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第二章 関西空港の人波

台湾出身の陸坡ルポと申します。高校野球とカツ丼が好きです!(`・ω・´)b


この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

台湾では九月は秋の始まりだが、日本では四月が新学期で少しずつ暖かさが戻る季節だ。


母親の希望で日本の高校に進学することになった林友達は、夏休み前に台湾で卒業したものの、日本の高校には翌年の四月、新入生として入学することになる。つまり、友達の同級生やチームメイトが二年生になる頃、友達はまだ高校一年生。

その約一年の“空白期間”、友達はこれまで通り学校で後輩たちと野球の練習を続けながら、今までほとんど使わなかった日本語も改めて勉強し直すことになった。


外国人が日本の学校に進学するには、日本の中学卒業資格に加えて「日本語能力試験(JLPT)」の合格証明が必要になる。友達も一応、昔日本語能力検定1級を取ったことはあるが、普段は友人のマヤオやフディンがアニメやちょっと怪しいビデオを見たい時の翻訳係だったり、祖父母のために日本の演歌の歌詞を訳したりする程度。

そのため、友達が身につけた日本語は日常会話ではあまり役立たないものばかりだった。でも、野球の邪魔にならない限り、本人は特に気にしていない。


ある日、ノートパソコン越しのビデオ通話で、真ん中分けの髪に薄くヒゲを生やし、どこか爽やかな雰囲気の男性が画面越しに声をかけてきた。


「友達、久しぶりやな!元気してたか?」


友達は自然に日本語で返した。「まあまあかな。でも、元気やで。」


「ハハッ、全然そんな顔してへんわ。鈺雯から聞いてるで。お母さんが日本で勉強しろって言うてるんやろ?」


その笑い声に、友達は少し苦笑しながらぼそっとつぶやく。「なんや、全部知ってるくせに、川頼兄……」


「おお、その関西弁、めっちゃ上手いやん!ほんまに関西人みたいやで、友達君。」


川頼は友達の坊主頭や、部屋に置かれた野球グッズを眺めて、嬉しそうに「ほんま青春やなあ、野球少年やな」と呟く。


川頼兄かわよりは、姉・鈺雯の彼氏で、地元で海事関連の会社――川頼造船株式会社――を経営する家に生まれた。もうすぐ結婚も間近らしい。友達も小さい頃に何度か日本で会っており、最初はよそよそしかったものの、すぐに打ち解けて、よくからかわれるようになった。


今回、友達が進学する学校も川頼の母校だということで、入学準備の相談も姉を通じて川頼に頼んでいる。川頼は友達が自分の母校に来るのを大歓迎しつつも、どこか不思議そうな表情を見せた。


「嬉しいけどな、友達、正直言うと……あの学校は、一般的な“いい学校”とはちょっと違うんや。」


「別に俺も“いい生徒”ちゃうし。」


「いやいや、そういう意味ちゃうねん。阪海工のことやけど……」


関西弁でまくし立てる川頼の話は、日本人じゃない友達にはなかなかハードルが高い。でも、姉が「日常会話の練習にもなるから」と川頼との会話を勧めてくれた理由も、だんだん分かってきた。教科書通りじゃない日本語の速さ、テンポ、方言――慣れるしかない。


話の流れから、友達もだんだん気づいてきた。


市立岬阪高等海洋工業学校――

その昔、地元ではちょっと有名な……


「ヤンキー高校」 だったらしい。


「でもね、僕が入学した頃にはもう、そんな怖い不良グループなんてなかったよ。ただ、地元ではまだ“普通の子は岬高、不良は阪海”なんて言い方が残ってるけどね。」


普通の子は岬高、不良は阪海――。これは地元で語られる二つの学校のステレオタイプだ。進学を目指す“優等生”は岬高校へ進み、勉強が苦手な子や地元で“やんちゃ”なイメージの子は、より入学しやすい阪海工へ。昔の阪海工の生徒が色々と騒ぎを起こしていたこともあって、地元の大人たちの間では今もそんなイメージが残っている。

