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転生雑草記

作者: 零空ナギ

第一章:草はただ、そこに在る


――って、これマジかよ。



目を覚ましたとき、俺はすでに地面に張り付いていた。

全身が土に埋まっているような違和感。

目の前に広がるのは、湿った黒土と、その隙間をせわしなく動き回る小さなアリたち。

彼らは何かに夢中になっているのか、俺には目もくれず働いている。



いや、それよりも問題は俺自身だ。



手を動かそうとする――が、動かない。

足を動かそうとする――が、存在しない。

というか、俺の身体が緑色の茎と葉っぱでしかない。



「……どういうことだ?」



混乱しながら視線を上げると、遥か遠くに広がるのは紫がかった空。

雲は見慣れない色をしていて、ゆっくりと流れている。

その間を、時折巨大な靴底が横切る。



……靴底?



そこまで考えた瞬間、俺の精神が「バキッ」と音を立てた気がした。



〈……どうやら俺は雑草として生まれ変わったらしい〉



転生という絶望。



異世界転生。

この手の話はよく聞く。



・ 転生したら勇者だった

・ 転生したら魔王になった

・ 転生したら伝説の剣を持っていた



しかし、俺の転生先は 「雑草」。

草だ。

あの道端に生えている、あのただの雑草。



剣も魔法もない。

モンスターですらない。

動くこともできない。

俺の体は、ただ根を張るしかない緑の生命体だった。



「まじでどうしろと……?」



試しに動こうとするが、もちろん何もできない。

手も足もなければ、口すらない。

本当にただの草なのだ。



しかし、そのとき――



〈スキル【不屈の雑草魂】を獲得しました〉



突然、脳内――いや 草脳?に機械的な音声が響いた。



【不屈の雑草魂】



•いかなる踏圧、切断、炎上、毒、乾燥にも耐える

•踏まれるたびに耐久値が上昇

•光合成によりMPが無限回復

•生命力が異常に高く、時間経過で自己再生



「……え?」



何度か読み直して、ようやく意味を理解する。

いや、待て待て待て。

俺、不死身じゃね?



俺が状況を整理する暇もなく、通行人が何気なく俺を踏んでいった。



ぐしゃっ。



〈耐久値 +1〉



ぐしゃっ。



〈耐久値 +1〉



ぐしゃぐしゃぐしゃっ。



〈耐久値 +5〉



……おいおい、なんかすごい勢いでレベルアップしてねぇか?

というか、これ 「踏まれれば踏まれるほど強くなる系のスキル」 じゃん。



そして気づく。

踏まれるたびに俺の根は地面へと深く食い込み、地中の水分を吸収しやすくなっていく。

まるで大地そのものと一体化していく感覚。



「これ、成長してる……?」



最初こそ「痛み」の概念があったが、数十分もすると慣れてきた。

いや、むしろ 踏まれるたびに快感を感じるようになってきた。

「もっと踏め!」とすら思えてくる。



俺は雑草として覚醒してしまったのかもしれない。



そんなときだった。

通行人の一人が足を止め、俺を見下ろしながら眉をひそめた。



「おい、ここの雑草、なんかヤバくね?」



「……ほんとだ。さっき抜いたはずなのに、もう生えてる」

「まさか、魔植物か?」



違うよ、俺はただの草だよ。……いや、違うか。

俺は 「最強の雑草」 なんだったな。



やがて俺は広場の名物 になった。



•「なぜか枯れない草」として、子どもたちの遊び道具にされる。

•「聖なる土地の象徴」として、一部の住民に崇められる。

•「魔族の呪いでは?」と、神官が除草に乗り出す。

•「こいつを利用すれば永久に食料が……?」と、王国の学者が研究を始める。



俺はただ生えているだけ なのに、噂がどんどん広まり、勝手に「特別な存在」にされていく。



まさか雑草ひとつが町の騒動を巻き起こすとは、誰も思わなかっただろう。



そんなある日――



遠くから異様な音が聞こえてきた。



ドスン……ドスン……!



「なんだ?」



遠くの通りから、 騎士団の一団 が進軍してくるのが見えた。

皆、重厚な鎧をまとい、鋭い槍と剣を構えている。



「お、おい……あの草のために騎士団が来たのか?」



住民たちは騎士団の登場に驚愕し、広場がざわめき始めた。

 


俺だって驚いている。



隊列の先頭に立つのは、一人の老騎士。

鋭い目つきと深い皺が刻まれた顔。

その手には長年使い込まれた剣の柄が握られていた。



彼は俺をじっと見下ろし、厳粛な顔で静かに言う。



「これが……“伝説の厄介魔植物”か」



ちょっと待て!!



なんで雑草ひとつに討伐隊が編成されてんだ!?




第二章:討伐隊 vs 雑草



広場のざわめきが徐々に消え、かわりに 金属のこすれる音が耳に響く。



ドスン……ドスン……



重厚な鎧の足音。



空気が張り詰めるのを感じた。

俺の葉の上にいた蟻たちすら、驚いたように慌ただしく動き出す。



「本当に討伐隊が来たのか……?」



通行人たちの間から、不安そうな声が漏れる。

その視線の先には 10人ほどの騎士団が、堂々と広場に入ってくる姿。



「バカな……雑草を討伐するために騎士団が動くなんて……!」



俺もバカなと思うよ。

けど、現実問題として目の前には本物の討伐隊がいる。




隊列の先頭に立つのは、一人の壮年の騎士だった。



老騎士アルフレッド・ガルヴァン。

王国騎士団の副団長を務める、歴戦の勇士。



顔には深い皺が刻まれ、鋭い眼光を持ち、口元には戦場で鍛えられた緊張感が漂っている。

長年の戦いの中で培われた風格があり、佇まい一つとってもただ者ではないことがわかる。



彼はゆっくりと俺(雑草)を見下ろし、険しい表情のまま、静かに口を開いた。



「これが……“伝説の厄介魔植物”か」



いや、ちょっと待て。

「伝説の」ってなんだ?



俺はただの雑草だ。

気づいたら踏まれ続けていただけだし、特に世界に影響を与えた覚えもない。



……まあ、無限に再生して踏まれるたびに成長していたから、周囲から見たら 「異常な植物」 ではあったんだろう。



だが、討伐隊が出るほどの脅威だったとは、正直思っていなかった。




アルフレッドの隣には、まだ若い騎士が緊張した面持ちで立っていた。



セドリック・レインフォード。

20歳そこそこの新米騎士。

だが、彼の身に着けた銀色の鎧には、一切の無駄がなく、きちんと手入れされている。

槍を握る手は固く、それでもわずかに震えている。



「(なんで俺……雑草討伐なんかに……)」



彼の表情から、心の声がダダ漏れだった。

この討伐任務に、明らかに納得していない顔をしている。



そりゃそうだ。



普通、騎士団が出動するのは、ゴブリンの群れや盗賊、邪教の集団の討伐などの重大な任務のはずだ。



だが、今回の相手は 「雑草」。



騎士としての誇りを持っているセドリックにとって、こんなふざけた討伐命令は納得できるはずがない。




「騎士団が……草を討伐する……?」



「いや、どう考えてもおかしいだろ……」



「でも、あの草……何度抜いても生えてくるんだぞ……?」



住民たちは口々にささやき合い、広場の空気は異様な緊張感 に包まれた。



一方、俺はただ静かに生えていた。

だって、何もできない。

俺の体は根を張るしかできない植物だから。



騎士団を目の前にして、俺にできるのは、ただそこに在ることだけ。



……でも、俺は知っている。

このスキル【不屈の雑草魂】があれば、「どんな攻撃を受けても再生する」ことを。



 

「では――討伐を開始する!」



アルフレッドが静かに剣を抜いた。



周囲の騎士たちも、それに続くように槍や剣を構える。

まるで、ゴブリンの巣窟を潰しにいくかのような重々しい空気。



「お、おい……雑草相手にそんなガチで行くのか?」



「お前も見ただろ。あの草は普通じゃないんだ……」



住民たちも息を呑む。




最初の一撃は、 セドリックの槍だった。



「……すまない。」



申し訳なさそうに言うと、彼は全力で槍を振り下ろした。



ズバッ!!



槍の切っ先が俺(雑草)を突き刺し、

一瞬、視界が真っ暗になる。



――だが。



〈自己再生が発動しました〉



俺の身体は一瞬で元通りになった。




「……なに?」



槍を引き抜いたセドリックが信じられないという顔をしている。



「たしかに突いた……なのに、もう元に戻っている……?」



「そんな……!!」



騎士たちがざわめく。



アルフレッドは鋭い眼差しで俺を見つめ、低く言った。



「……やはり、これは尋常ならざる魔植物だ。」




「炎魔法部隊、前へ!」



アルフレッドの指示で、後方にいた魔法兵たちが前に出る。



「やっぱり燃やすのが一番手っ取り早いだろ!」



「雑草ごとき、灰にしてやる!」



魔法兵たちが炎の魔法陣を展開し、広場の上空に赤々とした炎の塊が生まれた。



「……え、これ本気でやるの?」



セドリックがドン引きしている。



だが、俺は焦らない。



炎魔法が放たれた瞬間、俺のスキルが発動する。



〈炎上耐性が発動しました〉

〈自己再生が発動しました〉




「……ダメだ、燃えてもすぐに再生する!!」



「なんてしぶとい草だ!!」



騎士たちが焦りの表情 を見せる。



アルフレッドは黙って剣を収めると、こう言った。



「――撤退する。」



騎士団は 完全に俺の生命力を前に、手を打てなくなった。



「雑草ごときに……負けた……?」



セドリックが呆然とつぶやく。


 



第三章:雑草 vs 王国の決断


「……撤退する。」



老騎士アルフレッドが静かにそう言い放ったとき、広場の空気は 異様な沈黙に包まれた。



「ま、待て!本当に撤退するのか?」

「相手は……雑草だぞ?」



騎士たちの顔には、 信じられないという表情が浮かんでいる。



そりゃそうだ。



俺はただ生えていただけなのに、王国の精鋭たちが 「勝てない」と判断して撤退することになったのだから。



だが、アルフレッドの表情は微動だにしない。



「これ以上の討伐は無意味だ。」



彼は短くそう言い放つと、剣を鞘に納め、騎士たちに帰還の指示を出した。



「ただの雑草に、騎士団が敗れた」



この事実が、静かに王国全土に波紋を広げていくことになる――。


 


王都 セントラル・ガルム。

その中心にそびえ立つ王城 の奥深く、金色の装飾が施された広大な執務室で、一人の男が報告を受けていた。



王国軍最高司令官 グレゴール・バルフォード公爵。



年齢は五十代半ば。

強面で無駄のない体つき。

かつて王国最大の内戦を指揮した歴戦の名将であり、王国軍の頂点に立つ男 だった。



彼は、目の前に跪く老騎士アルフレッドを睨みながら、報告書を手に取り、低い声でつぶやく。



「……雑草に敗れた?」


 


