の文章を日本語に翻訳する際に多くの誤りが生じていました。現在は新しいバージョンの翻訳AIを使用し、誤訳となる文章は減っています。時間を見つけて、あらためて小説を翻訳し直すかもしれません。申し訳ありません。


この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

プロ野球にオフシーズンの「ウインターリーグ」があるように、高校野球にもまた、一年の締めくくりとなる重要な大会が存在する。 東京・明治神宮球場で開催される**『明治神宮野球大会』**だ。


これは高校の部と大学の部が同時に行われる珍しい大会で、高校の部では全国十地区(北海道、東北、関東、東京、北信越、東海、近畿、中国、四国、九州)の秋季大会を制した優勝校だけが集い、日本一を争う。 ヨウダたちがいる大阪は「近畿地区」に含まれ、その代表枠を争うことになる。


そして今年の高校野球界は、なぜか**「一年生ルーキーの当たり年」**として、各地方で異彩を放つ新星たちが次々と現れていた。


まず、九州地区。 2003年の創部以来、めざましい躍進を遂げている新興強豪・神村学園(鹿児島)。 そこに現れたのが、地元鹿児島出身の「一年生安打製造機」、**國分 コクブ・ダイ**だ。


彼は綺麗な丸坊主頭がトレードマークで、決してホームランを量産するパワーヒッターではない。 だが、九州大会で見せたのは「全打席安打」かと思わせるほどの驚異的なアベレージだ。 対戦したほぼ全ての投手からヒットを放つそのバットコントロールは、九州の高校野球ファンを震撼させている。


次に、近年低迷が囁かれていた四国地区。 愛媛の伝統ある古豪・松山商業に、守備の天才が現れた。 一年生の**重松 新太シゲマツ・アラタ**だ。


彼はエースではないが、二塁手セカンドとしての守備範囲と反応速度は神がかっており、さらに中継ぎ投手としても完璧なリリーフを見せる。 四国大会で見せたビッグプレーは語り草だ。 抜ければタイムリーヒットという打球を、横っ飛びのダイビングキャッチで捕球し、そのまま身体を反転させてバックホーム。見事に走者を刺し、ダブルプレーを完成させたのだ。 このスーパープレーにより、「松山商業復活」の狼煙のろしが上がり、四国中がこの一年生に注目し始めた。


そして、激戦区・東京。 2011年以降、甲子園から遠ざかっていた名門・帝京高校が、ついに沈黙を破り、明治神宮大会への切符を掴んだ。 近畿の龍谷大平安に「壬生公平」という怪物がいるように、帝京にもまた、新たな「王牌エース」が誕生していた。


一年生エース・真壁 久牙マカベ・クウガ。 そして彼をリードするのは、かつて三年生ともバッテリーを組んでいた二年生捕手・**荒谷 アラヤ・ケイ**だ。 この新バッテリーの完成度は凄まじい。 特に真壁が投じる、打者の手元で微妙に変化して落ちる直球ムービングファストボールは脅威で、荒谷の巧みな配球と相まって、東京の強打者たちから三振の山を築いた。


最後に、ヨウダたちのいる近畿地区。


優勝したのは京都の龍谷大平安だったが、準優勝の大阪桐蔭もまた、明治神宮大会への出場権(近畿は枠が二つある場合が多い)を手にした可能性がある。 だが、高校野球オタクたちはある「異変」に気づいていた。


今回の近畿大会、大阪桐蔭のベンチ入りメンバーは全員が二年生だったのだ。 一年生は一人も出場していない。


本来ならベンチ入りしているはずの、あの一年生二刀流——**神谷 蒼士カミヤ・ソウシ**の名前が、そこにはなかった。


なぜ、神谷が出ていないのか?


怪我か? 不祥事か? それとも温存か? ネット上の掲示板やSNSでは、王者の采配を巡って様々な憶測が飛び交っていた。


ネット上の高校野球掲示板では、ある説が有力視されていた。 大阪桐蔭野球部監督・**西谷浩一ニシタニ・コウイチ**の育成方針だ。


『一年生は守る。二年から勝負。三年で完成』


これが、西谷監督の掲げる「三ステップ論」だと言われている。 即戦力として期待される天才たちであっても、一年生のうちは心身のケアと基礎体力の向上を最優先させ、過度なプレッシャーから守る。 他の強豪校が、才能ある一年生を積極的に実戦投入して話題をさらう中、大阪桐蔭だけは頑なにその鉄の掟を守り、焦らずじっくりと怪物を育て上げるのだ。