川頼はそう説明しつつも、自分の母校をとても気に入っている様子だった。


「でも、阪海工の野球部、今年は結構期待されてるみたいやで。」

川頼がそう言った後、少し眉をひそめて続けた。「でもな、公立校の野球部が成績を残すのは本当に難しいねん。まあ、とにかく友達くん、頑張りや!」


林友達は、川頼が本音で話しているのか、冗談半分なのかよく分からないまま話を聞いていた。日本のことは小学校時代のぼんやりとした記憶しかなく、鮮明なのはクラスメイトと野球をしたときのことだけだ。あのとき、初めてクラスの誰かに「友達くん、投げるのうまいね!一緒に野球部に入ろうよ!」と言われて驚いたことを覚えている。


台湾に戻ってからは、父親の母校で本格的な野球部に入り、体系的な練習を始めた。父親が時々教えてくれた野球の話は多くなかったが、自分で考えたり、練習したりしながら野球がますます好きになった。


だから、阪海工がどんな過去を持っていても、「野球部がある」限り、自分はまた野球を続けられる。どうせたった三年だ。その後は絶対、台湾に戻ってプロ野球選手になるんだ――友達はそう心に決めていた。


川頼も話題を変え、「日本の学校生活にどんな期待がある?」などと友達に聞き始めた。


阪海工の入試は意外とシンプルだった。日本語能力試験一級の証明書を提出しつつ、学校独自の簡単な学力・日本語テストも受けた。留学ビザや、川頼さんの会社からの推薦状も準備した。学力試験は問題なかったが、最大の難関は“学習計画書”の作成だった。報告書や作文が苦手な友達は、あれこれ悩みながらも、なんとか自分なりの「学習計画」を書き上げた。


数日後、姉から合格通知が届き、友達はようやくほっと息をついた。全て日本語の試験用紙に一瞬戸惑ったものの、無事にやりきったのだ。


春節が終わり、いよいよ日本行き。友達はキャリーバッグと中学時代の野球バッグを持ち、コーチの車で桃園国際空港へ向かった。見送りに来てくれたマヤオや仲間たちが口々に叫ぶ。


「日本人にいじめられたら、ちゃんとやり返せよ!俺たち原住民の拳は野球ボール並みにでかいんだからな、球速120キロ!」


「帰ってこいよ!戻ってこなかったら、夜中に夢に出てきて、前に奢った50元を取り立てるからな!」


「……お前らなあ、こんな時くらい、もうちょっと真面目なこと言えないのかよ。」


学校ごとのジャージ姿でわざわざ休みを取って見送りに来てくれたマヤオとフディンは、相変わらず冗談ばかり言っていた。大きな荷物を持った友達は苦笑しながら「俺、日本に行くだけで、永住するわけじゃないのに……」とぼやいた。


コーチはそんな二人の“くだらない話”を止めず、友達の新しい坊主頭をマヤオとフディンが代わる代わる撫でていた。出国ゲートまで来ると、二人はぎゅっと友達を抱きしめた。

マヤオはなぜか鼻をすすり、今にも泣きそうな顔だ。


「大げさすぎだよ、マヤオ。俺は日本に勉強しに行くだけで、別に二度と会えないわけじゃないから。」


いつの間にか友達がマヤオを慰める立場になっていた。感情豊かなマヤオの表情は、嬉しい時も怒った時も、すぐに顔に出る。そんなマヤオの隣で、普段は冷静なフディンも、今はちょっと涙ぐんでいるようだった。それにつられて、友達自身も危うく泣きそうになる。

――本当は、もっと台湾に残って、二人と一緒に野球を続けたい気持ちも強かった。


「さあ、そろそろ行くぞ。友達、しっかり頑張れよ。甲子園に出たら、ちゃんと連絡しろ。お前は台湾で“みんなが欲しがるエース”なんだから、自信持ってな!」


コーチがフディンとマヤオの肩を引き、最後に友達の肩をポンと叩いた。

友達はうなずき、三年間一緒に野球をした二人の仲間にもう一度だけ目を向け、荷物を持ってゲートの中へと歩き出した。


――これが、友達にとって初めての海外渡航だった。


一人で飛行機に乗り、向かった先は大阪・関西国際空港。

そこから、電車を乗り継いで目指すのは新しい学校がある「岬阪町」。


三月の大阪はまだ肌寒く、気温は十度前後。空港で荷物を受け取った友達は、腰ほどの大きさのキャリーケースを引いて入国ゲートを抜けた。


さすが日本有数の観光都市――関西空港はさまざまな国の人でごった返していた。特に中国や韓国からの観光客が目立つ。


""大韓航空便をご利用のお客様にご案内いたします。只今より搭乗手続きが開始されます。搭乗ゲートは21番です。どうぞお早めにお越しください。""


