第十三章 童貞男子の一目惚れ
台湾出身の陸坡と申します。
この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。
この話は、友達と南極が流星の家に来る前に起きた出来事だ。
今日は野球部にとって珍しい完全なオフの日。普通、野球部は週6日練習があって、月曜から金曜までは朝練と昼休みの自主練、そして放課後の部活動は3時半から5時まで。やる気のある人は7時、8時まで自主練することもある。土曜日は朝8時から午後3時までびっしり野球漬け。だから、日曜日だけが貴重な休みの日となる。
昨日は蓮と夜遅くまでゲームをして、結局寝たのは12時を過ぎていたけど、流星は朝早くに布団から抜け出した。身体の上に乗っかっていた蓮を押しのける。こいつ、いつも俺の布団を横取りしやがって…と見ると、自分の夏用ケットが全て蓮の身体に巻き付いていた。蓮は寝ぼけながらブツブツ言って、自然にパンツを脱いで裸のまま風呂場へ向かう。
だがその時、突然誰かの手に股間を掴まれ、流星はビックリして叫び、ベッドにひっくり返った。
「お、ちんちんつかまえたぞ〜!」
「離せや、アホヤンキーガキ!」
同じくパンツ一枚の蓮が適当に流星のモノをいじる。流星も負けじと手を伸ばして蓮のパンツの中をガサゴソする。最終的に、二人の高校一年生は、ひとりはパンツだけで歯を磨き、もうひとりは全裸で浴槽につかることになった。
「なんでお前と宇治川、いつも俺を仲間外れにすんの?」と風呂につかりながら流星が言う。
「お前みたいなバカに話しても、余計ややこしくなるだけだろ」と蓮は口いっぱいの泡で言い返す。それでも流星は食い下がる。「でも、俺たち友達だろ?友達って一緒に悩んだりするもんじゃね?青春だぜ!」
「青春って、お前はバカな漫画オタクかよ」と蓮は悪態をつきながら、パンツを脱いで流星と同じ浴槽へ。
「じゃあ逆に聞くけどさ、もし宇治川が桐蔭行くって言ったら、お前は本当に嬉しいか?」
「もちろんだよ!」流星は立ち上がって言う。
「ウソつけ。お前、あんなに寂しがりやなのに、宇治川が離れて本当に喜ぶわけないだろ」
「そんなことねーし!」
「絶対ウソ。認めろ流星。もし俺と宇治川がどっか行ったら、お前は部屋に引きこもってこっそり泣くんだろ?裏切られたみたいに落ち込むんだよ、今だって宇治川が何も話してくれないって拗ねてるじゃん」
「そんなこと、ねーって!」
蓮の言葉に流星はムキになって、浴槽から飛び出したまま全裸でこう言った。「オレは絶対泣かないって言ってるだろ!じゃあ、お前はどうなんだよ?お前は宇治川が桐蔭に行くのを応援できんのか?」
「オレは応援できないよ。宇治川には行ってほしくない。だって自分勝手だけど、お前と宇治川、ふたりとも一緒に高校に通いたいんだ。」
蓮の率直な言葉に、流星はその場で固まってしまった。どう考えていいか分からず、最後は何も言わずにその場から逃げていった。蓮は流星の後ろ姿を見て、立ち上がって叫んだ。
「おい!流星!言い返せないからって逃げんなよ。自分の家だからって、せめてアソコぐらい隠せって!」
――
豊里家、流星の両親は共働きで、全国を飛び回る仕事のため、ほとんど家にいない。小さい頃は向かいの祖父母に面倒を見てもらっていた。そんな事情もあり、蓮はよく泊まりに来ていた。家がいつもガランとしている流星にとって、蓮の存在はありがたかった。
マンガ、ゲーム、スナック、スポーツブランドの野球用具一式……裕福な流星の家に、家計が厳しい蓮は最初、少し羨ましさを感じていた。だが、長く一緒にいるうちに、その気持ちも薄れ、今ではこのバカと友達でいること自体が大事になっていた。
蓮は自分の股間をタオルで隠し、もう一枚のタオルを持って浴室を出て流星を探した。リビングに行くと、裸の流星が大きな窓の前に立ち、じっと外を見ていた。
「流星?」と声をかけても、流星は動かず、何かを見つめている。蓮はその視線の先を追った。