執務室の空気が重く沈んだ。



グレゴールの周囲には、王国の軍務を担う十数名の将官たちが集まっていた。

彼らは、一様に難しい表情を浮かべている。



「報告に誤りはないのか?」



ある将官が、訝しげな視線でアルフレッドを見つめる。



「王国最強の騎士団が……たかが雑草に敗れたというのか?」



「草の討伐に失敗したなど、前代未聞だ!」



「いや、魔法でも焼き尽くせなかったのだろう?それはもう通常の生物ではない。」



将官たちは口々に議論を始めた。



一方、アルフレッドは静かにその場に跪いたまま、表情を変えない。



そして、グレゴールが低く鋭い声で問いかける。



「アルフレッド、お前の見解を聞こう。」



アルフレッドは厳かに頭を下げ、静かに語り始めた。



「……閣下。我々は、あの植物を通常の生命体と判断すべきではありません。」



「ふむ。」



「何度踏み潰しても再生し、槍で突いても再生し、炎で焼いても再生する。」



「そして……時間が経つごとに、強くなっているのです。」



この言葉に、会議室の空気が一気に張り詰めた。



「……強くなっている?」



「つまり、放置すればさらに成長するということか?」



「それがどこまで広がるのか、予測はできない。」



アルフレッドの言葉に、場にいた全員が重苦しい沈黙に包まれた。


 


そして――



その時、執務室の奥の扉が静かに開かれた。



「――騒がしいな。」



入ってきたのは、一人の壮年の男。



王国の主、アレクシス三世。



白髪混じりの金髪を後ろで束ね、優雅な紺色の礼服を纏った姿は、まさに 「王の威厳」をそのまま体現したような人物だった。



「雑草が、王国にとっての脅威となるというのか?」



王の低い声が、静かに室内を満たす。



「……閣下。今はそう判断せざるを得ません。」



アルフレッドが 迷いなくそう答えた。



しばしの沈黙の後、アレクシス三世はゆっくりと息を吐き、そして王としての決断を下した。



「よかろう――」



「学術院に命じ、あの雑草の生態を徹底的に解析させよ。」



「また、もしその研究により対処不能と判断された場合――」



王は静かに言葉を続ける。



「“神聖爆裂術”の使用を許可する。」



この言葉に、室内が凍りついた。



「――ま、待て、陛下!!」



将官の一人が驚愕の表情で立ち上がる。



「神聖爆裂術とは……かつて魔王城の一角を吹き飛ばした、あの禁呪ではありませんか!」



「そんなものを……たかが雑草に!?」



しかし、国王の表情は揺るがない。



「“たかが雑草”……か。だが、その“たかが雑草”が、我が騎士団を敗北に追いやったのだ。」



「もし……このまま放置し、あの植物が 増殖し続ける存在だったなら……?」



将官たちは言葉を失った。


 


こうして――



俺を巡る王国最大級の作戦 が決定した。



・ 王国学術院による徹底研究

・ 国家規模の調査

・ 最終手段としての“神聖爆裂術”


 



……おいおい、話がデカくなりすぎだろ。



俺はただ生えてるだけなのに、いつの間にか王国が俺を滅ぼすために本気を出し始めていた。



「……まあ、いいか。」



俺は 静かに葉を揺らし、太陽の光を浴びる。

光合成によってエネルギーが満たされ、今日も俺は確実に成長しているのを感じた。



「――このまま俺が進化したら、世界はどうなるんだろうな?」



俺はただの雑草。

けれど、俺はただの雑草ではない。



「……楽しみになってきたじゃねぇか。」





第四章:王国学術院と神聖爆裂術



「――おい、聞いたか?」



「聞いたも何も……国王陛下直々の命令だぞ……!」



王都セントラル・ガルムの中心部、王立学術院。

ここは、王国のあらゆる知識と研究の集約地であり、最高峰の魔導学者たちや生物学者、錬金術師らが集う場所だった。



普段は学者たちが 優雅に研究を進めるこの場所に、今、かつてない緊急事態の雰囲気が漂っている。



なぜなら――



「……雑草の研究だと?」



王国の最高魔導学者であるマルクス・グリフィス は、目の前に差し出された命令書をまじまじと見つめたまま、沈黙した。



彼は長い白髭を撫でながら、ゆっくりと口を開く。



「つまり……我が王国は、 雑草を相手に国家総動員をかけようとしているわけだな?」



命令書には、「王国学術院に対し、広場に生える謎の植物の調査を命ずる」と書かれている。



「……魔族の侵攻でもなく、未確認の魔物でもなく、雑草だと?」



学者たちがざわめく。



「しかし、その雑草は……王国最強の騎士団を退けた。」



「報告では、踏まれても切られても燃やされても、再生する。」



「まるで、不死の存在だ。」



「……いや、問題はそこではない。」



マルクスは命令書を机に置き、厳しい表情で告げる。



「陛下はもしこの植物が制御不能と判断された場合、“神聖爆裂術”の使用を許可すると明言された。」



その瞬間、室内の温度が下がるような感覚があった。



「……神聖爆裂術……」



「かつて、魔王城の一角を吹き飛ばした伝説の禁呪……」



「そんなものを、たかが雑草に……?」



「いいや、もはや“たかが”ではない。」



マルクスは静かに言い放った。



「この植物が増殖し続けたら、世界はどうなる?」



学者たちは誰も答えられなかった。


 


翌日――。



学術院の最高級の魔導機器と生体分析装置が広場に運び込まれた。



「対象の植物を、根元から切断する!」



数名の助手が、慎重に俺(雑草)の一部を刈り取る。



ザクッ。



〈自己再生が発動しました〉



……まあ、知ってた。

すぐに復活した。



学者たちは驚愕した顔で俺を見つめる。



「……まったく同じ状態に戻った……!?」



「傷跡すら残っていない。まるで、時を巻き戻したような再生速度……」



マルクスは腕を組み、じっと観察する。



「では、炎魔法で――」



ゴォォォォッッ!!



火炎魔法が俺を包む。

そして――



〈炎上耐性が発動しました〉

〈自己再生が発動しました〉



俺は完全に元通りになった。



「……ふむ。これほどの生命力を持つ植物は、前例がない。」



学者たちは顔を見合わせる。



「先生、これは……もはや単なる植物とは言えません!」



「これは新種では?」



「いや、新種というよりも“新たな存在”だ。」



マルクスは深刻な表情を浮かべた。



「報告をまとめよう……この植物は、人類がこれまでに出会ったことのない生命体だ。」




王城の奥深く、地下に広がる魔導研究室。



ここでは、王国最強の宮廷魔導士たちが、王の命令を受け “神聖爆裂術”の発動準備を進めていた。



「陛下より、発動命令が下った……」



魔導士長 カリオス・フェルドが静かに言う。



「かの禁呪を……本当に使用するのか?」



「王命だ。準備を進めよ。」



神聖爆裂術。



王国最強の対魔王級魔法 であり、これまでに二度しか使用されたことがない。



一度目は 千年前の魔王討伐。

二度目は 三百年前の大規模侵攻で、悪竜の巣窟を殲滅したとき。



それが今、雑草に向けられようとしている。



「……バカな話だ。」



若い魔導士が苦々しく呟く。



「俺たちは今、王国の命運をかけた魔法を……雑草に撃とうとしている。」



「だが、その雑草は……我々が知るどんな魔物よりも、不死に近い。」



「……本当に、これで滅ぼせるのか?」



誰も、答えられなかった。




そして――



王国の要人たちが集まり、最後の決断が下されようとしていた。



「学術院の報告では、対象の植物は 現存する生物とは比較にならない生命力を持つとのこと。」



「もはや通常の手段では対処不能。」



「ゆえに――神聖爆裂術を発動する。」



国王アレクシス三世の重々しい宣言に、将官たちは誰一人反論しなかった。



「ただし、これが最後の手段だ。」



「もしこれで滅びなければ……」



国王は沈痛な表情で言った。



「――王国は、この草に支配されることになる。」




そんなことが話し合われている間も、俺は静かに広場で生え続けていた。



太陽の光が降り注ぐ。

風が俺の葉を撫でる。



光合成が進み、俺の根はさらに強く、深く地中へと広がっていく。



……なんだろう。



“自分が、何かとんでもないものになりつつある” という感覚がある。



「……さて、どうなるかね。」



俺は静かに葉を揺らした。





第五章:神聖爆裂術、発動



王都 セントラル・ガルム。



夜が明け、太陽が地平線から昇ると同時に、

王国軍は静かに 「作戦決行」の準備を始めた。



この日、王国史上最も奇妙な戦いが始まる。



なぜなら――



「標的は “雑草” だ。」



王国魔導兵団が、広場に結集する。

その中央には 魔法陣 が描かれ、王国最強の魔導士たちが 重厚な儀式の準備を進めていた。



その中心に立つのは、宮廷魔導士長 カリオス・フェルド。



彼は威厳ある態度 で周囲の魔導士たちを見渡し、低く命じた。



「――神聖爆裂術、発動準備を開始する。」




「たかが雑草に、神聖爆裂術……」



若き宮廷魔導士 ルー・アルフォード は、魔法陣を前にして複雑な感情を抱えていた。



「……これ、本当にやるんですか?」



隣に立つ魔導士 セリア・マグナス も、苦々しい顔でため息をつく。



「命令だからね。でも…… さすがにこれは、やりすぎじゃない?」



「うん。だって、これってつまり…… “草一本に、国の最終兵器をぶっ放す” ってことでしょ?」



ルーは、魔法陣の中心に ただ生えているだけの雑草を見つめた。



俺(雑草)は、相変わらず 微動だにせず、ただ存在しているだけ。



光合成をしながら、ゆるやかに葉を揺らしていた。


 


そんな中――



老騎士 アルフレッド・ガルヴァンは、神妙な顔で遠くから広場を見つめていた。



「……本当にこれで終わるのか?」



彼は戦場の勘というものを持っている。



数々の戦を潜り抜け、幾多の魔物や敵国の軍勢をその剣で打ち破ってきた。



だが、今回の敵は 「雑草」。



「俺の経験上……“こういう敵” は、簡単には終わらない。」



アルフレッドの胸騒ぎは、ますます強くなっていく。




「……発動するぞ!!」



カリオスの号令とともに、魔導士たちは詠唱を開始した。



魔法陣が青白く輝き、大気がピリピリと震え始める。



地面が震え、空気が揺れる。まるで、世界そのものが警戒しているかのような感覚。



そして――



「……解き放て!」



――神聖爆裂術、発動!!



ゴォォォォォッッッ!!!



閃光が、世界を飲み込んだ。



――ドォォォォン!!!



