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第二三章 一局限定のバッテリー

台湾出身の陸坡と申します。

台湾全国高校野球大会「黒豹旗」も十月から始まります。


この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

坂海工野球部、一・二年生の紅白戦。林友達が所属する白組は、現在一点ビハインドのまま九回を迎えていた。高橋監督の突然の選手交代により、校内戦とはいえ、台湾出身の林友達が日本で初めて投手としてマウンドに立つことになった。


捕手防具をうまく着けられずに四苦八苦している日空南極を見て、友達はため息をつきながら手伝いに行った。しかし、さっきまで友達が着けていた大きめのキャッチャー防具は、南極の体に装着すると逆に小さすぎ、プロテクターやレガースは十分に体を覆いきれなかった。ただし、ヘルメットとマスクには問題がなかった。


「きついところはないか? 日空。」

友達が尋ねると、南極は立ち上がってからしゃがみ、手足を動かして問題ないというジェスチャーを見せた。不格好ではあるが動きは軽快で、意外となんとかなるかもしれない。だが友達の頭には、次の懸念が浮かんでいた。


「日空、キャッチャーの基本は覚えてるか?」


練習の中で多少は全員が捕球動作を学んだことはある。友達自身は捕手経験があるため動きに慣れており、宇治川が試合で即座に彼を捕手に起用したのもそのためだった。だが南極の場合はほとんど数回しか経験がない。


「下半身を安定させて、背筋を伸ばして、ボールを受ける準備……」

南極は口に出しておさらいしながら、標準的なキャッチャーの構えを取ってみせた。忘れていないことを示そうとしているのだろう。


捕手には、盗塁を警戒したり、ブロッキングや素早い送球で走者を刺す判断力が求められる。何よりも、本塁でしゃがみ続ける姿勢は想像以上にきつく、二時間近い試合を耐え抜くには相当の体力が必要だ。投手との連携も不可欠である。


南極に本当に務まるのか? 友達は半信半疑だった。彼自身、南極が投手を志望していることを知っている。まさか二人がバッテリーを組む日が来るとは思わなかった。しかし、マウンドから南極の大柄な体を見ると、キャッチャーにしても案外似合うかもしれないと感じる。ただし防具は特注が必要だろう。特にプロテクターやレガース、そして……


そうだ、プロテクターの下に着けるカップだ。


友達は、さっき自分が脱いだ防具の一部をどこに置いたか思い出そうとして眉をひそめた。まさか南極がそのまま装着していないだろうな……? 二人の股間を共用するなんて、ストローの回し飲みと同じようなものだ。嫌ではないが、なんとも言えず妙な気分だった。


友達は余計なことを考えないようにして、意識を試合に集中させ、南極と投球テストを行った。ほどなくして、最初の打者が打席に立つ。相手は二年生の先輩・木村陸斗。友達にとってはあまり馴染みのない打者だ。


「友達の今の最速ってどれくらいや?」

流星が廉太に尋ねると、廉太は少し考えてから答えた。

「確か……132キロくらいやったと思うけど。」

そう言いながらも、どこか自信なさげな表情を浮かべる。


友達の球速は中学時代、平均で128キロほど。決して速くはないが、コントロールが安定しており、カーブやスライダーの精度も高かった。当時の台湾の中学投手の中でも、安定感のある数少ないタイプだった。


その頃、藤田はベンチ横で投球練習を見守っていた。佐久間が近づき、彼の頭をぐしゃぐしゃに撫でながらからかう。

「他の奴の投球なんか見向きもしねえくせに、林友達の時だけやけに真剣じゃねえか。」


「他の連中は中学からずっと一緒やから、投げ方も癖も大体わかる。でも林友達が試合でどう対応するのか、それが気になるんだ。」

藤田がそう答えた瞬間、ちょうど友達の第一球が投じられた。


鋭く曲がるスライダー。木村先輩のバットは空を切り、ボールはキャッチャーミットへ――だが、下に沈む変化に南極がついていけず、捕球した瞬間に体が後ろへ倒れ、「うわっ!」と声を上げる。ボールも今にもこぼれそうになった。