すると、向かいの家のベランダに、ちょっと変わったアニメ風の女子学生服を着た女の子がいた。ピンクのウィッグをかぶり、白いシャツを背景に三脚を立てて、何かのシチュエーションで自撮りをしている。蓮には何をしているのか全然分からなかったが、多分コスプレだろう。家でキャラになりきってるのか?正直ちょっと不思議な感じだ。
「うわっ、めっちゃ可愛い……」
「え?」蓮は思わず流星を見た。
「アニメみたいだ、めっちゃ可愛い……」と流星はつぶやいた。
流星はうっとりと向かいのベランダでコスプレしている女の子を見つめ、自分の世界に入り込んでいた。しかし、親友の蓮から見れば、今の流星は家の中で裸のまま、知らない女の子をガン見している“発情した変態”にしか見えなかった。
そのとき、ベランダの女の子が何かを思いついたようにメガネをかけ、こちらの方をふと見た。
「やべっ!」
蓮は女の子がこっちを向いたら、流星の“見せちゃいけないもの”が見えてしまうと直感し、とっさに自分の体で流星の下半身を隠し、慌ててバスタオルでくるんだ。
この行動で我に返った流星は、驚いて蓮の髪を掴みながら叫んだ。「お前、何してんだよ!」
「何してんだはこっちのセリフだ!お前、向かいの女子に丸見えだったんだぞ、バカ!」
そう言いながら、蓮は流星の腰にバスタオルを巻きつけた。
二人のこの奇妙な動きが逆にベランダの女の子の目を引き、メガネの彼女はちょうど流星の股間に蓮がしゃがみ込んでいる姿を目撃。思わず声を上げ、そのまま部屋へと走り去った。
「うわ、いなくなっちゃった……」
女の子が叫びながら部屋に戻るのを見て、流星はがっかりした顔。
だが蓮は「ガッカリするな!俺が助けなかったら、お前もうほぼ犯罪者だぞ!」と心の中でツッコミを入れていた。
そのメガネの女の子は部屋に戻ると、カーテンを閉めてウィッグを外した。
さっき自分のベランダから、男の子同士がすごい体勢でじゃれているのを目撃した――まさかこんな“非日常”が身近で起きているとは。
「絶対BLだよね、リアルで見ちゃった……!」
彼女はドキドキしながら、スマホでさっきの出来事をネットのオタク友達に即報告。もともと今日はアニメの名シーンを再現するため、コスプレして写真を撮っていたのに……。
ちなみに、彼女の部屋には阪海工業高校の女子制服がかかっていた。彼女もまた、阪海工では珍しい女子生徒の一人だった。
――
「女の子?」
「そう、女の子だったんだよ!」
「また流星のオタク妄想じゃないの?」
「失礼な!本物の女の子だってば!」
宇治川が私服姿で流星の家にやってきて、早速蓮に今朝の話をされた。
宇治川は全く興味なさそうに「へー、へー、そうなんだ」とだけ相槌を打った。
みんなが流星の家に集まり、リビングの床に新聞紙を広げて、椅子を並べ始めた。
初めて流星の家に招待された林友達は、みんなが何を始めるのか全く分からない。ただ、自分が日本で野球部の仲間の家に招かれたのだから、失礼があってはいけないと思い、前の日には流星の両親にかける敬語を練習し、台湾のお菓子までお土産に用意してきた。
すべて準備万端の友達と南極が流星の家に到着すると、ドアを開けたのは蓮だった。
蓮は気楽に二人を招き入れ、「他のみんなももうすぐ来るよ。あ、友友、お土産?ありがとう」とお土産を受け取った。
「友達はなんでもちゃんと用意してくれるんだな」と南極が笑う。彼は両手空っぽで、ランニングシャツにサンダルという、まったく日本の常識から外れた格好。普段、寮で過ごす休日とまったく同じだ。
「お前さ、もうちょっと考えろよ。他人の家に来てその格好はないだろ?」と友達が言うと、
「え?どうせあとで脱ぐし、このままでいいじゃん」と南極。
「脱ぐって、何言ってるの?」と友達は怪訝な顔。
すると、短パン姿の柴門が長い髪をサッとまとめて髪留めで固定し、電動バリカンを持ってきて、「さあ、誰からいく?」とやる気満々。
