第6話 不穏なる影 後編
「うーん、これも悪くないけど、あと一味足りないんだよな……」
そのころ、陽人は厨房で新メニューの試作に熱中していた。クラウドが持ち込んだ調味料の中に、発酵食品らしきものがあると聞き、興味津々で手を伸ばしている。
「この匂い……もしかして味噌に近いのかな。日本料理で言えば“煮込み料理”に使えそうだ」
かき混ぜながら火にかけてみると、独特のコクと甘味がある。まさしく味噌に似た風味だが、何か違和感があった。
「ちょっと酸味が強いような……でも、この程度なら調整できるかな」
陽人は思考を巡らせ、手元の香辛料と合わせることでより深い味わいを出せるのではと考えた。その様子を遠巻きに見ていた数名の魔族が、まるで子どもが遊ぶのを眺めるように興味深げに見守っている。
「魔王様からのリクエストで、今度は大きな宴を開くらしいよ。人間界の客人も招くとか……」
厨房にいた魔族が教えてくれた情報に、陽人は一瞬手を止めた。どうやら、“旅の商会”クラウドだけでなく、もう少し規模を拡大した会合を行う意図があるようだ。
(魔王様、いよいよ本格的に和平路線を進めるつもりなのかな……)
それは、陽人が望んでいた方向性でもあったが、同時に内心の不安が膨らむ。こんなに急激に関係が変わってしまって、本当に大丈夫なのだろうか。
そして、陰で暗躍する一部の魔族の存在など知る由もなく、陽人はただ新しい料理のアイデアを考えることに没頭する。
――味噌のような発酵調味料を使った煮込み料理。名付けて“異世界風・味噌煮込み”だ。果たして、この新メニューは魔王軍と人間界の大きな転換点になるのだろうか。
次回、陽人を取り巻く陰謀が水面下で動き出し、両陣営の思惑が複雑に絡み合う。宴の舞台で、新たなる事件が幕を開ける……。