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第1章第7話

 次の日、僕はそわそわして落ち着かなかった。

僕もフローラさんも完全に明日はラウレア様が来てくれると信じているのだ。


「本当に嫌ならすぐに断るはずよ。それが、わざわざ考えておくって言ってくれているのだから、よほどのことがない限りは来てくれる!」


 今朝フローラさんは、はっきりとそう告げた。


「だから、今日は掃除をするわよ!」

「掃除は魔法でしないんだね」

「そう言う魔法を使える人もいるだろうけど、ここにはいないし友達にもいないからね。自分の手でやるしかないのよ。2人も手伝ってね!」

「うん、僕はやることないし。何をしたら良い?」

「そしたら男2人には庭の手入れをお願いするわ」

「えぇー俺もー?」

「当然よ。よし、じゃあお掃除スタート!」


 フローラさんの掛け声と共に、掃除がスタートした。

 僕たちは庭に出た。


「そう言えば、現実は今夏真っ盛りだけどここは暑くも寒くもないんだね。季節って存在するの?」


 庭の手入れ用の道具を出しながら僕は、兄さんに問いかけた。

 空はちゃんと存在するし、ラウレア様は陽に当たることが出来ないと言うことから、ちゃんと時間というものはあるのだと数日過ごして実感はしているけど、季節と言うものは感じられないでいた。


「季節は存在しない。日本で言う春がずっと続いている感じだな」

「最高だ………僕、春が1年の間で1番好き」

「俺もだ。だから、ここでの生活は幸福なんだよ。日本で生きていた時に〝こうだったら良いのになー〟と思っていたことが大体揃っている」

「確かに、永遠の命も魔法も、季節もどれも思ったことあるな」

「だろ?」


 父さんと母さんが死んだ時に、どうして〝死〟と言うものは存在するのだろうか、と強く思った。

 祖父母の時はそれほどショックは受けなかったけれど……父さんと母さんは、2人同時にしかも突然だったと言うこともあるだろうけど。

 それがなかったとしても、〝死〟と言うものは悲しみを生む。

 現実世界で生きていた時は、嫌でも色々なニュースが耳に入ってきていた。


 魔法も、僕と兄さんのは微妙な魔法だったけれど空が飛べたらな、とか時間を巻き戻せたら、とか思ったことは何度もある。

 それこそ、兄さんがいなくなった時に時間を巻き戻して僕も着いて行きたいと思った。


 そんなことを思いながら僕は、庭の手入れをした。

こんな近未来都市に来たと言うのに、草刈りをしているのが面白い。

 本当にネペンテス島は不思議な島だ。

僕が想像していたファンタジーな世界とはちょっと……いやだいぶ違う。


「2人ともー少し休憩にしましょー」


 玄関からフローラさんがそう声をかけてくれて、僕たちは一旦作業を止めて、部屋へと戻った。


 先ほど汲んできた水を飲むだけの休憩だけれど、不思議とほっとする。

 まるで、仕事の休憩中にコーヒーを飲んだ時のほっと感を水で体感出来ている。

 

 ネペンテス島の水だからこそ、感じられるものだろう。

 カフェインを入れなくても、ほっと出来るのは実に健康的だ。


「うーん、ほんとにこのお水美味しいな」

「飲み過ぎはダメよー」

「分かってるよ~」

「この人はね来たばかりの頃、お水が美味しすぎて飲み過ぎたことがあるのよ。一度1日分の水が足りなくなって、喉乾きすぎて死にそうになった日があったわ。あの時は仕方ないから海水を飲んでいたけれど……」

「海水!?」

「そう。海水はいくらでも自由に使って良いのよ。まあ、美味しくもないからそんな奇特な人は少ないけれど。海水屋さんをやっている人もいるわ」

「へぇ、ちょっと気になるな」

「明日にでも案内するわよ」


 それから、僕たちは僕たち兄弟の昔話をフローラさんに語ったり、何でもない2人の日常に起きた出来事を聞かせてもらったりして、のんびりとした時間を過ごした。 

 