「ハイハイ、オレ!」と流星が真っ先に手を挙げて、突然全裸になった。
「ちょ、なんで脱ぐの!?」と驚く友達。
流星は不思議そうに「なんでって、髪切るんだから当たり前だろ?」と言った。
「みんなで流星の家に集まってから、理髪店に行くんじゃなかったの?」
と友達は戸惑い気味に言った。
すると流星は自分の大事な部分を手で隠しながら、簡易イスにどっかりと座った。
「理髪店?それは贅沢すぎるよ、めっちゃお金かかるし。」
田中廉太がそう言うと、宇治川と蓮もうなずいた。
友達は「そんなに高いの?」と驚き、つい口にした。
「普通の床屋なら三千円くらいだよ(台湾640元)。近くの千円カットでも電車賃入れたら二千円近くかかるし、予約が必要なこともある。」
柴門がそう言いながら流星の髪をハサミで整え、「髪質、ひどいな。ちゃんとケアしてる?」と眉をひそめる。
「男子が髪のケアなんてするかよ!」
流星は当然といった顔。
「そんな男らしい発言、女の子に嫌われるよ~。」
蓮がニヤニヤしながら座って言うと、流星は「うるさい!関係ないだろ!」と反論した。
「おやおや、なんだか恋の匂いがするね。」
柴門がニヤリと笑いながら、「言いたくなかったら丸刈りにするぞ?」と脅す。
「やめろ!坊主だけはイヤだ!」
裸の流星は必死に抵抗するが、数人が押さえつけてイスに座らせた。
日本の高校生の月のお小遣いは全国平均で五千円ぐらい。坂海工みたいな地方公立の学生にとっては五千円はなかなか贅沢で、家庭が裕福だと一万円ももらえることがある。田中や蓮は月に二千円ほどしかもらえず、友達の五千円に「金持ちだな~」と素直にうらやましがった。
「台湾には百元カット(日本320円)があるって聞いたけど?」
小林は白ブリーフ一枚のまま、どこからかノートを取り出して言った。
田中がすかさず「お前、そのノートどこに隠してるんだよ?」とツッコむ。
みんなが小遣いの話で盛り上がっているうちに、友達はふと気づく。
「みんな、なんでそんなに裸なの!?」
二人の裸男子に挟まれ、密着されて、友達はもう恥ずかしさの極み。
そんな様子を見た南極は、ゲラゲラ笑いながら友達をがばっと自分の隣に引き寄せ、
「友達、本当に裸を見るの慣れてないよな~」
「お前もだろ!なんで脱ぐんだよ!」
「だってみんな一緒だし、距離が縮まるって学長も言ってたし!」
友達は全く理解できないまま、関西の田舎高校野球部文化に戸惑うばかりだった。
「南極基地にいた時もね、自衛隊のお兄さんたちが寮で裸になって、みんなで髪を切り合ってたよ。」
南極が言う。「小さい頃はいつも彼らに切ってもらったけど、めっちゃ変な髪型にされたんだよな。」
「い、いや、実は下着ぐらいは履いてても大丈夫なんだよ、林くん……ごめん、迷惑かけるつもりじゃなくて、ただの部活の伝統っていうか、裸じゃなきゃダメってわけじゃないから……」
さっきから正座して様子を見ていた金井榮郎が必死に説明する。ちなみに榮郎はなぜか制服のままだ。
「できたよ。」
柴門が言って、スマホのインカメラで流星に後頭部を見せる。「どう?」
坊主になるのをビビっていた流星は、画面を見て一気にテンションが上がり、得意げな柴門に向かって叫ぶ。
「すげー!柴門!めっちゃカッコイイじゃん!サイドにラインも入ってるし、まるでアニメキャラみたいだよ!」
そのまま裸で他の連中に自慢しに走っていった。
「次、誰?」
柴門は周囲を見回し、やけに静かな榮郎と目が合う。榮郎は慌てて視線をそらすが、柴門は不機嫌そうに言う。
「なにそらしてんの?次お前、座れよ。」
「え、あの、その……実は先週、床屋で切ってきたばっかりで……」
榮郎が小声で答えると、玉里はため息をついて言う。
「じゃあなんでここで切るって言ったの?」
「だ、だって流星に誘われたし、流星があんなに楽しそうだし、断りにくくて……」
「じゃあ、もし今ここで変な髪型にされたら、やっぱり断れないってこと?」
「そ、それはちょっと……」
