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第1章第8話

「恋愛が生まれないってどう言うこと? だって、男女が恋愛をして子どもが生まれたからフローラさんも、カミラさんもラウレア様も存在しているんでしょう?」

「私は、逆にその話しをソウタから聞いて驚いたわ。この島の住人はみんな、魔法から生まれているの。だから、血縁関係とか家族とかそう言うものは存在しないのよ。当然、恋愛と言う感情もない。友達、とかそう言うのはあるけれどね」


 空いた口がふさがらない、とは正に今の僕の状況を言うのだろう。

あまりに非現実的ですぐに理解はしがたい。

 ここに来てからずっと、驚きの連続ではあったけれど1番驚いた内容かもしれない。

だって、ヒトが魔法で生まれてくるなんて……


「じゃ、じゃあ年齢はどうなってるの?」

「カイルくんたちの世界で言う赤ちゃんや老人は存在しないわ。年齢、と言うものもないのだけどあえてつけるなら16歳~35歳までの人間しかいない。その見た目年齢に設定されてある時、魔法で生み出されるのよ。それから、この水を飲んで生活していくから水が無くならない限り死なないし、私はずっとこの姿のままなの」

「ちょっと、情報量多すぎて頭がパンクしそうだ……」

「俺も全く同じ気持ちに陥ったなぁ、懐かしい」


 兄さんは今はこんな調子で軽々とこのネペンテス島の仕組みを理解しているし受け入れているけれど、10年前一人でこんな話しを聞かされて、すごく驚いたことだろう。

 もし僕が兄さんの立場だったならばどうなっていただろうか。

 想像しただけで恐ろしい。


「恋愛が分からなかったから、ソウタに教えて貰いながらソウタのことを好きになっていったの。出会って1年後に結婚をしたわ。まあ、ここでは結婚と言うものも当然ないから私たちにしか分からないんだけどね。ソウタが物語を書き始めたのは、私に恋愛を教えてくれる為でもあったのよ。説明するより読んで感じてくれた方が分かると思うからってね」


 フローラさんのその話しで今は2人の馴れ初めを聞いているんだったと言うことを思い出した。

あまりに非現実的な話しがポンポン出てくるから、科学とか哲学とかそう言う授業を受けているような感覚に陥っていた。


「もっと話し聞きたいんだけど、さすがに疲れてきちゃったかも。続きはまた今度聞かせてくれる?」

「もちろんだ」

「ごめんね、急に色々言われても追いつかないわよね」

「ううん、新しい情報が知れたのはすごく嬉しい」


 これは、本当だ。

明日、ラウレア様と話す時に変なことを聞かずに済む。

 

「じゃあ、今日はもう寝るね。おやすみ」

「おやすみー」

「おやすみなさい」


 兄さんとフローラさんに見送られて僕は先に屋上を後にした。


 寝る支度を済ませてベッドの上でぼんやりと天井を見上げていると先ほどの会話を思い出して頭がこんがらがってくる。

このまま寝ることも出来なさそうだったので、僕は椅子に腰かけてノートとペンを取り出した。

 これは、ネペンテス島に来る時に持って来た自分のリュックの中に入っていたものだ。

 ネペンテス島には、ノートとペンはないらしい。常にノートとペンを持ち歩くタイプで良かったと思った。

僕は、整理をしたい時はスマホに打ったりは出来ず、手書きが良いのだ。


 『ネペンテス島』


・10年に1度、スーパーブルームーンが起こった時に地上に姿を現す。その際にだけ、ネペンテス島で生きている現代人は外部と連絡を   取ることが出来る。島を出て行きたければ出て行くことも出来る。


・ネペンテス島は知る人ぞ知る島。兄さんのような人が10年に1度紛れ込む。地上(地球?)に姿を現しているのは月が見えている間だけ。


・ネペンテス島の水を飲むと〝永遠の命〟を手に入れることが出来る。逆に水を失ったら死ぬ。


・ネペンテス島の住人である証にネックレスを貰う。外したらダメ。


・ラウレア様はこの島で1番偉い人。陽に当たることが出来ないが、夜は教会から出ることが出来るらしい。


・食事は石や草、砂などに手を翳し食べたいものを思い浮かべればそれになる。


・飲み物は水しか存在しない。海水を売っている店があるらしい。風呂のお湯は飲めない水。

 毎日桶に1人2リットルの水を教会の裏手にある美しい湖に汲みに行く。そこは結界が貼られていて住人しか入ることは出来ない。

 規定量以上の水を汲んだら重罪。


・季節はない。ずっと春みたいな気温。朝、昼、晩の時間はあるし空も綺麗で星も存在する。


・魔法が存在する。未来人はみんな、物体を食事に変える魔法と+1つ便利な魔法を与えられている。フローラさんは物を指定場所に移動させることが出来る魔法。


・兄さんと僕のようにネペンテス島に来た現代人にも1つ魔法を与えられる。それは、微妙な魔法。

 僕は感情を操れる魔法で、兄さんは匂いに敏感になる魔法(辛そう)