この方針については、「過保護だ」「いや、選手の将来を考えた英断だ」と賛否両論が飛び交っているが、結果として大阪桐蔭が常勝軍団であり続けている事実は揺るがない。


さて、今年の明治神宮大会は、往年の名門校の復活や、スーパー一年生たちの台頭で大いに盛り上がっていた。 それに比べると、阪海工の存在感はいささか——いや、かなり薄い。


二年生エース・藤田迅真の名は多少知られているものの、それに続くヨウダたち一年生世代は、まだ誰の目にも止まっていないのが現状だ。 『潜入!野球郎ジャーナル』の谷口記者や、『吉田珈琲野球屋』の配信者・吉田のようなマニアックな数名を除いて、世間的には「ノーマーク」の弱小校扱いである。


だが、それは逆に言えば、失うものがないということでもある。 藤田たち二年生にとって、残されたチャンスはあと一つ。 来年の七月——『全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)』。 三年間の集大成となる、最初で最後の「夏」に向けて、彼らは全力で突き進むしかないのだ。


場面は変わり、翌日の教室。


「ええええーーっ!! お前ら、学校で神谷に会うたんか!?」


静かな教室に、素っ頓狂な叫び声が響き渡った。


「シーッ!! 宇治川、声デカいって!」 「先生見てる! こっち睨んでるって!」


蓮と流星が慌てて宇治川の口を塞ぐ。 グループワーク中の教室。 教壇に立つ先生の眼鏡の奥から、冷ややかなレーザービームが野球部グループに向けられていた。 宇治川は青ざめて、必死に頭を下げる。


「す、すみません……!」


(あーあ、また目つけられた……)


ヨウダは小さくため息をついた。 これまでの流星と南極の数々の悪行(授業中の居眠り、早弁、奇声など)のおかげで、このクラスの野球部員たちは「要監視対象」に指定されている。 彼らが少しでも騒げば、すぐに英語教師であり野球部監督でもある白井先生へと通報されるシステムが出来上がっているのだ。


それは個人の責任では済まされない。 **「野球部全員の連帯責任」**だ。


放課後。 案の定、ヨウダは英語準備室に呼び出された。


リン。ちょっと来なさい」


白井先生の声は低く、逃げ場はない。 十中八九、誰かがやらかしたことの説教だろう。 ……いや、待てよ。 ヨウダは自分の胸に手を当てて考える。 もしかして、数学の授業中にノートの端に書いていた「変化球の握り方メモ」がバレたのだろうか?


今日のグループワークは五人一組。 ヨウダ、南極、宇治川、蓮、流星。 同じクラスの野球部員五人が固まるのは、もはや自然の摂理だった。


作業の手を動かしながら、話題は自然と「神谷蒼士」のことになった。 ヨウダと南極が「学校で神谷に会った」と告げた時の、あの宇治川の取り乱しよう。 それが逆に二人の好奇心を刺激していた。


「あの大坂桐蔭のエース……一体、どんな奴なんだ?」


ヨウダの問いに、蓮がペン回しをしながら微妙な顔で答える。


「んー……嫌いってわけやないけど、好かん奴というか……。 なんちゅうか、性格がな。鼻につくねんけど、本気でキレるほどでもないっていう、絶妙に鬱陶しいラインを行く奴なんよ」


「要は『自慢しい(自慢したがり)』なんよ、あいつ」


流星が口を尖らせて補足する。


「何やっても『俺、凄いやろ?』感を醸し出してきよる。 中学ん時も、俺がちょっと打ったらすぐ張り合ってきてな……。まあ、実際に凄いから余計にタチ悪いんやけど」


彼らの出身校である岬阪ミサキハン中学時代。 当時、「高校野球での活躍間違いなし」と太鼓判を押されていた**『三人の有望株』**がいた。


一人目は、宇治川翔二。 藤田迅真を彷彿とさせる安定した制球力と球速を持ち、投手としての完成度が評価されていた。


二人目は、女装男子・柴門玉里。 女子アイドル顔負けの美貌に騙されてはいけない。 その動体視力と打撃センスはズバ抜けており、バットコントロールは天才的だった。 宇治川が家庭の事情で強豪校を断念したのに対し、柴門は最初からスカウトを門前払いしていた。 その理由は——。