「断るなら、はっきり断りなさいよ!」
柴門は榮郎の煮え切らない態度に少しイラッとする。榮郎はまたもや「ごめんなさい」と謝るだけ。
柴門玉里は気にせずバリカンを調整していると、榮郎は意を決したように制服を脱ぎ、下着姿で理髪椅子に座った。
「なにしてんの?」
柴門が不思議そうに尋ねた。
「もしできれば……柴門さんにお願いしたいなと思って。もう髪切ってるんだけど。」榮郎は答える。
「お前なぁ、私は失敗したら家族にどう言い訳すんの?わざわざ街まで行って高い理髪店で切ってきたんだろ、私が変にしちゃったらシャレにならないって。」
柴門はバリカンのスイッチを切った。
「でも柴門さんなら、絶対に変にはならないと思うよ。だって……」榮郎が笑顔で続ける。「さっき、豊里の髪もすごくカッコよくしてくれたから。」
その一言に、玉里は一瞬どう返していいかわからず、むすっとした顔で「そ、そう?」とだけ言い、さっさとバリカンを入れて、榮郎のはねてる髪を数秒で整えた。「はい、終わり。」
「え、でも……」
「終わったってば!次!」
金井が何か言いたげでも、玉里は強引に交代させてしまった。玉里自身、あの一言が本心なのか、わざとなのか、いまいちよくわからない。でもちょっと、心がくすぐったかった。
次に田中が椅子に座り、「俺も流星みたいなライン入れて!」とリクエスト。
「バカにされても知らないよ。」柴門はそう言いながら、バリカンを動かした。
みんなそれぞれ髪を整えてもらい、同じ坊主でも一人ひとり微妙に個性が出ていた。普段ぶっきらぼうな宇治川でさえ、「柴門、意外とうまいな……」と小さく呟いたくらい。美肌やヘアケアにこだわる美男子が、なぜ野球部にいるのか――やっぱり謎だ。
最後は、脱ぐのがどうしても恥ずかしい林友達。結局、下着姿のまま、顔を赤らめて椅子に座った。
緊張でソワソワ動く友達を、柴門が「南極、押さえてて」と頼み、南極が裸で友達の肩を支える。そのままみんなでシャワーに向かった。
シャワー室でも南極は裸で友達の横にいて、友達がつい南極を見下ろすと、南極はしゃがんだまま、あっけらかんと開脚していて、そのままの姿が目に入ってしまい、友達はすごく恥ずかしかった。
でも、南極はいつも通りニコニコしていて、「友達、そういうの見られても全然平気なの?」と聞いてきた。
「別にいいじゃん、みんな男なんだし。」
「でも、男同士でも見られるのは恥ずかしくないの?」
「うーん……友達なら大丈夫。他の人はちょっとだけど、まあ平気。」南極は言う。「友達は他人の目を気にしすぎだよ。実は、みんな裸になっちゃえば、逆に誰もいじってこないんだ。逆に、服を脱がないほうが“特別”になっちゃって、流星たちが面白がってからかってくるんだよ。」
「その意見、俺も賛成。流星たちはちょっとちょっかい出すのが好きなガキだしな。」髪を切っていた柴門は同意しつつ、南極をじっと見て、「てっきりお前も流星たちの一味かと思ってたけど、意外と違うんだな?」
「俺も一味だよ。みんなで野球やってる仲間だろ?柴門もそうだし。」
「いや、俺はあいつらと同類だとは絶対に認めない。」
柴門はぷいっとそっぽを向く。そのやりとりを聞いていた友達は、少しだけ気持ちが楽になった。そして、すぐにさっぱりとした坊主頭が完成。スマホで自分の髪型を見て、「本当にすごいね」と素直に感心する。
「まあまあかな。」柴門玉里は自信たっぷりに長い髪をかきあげる。
「ふぅ、これでやっと服が着られる……」友達はほっとして、服を取ろうとしたその瞬間──
「まだ終わってないよ!」という声が響き、南極にそのまま抱き上げられて浴室へ連れて行かれる。
その時には、もうみんな頭を洗い終えて、バスタオルで身体を拭いていた。
そこで友達はやっと理解した。どうして流星たちはほとんど裸で散髪していたのか。
服を着たままだと、切った髪が服やズボンの中に入り込んでしまう。だから裸になって、髪を切った後すぐ浴室でシャワーを浴びれば、髪の毛も汗も全部洗い流せるし、夏場の暑さも吹き飛んで、とても気持ちがいいのだ。