「……今の、日空か?」

南極の派手な転倒を見て、藤田が呟く。


「アイツ、ほんまにキャッチャーできんのか?」

佐久間は半ば面白がるように、転んだ南極がすぐに立ち直り、再び構えてからミットを掲げ直す姿を眺めていた。

「阪海工の天才キャッチャー様が、何球落球するか数えてみるか?」


そう言った直後、藤田が黙って佐久間をじっと見た。その目に射抜かれ、佐久間は肩をすくめて口を閉じる。

「……冗談だよ。」

「たまには後輩に励ましの言葉でもかけろ、佐久間。」

「悪ぃな。お前のその怖え顔と同じで、俺の口も性格悪いんだ。」

「顔はどうしようもなくても、口の利き方くらいは変えられるだろ。」


二人のやり取りを、少し離れた場所で黙って聞いていたのは日下尚人だった。普段あまり言葉を交わさない彼にとって、佐久間と藤田の掛け合いを盗み聞きするのは新鮮で、龍二が「アイツらの会話は聞いてるだけで面白い」とよく言っていた意味が分かった気がした。


一方マウンド上の友達は――。

(このバカ……!)


南極が転んだ瞬間、罵声を飛ばしたい衝動を必死に抑え、表情を引き締めて再び投球フォームに入った。しかし視線は捕手の南極を鋭くにらみつけていた。


練習でも、雑談の中でも何度も言ったはずだ。捕球の衝撃は大きい。しっかり構えていなければ、体がぶれてミットからボールがこぼれる。あいつ、また「もう大丈夫」と思い込んで気を抜いたに違いない……。


やばい、友達が怒ってる!


キャッチャーマスクの隙間から見える友達の表情に、南極は思わず背筋を伸ばし、緊張したまま構え直した。さっきの一球は不意を突かれて取り損ね、バランスを崩して派手に転んでしまった。今度こそ失敗しないよう、全身に力を込めてミットを構える。


合図どおり、二球目はやや低めのチェンジアップ。南極は慌てて姿勢を修正し、必死で体を前に出してボールを止める。打者の空振りに驚かされながらも、なんとかミットで押さえ込んだ。今度は大丈夫だ。


初めての公式マウンド、しかもキャッチャーが南極という不安要素もあるせいか、友達の投球は慎重そのもの。だが三人目の投手が出てきたことで打者のリズムも乱れていたのか、結果的に友達は二年生の木村陸斗を三振に仕留めた。本人としては「相手の焦りに助けられた」と感じていたが、それでも三振は三振だ。


「木村! 前から何度も言ってるだろ、見極めてから振れ! 林が投げる球ならなんでも振りにいって、何やってる!」

審判を務めていた白井先生が、思わず声を荒げる。木村は赤くなった顔を伏せ、「すみません」と謝りながらベンチへ下がっていった。


(やっぱりあいつ、焦るとダメだな……)

三塁を守る村瀬智也は、ため息をつく。木村は打撃の力自体は龍二にも引けを取らないが、気が短く、冷静さを欠くとすぐに凡退するタイプだった。


「……っと、打たれたか。」


心の中で友達を少し見直した矢先、その投球が痛打された。打ったのは田中廉太。内野の間を鋭く抜け、一塁へ悠々と到達する。続く一番打者の蓮も快音を響かせ、あっさりと一・二塁のチャンスを作られてしまった。


(また打たれた……)