爆発が起きた瞬間、


 

広場は 灼熱の閃光 に包まれた。



地面が砕け、空気が震える。

音という概念すら消し去るほどの破壊的な衝撃波が、周囲を吹き飛ばした。



衝撃波は王都全域に響き渡り、城壁すらわずかに揺れるほどの威力だった。



「……こ、これが神聖爆裂術……」



ルーが 息を呑む。



「……あの広場が、丸ごと消えた……!」



雑草どころか、大地そのものが蒸発していた。




だが――



「……いや、待て。」



アルフレッドの眉がピクリと動く。



「……あれを、見ろ。」



煙が晴れたその先――



そこに何かが、存在していた。





〈自己再生が発動しました〉


 



……そう、俺は 無事だった。



 

「……バカな……」



カリオスが呆然とつぶやく。



「神聖爆裂術を……受けて、生きている……?」



 


学者たち、魔導士たち、すべての者が言葉を失った。



 


――王国最強の魔法が、効かない。



 


それは、王国にとって “希望の崩壊” を意味した。



「……陛下に、報告を……」



カリオスの手は、微かに震えていた。




そんな王国全体の絶望をよそに、俺はただ静かに光合成をしていた。



「……また、強くなった気がするな。」



神聖爆裂術を受けたことで、俺の耐久値はさらに上昇した。



根はより深く、強くなり、葉はより青々と、しなやかになっていた。



俺は、進化している。



「……これ、俺、世界征服できるんじゃね?」



そんなとんでもない考えが、ふと浮かんだ。



 

この瞬間――



世界は俺(雑草)を、“ただの植物”とは見なさなくなった。



王国は未知の脅威として俺を正式に認定し、次なる手を打つことを余儀なくされた。



これは、もはや “雑草問題”ではない。



 


王国最大の危機――

“草の侵略” が、ここに始まろうとしていた。




 


第六章:世界が動き出す――「雑草の脅威」




「神聖爆裂術を受けても、雑草が生存……?」



国王 アレクシス三世 は、報告書を握りしめながら深く息を吐いた。



「……報告に誤りはないのか?」



王国最高魔導士 カリオス・フェルドは、顔を青ざめたまま、無言で深く頷く。



「陛下……神聖爆裂術の直撃を受けたにも関わらず、あの草は完全に自己再生しました。」



「それどころか、さらに成長している形跡すらあります。」



「不死」……それが、王国全土を覆う恐怖となった。



広場に生えているたった一本の雑草が、王国最強の戦力を無効化した事実。



それは王国の根幹を揺るがす脅威となりつつあった。




緊急評議会の中、王国軍副司令官 アルフレッド・ガルヴァンは、静かに深い思案の表情を浮かべていた。



「……陛下。」



彼は重々しく口を開く。



「今回の件で、私はある結論に至りました。」



国王が鋭い眼差しで応じる。



「言え。」



「――もはや、あの草をただの“植物”として扱うべきではありません。」



その言葉に、室内の空気が張り詰める。



「草として認識することをやめ、ひとつの『生命体』あるいは『未知の生物』として扱うべきです。」



「……何?」



「私はこれまでの戦いの経験から確信しています。」



アルフレッドは鋭い眼差しで言葉を続けた。



「“真に恐ろしい敵” とは……剣で切れぬもの、魔法で焼けぬもの、そして、殺せぬもの。」



「つまり、あの草は……『世界のルールから外れた存在』 なのではないかと。」



評議会の面々は絶句する。



カリオスが、震える声で尋ねた。



「……つまり、それは……」



アルフレッドははっきりと断言した。



「――“神が生み出したものではない存在” かもしれない、ということです。」



その瞬間、評議会に集まった貴族や軍人、魔導士たちは一斉に息を呑んだ。




一方、王国学術院では、あの「雑草」の徹底解析が続いていた。



王国最高の学者 マルクス・グリフィス は、研究所に山積みになった資料を見つめ、 苛立ちの表情を浮かべる。



「……おかしい……おかしいぞ……!」



彼は机を叩き、立ち上がる。



「どんなに分析を重ねても、この植物の細胞は “通常の生命体” の法則に当てはまらない……!」



「……それどころか……」



助手が震える手で、最新の解析結果を差し出す。



「マルクス先生……これを……」



マルクスが目を通した瞬間、顔が青ざめる。



「――馬鹿な……!!」



報告書にはこう記されていた。



《雑草の細胞分析結果》



•細胞が常に活性化し続ける。

•完全な自己修復機能を持つ。

•通常の生命体と異なり、老化の兆候が見られない。

•むしろ時間とともに“進化”している。



「……これが、意味することは……」



マルクスの額に冷や汗が流れる。



「――この雑草は、自然界の摂理を超越している。」




王国はただちに異常事態宣言を発令。



「王都周辺の村々に通達せよ。『不死の雑草』に関する情報を集めるのだ。」



「王国全土の聖職者に命じ、この現象が神の試練なのか、それとも異端のものかを判定させろ。」



すでにこれは「国の問題」ではなく、「世界の問題」になりつつあった。



 

その間も、俺はただ静かに生えていた。



太陽の光を浴び、

風を感じ、

ゆっくりと根を張る。



だが――俺は 確実に変わり始めていた。



「……なんだ、この感覚?」



何かが俺の中で目覚め始めている。



俺は“ただの草”のままでいられるのか?



 

その頃、遥か遠くの大陸。



魔王城の玉座に、黒き鎧をまとった 魔王バルゼリスが座っていた。



彼は従者からの報告を受け、鋭い眼差しを向ける。



「……王国で“妙な草”が問題になっている?」



「はっ……『神聖爆裂術を受けても滅びなかった植物』 だとか……。」



魔王は、興味深げに不敵な笑みを浮かべた。



「――面白い。その“妙な草”を捕らえて、我が軍の力にしろ。」



「は!かしこまりました!」



跪いていた従者は、魔王の命令を聞くなり、スッと霧の如くゆらめき消えた。




世界が、俺(雑草)を中心に動き出していた。



王国は、俺(雑草)の存在に 本格的に危機感を抱き始めた。



そして、異国の勢力が俺を手に入れようと動き始める。



もはや、これはただの雑草の話ではない。



これは 「世界の勢力図を塗り替える戦い」 になりつつあった。



「……さて、俺はどうするかな?」



俺は静かに葉を揺らした。





第七章:狙われる雑草――「世界の覇権を握るもの」




「……つまり、我が国は “一本の雑草” を巡って、戦争をする可能性があると?」



国王 アレクシス三世 は、報告書を手にしながら 重々しい表情を浮かべた。



報告の内容は驚愕すべきもの だった。



•魔王軍が「不死の雑草」を手に入れようと動き出している。

•東方の帝国も、密かに情報を集めている。

•この雑草が「兵器」として利用できる可能性がある。



「……どうやら、これはもはや草の問題ではないようだな。」



王国の将官たちは誰一人、冗談だと思っていなかった。




「陛下。」



王国軍副司令官 アルフレッド・ガルヴァン が進み出る。



彼の顔には、いつになく深い緊張 が浮かんでいた。



「この雑草が “脅威” であることは疑いようもありません。」



「しかし――もし 敵国がこれを利用した場合、王国はどうなりますか?」



その言葉に、室内が静まり返る。



「もし……この雑草を魔王軍が手に入れた場合、“再生する軍隊” が生まれる可能性がある。」



「つまり、我々は「不死の兵士」を相手に戦うことになるのです。」



この発言に、将軍たちは一斉に顔を青ざめた。



「そんなことになれば……戦争にならない!」



「いかなる攻撃も効かない敵軍など、戦場では最悪の脅威 だ!」



アルフレッドは静かに剣の柄を握る。



「……よって、陛下。私は この雑草の“封印” を提案いたします。」



「封印……?」



「もはや 討伐は不可能。しかし、根絶もできない以上、この草をどこかに封じるしかありません。」




その頃、王国学術院では――



「……やはり、この植物は完全に“世界の法則”を超えている。」



学者 マルクス・グリフィス は、疲れ切った表情で報告書をまとめていた。



「この草は、老化しない。むしろ時間が経つごとに、より強くなっている。」



「つまり……もし放置すれば 際限なく成長し続ける可能性がある。」



その言葉に、助手たちは絶句した。



「それって……」



「この草は、“進化する” ということですか?」



「そうだ。」



マルクスは深く息を吐く。



「だが、一つ確かなことがある。」



「もし この雑草が「意思」を持っていたなら――」



「……?」



「この世界は、すでに終わっているかもしれない。」

 




第八章:開戦――「雑草争奪戦」




王国軍本部。

作戦室には、重苦しい空気が漂っていた。



広がる地図の中央には、たった一本の雑草を示す印。



「王国の命運が、この草にかかっている――」



そう言われても、誰も冗談だと思わなかった。



王国軍最高司令官 グレゴール・バルフォード公爵は、険しい顔で、作戦書を机に叩きつけた。



「……くだらん。我々は一体、何をやっているのだ?」



「王国最強の軍が、“雑草” を封印するために総力を挙げる――?こんな話があるか!!」



彼の言葉に、王国軍の将官たちが顔を伏せる。



「しかし、それを放置すれば、世界が滅ぶ可能性があるのです。」



静かに発言したのは、老騎士アルフレッド・ガルヴァンだった。



「……私も、こんなことを言いたくはない。」



「だが、すでに魔王軍がこの草を狙って動き出している。」



「もはやこれは草の問題ではなく、戦争なのです。」



グレゴールは苦々しい表情で天を仰ぐ。



「……わかった。全軍に命令を下せ。王都の“地下封印区画”を開放し、この草をそこに封じ込める。」



「それまでの間、王国精鋭部隊が、この草を護衛せよ!!」



 

その頃――



王国北部、密林地帯。



「……動くぞ。」



闇の中、黒いマントを纏った男が低く呟いた。



魔王直属の暗殺部隊 《影の牙》 の隊長 ザルヴァーク だった。



「王国の動きは読めた。」



「奴らはあの草を封印しようとしている。」



「ならば――」



「その前に奪い取るのみだ。」



影のように動く数十の暗殺兵たち。



彼らは王国の防衛ラインをすり抜け、夜の王都へと忍び寄る。



その頃、俺は 相変わらず広場に生えていた。



だが――



「……ん?」



何かが 変だ。



俺の根が、何か 「異様なもの」 を感じ取っていた。



地中に張り巡らせた根が、遠くから近づいてくる何かの気配を感知している。



「……敵意?」



人間や魔物の 「殺意」 のようなものが、微かに伝わってきていた。



「なんだこれ……?」



俺は 「感覚」を持っているはずがない。

ただの雑草なんだから。



だが、この瞬間――



俺の中に 新たな能力が目覚めかけていた。



深夜。



王都の防衛部隊が異変を察知した。



「なにかがおかしい……」



巡回中の兵士が不審な気配 に気づく。



「……!!」



暗闇の中、突如として矢が放たれた。



「――伏せろ!!!」



直後、王都の城門に闇色の刃が突き立った。



「くそっ……敵襲か!!」



「魔王軍が来たぞ!!」



「王国の誇りを見せよ!!全軍、迎撃に移れ!!」



王国騎士団が、一斉に魔王軍の暗殺兵たちを迎え撃つ。



「……どうやら、始まったようだな。」



老騎士 アルフレッドは静かに剣を抜く。



「絶対に、あの草を奪わせるな。」



騎士団が剣を交える音が響く。



だが、相手は魔王軍の暗殺部隊。



「速い……!!」



影のように動く敵兵たちが、次々と王国兵を斬り伏せていく。



「……厄介な奴らだ。」



アルフレッドは静かに呼吸を整え、


 

次の瞬間――



ズバッ!!