やがて浴室には、友達と南極だけが残った。南極は、最後に出ていく子からシャワーヘッドを受け取り、静かにドアを閉める。そして、優しい笑顔でこう言う。
「これで、もう誰にも裸見られないから、大丈夫だよ、友達。」
「え?」
「何が始まるの?」
友達は南極の突然の言葉に頭が真っ白になった。すると南極は大きな体でゆっくりと近づき、まるでクマのような迫力で友達のいる浴室の隅まで来る。その巨体で浴室の光を完全に遮ってしまう。
人生で初めて誰かに角に追い詰められ、思わず身をすくめる友達。
その時──
南極はシャンプーを手に取って、目をつむりながら明るく言った。
「目を閉じていれば、友達の裸なんて見えないよ。だから、今のうちに全部脱いで大丈夫だよ。」
「…………あはははは!南極、お前って本当に……」
南極のあまりに単純で真っすぐな言葉に、なぜか笑いが込み上げてくる友達。
自然と下着を脱ぎ、目を閉じてる南極に向かって言う。
「大丈夫だよ、まだちょっと変な感じだけど……まあ、いいか。」
そう言いながら、やっぱり少し恥ずかしそうに南極に背を向ける。
でも、不思議と――こうして南極と素直に裸を見せ合っても、そんなに嫌な気持ちにならない。
南極のさっきの「ギャグっぽい優しさ」のおかげか、
それとも、この数ヶ月ずっと同じ部屋で過ごしてきた安心感なのか――
友達自身も、よく分からない。
みんなで頭を洗い終わった後、昼ごはんはみんなでカレーライス。
話題の中心はやっぱり、今朝流星が見た「お隣のコスプレ女子」のこと。
さすがに女マネ事件で懲りた面々は流星の証言を疑うが、今回は蓮も目撃していたため、信じるか迷う空気が流れる。
「本当だって!彼女、あそこに立ってたんだ!」
カレーを口につけたまま、流星が窓際まで走って隣のベランダを指差す。
「絶対見たって!初代《LiveLOVE》の白枝学園アイドル、星夢ルナのコスプレだよ!」
《LiveLOVE》は今オタク男子に大人気のアニメで、
廃校寸前の白枝学園を救うため、女子生徒たちがアイドルを目指して全国大会に挑む青春ストーリー。
星夢ルナはピンク髪の小悪魔キャラで、メガネの有無でギャップ萌えが話題になっている。
こういう非日常なキャラに流星はすっかり夢中だ。
「誰か流星語を訳せる人いない?」
田中は頭を抱えて言った。「……やれやれ。」
みんなは、普段一番流星と仲のいい宇治川と蓮を見たが、二人は手を振って「無理だって」とアピール。
「アイツはオタクスイッチが入ったら、もう誰も理解できないよ。」
蓮が肩をすくめる。
「それに、布教活動も始まるし、ほんとに怖い。」
宇治川がぼそっと言った。
その直後、部屋の中に女の子のアニメソングが流れ出し、
流星が星夢ルナの痛Tシャツを着て、目を輝かせながらみんなの前に飛び出してきた。
「これがルナちゃんだよ!めっちゃ可愛くない?」
流星がアピール。
「……始まったな。」
宇治川は眉をひそめる。
「と、とにかく、つまりは豊里くんがアニメキャラそっくりの女の子を見たってことです。」
榮郎が言う。
野球場で元気にプレーしてる流星からは想像できない一面に、少し驚いていた。
「つまり、現実と二次元の区別がつかなくなってきてるわけだ。」
柴門玉里が呆れたように言い、流星のTシャツのアニメキャラをじっと見てから、
「でも、服のディテールはなかなかいい出来だな。」と褒める。
「でしょ!ルナちゃんは最高なんだよ!」
流星は食い気味に言う。
「いや、別に褒めてないけど。」
玉里が即座に否定。
「こんなアニメ見たことないな。友達は?」
熱血アニメしか見ない南極は、理解できずに友達に尋ねた。
「えーと、多分オタク向けのアニメだよね?女の子がいっぱい出てきて、歌って踊るやつ。でも、流星があの女の子をこのキャラに似てるって思うなら……」
流星、もしかしてその子に恋してる?
