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作者: Kotaro

鏡に映る納得のいかない髪型との格闘に踏ん切りをつけて家を転がり出る。朝イチの会議にギリギリ間に合う電車の出発まであと4分。向かい風に向かって走るせいで、前方から顔と耳が即座に冷却される。陽光が後方から温めようとしてくれているが、需要と供給が一致しない。角を曲がるとゴミ収集車が停車中で、横切る時に少し息を止める。進みきった所で大きく息を吸うと、生臭くぬるい追い風が鼻へ回り込み、肺胞一つ一つに湿度を持って纏わりつく。


最寄り駅まで徒歩5分、それは文字通り”駅まで”であり、ホームに着くまでの時間ではない。先程カロリーを得るために咀嚼し麦茶で流し飲んだ菓子パンを胃酸のスープの中で激しく波打たせながら、改札を通過しホームまで一直線にエスカレーターを駆け降りる。エスカレーターの左側だけ空ける風習に疑問を抱かない日本人を軽蔑しながら、そのおかげで電車に乗ることができた事実は棚に上げる。車窓に映る無造作に乱れた髪をいなしながらYahoo!ニュースで芸能人の不倫ニュースを惰性で読む。 


朝の会議では何も決まらなかった。話を振るだけで仕事をした気になっている先輩社員から意見を求められた時にだけ発言した。誰かの意見に少しだけ私見を加えて賛同することで会議に貢献している感を出す。


お昼休み。セブンイレブンで買ってきたパスタサラダを右手で頬張りながら、対角の手でスポーツニュースを流し見する。大谷翔平がホームランを打ったという普遍化したニュースをスクロールしながら気休めで買った野菜ジュースからビタミンを摂取する。後ろを通りがかった派遣のおばさん社員にちゃんとご飯食べてるー?と心配され、手に持っていた大袋のお菓子から個包装のチョコレートをひとつ貰ったが食べずに引き出しにしまった。


帰路に着くための電車の中で人を観察する。お尻部分だけがテカテカになったスーツの男性、音漏れが激しいイヤホンの若者、マスクをして一見若く見えるが手許の皺から年齢を感じる女性。21時前に最寄り駅に到着し地上に出ると街灯の一つが切れかかっており、空気は冷え切っていた。近くのスーパーに立寄り、半額のお寿司と唐揚げを買って帰る途中に前方で野良猫が喧嘩していた。声を荒げて揉み合う猫達をしばらく立ち尽くして見ていると、一匹の猫が背を向けて走り去り、もう一匹が追いかけていく。何故だか、猫達の向かった方向には行きたくなかった。そのまま踵を返すと背後から風が吹き抜ける。水分を伴わない棘ついた寒風に耳たぶがジンとした。

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