鋭い太刀筋が 一瞬にして三人の暗殺兵を両断した。



「――老騎士の動きではないな。」



ザルヴァークがアルフレッドを見据える。



「王国最強の騎士……。相手にとって不足なし、か。」



魔王軍 影の牙の隊長 vs 老騎士アルフレッド。



王都の戦場で、二人の剣士が対峙する。



 

その一方で俺は異変を感じ続けていた。



「……なんか、すげぇやばい雰囲気なんだが?」



俺の根が地中の振動を捉えていた。



「俺、今まで草として何も考えてこなかったけどさ……」



「これって、もしかして……」



俺の「意識」が、徐々にはっきりとしていく。



「――俺、意識持ち始めてない?」



そして――



俺の中で 何かが覚醒した。



〈スキル【大地の感覚】を獲得しました〉



「……スキル?」



新たな力が、俺の中で目覚めようとしていた。




王都が炎に包まれる。



魔王軍と王国軍が激突する夜。



そのすべては、「最強の雑草」 を巡る戦争だった。



「……さて、どうするかな?」



俺は静かに葉を揺らした。





第九章:戦場の決着――「目覚める雑草」



王都 セントラル・ガルムは、未曾有の戦火に包まれていた。



「魔王軍の暗殺部隊、突破!!」



「守備隊は全滅……!敵が広場に向かっています!!」



報告を受けた王国軍本部は、戦慄した。



王国騎士団の精鋭が守るにもかかわらず、魔王軍の影の牙は、それを次々と突破 していた。



「くそっ……!奴らの狙いは明白だ……!!」



グレゴール・バルフォード公爵は拳を握りしめる。



「――奴らの目的はあの草の強奪だ!!」



「騎士団よ、最終防衛ラインへ向かえ!!」



「何としても、雑草を死守せよ!!」




広場へ続く最後の通路。



そこに立ちはだかるのは――



王国最強の騎士、アルフレッド・ガルヴァン。



対するは、魔王軍 影の牙の隊長、ザルヴァーク。



二人の戦士は、じっと互いを見据えた。



「……貴様が、王国最強の剣士アルフレッド・ガルヴァンか…。」



「そういう貴様は、魔王の暗殺部隊 《影の牙》を束ねるザルヴァーク卿だな。」



静かな空気。

緊張が張り詰める。



緊張を破るように不意にザルヴァークは、影のように消えた。



「……!!」



次の瞬間、音もなく剣が振るわれる。



ザシュッ!



アルフレッドは、ギリギリのところで剣を受け止めた。



「フッ……さすがだな。」



「貴様もな。」



互いに、一歩も引かない。



だが――



「……時間がない。貴様に構っている暇はないのだ。」



ザルヴァークは、ニヤリと笑うと、一瞬で暗闇に滲んで溶け込むように消え去った。



「――くっ!」



アルフレッドが振り向くと、ザルヴァークはすでに広場へと向かっていた。



 

「……ここか。」



ザルヴァークは、ついに目標を目の前にした。



そう、魔王軍が追い求めたもの――



“不死の雑草” がそこにあった。



ただし、彼の目の前に広がる光景は、異様だった。



「……これは……?」



雑草は静かに揺れていた。



風にそよぐだけの、ただの草。



しかし――



「……何かが違う。」



ザルヴァークの戦士としての本能が、警鐘を鳴らしていた。



「この草……」



「……生きている。」




ザルヴァークの視線を感じながら、俺は静かに自分の「変化」に気づいていた。



「……俺、完全におかしいことになってないか?」



数日前までは、ただの草として生えていた。



だが今――



「……“意識”がある。」



俺は 「考える」ことができるようになっていた。



そして――



「感覚」 がある。



地面の振動、

空気の流れ、

敵意、殺気、警戒心――



それらが 「根」を通じて伝わってきている。




〈スキル【大地の感覚】が発動しました〉



「……お?」



何かが見える。



俺の意識の中に、「地中に広がる根のネットワーク」 のようなものが浮かんだ。



「……これ、まさか……?」



俺の根は、この地面全体に張り巡らされていた。



「……つまり、俺は “この大地そのもの” になっている……?」


 

ザルヴァークがゆっくりと剣を抜いた。



「悪いが……」



「俺は、お前を回収する任務を受けている。」



「――大人しく魔王様の下へ来てもらうぞ。」



だが、



「……いや、悪いけどさ。」



俺は、静かに葉を揺らした。



「俺、雑草なんだけど?」



ゴゴゴゴ……ッ!!



突如、地面が激しく震えた。



「……何ッ?」



ザルヴァークが身構えた瞬間――



「根」が動いた。



 

「ッ!?」



ザルヴァークの足元から、無数の「根」が飛び出した。



それは、まるで蛇のように蠢きながら、彼を捕えようとする。



「バカな……!!」



ザルヴァークは瞬時に剣を振るい、根を次々と切り裂く。



だが――



「――ッ!!」



彼の動きを見透かしていたかのように、別の方向からさらに大量の根が迫ってくる。



「これは……『戦い』なのか!?」




「……へぇ。」



俺は、自分の「力」に驚いていた。



「俺、攻撃できるんだな。」



これまでの俺は、踏まれても、燃やされても、耐えるだけの存在だった。



だが、今――



俺は 「自分から動ける」ようになっている。



「もしかして、これ……」



「俺、もうただの草じゃねぇな?」



 

ズバッ!!



最後の一撃が、ザルヴァークの肩を鋭く貫いた。



「……ッ!!」



彼は膝をついた。



「バカな……雑草に……!」



血を流しながら、ザルヴァークは悔しそうに顔を歪める。

「こいつは……もう……草じゃない……」




「……お疲れ。」



俺はゆっくりと根を引っ込めた。



「まぁ……俺は ここで生えてるだけだからさ。」



王国 vs 魔王軍の 第一戦は



まさかの 「雑草の勝利」 に終わったのだった。





第十章:進化する雑草――「新たなる存在」



王都 セントラル・ガルムの広場。



かつて人々が行き交い、穏やかな日常が広がっていたこの場所は



今、戦場の静寂に包まれていた。



王国軍の兵士たちは、ぼろぼろになりながらも剣を握りしめる。



「……終わったのか?」



王都を襲った魔王軍の影の牙は、そのほとんどが撃退された。



しかし――



この戦いの本当の勝者は、



王国でも、魔王軍でもなかった。



 

地面には、魔王軍の死傷者。



剣と血に染まった戦場のただ中で、



「……俺、やっちまったな?」



俺は何食わぬ顔(葉?)でそこにいた。




俺の勝利。



 

……いや、待て待て。



俺 雑草だぞ?



なんで 王国 vs 魔王軍の戦いを“雑草”が制したことになってんの?



「俺、ただ生えてるだけなんだけどな……」



……いや、違うか。



俺、もうただの草じゃないんだよな。



 

「ぐっ……」



魔王軍 影の牙の隊長、ザルヴァーク は膝をつき、血を流しながら俺(雑草)を見上げていた。



「……バカな……」



「俺は……この国で最も強い暗殺者……」



「だというのに……俺が……」



彼の目には、もはや恐怖しかなかった。



「こんな……雑草に……!!」



 


俺は風にそよぎながら、



「いや、俺、草なんだけどな?」



と、葉を軽く揺らした。



 



俺の中で、何かが変わりつつあった。



「……また、力が増してる?」



俺の根が、地中深くへと広がっているのを感じる。



それだけじゃない。



俺の葉からは、これまでとは違うエネルギーの流れが感じられた。



「……え、俺……」



「魔力持ってね?」



 

〈スキル【大地の支配】を獲得しました〉



 


「……ほう?」



このスキルの効果は、異常 だった。



•【大地の支配】

•自分の根が触れた範囲の土地を支配する

•触れた土地にある栄養・魔力を吸収できる

•大地に根付く全ての植物を自在に操作可能



「……え?」



俺は一瞬で理解した。



――これ、俺、「世界を侵略する」能力じゃね?




「……貴様……まさか……!!」



その時、戦場を見つめていた老騎士アルフレッド・ガルヴァンの表情が変わった。



彼は、ゆっくりと剣を納めながら、俺を見つめる。



「……これは……もはや……」



彼の中で、確信に変わる 「恐怖」 があった。



「この雑草は、すでに生態系の頂点に立とうとしている。」



「……ザルヴァーク、退くぞ。」



戦場の外から、低い威圧的な声が響いた。



「ッ!?」



俺(雑草)を見上げていたザルヴァーク は、その声に即座に反応する。



「魔王軍第二師団長……バラキア様……!?」



俺は葉を揺らした。



「……第二師団長?」



戦場の端に立っていたのは、長身の黒髪の男。



鎧も纏わず、ただ黒い外套を羽織ったその男は――



「魔王直属の四天王の一人」 だった。




バラキアは静かに俺を見下ろし、



「……フッ。」



「――この草を、魔王様に献上するのはまだ早いようだ。」



その言葉に、王国側の騎士たちは驚愕する。



「魔王軍は……この草を狙っているのか……!?」



バラキアは微かに笑いながら、



「……この草はまだ、進化の途中だ。」



「我らが手にするには、もう少し様子を見るとしよう。」



そして、ゆっくりと振り向く。



「――王国よ、覚えておけ。」



「これはもはや“戦争”ではない。」



「これは 『生存競争』 なのだ。」



魔王軍が撤退し、王国軍も深い安堵の息を漏らす。



戦争は、一旦の終息を迎えた――





しかし。



俺はその場で静かに生えていた。



「……俺、やっぱり世界のバランス崩してね?」



俺はただの雑草。



……だったはずなのに。




俺は成長し続けている。



俺は進化し続けている。



そして――



「……なんか、もう止まれねぇ気がするな。」



俺は静かに葉を揺らした。





第十一章:変革の始まり――「進化する世界」



王都 セントラル・ガルムは、戦火の傷跡を残しながらも、静けさを取り戻しつつあった。



王国軍 vs 魔王軍の戦いは終わった。



だが――



この戦争の本当の意味を理解している者は、まだ少ない。




王城の会議室。

王国の重臣たちが集まり、戦後の処理について話し合っていた。



「……まさか、本当に魔王軍が王都を襲撃するとは。」



「彼らの目的は “雑草” だったのですか?」



「ええ。しかし、結果的に撃退には成功しました。」



「だが――問題は、あの雑草そのものだ。」



王国軍副司令官 アルフレッド・ガルヴァンは、険しい表情のまま、机に拳を叩きつけた。



「問題は“雑草を守り切った”ことではない。」



「問題は“雑草が自ら戦った”ことだ。」



その言葉に、会議室の空気が凍りつく。



「……草が、戦った?」



「そうだ。」



アルフレッドは目を閉じ、戦場での光景を思い出す。



“地面から無数の根が飛び出し、敵を捕らえ、戦場を支配していく”



「……あれは、もはやただの植物ではない。」



「“新たな存在”が、この世界に誕生しつつあるのだ。」




その頃、王国学術院では、王国最強の学者 マルクス・グリフィス が、苦渋の表情で報告書をまとめていた。



「……結論が出た。」



「この雑草は――」



「“進化する存在” だ。」



周囲の研究者たちがどよめく。



「進化……?では、どこまで進化するのです?」



「それが問題なのだ。」



マルクスは額の汗を拭いながら、 静かに言った。



「これまでの理論では、植物は成長しても、根本的な「本質」は変わらないはずだった。」



「だが、この草は違う。」



「時間が経つにつれ――」



「“環境に適応し、変化していく”」



「――まるで、意思を持つ生物のように。」



研究者たちは息を呑む。



「……つまり、この雑草は……」



「将来的に、“植物”ではなくなる可能性がある……?」



マルクスは、静かに頷いた。



「我々は、今まさに「世界の変革」を目の当たりにしているのかもしれない。」




一方――



魔王城 ヴォーグデッドの謁見の間。



魔王 バルゼリスは、先日の戦いの報告を受けながら、静かに思案していた。



「……なるほど。」



「王国は雑草の封印を試みている。」



「だが、すでに“進化”は始まっている……か。」



魔王の前に跪くのは、魔王軍四天王の一人、バラキア。



「――魔王様。」



「このまま成長を放置すれば、」



「王国のみならず、世界全体に影響が出るでしょう。」



魔王は唸り声のように低くクックと笑う。



「……面白い。」



「では、王国が封じようとするならば――」



「我々が、その進化を促してやるまでよ。」



その言葉に、バラキアはとても楽しげにニヤリと微笑んだ。




一方、俺は 静かに葉を揺らしていた。



戦いは終わった。



でも――



俺の中で、確実に何かが変わっている。



「……あれ?」



俺の「視界」が、変わっている。



これまでは、ただぼんやりと周囲を感じるだけだったのに、今はよりはっきりと周りを“視る”ことができる。



「……これは、何だ?」



 