友達のこの発言で、その場が一瞬シーンと静まり返る。
「えっ、俺なんか変なこと言った?」と焦る友達。
ちょうどその時、流星がかけていたアニメソングがエンディングに差し掛かり、
星夢ルナが少し恥ずかしそうな声で「ねぇ♡ 好きって気持ち、恋にしちゃおっ?」と歌う。
その瞬間、流星の顔が真っ赤になった。
「恋にしちゃおっ、流星くーん~」
「好きって気持ち、どうするの~?流星くーん~」
「ねぇ♡ ねぇ♡流星くーん~」
「恋にしちゃおっ、流星くーん~」
みんなが歌詞を真似て茶化す。
蓮は流星を捕まえて頭を撫でたり頬をつねったりしながら、
「お、ここに純愛少年発見~、ピュア流星だ~」とからかう。
「違うわ!ただ……ただあの子が可愛いって思っただけだし!」
流星は慌てて否定しながら、恥ずかしそうにアニメTシャツの裾を握りしめている。その様子を見た蓮やみんなは、内心“これは本気でヤバいかも”と察していた。
「だったら告白しろよ、流星!」
「そうだよ、隣に住んでる女の子ならチャンスあるって!」
「家も近いし、絶対いけるだろ!」
「おお、彼女、彼女!」
蓮や田中、宇治川たちが煽り、南極も一緒に盛り上がる。
一方、友達は眉をひそめて言った。
「え、それでいいの?なんか軽すぎない?付き合うって、まずはちゃんと知り合って、しばらく一緒に過ごして、お互いに気持ちができてから……」
「それって昭和の恋愛じゃん?」
柴門が呆れ顔で「そのままだと一生DTだぞ、友達くん」と言う。
「D、DT?」友達はぽかんとする。
「ディーティー、つまり童貞だよ。経験ない男のこと。台湾語だと……處男って言うのかな?」
小林が丁寧に説明。なぜか「處男」の発音だけ、やけにネイティブっぽい。
「でも流星はさ、あの女の子の名前も知らないでしょ?」
友達が冷静に指摘。
「知ってるよ。」
そう言ったのは流星でも他の誰でもなく、小林芝昭だった。一同が驚いて小林に注目すると、小林はおもむろに手帳を取り出し、指を舐めてページをめくり始める。
「川端 紬、一年普通科。最近岬阪町に引っ越してきたばかり。坂海工の数少ない管楽部推薦じゃなくて、一般入試で入った女の子だよ。」
「おおっ、坂海工の生徒なんだ!これ、チャンスあるぞ流星!」
みんなが小林の情報でまた流星を盛り上げ始める。
ちょっと心配そうな榮郎が「でも小林くん、そんなに人のプライバシー調べちゃって大丈夫なの?」と聞くと――
「知らねえよ。俺は小林が坂海工のスパイで野球部に潜入してるんじゃないかと疑ってるけどな。」
柴門が茶化す。
「小林、そんなことまで知ってるの?」
友達が感心して言うと、小林は一瞬そっけない顔をしてたのに、友達に褒められると、パッと顔をそむけて
「べ、別に……うちは両親が町内会の会長やってるから、自然といろいろな話が入ってくるだけだよ」と、ぼそっと答えた。
「あ、うんうん、そうなんだね。」
小林が急に照れたのを見て、友達もちょっと気まずくなった。
その瞬間、友達の背中に重みを感じる――
「わっ、南極また乗っかってきた、重いよ。」
「友達、台湾にも彼女いたの?」
南極が悪戯っぽく聞いてくる。
「え、い、いないよ!オレ、台湾でもずっと野球ばっかやってて、彼女なんて全然……!」
「ほんとにぃ?」
南極が友達にぴったり抱きついたまま言う。「黒川中尉が言ってたけど、やたら否定するやつはたいてい怪しいんだって。」
「いや、ホントにいないから!ていうか黒川中尉って誰だよ!」
「台湾の女の子?美人が多いって聞いたことあるよ。メイクしなくてもすごく綺麗なタイプとか。」
「マジで!?ナチュラルビューティーじゃん!」
「もしかして友達、本当に台湾に好きな子いたりして?夜こっそりスマホで電話とか。」