南極はちらりとマウンドを見上げる。友達は帽子のつばを軽く触り、気にするなと合図を送ってきた。落ち着け――そう言っているように。


次の打者は、一年生ながら手強い強打者、豊里流星。


田中廉太は強打タイプではないし、蓮もそうだ。

それでも二人が友達のボールを打ち返せたのは、流星が名付けた「お利口さんピッチング」のせいだった。


友達の投球は種類が豊富で、どんな球を投げてくるのか読みづらい。難しさはそこにある。けれど裏を返せば、パターンを掴んでしまえば対応はできる。

同じクラスで、同じチームで、日頃から友達の投球を見てきた廉太や蓮、そして流星なら、ある程度は慣れている。


しかも流星は勉強こそ苦手だが、打撃の勘と観察力はやけに鋭い。


「だってキャッチャーが南極なんだもん!」


流星は笑いながらそう言った。

初心者で、しかも初めてキャッチャーを務める南極。流星は、友達がまず南極に「こういう配球でいく」って事前に説明してるに違いないと踏んでいた。

でも南極が暗号を完全に覚えているわけもなく、球種の幅を自在に操れるわけでもない。要するに、友達があらかじめ決めた基本のパターンを渡し、南極はそれをそのまま伝えているだけ。


きっちり正確、教科書どおり。

それが友達の「お利口さんピッチング」――投球の模範解答みたいなものだ。


「……勉強もそれくらい得意ならなあ。」

一塁に出た蓮が、バッターボックスの流星にぼそっとツッコミを入れる。


やっぱり、南極はキャッチャーとしての役割を十分に果たせていなかった。

そんな中で、流星だけはこういう時に頭の回転が速い。

一塁に出た宇治川もすぐに気づいた。蓮が得意げにベースに滑り込んだ姿を見て、流星が必ず友達の攻略法を教えていると直感したのだ。

このままでは、白組が失点するのも時間の問題――。


林友達、お前はどうする?

投手丘に立つ友達を見ながら、宇治川だけでなく、藤田、佐久間、紅白両チームの選手、さらには審判の白井先生、高橋監督、そして三年生たちも注目していた。

友達はここで諦めるのか、それとも打開策を見せるのか――。


「白井先生、タイム取ってもいいですか?」

「ん? ああ、いいぞ。」


突然、南極が立ち上がり、審判にそう告げた。

そしてマスクを外すと、走って投手丘へ。

友達は驚いた。

さっき打たれたことは気にするなと伝えたつもりだったが、どうして南極はわざわざ来たのか。


「南極、俺は大丈夫だよ。」

友達はそう言った。南極が心配して来たのだと思ったからだ。


「いやいや、友達が大丈夫なのは分かってる。でも俺が言いたいのは、それじゃなくて……」


南極はそう言いながら、ミットで口元を隠し、ぐっと友達に近づいた。

友達も自然とボールを握ったままミットで口を覆い、二人は顔を寄せ合う。

外から見れば、まるでフェイントでキスでもしているかのようだった。


「何話してるんだ……?」

内野の宇治川、村瀬智也、他の選手たちも思わず足を止めた。


ところが突然、友達が感情を露わに南極に強く言い返す姿が見えた。

数秒後、南極はにかっと笑って走って戻り、再びキャッチャーボックスにしゃがみ込む。

打席の流星はそれを見て首をかしげた。


まさか……友達と南極が、自分を攻略する作戦でも立てたのか?


「そんなはず……ある?」

流星は小さく呟いた。

たかが成軍して数分のバッテリー。そんなすぐに噛み合うわけがない。


「央一、お前も俺と同じこと考えてるだろ?」

スタンドから見ていた三年生捕手・佐島真晴が、隣の田中央一に問いかけた。

央一がちらりと振り返り、意味深な笑みを浮かべた瞬間、答えは分かった。


――なぜ高橋監督は、林友達と日空南極、この全く経験のないコンビをわざわざマウンドに送ったのか。


それは三年間バッテリーを組んできた二人にとっても考えさせられる謎だった。


「きっと監督には狙いがあるんだろうな。」

央一はそう呟き、目を投球に戻す。


友達が振りかぶった。

スライダーか? カーブか? フォークか? それとも――え?