・恋愛は存在しないし、血縁、家族関係はない。年齢も存在しない、赤ちゃんや老人はいなくて16歳~35歳までの人間しかいない。

 その年齢の人間を魔法が生み出す。だから、この世に存在した時から永遠にその姿のまま。


 今日までの出来事をまとめて書いてみたら、本当に信じられない内容ばかりで僕はふぅと息を吐いた。

だけど、書き出してみたら少しすっきりしたので明日に備えて寝よう、とノートを閉じた。



——夢を見た。


 僕と兄さんとフローラさんがいて、遠くにラウレア様が見える。

カミラさんもいるし、他にも数名知らない人がいる。


 誰かの叫び声が聞こえる。


 すすり泣く声も。


 助けて! と誰かが手を差し伸べている。


 その手を取ろうとしている僕の手を兄さんが掴んでいる。


 何が起きているのか何も分からないけれど、良くないことが起こっているのは分かった。


『ラウレア……っ!!!』


 僕が叫んでいる。


 

——そこで、はっと目が覚めた。ひどく汗をかいていた。

 

「夢……」


 あまりにリアルな夢だった。


 「ラウレア……」


 〝様〟をつけずに僕はそう呼んでいた。とても必死に叫んでいた。

あれは、いったいどんな場面なのだろうか。

 もしかして、これから起こる予知夢みたいなものなのか……。

 兄さんたちに話して置いた方が良いのか、黙っていた方が良いのか分からない。


 とりあえず喉が渇いたので僕は、リビングへと向かった。


 外はまだ暗く、比較的早起きなフローラさんも起きていない。

デジタル時計を見ると時間はまだ4時半だった。


「おいしい……」


 水を飲んでほっとしてからもう一度眠る気にもなれず、僕はリビングのソファに腰を下ろした。

そう言えばこの世界は、テレビはないようだ。

 こんな時にテレビがあると気を紛らわすことが出来て良いのだけれど。

近未来は便利なことが多いけれど、時間を潰せるエンタメ類が少ないなと感じた。

 物語は電子で存在するらしいが、スマホはなさそうだしどうやって読むのだろう。

 今日、聞いてみようかな。


 そんなことを思いつつぼんやりしていたら、ソファで二度寝をしてしまっていたようでフローラさんに優しく声をかけられた。


「カイルくーん、そんな所で寝たら風邪引くよー」

「……あれ、僕寝てた?」

「私が起きて来た時にはぐっすり寝てたよー」

「そっか。4時30分頃に悪夢見て目が覚めちゃって、ここでぼーっとしてたんだ」


 時計を見れば今はもう7時だった。

すっかり陽が差し込んでいて明るい。


「悪夢? 大丈夫?」

「うーん、悪夢なのかもよく分かんないけどとりあえず変な夢だった。でも、まあ大丈夫。それよりいよいよ今日が来ちゃったね」

「大丈夫なら良いけど……そうね、ラウレアちゃん来てくれるかしら」

「来てくれると良いなぁ、僕も友達になりたい。友達って言葉は通じるんだよね?」

「うん、大丈夫よ。そうだ、今日図書館に行こうか。あの辺りにならカイルくんと年齢が近そうな子いるから友達出来ると思うわよ」

「ちょうど行きたいなって思ってたんだ。この世界の物語がどんな感じなのか気になって」

「じゃあ、ご飯食べたら行きましょうか」

「ありがとう」


 フローラさんが優しい人で本当に良かったなぁ、と常々思う。

もし、めちゃくちゃ怖い人でお前何て住まわせない! なんて言うような人だったならば僕はたぶん路頭に迷っていたことだろう。

 兄さんが助けてくれたかもしれないけれど、兄さんフローラさんに弱そうな感じするし、主導権はフローラさんが握っていそうだなぁなんて思ってしまった。


「そろそろソウタを起こしに行こうかしらね」

「行って来ようか?」

「ううん、大丈夫。昨日ね、私に起こしてもらわないと嫌だって言われたのよ。仕方のない人よね」


 ふふ、と可笑しそうに笑いながらフローラさんはリビングを出て行った。


「ラブラブだなぁ」


 恋愛を知らなかった人を良くあそこまで落とすことが出来たなぁ、と感心した。

いったいどんな物語を兄さんは始め書いてみせたのだろうか。

 気になるけれど、絶対読ませてくれないだろうな……。

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