""お知らせいたします。ロビーでお荷物をお忘れのお客様は、インフォメーションカウンターまでお越しください。""


次々と流れる日本語のアナウンスに、「ああ、本当に台湾を離れたんだな」と実感する。


飛行機を降りてすぐ、友達のスマホには母と姉からの「無事着いた?」というメッセージが届いていた。友達は「着いたよ」とだけ中国語で音声メッセージを送り、また荷物を引いて歩き出した。

今日は一人で岬阪町まで移動し、翌朝には阪海工の面接を受け、四月から無事入学できるように手続きを済ませなければならない。


「迎えに行こうか?」

「大丈夫だよ、そんなに迷惑かけられないし、自分で行けるから。」


林友達は、川頼兄が空港まで迎えに来てくれるという申し出を丁寧に断った。

何か月も川頼兄と話して、すっかり親しくなったとはいえ、「わざわざ迎えに来てもらうのはさすがに悪い」と感じていた。姉のおかげでいろいろとお世話になっている手前、自分のことは自分でやりたい――そう思ったのだ。


大きな荷物を引きながら、友達は満員の南海空港線に乗り込み、泉佐野駅で和歌山方面の南海本線に乗り換えた。

そして、やっとの思いで岬公園駅に到着した。


岬公園駅――昔は南淡輪駅と呼ばれていたが、1957年に西側の岬公園が開園したのを機に改称されたという。かつては動物園や遊園地で賑わっていたが、2020年に閉園してしまった。友達が到着した時にはもうすっかり日も暮れ、駅を出ると、天橋の下のトンネルとまばらな街灯がぽつぽつと光っているだけ――

「郊外の夜」という雰囲気が、なんとも言えず心細く感じられた。


長旅で一時間半も電車に揺られ、しかもここからまだ、海沿いの岬阪町まで徒歩で30分近くかかる。最終バスもすでに出た後だった。


「友達!こっちや!」


突然、駅前の暗がりから声が飛んできた。

断ったはずの川頼兄が、やっぱり駅まで迎えに来てくれていた。

仕事終わりの作業着姿で、どこか油と機械の匂いが残っている。

「すぐ分かったで、荷物いっぱい持ってるし。」


友達が何か言う前に、川頼兄はさっと一つ荷物を持ち上げ、「おっ、結構重たいな」と冗談交じりに言うと、そのまま駐車場まで誘導してくれた。車の後部座席に荷物を積み込む手際も慣れたものだ。