俺の根が地中に広がるにつれ、俺の「意識の範囲」も広がっているのを感じる。



〈スキル【大地の支配】が進化しました〉



「お、おい待て。」



「俺、進化しすぎじゃね?」


 

まるで、「限界」という枠を超えていくような感覚。



「これは……何だ?」



俺は、もうただの雑草ではない。



俺は 「進化」している。



そして、その進化は止まらない。



「……さて、これからどうなるんだろうな?」



俺は静かに葉を揺らした。






第十二章:覚醒する大地――「意思を持つ存在」


王都 セントラル・ガルムの広場。


かつて人々が行き交い、賑わいに満ちていた場所は、今や異様な空気を漂わせていた。


その中心には――


俺が、ただ静かに生えていた。


だが、周囲の兵士や住民たちは俺を恐れている。


「あの草は……もはや、ただの植物ではない。」


「王国最強の騎士団を退け、魔王軍を撃退した……。」


「それなのに……今も、そこに在り続けている。」


人々は、俺を 「神の恩恵」として崇める者と、「魔の災厄」として恐れる者に分かれ始めていた。


しかし――


どちらも、間違っている。


俺は神でも魔でもない。


俺は、ただの 「雑草」だったはずだ。


……だったのに。


 


王城、会議室。

王国の重鎮たちが集まり、今後の対応を協議していた。


「もはや、あの草は この王国の枠を超えた存在になりつつある。」


そう言ったのは、王国学術院の長、マルクス・グリフィス だった。


「我々は 長年、魔法や生物学を研究してきた。」


「だが、あの草は……“世界の理” を覆す可能性を秘めている。」


「これはもはや、王国の存亡に関わる問題ではないか?」


貴族たちはざわめいた。


「そんな大げさな……たかが植物に……」


「しかし、魔王軍は “あの草を奪おうとした” のだぞ!」


「なぜ、魔王はあの草に目をつけたのか?」


「それが、我々にとっての最大の脅威なのではないか?」


議論は混沌とし、意見が割れていく。


しかし――


「……陛下。」


老騎士 アルフレッド・ガルヴァンが静かに進み出た。


「王国の未来を守るため、私は “封印” を提案します。」


「もはや、討伐は不可能。」


「しかし、もしあの草がさらなる進化を遂げたなら――」


「この世界は、あの草によって侵食されるかもしれません。」


その言葉に、国王 アレクシス三世は深く息を吐いた。


「……封印を決行する。」


「王国最奥の 神聖地下区画 に、あの草を封じ込めよ。」


「絶対に、外部に影響を与えさせてはならぬ。」


こうして、王国は雑草封印作戦 を本格的に動かし始めた――。



一方、俺は新たな感覚を得ていた。


「……なんだ、これ?」


今までとは違う。


俺の「視界」が、さらに広がり始めている。


まるで、地中に広がる俺の根が、「世界と繋がり始めた」 かのような感覚。


「……もしかして、俺……」


「地球と一体化してね?」



〈スキル【大地の支配】が進化しました〉

〈新スキル【世界の根】を獲得しました〉


 


「……え?」


新たに得たスキルの詳細を確認する。


【世界の根】


•自身の根が触れた範囲の大地を支配する。

•根が広がるごとに、「世界の構造」を理解できる。

•環境の変化を察知し、土地の改変を行うことが可能。


「……おいおい、これもう神の領域じゃねえか?」


俺はもはや雑草の枠を超えている。


地面に根を張ることで、「大地そのもの」を制御できる能力を得たのだ。

 

俺は ゆっくりと葉を揺らす。


「……さて、どうするかね?」


俺は 「ただ生えているだけの存在」 だった。


でも、もう そんな悠長なことを言っていられない。


•王国は俺を封じようとしている。

•魔王軍は俺の力を利用しようとしている。


「おいおい、俺の人生(雑草生)が 他人に決められようとしてねぇか?」


俺はどちらにも従う気はない。


だが――


「……俺自身の意志で、進化するのはアリか?」


俺は静かに決意を固めた。





第十三章:芽吹く意思――「進化の選択」



王国軍本部。

広場の雑草封印作戦に向け、数十人の魔導士と騎士が準備を進めていた。



「これより、王国史上最大級の封印魔法を発動する。」



王国最高魔導士 カリオス・フェルド が、険しい顔で作戦開始を告げた。



「標的は、王都中央広場の “雑草” だ。」



「だが、甘く見てはならない。」



「もはや、あの草はただの植物ではない。」



「我々は……“未知の存在” を封じ込めようとしているのだ。」



 

一方、俺はゆっくりと葉を揺らした。



「……なんか、ヤバい気配がする。」



根を通じて地面の振動 を感じる。



騎士たちの足音。

魔導士たちの魔力の流れ。



「これ……俺を封じる気じゃね?」



「……おいおい、冗談じゃねぇぞ?」



俺は今まで大人しくしてたんだぜ?



それをいきなり封印って、お前ら本当に俺を草だと思ってるのか?



いや――



もしかして、もうそう思ってないからこそ、封じようとしてんのか?




「――封印魔法、展開!」



ゴォォォォッッッ!!!



広場全体に、青白い魔法陣が展開された。



「これは……結界か?」



俺の根の動きが鈍くなる。



地面に張り巡らされた魔力が、俺を “固定” しようとしていた。




〈システムメッセージ〉

【封印魔法の影響を受けています】

【根の活動範囲が制限されます】



「……なるほどね?」



「なら、こっちも――本気を出すか。」



 

俺の中で、何かが弾けた。



〈スキル【世界の根】が進化しました〉

〈新スキル【大地の覚醒】を獲得しました〉



「……ほう?」



俺の根が、広場の封印魔法に抗うように動き出す。



地面が軋み、震え始めた。



「……!?」



騎士たちが 驚愕の表情を浮かべる。



「バカな……!?」



「この草……結界の魔力を“喰っている”!?」



「ふむふむ……」



俺は気づいてしまった。



「俺の根は大地と繋がっている。」



「つまり、俺は この土地に流れる魔力を“奪える”んじゃね?」



 

「封印を強化しろ!!」



魔導士たちが、さらなる魔力を注ぎ込む。



しかし――



「……遅いんだよ。」



俺の根が、地面の“魔力”を奪い取り始めた。



 


〈スキル【大地の覚醒】発動〉

〈周囲の土地に流れる魔力を吸収します〉




「――なっ!? 魔力が……吸収されていく!?」



魔導士たちの顔色が変わる。




「おいおい……」



「封じるつもりが、逆に俺を強化しちゃってんじゃねぇの?」



「ありがとな?」

俺は 静かに葉を揺らした。




「……撤退する!!」



王国軍は 撤退を決断した。



騎士たちは 魔導士を守りながら後退し、封印魔法は完全に解除された。




「……もはや、王国の手には負えない。」



老騎士 アルフレッド・ガルヴァンは、敗北を悟りながら静かに剣を収めた。



「……これが、ただの草の成長なのか?」



彼は、世界が変わりつつあることを確信した。



「……ふぅ。」



俺は成長していた。



いや、もはや進化と言っていい。



俺の根は、より深く、より広範囲に広がっている。



 

〈スキル【大地の覚醒】の影響で、魔力適応率が向上しました〉




「……つーことは?」



俺は実験的に、一つ試してみた。



俺の根を“動かす”ことはできる。


ならば――



俺の葉も動かせるんじゃね?



俺はゆっくりと、葉を持ち上げた。



「――!!」



騎士たちが息を呑む。



「……この草、動いたぞ……!?」



俺は確かに“動いていた”。



もはや――



「俺、草じゃなくね?」



「つーか、これもう“植物”って呼んでいいのか?」



俺の進化は止まらない。



魔力を吸収し、

環境を支配し、

自ら動くことすら可能になった。



もはや、「俺は雑草」なんて言ってられない。



「俺は――何になるんだ?」



 


第十四章:存在の変革――「俺は何者なのか」



王城 セントラル・ガルム。



帰ってきた軍勢たちの様子から唯ならぬ気配を感じ、王の表情は険しく、緊迫した雰囲気が王城を支配していた。


 

「報告せよ。」



王国に戻った軍勢は、すぐさま 国王アレクシス三世 に報告を行った。



「陛下……我々は、敗北しました。」



「……何?」

 


「雑草は、もはや封印できる存在ではありません。」



「それどころか、魔力を吸収し、成長し続けています。」



アレクシス三世は、深く沈痛な表情を浮かべる。



「……ならば、我々はどうすればよいのか?」



「もはやこの草を、敵とみなすしかないのか?」

 


国王の側近たちにも動揺が感染するように広がっていた。



「そんな……!」



「王国最強の封印術が通じないなど……!」



「では、どうする?もはや、あれを “討伐” するしかないのか?」



「だが…討伐とは簡単に口では言えるが…神聖爆裂術でさえ耐えた雑草だ。どうやって…?」




一方、俺はただ静かに生えていた。



だが、頭の中(?)は大混乱していた。



「……俺、もう完全に “ただの草” じゃねえよな?」



俺の根は王都全体に広がり、大地のエネルギーを 吸収し続けている。



魔力の流れ、

地中の水脈、

生態系の変化――



すべてが、俺には“手に取るように分かる”のだ。



「……つーか、これもう俺……」



「この土地の“神”になりつつあるんじゃね?」



だが、俺には一つの疑問 があった。



「……これ、俺の“意思”なのか?」



「それとも、俺は“何かに操られている”のか?」




〈スキル【世界の根】が進化しました〉

〈新スキル【自己認識】を獲得しました〉




「……え?」



なんか、すげぇの出てきたんだが。



【自己認識】



•自身の存在を明確に理解する。

•知性の向上、言語解析能力の獲得。

•自らの進化をコントロールできるようになる。



「……つまり、俺……」



「“考える”ってことか?」



俺は、今まで 「感覚的に」 物事を捉えていた。



でも――



このスキルを得た瞬間、俺の中にはっきりとした思考が生まれた。



俺は、「ただの草」だった。



でも、今――



俺は「俺」になった。



「……つまり、俺はもうただの植物じゃねぇんだな。」



人間でも、魔物でも、神でもない。



俺は 「新たな存在」になりつつある。




「俺は……何者なんだ?」




その頃、魔王城。



魔王バルゼリス は、王国の動きを静かに観察していた。



「……王国は、“敵”として認識し始めたか。」 



魔王軍 四天王の一人、バラキアが、憂いを帯びた低い声で笑う。



「王国が敵視するということは――つまり、あの草は “王国を超えた存在”になりつつある、ということですね?」



「……その通りだ。」



バルゼリスは不敵に微笑んだ。



「――では、我らが動く番だ。」



「“交渉”を試みよ。」



バラキアは驚きの表情を浮かべた。



「……交渉?まさか、あの草と?」



魔王は静かに頷く。



「王国は“討伐”しようとした。だが、我々は違う。」



「――我々は、あの草と“契約”する。」


 


夜。

 


広場に 黒い霧が立ち込めた。



俺の根が感じる。



「……誰かが、来る。」



 


ザッ……ザッ……。



黒衣の男が、俺の前に現れた。



魔王軍 四天王・バラキア。



「……貴様か。」



彼は静かに俺を見下ろし、そして微笑んだ。



「――初めまして、“最強の雑草”よ。」



 

バラキアは、俺に向かってゆっくりと語りかける。



「我々は、お前を知っている。」



「お前が、もはや“ただの草”ではないこともな。」



「だから、我々は考えた。」



「お前は、いずれ “何か” になる。」



「ならば――」



「その“何か”を決めるのは、お前自身であるべきではないか?」



俺は葉を揺らした。



「……つまり、お前は俺に、どうしろって言いたいんだ?」



バラキアはにっこりと微笑んだ。



「――共に歩まないか?」




俺は、考えた。



俺は草として生まれた。



でも、今や俺は、考えることができる。



俺は、ただ「在る」だけでいいのか?