『強豪校って、坊主強制やろ? 論外や』


当時、柴門は苦労して伸ばした髪をファサッとかき上げ、涼しい顔でこう言い放ったという。


『それに、男子が女子の制服着て通学するんを許可してくれる強豪なんか、一校もないやろ? せやから、話す時間だけ無駄やねん』


「……個性的すぎる」


話を聞いた南極は、思わず感嘆の声を漏らした。


「すげえ……俺もそれくらいの『覚悟』があれば、小ペンギンをこっそり抱っこして持ち帰る夢も叶ったんかもしれへんな……」


「日空、それは覚悟じゃなくて犯罪だ。ただの動物虐待だろ?」


ヨウダは即座にツッコミを入れた。 玉里の「自分を貫く美学」と、南極の「ペンギン誘拐未遂」を一緒にしてはいけない。


そして、三人目。 最も多くの高校からスカウトを受け、争奪戦となった男こそが——。


彼らが遭遇した、神谷蒼士だった。


「中学の時の監督はな、いわゆる『野球エリート』を育てる古いタイプの人やってん。 せやから、俺とかクセの強い柴門より、神谷に力入れててな……。 まあ、あいつが大阪桐蔭みたいな強豪行くのも、当然……というか……その……」


宇治川の言葉が、尻すぼみに消えていく。 視線の先——別の班で作業をしていた青木陽奈が、ゆっくりとこちらを振り向いたからだ。


その目は口ほどに物を言っていた。 『余計なこと喋ったら、殺すよ?』


宇治川は瞬時に口をチャックし、作業に戻るフリをした。


実は、宇治川の話を聞くよりも前——あの学園祭の夜。 ヨウダと南極は、陽奈と神谷の「特殊な関係」を目の当たりにしていた。


事の真相は、神谷自身の口から語られた。


当初、彼は陽奈と一緒に阪海工へ進学する約束をしていた。 だが、両親との話し合いや、大阪桐蔭側からの熱烈な勧誘を受ける中で、彼は考えを変えたのだ。 将来、プロ野球選手を目指すなら、公立の阪海工よりも、名門・大阪桐蔭の方が圧倒的に有利だ、と。


結果、彼は約束を破り、陽奈一人を阪海工に残して、大阪桐蔭へと進学してしまった。


「まあ、俺もなんて言うたらええか分からんけど……なってもうたもんはしゃーないしな! アハハ! ……あ、ほんまスンマセン。申し訳ないです、陽奈様」


一方的に約束を破ったくせに、神谷はヘラヘラと笑いながら弁解した。 その神経の図太さに、ヨウダと南極は「コイツ、心臓に毛が生えてるのか、それともただの性格破綻者なのか」と呆れるしかなかった。


次の瞬間、神谷はその場で膝をつき、額を地面に擦り付けた。 見事な**土下座ドゲザ**だ。


「気が済むまで殴ってくれてええから! た、ただし! 明日の練習に支障が出えへん程度の威力でお願いしますッ!!」


まるでバラエティ番組のような必死の命乞い。 ヨウダたちが、完璧超人である青木陽奈の「困った顔」を見たのは、これが初めてだった。


「誰が殴るか、ボケ……。私は問題を解決しに来たんよ。問題を起こしに来たんちゃう」


陽奈は深いため息をつくと、冷ややかな声で問うた。


「……蒼士。あんたに聞くけど」


陽奈の瞳が、神谷を射抜く。


「私との約束を蹴ってまで選んだ『野球』……それだけの価値、あったん?」


場が凍りついた。


「うわぁ、陽奈ちゃん、めっちゃ落とし穴掘るやん……」


南極がボソッと呟く。 状況が飲み込めていないヨウダが「え? どういうこと?」と聞くと、南極は解説を始めた。


「今の質問、『お母さんと彼女が溺れてたらどっち助ける?』っていう究極の二択と一緒や。どっち選んでも地獄行き確定やで……いたたたたッ!!」


「いひゃい! いひゃい!!」


南極の的確すぎる解説は、即座に陽奈によって制裁された。 陽奈は二人の頬を両手で力いっぱいつねり上げ、般若のような形相で凄む。


「南極、ヨウダ……あんた達は私の味方ちゃうんか!? 誰が私のセリフ分析せえ言うた!」


「ひぃぃ、ごめんなさいぃぃ!!」


その光景を見ていた神谷は、恐怖で引きつりながらも、どこかデレていた。 (うわぁ、めっちゃ怖ぇ……でも、怒ってる陽奈も可愛いなぁ♡)


