第1話 平凡な青年の非凡な一日
食品メーカーに勤めて三年目、25歳。営業職として特別優秀というわけでもなく、毎日の平凡な仕事を淡々とこなしている。ただ、料理をする時間だけは特別で、彼の小さなキッチンはささやかな実験室でもあった。
その日は、休日。陽人は最近流行りのレシピ動画を参考に、新しい唐揚げの味付けを試していた。
「よし、揚げ上がりも完璧だな」
陽人が揚げたての唐揚げを一つつまみ、かじった瞬間――
眩しい光が視界を覆った。
次に目を開けたとき、目の前に広がっていたのは自分の部屋ではなく、見知らぬ草原だった。
「――え?」
驚いている暇もなく、彼を取り囲むように甲冑を着た異形の兵士たちがずらりと並ぶ。見るからに人間ではない。
「……えっ、えっ?」
何が起きたか理解できないまま、怯える陽人の前に進み出たのは、一際威厳を放つ長身の男――否、魔族。
「人間よ、貴様は今から我ら魔王軍の捕虜となる」
――人生で初めて作った「魔王が愛した唐揚げ」は、こうして波乱に満ちた異世界生活の幕を開けた。
(あとがき)
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