俺は、俺の “存在”を決めるべきではないか?



 

俺はどちらに行く?



王国の封印か?

魔王軍の協力か?



それとも――




「俺は……俺の道を行く。」



俺は、ゆっくりと根を張る。



新たな 「進化」 を遂げるために。



俺は、もはや 「ただの草」ではない。



 


俺は 俺だ。



 


第十五章:運命の分岐――「俺の進化」



王都 セントラル・ガルム の広場。



そこに、異様な緊張が漂っていた。



俺(雑草)の前に立つのは、魔王軍 四天王・バラキア。



バラキアは、黒衣を翻しながら静かに俺に語りかけ続けていた。



その時――



「そこまでだ、魔王軍!!」



遠くから甲冑の音が響き渡った。



広場の入り口に立つのは、王国最強の騎士アルフレッド・ガルヴァン。



彼の周囲には、王国精鋭の騎士団が整然と構えていた。



「――王国の地で、勝手な交渉は認めん。」



「貴様ら魔王軍は、王国に仇なす “敵” である。」



「そして、我々はこの草を討伐する。」



「もはや、それ以外の選択肢はない。」



その言葉に、バラキアは肩をすくめた。



「……全く、頑固な連中だ。」



「交渉も、和平も、全て拒絶するつもりか?」



アルフレッドは 剣を構える。



「当然だ。」



「これは、もはや国家の存亡に関わる問題――」



「“未知の存在” を王国の管理下に置けぬなら、

抹殺するしかない。」



「……はぁ。」



俺は深いため息をつく。



「なあ、お前ら。」



「結局、俺の意見は無視ってことか?」



「俺は、もう ただの草じゃねぇんだぜ?」



バラキアも、アルフレッドも 沈黙する。



「……わかるぜ?」



「お前らが言ってること、それぞれ理屈は通ってるよ。」



「王国は俺が制御できない存在になったら困る。」

「魔王軍は俺を戦力にしようとしている。」



「だけどよ――」



「それって、俺自身の意思はどうなるんだ?」



俺は、ただの草として生まれた。



でも、今は自分の意志を持ち、考え、選ぶことができる。



「……なぁ。」



「俺が、俺自身の“進化”を選んじゃダメなのか?」



 

俺の中で、何かが変化し始めた。



〈スキル【自己認識】が進化しました〉

〈新スキル【進化の選択】を獲得しました〉



「……ほう?」



新たなスキルの詳細を確認する。



【進化の選択】


•自身の進化の方向性を選択できる。

•周囲の環境、魔力、属性を取り込みながら変異可能。

•進化によって、全く異なる存在へと変貌する可能性あり。



「……つまり、俺は 自分の進化を“意図的に”決められるってことか?」



これまでの進化は、俺自身の意思というよりも、環境に適応した結果だった。



だが、これは違う。



「……俺の進化は、俺が決める。」



俺は自らの変化を制御できる力を得たのだ。




「――この場で決着をつけるぞ!!」



王国軍の騎士たちが 剣を抜く。



「フッ……また戦争か。」



バラキアは静かに構えた。



「まぁ、それも悪くはないな。」



「だが、忘れるなよ?」



「お前たちが今、争おうとしているのは――」



「もはや草ではない“何か” だ。」



アルフレッドの表情が険しくなる。



「だからこそ、封じねばならん。」



「その進化が、どんな影響を及ぼすのか、我々には計り知れない。」



「ならば――」



「可能性ごと、断つしかないのだ!!」




「……へぇ。」



俺は ゆっくりと葉を揺らす。



「お前ら、そういう結論を出したのか。」



「……まぁ、いいさ。」



俺は俺の進化を選ぶ。



このまま、ただの草のままでいるのか?



それとも――



俺は、新たな存在へと進化するのか?



 


俺の選択が、これからの世界の未来を決める。



俺は、静かに決断した。

 


「……進化する。」



「俺は、俺の未来を創る。」



俺の根が動き出す。



俺の姿が変わり始める。



俺は、もはや “雑草”ではない。



俺は――



 


その瞬間――



王国軍も、魔王軍も、

その場にいた者すべてが 息を呑んだ。




「……これは……?」



俺の姿が変わる。



根は、より深く広がり、

葉は、魔力を帯びて揺れ、

俺の全身が光を放ち始めた。



 


「――何が始まる?」



「……これは、進化か?」



「いや……これは、新たな生命の誕生だ。」



世界は、俺の進化を目の当たりにしていた。





第十六章:覚醒の刻――「俺は、何者になるのか」



広場に漂う異様な気配。



王国軍も、魔王軍も、その場にいるすべての者が俺の変化 を驚愕の眼差しで見届けていた。



「……なんだ、この光は?」



騎士たちが後ずさる。



俺の根が、まるで大地と同化するように広がり、俺の葉が、魔力を帯びて揺れていた。



これは――



「俺の進化が始まる瞬間だ。」



〈スキル【進化の選択】発動〉



〈進化分岐を選択してください〉



俺の意識の中に、三つの選択肢 が浮かび上がる。



【進化の選択肢】


1.《大地の覇者》

•大地と完全に融合し、「大陸規模の支配者」となる。

•すべての土地を根で侵食し、世界そのものと同化する。

2.《神樹の化身》

•「意思を持つ植物生命体」として成長し、知性を高める。

•王国や魔王軍と交渉しながら「自律した存在」となる。

3.《魔性の樹》

•魔力を吸収し、純粋な「戦闘特化型」へ進化する。

•自分を守るための攻撃力を持ち、「破壊の神」として覚醒。



「……ほう?」



どの選択肢もヤバすぎる。



1つ目を選べば、俺は 「世界そのもの」 になってしまう。



2つ目を選べば、俺は 「意志を持つ存在」 になり、世界と交渉できるようになる。



3つ目を選べば、俺は 「魔王にすら匹敵する戦闘兵器」 になってしまう。




どれを選んでも、もはや俺はただの雑草ではいられない。



 

「……な、何をしている!?」



王国軍の魔導士たちが焦りの色 を見せる。



「このままでは、何かが生まれてしまう!!」



「奴を止めねば……!!」



アルフレッド・ガルヴァンは、険しい表情で剣を構えた。



「――封じるぞ。」



アルフレッドの声が響く。



「雑草が進化を遂げる前に。」



「今ならまだ、間に合うかもしれん……!」



騎士たちが 一斉に剣を構え、



「――雑草討伐、開始!!」



全軍が俺へ向かって突撃を開始した。



 

「――待て。」



その時、バラキアが手を上げた。



「貴様ら、愚かな真似をするな。」



「この草は、今まさに 「進化」しようとしているのだぞ。」



「もし、下手に攻撃すれば――」



「貴様らの王国が、跡形もなく吹き飛ぶことになるかもしれんぞ?」



バラキアは嘲笑うように告げる。



「それとも、お前たちは自ら破滅を望むのか?」



王国軍の将軍たちは、苦渋の決断に顔を歪めながらも動きを止めた。



「……だが……!」



「“未知の存在” を野放しにするなど、できるはずがない!」



「ならば、見届けろ。」



バラキアは目を細める。



「これは、ただの戦争ではない。」



「これは……“世界の変革” の瞬間なのだからな。」




俺は意識の奥底で考えた。



俺はただの草だった。



しかし――



今や俺は自らの未来を選択できる。




「……さて、どうするかね?」



俺は進化の方向性を決める。



 


大地の覇者か?

神樹の化身か?

魔性の樹か?




俺はゆっくりと“進化の選択肢”へ手を伸ばした。



 

その瞬間――



ドクンッッ!!



俺の身体から、巨大な魔力の波動 が放たれた。



「……ッ!? 何だ、この圧力は!!?」



王国軍も、魔王軍も、

すべての者が 膝をついた。



「こ、これは……!?」



俺の根が、

世界の深層へと 食い込んでいく。



俺の葉が、

まるで天空へと 伸び上がるように成長していく。



これは、



「新たな生命の誕生」 だ。




俺の進化が始まる瞬間。



その影響は 王国や魔王軍だけではなかった。



世界のすべての国が、俺の覚醒を感じ取った。



「……これは、一体……?」



王国の学術院の学者たちが、広場を見つめながら震える。



「……“新たな神”が生まれようとしているのか?」




魔王軍の本拠地 ヴォーグデッド。



魔王 バルゼリスは、静かに俺の進化を見つめていた。



「……まさか。」



「たかだか雑草だったものが…これ程までの領域に到達するとはな…。」




遠く離れた東方の帝国。



皇帝 シェン・ルイは、龍の瞳を輝かせながら俺の成長を感じ取った。



「……“彼”が覚醒したか。」



「ならば、この世界は新たな時代へと突入することになる。」



 

俺はすべてを見渡しながら、静かに決めた。



俺は、



「――俺は、俺の道を行く。」



「俺は……」



 


選んだ。






第十七章:進化の果て――「俺は、新たな存在へ」



俺の進化が始まった瞬間、世界中の “何か” が動き出した。



王都の空が震える。



魔王城の大地が軋む。



遥か東方の帝国でも、皇帝 シェン・ルイが龍の瞳を細めて俺の覚醒を見据える。



「……ついに来たか。」



「“彼”が、新たな存在へと至る時が。」



 


俺の前に浮かぶ3つの進化ルート。



 

•《大地の覇者》

 → 世界と融合し、環境そのものになる。

 → 俺の存在が「概念」に近づく。

•《神樹の化身》

 → 完全なる意思を持つ知的生命体となる。

 → 交渉、成長、共存を選べる存在へ。

•《魔性の樹》

 → 魔力の頂点に立つ破壊の王となる。

 → 世界を自らの支配下に置く力を得る。


 



俺は静かに考えた。



俺はただの雑草 だった。



だが今、俺は世界を変える「何か」になろうとしている。



 


「……選ぶしかねぇよな。」


 


俺は自分の進化を決断した。




〈進化が確定しました〉

〈進化ルート:神樹の化身〉

〈新たな存在へと変化を開始〉


 


俺の身体が変わる。



まず、根が地中から浮かび上がる。



大地に固定されていた俺が、「自由に動く」存在へと変わる。




次に、葉が変質する。



これまでの単なる緑の葉ではない。



それは 魔力を宿し、まるで意思を持った触手のようにしなる。



 