だが、現実は甘くない。 神谷蒼士は、とっくの昔に「選択」を済ませているのだ。


「俺は、野球選ぶで」


神谷の声から、ふざけた色が消えた。 陽奈の手が止まる。 ヨウダと南極も、痛みを忘れて神谷を見た。


「俺は野球を選ぶ。陽奈」


神谷は真っ直ぐに陽奈を見つめ、ハッキリと言い切った。


「俺の目標は甲子園だけやない。プロになって、活躍して、メジャーにも行きたい。 誰よりも目立って、凄いチームで、凄い戦績を残したいんや。それが俺の夢やから」


そこには、一切の迷いがなかった。 残酷なまでの、エゴイズム。


「……阪海工に行かんで、ごめんな」


神谷の言葉が、重く響く。


「……そう」


陽奈は視線を落とした。 その一言と共に、その場に重苦しい沈黙が降りた。


(気まずい……死ぬほど気まずい……)


ヨウダは心の中で悲鳴を上げた。 台湾人である彼も、日本で暮らすうちに、この国特有の「空気を読む」という文化を肌で感じるようになっていた。 今、この場の空気は絶対零度まで凍りついている。 普段ならムードメーカーである南極でさえ、この重苦しい雰囲気をどうすることもできずに立ち尽くしていた。


そもそも、なぜ日本には「空気を読む」なんて言葉が存在するのか?


その答えは明白だ。


「まあ、言うて済んでしもたことはしゃーないし。俺らはこのまま、彼氏彼女の関係続けようや? な? ええやろ? 陽奈」


土下座をしたまま、反省の色など微塵もない、甘えた猫のような声色。 ヨウダと南極は、あまりの厚顔無恥ぶりに開いた口が塞がらなかった。


そう。「空気を読む」という言葉が存在する理由。 それは——**「空気が読めない(KYな)奴」**が存在するからだ。


「さっさと死ね!! 神谷蒼士!!」


体育館から響く吹奏楽部の大合奏クライマックスに負けないくらいの怒号を残し、青木陽奈は踵を返した。 怒り心頭で、肩を怒らせてスタスタと歩き去っていく。


「あ、ちょ、待って……!」


男女の修羅場に慣れていないヨウダは狼狽した。 放っておけない。身体が勝手に動いていた。


「ヨウダ?」 「悪い、南極! すぐ戻るからちょっと待っててくれ!」


ヨウダは南極にそう言い残すと、陽奈の背中を追って走り出した。


「あ……でも……ヨウダ……」


取り残された南極は、寂しそうに相棒の背中を見送った。 ふと視線を落とすと、諸悪の根源である神谷蒼士が、ニヤニヤしながら立ち上がろうとしていた。


「あーあ、またやってもうたわ」


「……お前、わざと陽奈に嫌われるような言い方したやろ」


南極が低い声で言った。 その指摘に、神谷は「お?」と意外そうな顔をした後、頭をポリポリとかいた。


「バレた? まあ、そんなとこや」


神谷は悪びれずに認めた。


「俺が何言おうと、陽奈はお見通しやろうからな。あいつは俺なんかよりよっぽど賢いし、人間ができとる。 ただ怒って見せて、俺の顔を立ててくれただけかもしれん」


「相手が何を考えてるか分かることと、ちゃんと誠意を見せて謝ってほしいって思うことは別やろ? お前、なんか感じ悪いわ。……それとも、わざと自分が悪者になるように演じてるんか?」


南極の鋭い指摘に、神谷の目に興味の色が浮かんだ。 (こいつ……ただのデカい図体のアホやないな)


神谷はゆっくりと立ち上がった。 そこで初めて、彼はある事実に気づいた。


神谷自身の身長は185cm近くある。チーム内でも飛び抜けて大柄な部類だ。 だが、目の前のこの阪海工の男は——。


(デカい……!)


自分よりも、さらに5cm以上は高いだろうか。 ただ背が高いだけではない。ユニフォーム越しでも分かる腕の筋肉量、骨格の太さ。 それはまさに、天性の「プロ野球選手」のフィジカルだ。


(こりゃあ、たまげたな……)


神谷の脳内で、瞬時にシミュレーションが走る。


球場でこいつと対峙したら、どう攻める? 速球で押すか? いや、このリーチだ。低めに沈むシンカーでゴロを打たせるか? それとも、配球で揺さぶって、狙い球を外させるか?