「ボール!」


危なかった……。もう少しで後逸するところだった。

南極は胸をなでおろし、ふっと安堵の息を吐いた。そのとき、打席の流星が驚いた表情を浮かべているのが見えた。


おいおい、これはシンカーじゃないか?

横で見ていた村瀬も流星と同じように目を丸くしていた。


――まったく、台湾から来たやつは。

南極に出したサインの中にこんな球種まで入っていたのか?

いや、違う! そもそも友達くんがこんなリスクのある球を投げるなんて……。もし南極が後逸したら、ランナーを進めてしまう大失態だろう。

お前たち、さっき投手丘で何を話していたんだ……。ああ、そういうことか。


次の球!

流星はバットを構え直し、打ちにいこうとしたが――えっ、今度はフォーク?

打ち損じてファウルになった。続いては大きく曲がるカーブ。誰が見ても明らかなボール球だったが、流星は先の二球のリズムに惑わされ、思わずバットを出してしまう。

南極は慌てて体をひねり、内股気味にブロックして捕球に成功。リズムがぐちゃぐちゃになり、流星は的を絞れなくなっていた。


南極は立ち上がり、ボールを投手の友達へ返す。


「友達、サインなしでいいかな?」

ミットで口を隠しながら南極が言う。


「サインなし? じゃあ俺、どうやって投げるんだよ?」

南極の提案に、友達は首をかしげる。


初めての実戦でキャッチャーを務める南極にとって、確かに配球のサインは混乱のもとだったかもしれない。だが、友達にしてみればサインなしでは捕手との意思疎通が崩れ、もっと危険になる。


「友達が投げたい球を、そのまま投げればいいんだよ。」

南極は笑顔で言う。


「そんな、好き勝手に投げられるかよ。」

南極があまりに単純に考えていることに、友達は呆れる。


「ダメなの?」南極は少し肩を落とす。


「いや……俺だって、日空が捕れない球は投げたくないんだ。」

友達が言うと、南極は目を丸くした。


「じゃあ、それって俺のために気を使ってるの?」


気がつけば、二人の顔はほんのわずかな距離しかなくなっていた。

南極の大きな顔が至近距離に迫り、友達は胸の奥がざわついた。嫌ではない、でも妙に意識してしまう。

グラウンドに立つ二人の熱気が重なり、頬が熱くなるのを感じた。


「俺は……日空に、俺の球をちゃんと捕ってほしいんだ。」

友達は正面から伝える。


「そっか! じゃあ、友達が投げたい球を思いきり投げてよ!」

南極はぱっと顔を明るくした。


ミットを下ろし、太陽の光を浴びた笑顔を見せる。


「友達がどんな球を投げても、俺が必ず捕るから!」


その瞬間、なぜか日空南極の言葉を聞いた友達の胸に、

「こいつなら本当に捕ってくれるかもしれない」

そんな感覚が渦を巻いた。


サインなんてどうでもいい。

たった三十分足らずで急ごしらえのバッテリーなんだから。


友達は離れかけた南極の腕をぐっと引き寄せる。

吐息が頬にかかり、南極は思わず赤くなった。

気持ちを整える間もなく、耳元で囁かれる。


「一球たりとも逸らすな、南極。俺の全部の球を受け止めろ。」


投球フォームに入った友達を見て、藤田は小さく呟いた。

「たぶん、あいつはそう言ったんだろうな。」


「たぶん?」佐久間は怪訝そうに眉をひそめる。

「そんなセリフ、友達が言うとは思えないけどな。」


「そのうち似合うようになるさ。」

藤田は佐久間を見て言った。

「俺たちだって、昔は今みたいじゃなかったろ。」


――「ストライク! バッターアウト!」


まさかの三振。流星が倒れた。

二塁の廉太は唇を噛み、何か行動を起こさなければと焦る。

一塁の蓮へ視線を送る。

二人の目が合った瞬間、互いの意図を理解した。


「ん?」


榮郎は違和感を覚える。

廉太が二塁ベースから少し大きめにリードを取っている……?