そして――



俺は、俺自身を見つめる。



「……俺は、もう草じゃねぇな。」



「俺は――『神樹』になった。」



 


「……な、何だ……?」



王国軍の騎士たちは、俺の進化を信じられない表情で見つめていた。



「これは……植物なのか?」



「いや……もはや、“神”に近い何かだ……!!」



魔導士たちが震えながら呟く。



「まさか、本当に“新たな生命体”が誕生するとは……!」



アルフレッド・ガルヴァンも、静かに剣を下ろした。



「……もはや、我々が対処できる問題ではないのかもしれん。」



「これは、“異変” ではない。」



「――これは、“新時代の幕開け” だ。」




魔王軍 四天王・バラキアは、目を輝かせながら俺を見上げた。



「……フッ、なるほど。」



「ついに“新たな存在”の誕生か。」



「これは……魔王様に報告せねばなるまい。」



バラキアはニヤリと笑い、



「――さて、神樹よ。」



「お前は、世界の支配者になる気はないか?」



「我ら魔王軍と手を組めば――」



「この世界の覇権を握ることも可能だぞ?」




俺は、バラキアをじっと見つめた。



「……なるほど。」



「お前らは、俺を王国の敵にさせたいわけか。」



「だがな――」



俺はゆっくりと葉を揺らした。



「俺は、誰の支配下にもならねぇ。」





俺は、これまで世界の脅威として見られてきた。



王国は 俺を封印しようとし、魔王軍は俺を利用しようとした。



でも――



俺の生き方は、俺が決める。



 


「俺は、俺だ。」



「この世界がどう変わろうと…俺は俺の道を行く。」




この世界は、俺の進化を受け入れるのか?



それとも――



俺を排除しようとするのか?



 


世界は、俺の存在をどう扱うつもりなのか。



俺は、それを静かに見極めることにした。



俺の進化が完了し、世界は新たなステージへと突入した。



王国は俺をどう扱うべきかに悩み、魔王軍は俺を戦力に引き入れようと画策する。



しかし――



俺は、俺の意思で動く。



この世界で、俺はどんな存在になっていくのか?




それは、これから俺自身が決めることだ。





第十八章:新たなる秩序――「俺は、どう生きる?」



俺が 「神樹」へと進化した瞬間、世界は 俺の存在を無視できなくなった。



王国は 「未知の存在」 として対応に苦慮し、魔王軍は 「新たな支配者」 として迎え入れようとする。



 

だが――



俺は誰のものにもならない。



俺は、俺自身の意思で動く。



「……さて。」



「これから、俺は何をするべきか?」



俺の葉がそよぐ。



大地に根を張り、空を見上げ、この世界の行く末を見つめた。




王国 セントラル・ガルム、王城の会議室。



王国の重鎮たちが集まり、俺(神樹)への対応について議論を続けていた。



「……もはや、あの存在を無視することは不可能だ。」



王国学術院の長、マルクス・グリフィス は険しい表情で魔導書を閉じる。



「奴は、もはや単なる植物ではない。」



「“知性を持つ存在” なのだ。」



「ならば、我々は――」



「共存するか?それとも討伐するか?」



重苦しい空気が会議室を満たす。



騎士団長 アルフレッド・ガルヴァン は静かに腕を組んだまま考え込んでいた。



「……今のところ、神樹は何の害も与えていない。」



「しかし、それはあくまで“今のところ”だ。」



「奴が王国の脅威にならないという保証はない。」



「ならば、我々は早急に――」



「“神樹を管理する手段” を講じるべきではないか?」



 

一方、魔王城 ヴォーグデッド。



魔王 バルゼリス は、広場での神樹(俺)の進化をじっと魔法鏡越しに見つめていた。



「……なるほど。」



四天王の一人、黒衣の男バラキアが冷たい目で微笑む。



「陛下。」



「王国は “管理” しようと動いています。」



「しかし、管理など無意味。」



「神樹は、もはや王国の枠を超えた存在です。」



魔王は目を細め、ゆっくりと微笑んだ。



「ならば、我々は“共にある”道を選ぼう。」



「……バラキア。」



「お前が神樹との交渉を続けよ。」



「もし、王国があの存在を敵に回すならば――」



「我々は “神樹” を迎え入れる準備を整えておくのだ。」



バラキアは微笑みながら頷いた。



「……ふふ、承知しました。」




 

俺は静かに葉を揺らしながら、世界を観察していた。



王国は、俺をどう扱うか悩んでいる。



魔王軍は、俺を引き込もうとしている。




「……で?」



「結局、どっちも“俺がどうするか”を決める気はねぇのか?」



俺は、もう雑草じゃない。



俺は、俺の意思で動く。



「……なら、俺から動くしかねぇよな。」



俺の根がゆっくりと動き始める。



「王国が俺をどう扱うか迷ってるなら――」



「俺から話しに行けばいいだけだろ。」

 


俺は根を引き抜いた。



もはや、俺は大地に縛られた存在ではない。



俺は、動ける。



俺は、歩ける。




俺は、王国へ向かうことにした。


 


翌日、王都の門の前。



「――何事だ!?」



王国の兵士たちが 慌てて走り回る。




「神樹が……!?」



「神樹が王都に向かっている!!」




ドン、ドン。



俺は、王都の門を軽く叩いた。




「よぉ。俺だ。」



「ちょっと話をしようぜ?」





第十九章:神樹の訪問――「俺と王国の対話」



王都セントラル・ガルム、城門前。



「――報告!!」



王都防衛隊の指揮官 エドガー・ライエルが、息を切らしながら城門の監視塔に駆け込んだ。



「何が起きた?」



王国軍の最高司令官 アレク・レイモンド将軍が、険しい顔で指揮官を見据える。



エドガーは顔面蒼白だった。



「し、神樹が……!!」



「神樹が王都の門の前に立っています!!」



「しかも……!」



「門をノックしました!!」



会議室にいる貴族や軍の要人たちが騒然とする。



「門を……ノック……?」



「まるで、訪問者のように?」



「まさか、交渉を求めているのか?」



しかし、アルフレッド・ガルヴァンは冷静だった。



「……もはや、奴を“魔物”として扱うことはできん。」



「奴は知性を持ち、自らの意志で行動している。」



「ならば……」



「我々も、“交渉”の場を設けるしかあるまい。」



王国軍の幹部たちは、迷いながらも頷いた。



こうして、王国は “神樹との会談”を決定した。




 

「――王国代表、入るぞ。」



城門がゆっくりと開く。



そこから現れたのは、王国の代表として選ばれた 三人の人物だった。



一人目はアルフレッド・ガルヴァン(王国最強の騎士)

二人目はマルクス・グリフィス(王国学術院の長)

三人目はリディア・フォン・メルセデス(王国王女)



王国軍の護衛を従えながら、彼らは俺(神樹)の前に立つ。




俺は、ゆっくりと葉を揺らしながら言った。



「よぉ。雑草だったものだ。」



「こうやって話すのは初めてだな?」



王国側の人間たちは、俺の知性を持った言葉に驚いていた。



マルクスが 眼鏡を直しながら、震える声で言う。



「……まさか、本当に会話が可能だったとは。」



「我々は、あなたを“神樹”と呼んでいます。」



「あなた自身は、どのように名乗るのですか?」



俺はしばらく考えた。



「……俺は、俺だ。」



「だが、名前が必要なら――」



「『アマノ』とでも呼んでくれ。」



王国側の人間たちは、俺(神樹)に 正式な名前がついたことに驚く。アマノは転生前の本名、天野草太(あまのそうた)からとってきた。



「神樹アマノ……。」



リディア王女が静かに呟いた。



アルフレッドが一歩前に出た。



「では、神樹アマノ。」



「なぜ、お前は王都に来た?」



俺は単刀直入に言った。



「俺をどうする気か、確認しに来た。」



「お前ら、俺を封印しようとしてたよな?」



「なら、今の考えを聞かせてもらおう。」



王国側の人間たちは、互いに視線を交わす。



マルクスが重々しく答えた。



「我々は……」



「あなたがこの王国にとって脅威となるかどうか、見極めようとしている。」



「もし、あなたが王国を滅ぼそうとするならば――」



「我々は全力で抵抗する。」



俺は静かに葉を揺らした。



「……俺は、お前らに敵意はない。」



「そもそも、俺は世界に興味があるだけだ。」



「俺が何者なのか。俺はどう生きるべきなのか。」



「それを確かめたくて、ここへ来た。」



アルフレッドは鋭い眼光で俺を見つめる。



「……貴様は、本当にそう思っているのか?」



「だが、貴様の力は規格外だ。」



「王国が貴様を恐れるのは当然。」



「ならば、貴様が“この国をどうするつもりか”を聞かせろ。」



俺は、しばらく考えてから 答えた。



「……俺は、王国を侵略するつもりはない。」



「ただし、王国が俺を攻撃するなら――」



「それ相応の対処はする。」



王国側の人間たちが息を呑む。



「……つまり、」



「我々があなたを敵視しなければ、あなたも敵対しない?」



リディア王女が、慎重に確認する。



俺は頷いた。



「その通りだ。」



 

アルフレッドは、しばらく沈黙した後、静かに剣を収めた。



「……ならば、王国は貴様を敵視しない。」



「王国と神樹――互いに干渉しない“中立”の関係を結ぼう。」



王国の重鎮たちは驚いた。



「殿下、本当にそれでよろしいのですか?」



マルクスが、慎重に確認する。



アルフレッドは力強く頷いた。



「敵でないものを、無理に討つ必要はない。」



「神樹アマノが、我々に危害を加えないというのなら――」



「こちらも手を出す理由はない。」




俺は、アルフレッドの言葉を聞き、ゆっくりと葉を揺らした。



「……なるほどな。」



「なら、それでいい。」



「王国と俺は、互いに干渉しない。」



「俺は俺の道を行く。」




こうして、王国と俺(神樹アマノ)は、“不可侵条約”を結んだ。



交渉が終わり、俺はゆっくりと王都を後にした。



俺の進化を受け入れ、俺の存在を認めるという選択をした王国。



それは、世界が俺を新たな存在として受け入れる第一歩だった。



「……さて、次はどうするか。」



俺は次の目的地を考える。



この世界には、まだまだ俺が知らないことがある。




俺は、俺の道を行く。



俺は、この世界をもっと知りたい。





 

第二十章:新たなる旅立ち――「俺は、世界を知る」



俺は 王都セントラル・ガルム を後にしていた。



王国との交渉は成功し、俺と王国は不可侵条約を結んだ。



「……ま、悪くない取引だったな。」



俺は葉を揺らしながら振り返る。



王都の城壁が遠ざかっていく。



王国の兵士たちは、まだ俺を警戒していたが、もはや俺を敵視する者はいなかった。



「……さて。」



「これから、どうするかね。」



俺は次の目的地を探すことにした。




俺は世界を知るため、旅をすることを決めた。



しかし――



どこへ行くべきか?