(藤田先輩や宇治川だけやない……阪海工には、こんな化け物が隠れとったんか)


「残念やなぁ」


神谷は口元を歪めて笑った。


「さっき追いかけていった小さいヨウダより……俺は、お前のピッチングやバッティングの方を、もっとよう見てみたいわ」


「さっき言うてたな。お前もピッチャーなんやろ。名前は……」


「南極。日空南極や」


「変わった名前やな。ほな日空、聞くけど……」


神谷蒼士は、値踏みするような視線を向けた。


「お前、強いんか?」


「強いんか? ……まあ、普通やろ」


南極はあっけらかんと答えた。 神谷はそれを謙遜だと受け取った。あの体格だ、自信がないわけがない。


「へえ、自分じゃ普通か。なら、阪海工の一年で『こいつは強い』って思う奴は誰や? 凄いピッチャーとか、バッターとか」


「誰か、か……」


南極は少し考え込んだ。 神谷は敵情視察のつもりだった。 当然、中学時代からの有名人である宇治川や、あの変わり者の柴門の名前が挙がると思っていた。


だが、南極の口から出たのは、全く予想外の名前だった。


「ワイにとっての最強は、**林友達リン・ヨウダ**や」


南極は屈託のない笑顔で言った。


「あいつは凄いで」


「……林友達?」


神谷は怪訝な顔をした。 宇治川でも柴門でもない。 その聞き慣れない名前で思い出したのは、さっき演奏会場で南極の隣に座り、今は陽奈を追いかけていった、あの小柄な選手だ。


(あいつが……最強?)


神谷は記憶の中のヨウダを反芻する。 確かに握手した時の掌には、努力の証であるマメが刻まれていた。 だが、どう見ても上背がない。せいぜい160cm台後半か? 小柄で器用な選手はいくらでもいる。だが、「強い」と断言できるほどの小柄な選手など、全国レベルの強豪校に身を置く神谷は見たことがない。


(こいつ、本気で言うてんのか? それとも俺をおちょくってんのか?)


「あんなチビが強いわけないやろ」


神谷の声に、隠しきれない侮蔑の色が混じった。


「さあな。せやけど、もしかしたら友達は……」


南極は、目の前の巨漢(神谷)を真っ直ぐに見据えて笑った。


「あんたより、強いかもよ」


「…………」


(こいつ、挑発してきよるな)


神谷は何も言い返さず、ただ不敵な笑みで返した。


「ええ度胸やな、日空南極。それに……林友達か」


大阪桐蔭に戻った神谷は、再び野球と勉強だけのストイックな日々に身を投じていた。


現代の高校野球は、科学だ。 大阪桐蔭では、学年に関係なく、専門のトレーナーと栄養士が徹底的に管理を行う。 弾き出される数値、計算されたトレーニングメニュー。 それらを見るたびに、神谷は思う。さすがは私立の雄・大阪桐蔭だと。 野放しで練習させる公立校とは、育成の次元が違う。


だが、環境が良いことと、試合に出られることはイコールではない。 公立校とは決定的に違う点——それは、**「地獄のような内部競争」**だ。


大阪桐蔭野球部の部員数は、全学年合わせておよそ120人。 そのうち一年生だけでも40人近くいる。 この大所帯は、大きく二つの層に分けられる。 『公式戦メンバー(主力)』となる上位約60人と、それ以外の『スタンド応援組(補助)』だ。 まずはこの上位60人に入らなければ話にならない。


そして、その主力組の中でさらにふるいにかけられる。 甲子園の土を踏める『一軍(ベンチ入り20人)』と、それ以外の『二軍(育成)』だ。 つまり、この120人の中のトップ20に入らなければ、大阪桐蔭での三年間、グラウンドでバットを振ることさえ許されない。 それが現実だ。


そんな過酷な競争を勝ち抜いてきた自負がある。 だから神谷は、阪海工の誰かに負ける気などサラサラない。 それは、かつてのチームメイトである藤田迅真相手でも同じことだ。


だというのに。 あの日空南極という男は、面と向かって言い放ったのだ。 『あのチビ(ヨウダ)の方が、あんたより強い』と。


(ハッ……おもろいやんけ)


事実がどうあれ、わざわざ実家に帰った甲斐はあった。 退屈な基礎練習の日々に、少しだけ刺激が混じった気がした。


「急に楽しみになってきたわ。阪海工とやるのがな」


ブルペンに快音が響く。


ズドォォォォンッ!!