「次からは、そんなに遠慮せんでええからな。」

車の中で川頼兄が笑顔で言う。


友達は少し顔を赤らめて、川頼兄はそれが照れなのか、疲れなのか分からなかったけれど、小さな声で「ごめんなさい……」と呟いた。


「明日早いんやろ?面接、うまくいくとええな。」


川頼兄は友達の謝罪を気にする様子もなく、車は静かな岬阪町に入っていく。

夜の町はひっそりとしているが、車窓からは家々の灯りがちらほらと見える――

「ああ、やっぱり誰かがいる場所なんだな」と、少しだけ安心した。


「明日、鈺雯も一緒に学校に行くって。最近、電話も全然返してくれへんから、俺から伝えといてって言われたで。」


「……あっ!」


そのとき、友達はようやくスマホを見ていなかったことに気がついた。


慌ててポケットからスマホを取り出すと、母と姉からのメッセージと不在着信が十件以上も入っていた。

母は日本語で「なんで日本に着いてからちゃんと電話もしないの?」と書き込んでいて、友達は「ああ……これは怒られるな」と顔をしかめる。


「ハハ~大丈夫?」

「大丈夫……ちゃうわ。」


友達が「やっちゃった」顔をしているのを見て、川頼は軽く笑いながら慰めた。

「まあまあ、気にすんなって。あ、ほら、友達、右見てみ。」


赤信号で停まったとき、川頼は窓の外を指さす。

そこには屋根付きのアーケード商店街があり、石畳の道が緩やかに上がっている。色とりどりの看板が並び、「昼間はきっとにぎやかな商店街なんだろうな」と友達は想像した。


「ここが岬阪海商店街。まっすぐ進んで坂を登れば、阪海工に着くよ。」


「川頼兄の家からここまで、歩いたらどれくらいかかる?」

「歩きなら40分くらいかな……そんな顔すんなって。明日の朝は車で駅近くまで送ってやるから。」


そう言ってアクセルを踏み、十分ほどで川頼の家に到着した。


それはよくある二階建てのシンプルな日本家屋。友達は玄関で靴を脱ぎながら、キャリーバッグをどうしようか迷っていると、川頼がさっと荷物を持ち上げ、「さあ、遠慮せずに上がって」と声をかけた。


家に入ると、川頼は作業服を脱ぎ、黒いTシャツ姿に。

すぐに冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プシュッと開けて大きく一口。

友達が運動バッグを背負ったままじっと見ていると、川頼はもう一本ビールを手に取り「飲む?」と冗談っぽく差し出した。


友達が慌てて頭を振り、「いえ、結構です!」と答えると、

川頼は「冗談だよ、友達。もし君に酒を飲ませたら、鈺雯に殺されるからね」と笑った。


「川頼兄って、いつも姉ちゃんと一緒に住んでるんじゃなかったの?」

友達は、どこか台湾にも似ているが少し違う日本のキッチンとリビングを眺めながら尋ねた。


「そうなんだけど、鈺雯はよく東京に出張するからさ、まあ仕方ないよ。友達、学生でいられる時間って実はすごく幸せなんだよ。」


「僕はそうは思わないけど……」

そう言った途端、川頼がタオルをぽんと友達の頭に乗せてきた。

そしてズボンも脱いで、そのまま部屋着のハーフパンツに着替える。


「上の部屋に荷物運んでおくから、君は先にシャワー浴びるなり、冷蔵庫のジュースでも飲むなり、好きにしてていいよ。あ、そうそう――」


「ちゃんと電話、返しとけよ。」


川頼がそう言うと、友達は「やだなあ」という顔をしながら、しぶしぶうなずいた。


日本での初めての夜――

疲れすぎていたのか、あるいは電話でまた母と口喧嘩したせいか、友達はスーツケースを開ける間もなく、そのまま畳の上で眠り込んでしまった。

翌朝、気づけばちゃんと布団に包まれていて、下に降りると姉の鈺雯がもうキッチンのテーブルで朝食を食べながら、スマホでネットニュースを見ていた。


「ママがね、昨日あんた電話切ったって言ってたよ」と鈺雯が言う。

友達は「朝からその話?」という顔をしながら階段を降りてきて、「だって電車乗り換えでバタバタしてて気づかなかったんだよ。ママは『そんなの言い訳にならない』ってずっと言うし、イライラして切っちゃった」と答えた。