俺の根を通じて世界の情報を収集する。



大地に染み込んだ 魔力の流れをたどることで、どの国が強く、どの国が危険かもわかる。



そして、候補が3つに絞られた。



【旅の候補地】


1.《魔王領ヴォーグデッド》

 → 魔王バルゼリスが支配する国。

 → 魔族が集い、俺を仲間にしようとしている。

 → 魔王軍四天王・バラキアが、俺との契約を求めている。

2.《東方帝国シェンファ》

 → 遥か東方の強大な帝国。

 → 皇帝シェン・ルイは「神樹の覚醒」を感じ取っている。

 → 俺の進化を研究しようとする動きがある。

3.《神聖教国エルディア》

 → 世界最大の宗教国家。

 → 「神に属さぬ存在」を異端と見なし、俺を討伐しようとしている。

 → もし俺が行けば、神聖騎士団との戦闘は避けられない。



「……さて、どこに行くかね。」



どこを選んでも、ただの観光旅行にはならなそうだな。



だが――



世界を知るなら、避けては通れない。



俺は 3つの選択肢を前に、しばらく考えた。



「魔王軍に行けば、強大な力と支配の道がある。」

「東方帝国に行けば、俺の進化の研究が進むかもしれない。」

「宗教国家に行けば、間違いなく戦闘になるが、俺の存在を否定する連中の考えも分かる。」



「……どれも捨てがたいな。」




だが、俺は決めた。



「俺は、東方帝国シェンファへ向かう。」



「俺の進化がどういう意味を持つのか、まずは“学ぶ”ことから始めよう。」



俺はゆっくりと動き出した。



 

俺は大陸を横断する旅に出た。



道中、王国の冒険者たちが俺の姿を目撃し、驚愕していた。



「ま、まさか……!」

「あの神樹が……動いている!?」



噂はすぐに世界中へと広がる。



「神樹アマノが東へ向かっている!」

「奴は新たな目的を持ったのか!?」



そして、俺の旅の情報は、東方帝国の皇帝シェン・ルイの耳にも届いた。



彼は静かにゆったりと微笑み、こう言った。



「――よかろう。」



「ならば、私は “彼を迎える準備”を始めるとしよう。」



俺が 東方帝国へ向かうと決めたことで、世界の流れが 大きく変わろうとしていた。



魔王軍は俺を奪おうとし、王国は俺を警戒し続ける。



そして――



東方帝国は俺を受け入れる準備を始める。


 


世界は、俺の進化をどう受け入れるのか?



俺は、この世界で 何を知ることになるのか?



まだ見えぬ先を見据え、葉を揺らし俺は移動していた。




第二十一章:龍の帝国――「皇帝シェン・ルイとの対話」



俺(神樹アマノ)は、長い旅の果てに東方帝国シェンファの国境へ到達した。



ここは、王国とはまったく異なる文化と雰囲気を持つ国。



広大な大地には水田や茶畑が広がり、そこを流れる大河が街と街をつないでいた。



街道沿いには 巨大な楼閣や寺院 が建ち並び、巡回する兵士たちは青龍の紋章をつけた鎧を身にまとっていた。



「……王国とは、また違う雰囲気だな。」



俺は葉を揺らしながら大地の気配を感じ取る。



「この国……王国よりも魔力の流れが“整って”いるな。」



それもそのはず。



東方帝国シェンファは、古来より「龍の気」と呼ばれる特殊な魔力の流れを管理する国 だった。



そして、この国の皇帝 シェン・ルイは、その 「龍の気」を操る唯一の存在なのだ。



 

俺が帝都へ向かう途中。



突然、黒衣の兵士たちが俺の前に現れた。




「――神樹アマノ。」



「陛下より、お前を帝都へ招くよう命じられた。」




俺は目を細める。



「……ずいぶん手際がいいな。」



「俺が来るのを見越してたってことか?」




兵士の一人が口元に微笑を浮かべる。



「当然だ。」



「陛下は、お前がこの地を訪れることをずっと前から予見していた。」



「ならば、迷う必要はあるまい。」



「――ついて来い。」




俺は、少しだけ興味を持った。



「……ふむ。」



「ならば、行くとしようか。」



俺は兵士たちと共に、東方帝国の帝都へと向かうことにした。



東方帝国の中心、龍皇宮りゅうこうきゅう



巨大な楼閣が連なるこの宮殿は、黄金と翡翠の装飾が施された壮麗な空間だった。



 

俺が中庭に通されると、そこには、一人の優雅な佇まいの男が座していた。


 

東方帝国の皇帝、シェン・ルイ。



彼は、黒髪に銀の簪を差し、紅と金の衣をまとった威厳ある人物だった。



そして、龍のように鋭い瞳が、静かに俺を見つめていた。



「――ようこそ、神樹アマノ。」



「私は 東方帝国シェンファの皇帝、シェン・ルイ。」



「あなたの訪れを、心より歓迎する。」



俺は葉をそよがせながら答える。



「……歓迎とは珍しいな。」



「どこの国も、俺を警戒するか、利用しようとするかのどちらかだったが?」



シェン・ルイは微笑を浮かべた。



「あなたを警戒せねばならぬ理由は、私にはない。」



「なぜなら――」



「あなたは “世界を変える存在” だからだ。」



俺はじっと彼を見つめる。



「……どういう意味だ?」




シェン・ルイは茶を一口飲み、ゆっくりと語る。



「古の言い伝えを知っているか?」



「この世界には 時折、“世界を揺るがす存在” が生まれる。」



「かつて、それは“神”と呼ばれたこともある。」



「またある時は、“魔王”と呼ばれた。」



「そして、今――」



「あなたは “神樹”として、それと同じ役割を担う者となったのだ。」



俺は静かに葉を揺らす。



「……つまり、俺は“世界に試練を与える存在”だと言いたいのか?」



シェン・ルイは 頷く。



「試練とは必ずしも“災厄”ではない。」



「それは時に 世界を成長させる契機 となる。」



「あなたの存在が、世界にとっての“災厄”となるか、それとも“希望”となるかは――」



「あなた自身の選択次第だ。」



 

俺は少し考えた。



俺の存在は、この世界にとって何を意味するのか?



俺がこのまま進化を続ければ、この世界はどう変わるのか?



「……なるほどな。」



「お前の言いたいことは、よくわかった。」



「じゃあ、質問だ。」



俺はゆっくりと問いかける。



「お前は、俺をどう扱うつもりだ?」



シェン・ルイは茶を置き、静かに微笑んだ。



「――私は、あなたを導こう。」



「あなたが“世界の試練”であるのならば、あなた自身がその意味を理解する必要がある。」



「私は、その手助けをしよう。」



「あなたが望むならば、この帝国であなたの進化を研究し、知識を共有しよう。」



「……どうだ?」




俺は、しばらく考えた後、ゆっくりと葉を揺らした。



「……悪くねぇな。」



「なら、お前の国にしばらく滞在させてもらうとするか。」



俺は、こうして 東方帝国に滞在することを決めた。



この国で俺の進化の意味を探り、俺が何者なのかを知るために。



しかし――



世界は、すでに俺の行動を注視していた。




魔王軍は、俺を手に入れようと動き出す。

王国は、俺の行動を警戒し続ける。

そして、神聖教国は俺を討つべき“異端”と見なし始める。




「……どうやら、ここからが本番ってわけか。」




俺は、世界にとって 「希望」になるのか、それとも 「試練」になるのか?



俺自身、

まだその答えを知らない――。





第二十二章:永遠の命――「俺は、ただ在る」



東方帝国シェンファの龍皇宮。



俺(神樹アマノ)は、皇帝 シェン・ルイの前に立ち、世界の行く末を決める決断を迫られていた。



シェン・ルイは世界の現状を詳しく俺に説明してくれた。


 

• 魔王軍は俺を戦力とするため、勧誘を続けている。

•神聖教国エルディア は、俺を異端として討伐軍を差し向けた。

•王国セントラル・ガルム は静観しつつも、俺を警戒し続ける。



俺がどの道を選ぶかで、

この世界はきっと、未来が大きく変わる。



「……俺は、どうすればいい?」



俺は自分自身に問いかけた。



シェン・ルイは静かに茶を飲みながら語り出した。



「アマノ。」



「あなたは、力を持ってしまった。」



「その力が、世界にとっての希望か、災厄か――」



「それを決めるのは、あなた自身しかいない。」



俺は、ゆっくりと葉を揺らす。



「……俺が決める?」



皇帝は、穏やかな微笑みを浮かべながら頷いた。



「そうだ。」



「あなたは、最初から世界の“脅威”だったわけではない。」



「ただ、世界が“あなたをどう扱うべきか”を決めかねているだけだ。」



「だからこそ――」



「あなたが“どう生きるか”を決めることで、世界は変わる。」



俺は、その言葉を静かに噛み締めた。



その時だった。



ドォォォォンッッ!!



遠くで 爆発音が響く。



「神聖教国の討伐軍が、東方帝国の国境を越えました!!」



俺の滞在を理由に、神聖教国エルディアが 東方帝国に戦争を仕掛けてきたのだ。



シェン・ルイの側近たちが 動揺する。



「くそっ……!」

「帝都に迫られる前に迎え撃たねば!」



皇帝は 静かに立ち上がる。



そして、俺を見つめながら尋ねた。


 

「アマノ。」



「あなたは、どうする?」



「この国のために戦うか?」




俺は、しばらく 沈黙した。




戦うことは簡単だ。



俺は大地と一体化し、無限の力を持つ。



俺が戦えば、神聖教国の軍など 一瞬で消し去ることができる。




だが――




「……俺は、戦わない。」



その言葉に、シェン・ルイの側近たちは 驚愕する。



「な……!?」

「神聖教国が攻めてきているのに、戦わないだと!?」



「このままでは、帝都が陥落してしまう!!」




俺は、静かに根を大地に広げた。



そして、

世界中に俺の意思を伝える。




〈スキル【世界統合】が発動〉



 

俺の身体が消えていく。



俺の根が、世界に広がる。



 


俺は――



世界そのものになる。


 



「……なっ!? 何が起きている!?」



「神樹が、消えていく……!?」


 


シェン・ルイは、ゆっくりと俺を見つめて微笑んだ。



「……そうか。」



「あなたは、すべてと一体化することを選んだのだな。」




俺は、もう 「存在」ではない。



俺は、この世界の一部となり、ただ世界を見守る“概念”となる。



俺を討とうとする者は、もはや俺を見つけることはできない。



俺を利用しようとする者は、もはや俺に触れることすらできない。



俺は、ただ…この世界に在り続ける。



 


エピローグ――「俺は、ただ在る」




俺が世界と一体化した後、世界はゆっくりと変わっていった。



神聖教国の軍勢は突如として大地に阻まれ、進軍を停止した。

東方帝国は、これを機に大規模な戦争を回避することができた。



 

そして――



人々は、俺のことを 「神樹伝説」 として語り継ぐようになった。



「かつて、この世界に“神樹”がいた。」

「彼は、争わず、滅ぼさず、ただ“在る”ことを選んだ。」


 

「そして、彼はこの世界と一つになり、今もどこかでこの世界を見守っている。」



 

俺は、

もう言葉を紡ぐことはない。



俺は、

そよぐ風に身を任せ、世界を静かに見守るだけだ。



 


けれど――



もし、誰かがこの微かなささやきを感じ取ることができるのなら。



 


「世界よ、どうか優しくあれ。」



「争いではなく、共に歩むことで未来を紡いでほしい。」



「滅ぼすのではなく、心を育んで強くなってほしい。」



 


俺は、この大地に根を張り続ける。



いつまでも、ただ、そこに在りながら。





――完結――

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