スピードガンが弾き出した数字は——146km/h。 一年生の秋にして、既に怪物の領域だった。


陽奈と神谷の関係。 結局、ヨウダと南極はその全貌を知ることはなかった。 学園祭が終わって数日後、陽奈がポツリと「まあ、そういうことやから。この話はもう終わり」と言ったきり、真相は藪の中だ。 すべては曖昧なまま、日常へと戻っていった。


まあ、高校生ともなれば、恋愛以外にも悩むべきことは山ほどある。 ヨウダにとっても、野球と勉強の両立に加え、最近新たな「青春の悩み」が浮上していた。


それは——**「南極との距離感」**についてだ。


正直、最近の自分はどうかしていると思う。 南極の過剰なスキンシップ——特にあの暑苦しいハグに対して、抵抗を感じなくなってきているのだ。 以前なら「鬱陶しい!」と振り払っていたはずが、今では抱きつかれたまま普通に会話をしている自分がいる。


これって、どうなんだ? 男として、友達として、アリなのか?


ヨウダは悩み、あろうことか流星に相談してしまった。 もちろん、的確なアドバイスなど期待していない。 ただ、南極本人には言えないこのモヤモヤを、誰かに吐き出したかっただけだ。


「別にええんちゃう? 蓮とかもようやってくるし」


流星はあっけらかんと言った。


「中学の時なんか、俺らベッドの上で全裸プロレスとかして遊んでたで? まあ、宇治川には『アホか』って拒否られたけどな」


「……ぜ、全裸プロレス?」


そのワードの破壊力に、ヨウダは引きつった笑いを浮かべた。 (日本の男子中学生、ハードル高すぎだろ……)


「そうじゃなくてだな……」


「まあ真面目な話、南極が寂しいだけちゃうか?」


流星は急に真面目な顔になった。


「あいつ言うてたやん。昔はずっと南極の研究所で母ちゃんと二人きりやったって。同年代の友達と遊んだことなんか、ほとんどなかったんやろ? ほんで、ヨウダはお前、日本人ちゃうけど……あいつにとって日本でできた『初めての友達』やんか。 せやから、お前にだけは特別ひっつきたいんやろな」


「あ……」


言われてみれば、その通りかもしれない。 南極のあの無邪気すぎる行動の裏には、長い間募らせてきた孤独がある。


「なるほどな……意外と説得力あるわ」


「『意外と』ってなんやねん、失礼な奴やな」


流星は笑いながら、ヨウダの肩を小突いた。


(寂しいから、抱きつきたい……か)


ヨウダは自問自答する。 なら、それを受け入れている自分はどうなんだ? 台湾から一人で日本に来て、地元の友達とも離れ離れで。 自分もまた、無意識のうちに寂しさを感じていて、南極のハグに「依恋(愛着)」を感じているのだろうか?


季節はもうすぐ冬だ。 肌寒くなるこの季節、南極の体温は——少し変な言い方だが——カイロのように丁度いい暖かさなのだ。


(まあ、ちょっと変だけど……冬のせいってことにしておくか)


ヨウダはそう結論づけ、思考を停止させた。


だが、そんな悩みよりも遥かに深刻な問題が、ヨウダの頭を抱えさせていた。 それは南極のことでも、藤田先輩のことでも、野球部のことでもない。


青木陽奈のことだ。


「……ヨウダ、それマジなん?」 「うん。青木さん、大真面目な顔でそう言ってた……」


世間では明治神宮大会が熱戦を繰り広げている。 寮の談話室では、二年生の先輩たちがスマホの小さな画面を囲み、食い入るように中継を見つめていた。 一年生たちも、休み時間や練習の合間に、神村学園や帝京の試合結果で持ちきりだ。


みんなの頭の中は野球一色。 完全に忘却の彼方へと追いやっている事実がある。


十一月の終わり。 そう、**「二学期期末テスト」**が目前に迫っているという事実を。


そして、陽奈がヨウダに告げた言葉は、それに関連する——いや、もっと根本的な「危機」を告げるものだった。


這段劇情是整章的壓卷之作(Climax)。


陽奈的心理描寫非常細膩:她看穿了神谷的軟弱(自我防衛),也承認了自己的自私。但最精彩的是,她決定用**「棒球」**來作為這段關係的了斷(或延續)。


她知道神谷選擇了棒球,所以如果要讓神谷「痛」,或者要證明神谷的選擇是錯的,唯一的方法就是在球場上擊敗他所在的王者——大阪桐蔭。


這句**「請務必擊敗大阪桐蔭」**,不僅是復仇,也是身為阪海工一員的宣戰布告。


在翻譯上,我會注重:


陽奈的嘆息:那句「配合他」背後的無奈與成熟。


友達的遲鈍 vs 敏銳:對感情遲鈍,但對「大阪桐蔭」和「手繭」這種關鍵字極度敏感。


復仇的委託:陽奈最後的請求要寫得輕聲細語,但份量極重。


以下是輕小說風格的翻譯:


第三十八章 真心、私欲、そして青春(8)

その日の夕方。 グラウンド整備を終え、自転車で男子寮へと帰る道すがら。 ペダルを漕ぐヨウダは、並走する南極に、あの日——学園祭で陽奈が立ち去った後の出来事を語り始めた。


あの時、ヨウダが息を切らして追いかけた先にいたのは、神谷の暴言に傷ついて泣き崩れる乙女でもなければ、怒り狂う修羅でもなかった。 彼女は角を曲がった先で立ち止まり、心配してついてきたヨウダを静かに振り返った。


「はぁ……」


陽奈は呆れたようにため息をついた。


「あいつが、あんたが今こうして追いかけてきてくれたみたいな優しさを、万分の一でも見せてくれたらええのにな」


彼女の声は落ち着いていた。


「あいつは昔からそうなんよ。わざと嫌われるような言い訳をして、予防線を張る。そうすれば、実際に嫌われても『自分がそう仕向けたからや』って、自分を守れるやろ? ……ほんま、どこ行っても変わらへんやつ」


「だ、大丈夫?」


「平気やで。あいつに合わせて演技してあげただけやし」


「え……?」


ヨウダはキョトンとした。 「合わせてあげた」の意味が、恋愛に鈍感な野球少年には理解できなかったのだ。 その表情を見て、陽奈は苦笑いして言い直した。


「なんでもない。ただ、ちょっと腹が立っただけ」


「そりゃそうだろ。約束をすっぽかすなんて、誰だって不愉快だよ」


ヨウダは憤慨してくれた。 確かに、陽奈は怒っていた。 だが、心の奥底では分かっていたのだ。 神谷が自分の野球人生のために、より良い環境を選ぶであろうことを。そして、自分自身もまた、自分の都合で阪海工を選んだことを。


結局、お互いに自分の利益を優先した。 どちらもワガママで、似た者同士なのだ。 だからこそ、神谷のあの態度が——自分の心を揺さぶることができずに、ただの「発散が必要なイベント」として処理されていくことが、少しだけ寂しかったのかもしれない。


もちろん、だからといって許すつもりもないが。


陽奈はヨウダの顔を覗き込んだ。


「ねえ、ヨウダくん。神谷のこと、どう思った?」


「え? どうって……まだ会ったばっかりだし」


ヨウダは単純に、人としての印象を聞かれたのだと思った。 だが、陽奈の言葉は続いた。


「大阪桐蔭高校野球部、期待の一年生スカウト投手・神谷蒼士として、どう思った?」


「……っ!」


大阪桐蔭。 その単語が出た瞬間、ヨウダの目の色が変わった。 あの三年生の田中先輩たちが大差で敗れた、全国屈指の強豪校。


(そういえば、あいつと握手した時……あのマメの位置……)


ヨウダの思考が、一瞬にして「野球モード」に切り替わる。 陽奈はそれを見て、小さく笑った。 やっぱり野球少年だ。彼女のことより、野球のことになると目の前の優先順位が変わる。神谷も、ヨウダも。 でも、今の私にはその方が都合がいい。


神谷と別れ話をするのは簡単だ。でも、今のあいつには痛くも痒くもないだろう。 だから、陽奈はある一つの「復讐」を思いついた。


「ねえ、ヨウダくん。野球部の最大の目標は、甲子園に行くことやんな?」


「あ、うん。藤田先輩たちも、それを目指してる」


「なら、あんたたちが三年生になった時も……目標は甲子園?」


「もちろん!」


ヨウダは力強く即答した。 陽奈は満足げに頷くと、ヨウダに一歩近づき、悪戯っぽく、それでいて真剣な眼差しで言った。


「じゃあ、私の小さなお願い……聞いてくれる?」


夕日が彼女の横顔を照らす。


阪海工わたしたちで、絶対に大阪桐蔭を倒して」


「あ……」


ヨウダが再び打倒・大阪桐蔭を口にした時、南極の脳裏にある記憶が蘇った。


『せや、友達はあんたより強いで』


神谷に対して言い放った、あの挑発。 南極は冷や汗をかいた。


「ど、どう思う? 日空」


ヨウダが真剣な顔で尋ねてくる。 あの時、神谷のヨウダを見下すような態度が気に入らなくて、つい売り言葉に買い言葉で返してしまった。 だが、よく考えれば、あれは「陽奈が言ったこと(打倒桐蔭)」と実質同じ意味になってしまうのではないか?