次の打者に集中しようとする榮郎だったが、気になって仕方がない。

一塁ランナーの蓮も、何やら不自然に身構えている。


(まさか……盗塁? 二人同時に?)


頭に浮かんだ考えに、榮郎は一瞬凍りついた。

もしこれが成功すれば、二、三塁のピンチ。

白組にとって致命的になる。


どうする? 友達に合図を送るべきか?

いや、それは捕手の南極の役目だ……。


迷いが胸を締めつける。

結局、榮郎は何もできずに立ち尽くした。


そして――友達が振りかぶった瞬間、

廉太と蓮が同時にスタートを切った。


「ダブルスチールだ!」


金井榮郎は、自分の判断が正しかったことに気づいた。

だが、もう遅い。

なぜ友達たちに合図を送らなかったのか――後悔が胸を刺す。


その瞬間!


友達が素早く振り返り、一塁へ送球した。

宇治川がキャッチしたとき、蓮と廉太はようやく自分たちのダブルスチール策が見破られたことに気づいた。


蓮の性格を熟知している宇治川は、最初から警戒していた。

「どうせじっとしてないだろう」と。

ただ、廉太まで一緒に走るとは思わず、驚きを隠せなかった。


「金井!」宇治川が叫ぶ。

二塁へ送球――榮郎はすでに構えていた。


廉太の動きをいち早く察知していた榮郎は準備万端だった。

蓮の足は速く、すでに目前まで迫っている。

ぶつかるかと思うほどの距離。


榮郎は必死に白球を受け止めようとした。

捕らなければ、蓮をアウトにできない。


蓮がスライディングしてベースに手を伸ばす。

同時に榮郎も体を伸ばし、必死にキャッチ。

だが――ボールがグラブから滑り落ちかける。


(ダメだ!)


焦りで体勢を崩した榮郎。

その瞬間、別の手が素早くボールを掴んだ。


キャップが宙に舞い、茶色の長髪が広がる。

ショートの柴門玉里だ。


榮郎の動きに異変を感じた玉里はすぐさまサポートに走り、

蓮とほぼ並走して二塁へ滑り込む。


スライディングの体勢のまま、しっかりとボールをキャッチし、

蓮にタッチ!


――判定は「アウト!」


紅組、チェンジ。


「はぁ、はぁ……!」榮郎は地面に突っ伏した。


(結局、何もできなかった……。注意もできず、ボールも落としかけた……。本当に、足を引っ張るだけだ……)


「悪くなかったよ。全力でやったじゃない。」


「え?」榮郎が顔を上げると、玉里が立っていた。


彼女は榮郎の腕を引き起こし、真っ直ぐに言った。

「惜しかったね。捕れてたら、あんたもカッコよかったのに。」


「う、うん……ご、ごめん。」

榮郎は反射的に謝った。玉里が責めていると思い込んで。


「はぁ? なんで謝んのよ。意味わかんない!」

玉里は呆れ、二人の間に気まずい空気が流れる。


(褒めたつもりなのに……なんで謝んのよ! 私ってそんな風に見える? ほんと、この人、よくわかんない!)


柴門玉里は心の中で叫んだ。


友達と南極の初めてのバッテリーは、最終的に失点ゼロで切り抜けた。

しかし九回裏、白組はランナーを出すものの得点には結びつかず、結局一年・二年の混成紅白戦は 2 対 1 で紅組の勝利に終わった。


「今日の試合は点数が目的じゃない。大事なのはチーム同士の連携を試すことだ。自分たちの癖、悪い習慣、得意な打ち方や投げ方を熟知している相手とどう向き合うか。今の時代、高校生の試合でも各校が必死にデータを集めてくる。うちのように分析の支援が乏しい学校では、選手自身の実戦判断が必要になる。今日で自分に足りない部分や、これから努力すべき方向を理解できたか?」


