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第1章第5話

 どうやらちゃんと今日も、ネペンテス島にいるようだ。

その事実に心底ほっとした。

 別に現実が嫌いな訳ではない。もし、何かの拍子に帰ってしまうことになったらその時は、その時で何とかやって行くのだろうと思う。だけど、出来るならばずっとここにいたいと思っている。

 現実世界には別に思い残すことはない。大切な人だっていないし……。

でも、こっちには大好きな兄さんがいて新しく出来た姉のような存在のフローラさんがいる。

 カミラさんも良い人そうだったし、何よりラウレア様のことが気になっていた。


「今日、また会えるんだよな……」


 昨日は、まともに会話も出来なかったけれど今日は出来るだろうか。出来ると良いなぁと思いながら、ベッドから起き上がった。


 リビングへ行けば既にフローラさんが起きていた。


「おはよう」

「おはよ~昨日は眠れたかしら?」

「うん、ベッドふかふかでぐっすり眠れた」

「それなら良かったわ。今日は、水汲みと魔法を貰いに行くから忙しくなりそうよ。しっかり朝食食べて行くわよ」


 フローラさんは、昨日と同じように石や草に手を翳して料理を生み出していた。

朝食は、洋風だ。

 

「うん、兄さんはまだ起きて来ないの?」


 椅子に腰を下ろしながら僕はそう聞いた。

 

「あの人、放っておいたらずっと寝てるのよ……。カイルくんと過ごしている時もそうだった?」

「うーん、どうだったかなぁ」


 兄さんと共に過ごしたのは、10年前で僕はまだ12歳の子どもだった。

確かに兄さんはよく遊び回っていたから、夜は疲れてすぐに眠り休日の朝はぐっすりだったような気がする。


「現実だと、仕事があったからさすがに平日はちゃんと起きてたと思う」

「そっか。そもそも生活が違うものね」

「ここの人たちって仕事はしてるの?」

「している人もいるわよ。ただほとんどは魔法でどうとでもなるから仕事は少ないのよ。ソウタは、家で物語を書いているわ」

「こんな近未来なのに物語って存在するんだ!?」


 兄さんが物語を書いている、と言うことにより物語と言うものが存在していて、それを読む人がいると言うことに何より驚いてしまった。


「いるわよ。たぶん、カイルくんがよく知っているような感じではないかもだけどカイルくんたちの世界の図書館、と似た場所もあるのよ」

「へぇ。フローラさんって僕たちの世界のことよく知っているんだね」

「この10年、ソウタからたくさん話しを聞いているし見せてもらっていたからね。さてと、そろそろソウタを起こさないと」

「僕が起こして来るよ」

「ありがとう、お願いするわ」


 僕は、立ち上がり兄さんを起こしに行った。


 寝室のドアを開けると兄さんは、ありえない寝相で眠っていた。

寝相が悪いのは10年経っても、こんな近未来都市の謎の島にいても変わらないのかと安心した。


「兄さん~フローラさんが美味しい朝食作って待ってくれてるよー起きてよー」

「んんん~~~」


 兄さんはゆっくりと目を開けて、「海流だ—夢か―?」と呟いた。

寝ぼけているようだ。


「夢じゃないよ。昨日、僕はここの住人になったんじゃんか~」


 子どもの時みたいに身体に乗っかって起こしにかかると、さすがにうめき声をあげて起き上がってくれた。


「おいっもう、お前も小さくないんだから乗っかるな。痛いだろ~」

「兄さんが起きないのが悪いよーおはよー」

「……おはよ」


 もぞもぞと動いて兄さんは、ベッドから降りた。


「兄さん物語書いてるんだってね」


 兄さんが着替えている間にそう話題を切り出した。

 

「あぁ、フローラから聞いたのか」

「うん。小説家になりたいなんて言ったことあったっけ?」

「ないな。この島に来てから出来た趣味だ」

「何で書き始めたの?」

「今度話すよ。俺のその話をフローラがしたってことは、仕事の話題になったのか?」

「うん、まあ」

「海流ももし、やりたいことがあればカミラさんに言えば紹介してもらえるからな。人間が出来ることは限られているけどな」

「うん、考えとく」


  兄さんの着替えが終わり、僕たちはリビングへ向かった。

  