「あるある!友達、夜中に電話してるの見たことある!」
南極が急に思い出して大声で言う。
「それ姉ちゃんと電話してたんだよ、バカ!」
友達が南極のほっぺたを引っ張る。
「えー、お姉さんが好きなの?」
「見た目に寄らず、友友ってやるね!お姉さん好きか〜」
「違うってば!」
さっきまで流星をいじってた話題が、いつの間にか友達に向いてしまう。
真面目な反応をする友達の方が流星よりいじりがいがあるとみたのか、みんなでわいわい大阪弁や和歌山弁を交ぜて好き放題言い始める。
友達はみんなの方言がぐちゃぐちゃで、全然ツッコミが追いつかない。
そして最後は怒り気味に大声で――
「もう!ボクほんとに怒るよ!ほんとよ!」
文法もイントネーションもめちゃくちゃな日本語。でも、そのアニメみたいな調子が逆にめっちゃ可愛い。
「やば!かわい……いや、友達怒ってるからダメだって!」
その場のみんなが、「日空南極がなんでいつも友達をからかいたがるのか」、一瞬で理解できた気がした。
「えっ?ごめん、別に本気で怒ったわけじゃなくて、その……ごめんなさい。」
みんなの表情がちょっと変わったのに気づいた友達は、自分が少しやりすぎたかもと慌てて謝った。でも、その必死さが逆にまたみんなのハートを撃ち抜いてしまった。
「だ、大丈夫だよ友達。ほら、他の話でもしよう?あ、まず食器洗いしよっか。カレー、まだ食べたい人いる?」
これ以上友達の“可愛すぎる怒り”にやられそうなみんなは、なんとか話題を変えようとそそくさとキッチンに向かった。
でも南極だけは、そんな友達の様子を見慣れているようで、ニコニコしながら言った。
「今の友達の日本語、めちゃくちゃだったよ。」
「全部お前のせいだろ!」と、友達は原因を作った南極を睨んだ。
「応援のときも同じじゃん?」と南極が言って、友達のトラウマを思い出させる。
「そ、それは違うよ!あの応援のやつはちょっと……」
友達は、応援練習のときに先輩に言われた言葉を思い出す。
そのとき二年生の先輩は、応援バットを持つ友達を見て、ちょっと呆れ気味にこう言ったのだった――
「友達、お前リズム感ないの?あと声小さすぎ!もっと元気に、先輩の名前を大声で叫ばないとダメだぞ!」
「打て!打て!田中!かっとばせー田中!」
先輩は友達の目の前で、まるで本番の応援のように、大声で叫んで見せた。その必死な姿に、友達は完全に固まってしまい、結局もう一度やってみても先輩には首を振られてしまった。指導してくれていた先輩もちょっとガッカリした様子で、友達はなんだか申し訳なくなった。
「ま、まあ、しっかり練習していこうな、友達。」
白井先生が間に入ってフォローしてくれた。「たぶん友達はまだ日本の野球応援に慣れてないだけだから。」
「もしかして、先輩の応援コール自体覚えられないの?」と南極。
「ち、違うよ、そういう問題じゃなくて……」
友達は、「ただ、先輩のために大声で応援するって、ちょっと照れくさいんだ」と打ち明けた。
「でもみんなやってるし、先生も友達に頑張ってほしいって思ってるんじゃない?」南極が言う。友達も「まぁ、そうかもね」と小さく呟いた。
突然、南極が友達の腕を引っ張って、ニコッとしながらこう言った。
「じゃあ、僕が手伝うよ!友達が僕に野球のルールを教えてくれたみたいに、今度は僕が応援を教える番!」
「え、いや、その……」
「まずは流星と蓮の前で応援やってみようよ!あの二人、めっちゃ上手だから!」
南極の明るい笑顔に、友達はイヤな予感がして、なんとか断ろうとしたけど、もう遅かった。
南極がみんなに大声で言った。
「みんなー!友達の応援見てあげてー!さぁさぁ始めよう、まずは田中先輩の応援から……!」