 その後、陽が暮れるまで残りの掃除を片付けた。

別に、元々汚い家ではなかったけれど掃除をしたことでより綺麗になった。


「埃の匂いがしなくなったな」

「ソウタの鼻がそう感じるなら安心ね」

「掃除には便利な魔法だね」


 僕の魔法は、いったいいつ使う時がくるのだろうか。

 日常的に使える時が来てくれたらいいけれど、そんな時は来なさそうだ。


「ここまでして、ラウレア様来てくれなかったらショックだなぁ」

「きっと来てくれるわよ。私ね、あの日驚いたことがあるの」

「驚いたこと?」

「うん。ラウレアちゃんって基本的に、あんまり人と目を合わせないのよ。だけど、カイルくんの目をしっかり見ていた。きっとカイルくんに対して好印象を感じているんだと思うわ」

「そ、そうなんだ……」

「嬉しそうだな~やっぱ一目惚れだろ?」

「違うって! 大体、まだ碌に話したこともなくてよく知りもしない人のこと好きなんてならないよ」

「それが一目惚れってやつだろ」

「そうかもだけど、僕は一目ぼれはしない」

「へぇ」


 僕は、高校生の頃に一度だけ恋をしたことがある。

その時も、ゆっくり時間をかけて相手のことを知り、まずは友達になった。

 その時好きになった子は、帰りのバスが毎日同じになる違うクラスの子だった。

 だから、何も相手のことは知らなかったけれど、勇気を出して連絡先を知り、少しずつ距離を縮めていったのだ。

 結果的にはフラれたのだけれど……。

思えば、それ以来恋はしていない。


「僕のことは良いよ! それより2人の馴れ初め聞きたいな!」


 何だか恥ずかしくなって、僕は話題の中心を自分から避けるためにそう振った。


「私たちの馴れ初めかぁ、何だか恥ずかしいわね」

「もう、10年も前の話しだもんなぁ。せっかくだから、星を見ながら甘酸っぱい恋話を聞かせてあげよう」


 兄さんはそう言って、僕たちは屋上へと出た。

屋上は、とても高く近未来都市をよく見渡せた。

 それでもここは、少し街中からは離れているからか星が綺麗に見えた。


 星空を見上げながら、兄さんはあの日の話しをゆっくりと始めてくれた。


 「あの日、ネペンテス島を見つけた俺は迷いなく島へ向かった。海流の時のように、舟に乗ってな。必死に舟を濃いで島へ降り立つことが出来て、本当にネペンテス島は存在したんだ、とまず驚いた」


 ネペンテス島は、兄さんが見つける前にも何度か目撃情報があったそうだ。

 兄さんはその情報を見ていつか必ず行きたい、とずっと思っていたと言った。

 だけど、いつどんなタイミングで現れるのか当時はまだ確信を持てていなかったようだ。


 だから、日々観察を怠らずに海を眺めてそうして、10年前のスーパーブルームーンのあの夜に、ネペンテス島を見つけた。


「海流と違って、俺は元気にこの島へ辿り着けた訳じゃないんだよ。あの日、俺は現実世界で風邪を引いていたんだ」

「そう、だったんだ……」

「フラフラになってネペンテス島に辿り着いて、舟から降りた途端その場に倒れ込んだっけなぁ」

「そんな、ソウタをたまたま岸辺まで降りて来てた私が見つけたのよ。あの時はびっくりしたわ~」

「そんで、フローラの魔法で俺をここに運んでくれたんだよな。目が覚めたら超美人が目の前にいるから夢かと思った」


 兄さんが辿った道は、随分と僕と違っていたようだ。

 僕は兄さんからのメッセージで少しの情報をもらっていたし、岸辺で兄さんが待っていてくれて、近未来都市を見ながらここまで辿り着いたけれど、兄さんはそうではなかった。

 当然、知り合いもいないよくわかりもしない謎の島で目が覚めて、フローラさんがいたらそれはまあ、誰だって驚くだろう。


「驚いたと同時に恋に落ちたんだよな~」

「え! それって一目惚れじゃん」

「そう、フローラに一目ぼれだったんだ。だから、俺は一目ぼれは悪いことだとは思わない」


 ふっと兄さんは笑って言った。


「それからひとまず、回復するまでこの家にいさせてもらうことになったんだが、その間にもどんどん俺の想いは抑えきれなくなって行ってたなぁ。それで、回復した後に告白をしたんだ」


 さすが迷いを知らない兄さんらしい展開の速さだ。


「だけど、すぐに良い感じにはならなかったんだ」

「私が〝恋〟と言うものを理解していなかったのよ。このネペンテス島では生まれない感情なの」

「恋が、生まれない……?」

 

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