表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

余白のなかで

冬の朝。空気は澄んでいて、吐く息が白く浮かんだ。


通学路の途中、小さな公園のベンチに腰掛けて、黎はぼんやりと空を見上げていた。

曇り空の向こうに、うっすらと青が滲んでいる。まるで、白紙にこぼれたインクのような空だった。


ポケットの中にある、少ししわくちゃになったスケッチブックの切れ端。

あの日、楓が貼ってくれたコラージュの残り。紙の端はちぎれ、色鉛筆の線が途中で途切れている。だけど、そこにあるのは「壊されたもの」ではなく、「まだ描かれていない場所」だった。


——描かれていないことは、間違いではない。


誰かに自分の形を決められることが、どれほど怖かったか。

でも今は、はっきりとは言えなくても、自分のままを受け取ろうとする声が、そばにある。楓も、紗那も、母も。まだ言葉にできない不安や、すぐに癒えない傷もある。でも、消えてほしいと思わなくなった。


校門の前で、楓が手を振っていた。


「おはよう、黎」


小さな声。でもまっすぐで、迷いがなかった。


黎は少しだけ目を細めて、スケッチブックの切れ端をそっとポケットにしまうと、ゆっくりと立ち上がった。


「……おはよう」


今日は「僕」でいる。でも、明日はどうだろう。

それでもいい。はっきりしないままでも、名前も形も揺れたままでも、生きていける。誰かに決められない「自分」を、これからも探していけばいい。


楓の隣に並ぶと、二人の影が歩道に並んだ。

細くて、まだ頼りなくて、それでも確かに続いていく道。


余白は、まだたくさん残っている。

そこに何を描くかは、これからの自分が決めていくのだろう。


ただ、それだけで充分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