「日空? なんで黙ってるんだ?」 「えっ……いや、まあ……甲子園行くには、どのみち桐蔭倒さなアカンしな……」 「まあ、そうなんだけど」


南極は悟った。 知らず知らずのうちに、自分が勝手にヨウダを巻き込んで、大阪桐蔭との全面戦争を勃発させてしまっていたことに。


(あ、アカン……これ言うたら絶対怒られるやつや……)


どう言い訳すれば穏便に済むか。 南極が必死に脳内会議を開いていると、ヨウダがふと呟いた。


「まあ、やるしかないよな」


「え? なにが?」


「やるしかないって言ったんだよ」


自転車を停めたヨウダは、まだハンドルを握っている南極に向かって、秋晴れの空のように爽やかに笑った。


「桐蔭を倒して、一緒に行こうぜ。甲子園、日空」


「…………」


予想外の言葉に、南極は呆気に取られた。 言い訳を考えていた自分が恥ずかしくなるほど、ヨウダは真っ直ぐだった。 その姿を見て、南極の胸に熱いものが込み上げてくる。


(やっぱり……こういうことサラッと言えるヨウダは、最高にカッコええわ!)


「おん! 一緒に行こうや、甲子園!」


「ああ!」


二人は力強く頷き合った。


「あの一年坊主ども、何言うてんねん」


男子寮の二階。 自転車置き場を見下ろせる自室の窓辺で、二年生の**日下尚人クサカ・ナオト**がボヤいた。


「『甲子園に行こう』か……。行きたい言うて行ける場所やないで、あそこは」


日下は窓枠に肘をつき、眼下で盛り上がる後輩たちを冷ややかな目で見つめる。 近畿大会での敗戦以来、日下はどこか焦っていた。 チームの状態は悪くない。練習の強度も質も、以前とは比べ物にならないほど向上している。強豪校とも渡り合えるようにはなった。 だが、それで「夏」に勝てるのか? その答えは誰にも分からない。 一年生の天真爛漫な希望的観測が、今の日下には少しだけ眩しく、そして疎ましく映った。


「そうかぁ? 俺はええと思うけどな」


横から割り込んできたのは、ルームメイトの**大河タイガ**だ。 彼は日下の背中にのしかかるようにして窓から顔を出し、やる気に満ちたヨウダと南極を見てニヤニヤしている。


「だって、もしほんまに甲子園行けたら、めっちゃ青春やん? あ! 甲子園言うたら俺、あそこの『甲子園カレー』大好きやねん! あのスパイスの刺激と、コクのある甘み……。いろんなトッピングあるけど、俺はやっぱり基本のプレーンが一番やと思うわ」


「今カレーの話ちゃうやろ。なんでそこからカレーに飛躍すんねん」


日下は呆れてため息をついた。相変わらず大河の思考回路は読めない。


部屋の隅では、もう一人のルームメイト、**川原慎カワハラ・シン**が黙々とグローブの手入れをしていた。


「一年生がそう思うこと自体は、悪いことじゃない」


川原はオイルを馴染ませながら、真面目な口調で言った。


「俺らの目標も甲子園だ。いや、俺らだけじゃない。全国の高校球児はみんなそこを目指してる。 一生に一度、あの場所に立って……負けたら土を持って帰る。それが夢だろ」


「まあ、大河はちょっとズレてるけど、みんな甲子園行きたいのは一緒やしな……ん?」


ふと顔を上げた川原の視線が、窓辺で固まり、戦慄した。


そこには、窓の外を見る日下と、その日下の背中にのしかかり、密着している大河の姿があった。


(……ッ!!)


川原の脳裏に、先日の悪夢がフラッシュバックする。 大浴場で目撃してしまった、村瀨と中西の「あの」体勢。禁断の果実。


「ん? どうしたん慎? 顔色悪いぞ」 「慎ちゃん変やで? カレー食いたいんか?」


二人は不思議そうに振り返るが、川原は直視できないといった様子で顔を背けた。


「いや……とりあえず頼むから」


川原は震える声で懇願した。


「その……誤解を招くような体勢はやめてくれないか?」


「はあ?」


日下と大河は顔を見合わせ、首を傾げた。 そんな先輩たちのコントなど知る由もなく、自転車置き場のヨウダと南極は、とっくにその場を後にしていた。

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