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第1章第6話

 教会に入ると、そこは昨日と変わっていなくてラウレア様は椅子に座っていた。

特に何をしている訳でもなくぼんやりと虚空を眺めていて、やはりその顔は少し寂しそうに見えた。


「ラウレアちゃん、今日はカイルくんに魔法を与えて欲しくて来たの。本当は昨日まとめて行うべきだったのだけど、あの人忘れてしまっていたみたいで……。ごめんなさい」

「……あぁ、昨日来た人」


 そう言ってラウレア様は僕の方を向いた。

昨日は、目が合うこともなかったから一歩前進しただけでとても嬉しい気持ちになった。


「あ、改めまして海流です。あの、これからお世話になります」

「ラウレアだ。魔法はこの魔法を与える」


 そう言って、ラウレア様は僕に向かって指を差しぶつぶつと小さな声で呪文のようなものを発した。


「終了だ」

「え、もう僕は何か魔法を使えるんですか?」

「あぁ。お前には、感情を操れる魔法を与えた。魔法はいつでも自由に扱うことが出来る。良きように使え」

「感情を操れる魔法……」


 僕は、自分に与えられたその魔法の名前を呟いた。


 それは、なんて恐ろしい魔法だろうか。

人によっては喜ぶ魔法かもしれないけど、僕はきっと使うことはないだろうなと感じた。

 

「ありがとう、ラウレアちゃん。あとね、1つお誘いをしたくて……。カイルくんの歓迎会を明後日の夜にでも家でやろうかなと思っているのだけど、良かったら来ない?」

「……考えておく」


 少しの間の後にラウレア様はそう返事をした。

 

「ありがとう! その言葉だけでも嬉しいわ。それじゃあ、今日は帰るわね」

「ありがとう、ございました」


 僕は何とも言えない気持ちでそのお礼を告げて教会を出た。


 教会から少し離れた所で兄さんは待っていた。


「大丈夫?」


 フローラさんが心配そうに兄さんに声をかけた。


「あぁ。それよりも海流はどうしてそんなに落ち込んでいるんだ?」

「魔法が微妙なものだったんだよ……。ねぇ、兄さんはどんな魔法を手に入れたの?」

「水汲み場に向かいながら話すよ」


 それから、僕たちは水汲み場へ向かって歩きながら兄さんの魔法の話しを聞かせてもらった。


「俺の魔法は、匂いに敏感になる魔法なんだ」

「匂いに敏感……」

「日常的には何も得をしない。ただ、もし外的や内部での抗争が起きた時にはすぐに敵の匂いを察知出来るから、そう言う時には便利な魔法だ。この10年そんな便利な展開は起きていないし、起きない方が良いんだがな」

「なるほど……だから、ラウレア様がいる場所の空気に僕は感じない何かを感じてしまって行きたくないんだね」

「そう言うことだ。それで、海流の魔法は?」

「僕の魔法は、感情を操れる魔法だった……そんな魔法使えないし、使いたくないよ」

「優しいカイルには不要な魔法だなぁ。でも、その魔法も抗争が起きた時には便利になる魔法だと思うぞ」


 兄さんに言われて確かにそうかもしれないな、と思った。

敵が現れた時、敵の考えていることを察知し先回りが出来るし、裏切りそうになっている人がいれば裏切らないように操れることが出来るんだ。

 だけど、そんな時は来ない方が良いに決まっている。


「まあ、魔法は使わなくても罰が当たったりはしないから忘れておけばいい。海流の魔法は、海流が願わない限りは発動しないはずだ。俺の魔法は、日常的にも勝手に発動されるから困っているんだ。だから、外にあまり出たくないのもあって家で出来る趣味兼仕事ととして物語を書いてみようと思ったんだ」


 その話は、いつも突発的に一人旅をしていたり日常的にも家にいる時間の方が少なかった兄さんにとっては辛いのではないか、と思った。だけど、ここに来る前にくれたメッセージには幸福すぎる日々を送っていると書かれていた。


「辛くないの?」

「辛くはないさ。ここにいれば死ぬことはないし、愛しいフローラと静かでのんびりした暮らしを送れている。現実での忙しない日々も良かったが、住めば都と言うからな」


 そう言って兄さんはフローラさんに抱き着いた。


「ふふ、私もソウタと出会えて〝家族〟になれて幸せよ」


 2人の笑顔は本当に幸せそうで、兄さんはネペンテス島に来て本当に良かったのだなと思えたから安心した。


 そうして、辿り着いた水汲み場は僕が想像していたような場所ではなかった。

 

教会の横の路地裏を通って行くとその奥には、美しい湖が広がっていたのだ。

 こんな街中に湖があるなんて昨日は思いもしなかった。


「この湖から規定量入れるのよ。ここには、ラウレアちゃんが結界を貼っているしネペンテス島の住人である証のネックレスをしている人しか入れないようになっているのよ」

「綺麗だな……」


 僕の住んでいた街にだって飽きるほど見た美しい海があったけれど、その海よりもずっと神秘的で輝いている。

永遠の命を手に入れられる水なのだ、と言うのが信じられる光景だった。


「まあ、カイルくんは大丈夫だろうけど、規定以上の水を手にしようとしたら重罪になるから気を付けてね」

「そんな悪いことしないよ」

「分かっているわよ。念のためね。よし、水汲み終えたから先に水だけ家に届けちゃうわね」

「あぁ」


 フローラさんは、涼しい顔で水を汲んだ桶に手を翳した。

そうして次の瞬間、桶は消えていた。


「え!?」

「私の魔法。物を自由に移動させられる魔法なのよ。最初に、カイルくんが乗った舟を動かしていたのも私の魔法よ」

「そう、だったんだ。僕もこう言う魔法だったら良かったのになぁ」

「ごめんね、便利で良い魔法はここで産まれた人たちに優先に与えられてしまっているのよ。一人1魔法だから、同じ魔法は与えられないの」

「公平に与えてもらえるだけありがたいと思わないとだよね」


 嘆いてばかりもいられない、と僕は気持ちを切り変えた。


「ところで、ラウレア様は誘いに乗ってくれたのか?」

「考えておくって言ってくれたわよ~」

「そっかぁ。まあ、俺はもしかしたら席外すかも……」

「結局、教会の空気だけでなくてラウレアちゃんもダメなの?」

「分からない。あの場にいる以外のラウレア様に会ったことないしな。大丈夫だと良いんだが……」

「きっと大丈夫よ」


 そう言ってフローラさんは笑った。

 

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