二人は中国語で会話を続ける。そのとき、トイレから出てきた川頼兄が話しかけてきた。


「何話してるの?友達、『おはよう』。」

川頼兄はたどたどしい中国語で、友達に「おはよう」と挨拶した。


「友達がママとケンカした話だよ」

「ケンカじゃない、ただ電話を切っただけ」


日本育ちの姉ほど流暢に話せないものの、友達の日本語も川頼兄にはちゃんと通じているようだ。

川頼兄は「面接までまだ時間あるけど、何か食べたいものある?」と話題を変えてくれた。


川頼兄は出勤ついでに、鈺雯と友達を岬阪町の商店街近くまで車で送ってくれた。

制服姿できちんとした格好の友達が、開店準備中の商店街をキョロキョロ歩いている様子を見て、鈺雯は思わず後ろから写真を撮った。


「制服姿、なんだか久しぶりに見た気がする」


「この前の卒業式で見たばかりでしょ」

友達が中国語で答えると、姉にすぐ日文で言い直すように注意される。

「ちゃんと日本語で言いなさい。これからはもっと日本語を使うんだよ」


「めんどくさいなぁ」


「友達!」


「わかったよ、ごめんなさい……」


やれやれといった表情だが、本気を出せばちゃんとやるのが弟だと姉はわかっている。

実際、面接では、友達の日本語や受け答えに学校側も驚いていた。阪海工の教務主任は、「台湾からの生徒で、ここまで日本語ができるとは」と感心していた。


面接も終盤になり、主任が最後にこう質問した。


「では、林さん、最後に1つ質問させていただきます。

阪海工では、学科や専門技術だけでなく、生徒たちの課外活動にも力を入れています。現在、本校の合唱部や吹奏楽部は府内で良い成績を収めていますが、校内の部活動に参加するご予定はありますか?」


「野球部です。」


林友達は、一秒も迷うことなく即答した。


その瞬間、後ろで面接の記録をしていた男性教員が、パソコンから顔を上げてこちらをじっと見た。


「野球部に入りたいです。甲子園に出場したいと思っています。」


「甲子園?林さん、本当に野球が好きなんだね。」


「本気です。台湾でも中学校時代は野球部でしたし、ぜひ貴校の野球部で頑張りたいと思っています。」


記録係の先生は手を止め、友達の体つきを上から下までしげしげと見つめる。短く刈り上げた野球坊主の髪型、椅子に座っていても分かるがっしりした体格――特に下半身の筋肉に、目を留めてしまう。

……しまった、ちょっと見すぎたかも、と気付いて慌てて視線を戻し、またキーボードを叩き始めた。


「そうですか。それでは、林さん、本日の面接はこれで終了です。結果は募集要項に記載された日付に郵送でお知らせします。本日はご足労いただき、ありがとうございました。」


無事に面接を終え、教室を出た友達は思わず深呼吸した。


「全然緊張してなかったみたいだけど?」


「まさか、めっちゃ緊張してたよ。ただ平気なふりしてただけ。」


姉の鈺雯にそう言いながら、友達は日本での第一関門を突破した安堵を感じていた。

帰り道、また母に面接が終わったとすぐに連絡する。怒られたくないので、念のためだ。


「やっぱり、最後も野球のこと言ったんだね?」


「うん……姉ちゃん、聞いてもいい?俺、この学校で、本当に甲子園に行けると思う?」


春が近づき、校舎の周りには新芽が芽吹いていた。廊下にはちらほらと生徒たちがいて、チャイムの音に合わせて教室に駆け込んでいく。その時、友達の後ろをひとりの生徒がすごい勢いですり抜けていったが、友達は姉の返事に集中して気付かなかった。


「行けるよ――私はそう願ってる。」


鈺雯は微笑みながら言うが、弟がちょっと不満げな顔をすると「でも、それを決めるのは私じゃなくて、まずは自分自身、それからこれから出会う仲間や監督じゃない?」と続ける。

「だって、野球って一人じゃできないスポーツでしょ?」


「セーフ!」


その瞬間、教室のドアが勢いよく開き、息を切らしながら一人の少年が駆け込んできた。服装を慌てて整え、主任と先生方に少し恐縮したように頭を下げる。

「すみません、遅れそうになって……」

元気よく返事しながら、席に着く。


記録係の先生は、その「運動部っぽい」賑やかさにまた顔を上げる。

この生徒は制服ではなく、サイズの合わないシャツとズボン――ズボンの丈がやけに短い。

……背が高いな、と先生はその後ろ姿に驚いた。


がっしりと大きな背中――どう見ても一年生には見えない体格。


「まず、お名前を教えてください。……それにしても、背が高いですね!」


主任の言葉に、その生徒は自信満々の笑顔で答える。


「はい!192センチです。目立つでしょ!僕の名前は――」


日空南極にっくう・なんきょくです。

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