「はい!分かりました!ありがとうございます!」


「このあと高橋監督から試合メンバーが発表され次第、解散。夏休みが始まったばかりだ。宿題はきちんと終わらせろ。自主練をする時は学校で必ず登録して、グラウンドの使用予定を確認すること。」


――その夜。


友達と南極は、同じクラスの蓮や流星たちと連れ立って流星の家へ集まった。順番に風呂を済ませたあと、岬阪海の商店街へ出て、労働者に人気の浜辺食堂に入る。安くて大盛りの「魚肉フライ団子定食」を頬張る。友達にとっては初めての料理だったが、柔らかい食感で全く臭みもなく、食べ応えがあって美味しかった。店主が彼らの阪海工の制服を見て、豪快に揚げ団子を一人ひとつおまけしてくれた。粉と肉の香りに包まれ、皆は口いっぱいにほおばりながら感謝を伝えた。


「結局、選ばれなかったな。」友達が呟く。

「うん……やっぱり簡単じゃないよな。」南極も頷いた。


最終的に三年生との試合メンバー発表で、一年生の名前はほとんど呼ばれなかった。唯一選ばれたのは、藤田の控え投手として宇治川。そして第一控えは、三塁も兼任する村瀬だった。


高橋監督は笑顔で村瀬の頭を軽く叩き、

「今やめるには早すぎるぞ、村瀬。」と声をかける。


村瀬は気まずそうに「はい」と答え、これからは怠けられないなと顔に書いてあった。それを見た仲間たちからは笑い声が上がった。


そして観戦していた三年生もグラウンドに集まり、次の試合は五日後に行われることが告げられた。その期間、メインのグラウンドは試合メンバーに優先的に貸し出され、他の部員は別の場所で練習することになった。


「友達……」

「ん? ほら、だから勝手に俺の布団に潜り込むなって言ったやろ。」


友達は、自分の布団にドスンと転がり込んできた大きな影を感じて、案の定それが南極だと気づいた。仕方なく自分の布団を床に敷き、南極の隣に並べて寝る。まるで日本式の大きな川の字布団。――まあ、夏休みだし、多少ぐちゃぐちゃでもええか、と友達は思いながら南極の声に耳を傾けた。


「今日、友達が言ったやん。『俺の全部の球を受けろ』って。あれ、めっちゃカッコよかったで。」

「え? そうか? 俺からしたら普通やけどな……。」


南極にそう言われ、友達は昼間の試合を思い出して、なんだか気恥ずかしくなった。どうしてあんなこと口走ったんやろう? 今になって思えば、あの短い数十分間、あれは冷静な投手なら言わんような台詞やった。


勝ちたい気持ちに流されて、南極の勢いに合わせてしまった――そんな気がして、友達は布団を引き寄せて目を閉じた。


「なあ、友達。」

「ん?」

「もし俺が投手やったら……俺の球も全部受けてくれる?」


…………


…………


…………


「友達?」 南極はなかなか返事をもらえずに振り返ると、友達はもう寝息を立てていた。


眠る友達を見つめながら、南極は思わず抱きしめたくなった。けれど、もし勝手に抱いたのがバレたら、次から絶対一緒に寝てくれなくなる。そこで南極は少し考え、ひとつの案を思いついた。


自分の大きなペンギンのぬいぐるみと小さいペンギンを両方抱えて、友達との間に置き、そのまま二人まとめて抱こうとしたのだ。――けれど実際に腕に収まったのは、かろうじて友達の腕の一部だけ。少しがっかりしたその瞬間、眠っている友達が無意識にペンギンを抱き寄せ、二人の距離は少しだけ縮まった。


南極はそれに満足し、そっと目を閉じる。頭の中には、未来の光景が浮かんでいた。


いつか自分が投手としてマウンドに立つ時、友達はきっと――全部の球を受け止めてくれる。


どんな球でも、確実にミットの中で止めてくれる。そして審判の声が響く。


――ストライク!

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