「ようやく起きたのね」

「おはよー昨日は久しぶりに弟と再会できた嬉しさですぐに眠れなくてな―」

「布団に入った瞬間眠っていたくせに」

「え、そうだっけ?」

「何でも良いけどね。ほら、早く食べましょう」


 いただきます、と手を合わせて朝食に手をつけた。

朝のパン、ヨーグルト、目玉焼きも現実世界とまったく変わらない味だ。

 本当にどんなカラクリになっているのか気になって仕方ない。


「さて、と今日は先にラウレアちゃんの所に行ってから水汲み場に行くわよ」

「えぇ、朝からあそこに行くのか……」

「兄さんは、ラウレア様に会うのが嫌な訳じゃなくてあの場所が嫌なんだ?」

「まあどっちもだけど。あそこ、空気が重いっつーか神聖すぎて疲れるんだよなぁ」

「外で待っていても良いけど?」

「いや、それは俺が見ていない間に愛する弟が何かされたら怖いから傍にいるけどさー」


 僕は、やっぱりどうして兄さんがここまであの子のことを嫌がるのか分からない。


「兄さんはこんななのにフローラさんは、親しそうに名前を呼ぶんだね」

「私は、ラウレアちゃんと友達のつもりだからね。向こうがどう思っているかは分からないけれど……」


 ちょっと寂しそうな顔でフローラさんは言った。


「僕も友達になりたいな」

「お前、やっぱりラウレア様のこと気になってるんだろー」

「そう言う意味ではないから! 気になりはしてるけど……」

「カイルくんは、ラウレアちゃんのこと怖いとかって思わないのね」

「思わないよ。まだ、全然ラウレア様のこと知らないけどさ……」

「そうなのね。じゃあ、近いうちに家に呼んで一緒に夕飯を食べましょ!」

「えぇ~~~」


 兄さんはあからさまに嫌そうな顔をした。

そんな風な場を設けてもらえたら話しやすそうだし、嬉しいけれど高貴な方とそんなことが出来るのか。

 兄さんは、ラウレア様はこの島で1番位が高い人と言っていた。

それはつまり、日本で言う天皇のような立場と言うことだろうと僕は思っているのだけど……。


「家に呼ぶなんてことが出来るの?」

「出来るわよ。まあ、ラウレアちゃんが行きたいって言ってくれればだけどね~とりあえず今日行った時に誘ってみましょ!」

「うん、ありがとう」

「こちらこそありがとうよ。この人はこんなだし、ラウレアちゃんと仲良くなりたいって思ってくれる人が来てくれて嬉しいわ」


 フローラさんは綺麗に笑ってそう言った。



 それから、大きな桶を持って家を出た。


「この桶に満タンに1日分の水を入れるのよ。一人1リットル計算なの」

「へぇ……そう言えばお風呂のお湯はどうしてるんだ?」

「お湯は飲めない物を出しているから関係ないのよ。お風呂のお湯としては問題なく使えるけれど、間違えて飲んだりしたら体調崩すかもしれないから気を付けてね」

「なるほどなぁ……」


 こんなにも近代的で魔法も存在する世界だと言うのに、水だけは天然なのは本当に不思議だ。

 

 昨日は夜が遅かったから、あんまり街に人がいなかったけれど今日は活気がある。

 だけど、先ほど聞いた通り僕が思うような仕事をしている人は少ない。

街中で、楽器を弾いていたり何やらパフォーマンスをしている人、デッサンをしている人など、文化的な行いをしている人は多数見られた。


 エンタメ系は魔法がある世界でも残っているのだな、と思うと何となく嬉しく思った。


「着いたわ」

「あーやっぱ苦手だこの空気……」

「そんなに?」


 確かに他とは違うオーラを纏ってはいるけれど、兄さんが参るほど特別な感じは僕はしていないのだけれど……。

僕には分からない何かを兄さんは感じているのだろうか。


「やっぱ俺近くで待ってていいか? 何かあれば呼んでくれ」

「分かったわ」

「じゃあ、行ってくるね」


 兄さんの顔色は少し悪そうだった。

冗談とか、単純な好き嫌いとかでなく何か事情がありそうだ。

 僕の10年間を兄さんが知らないように、僕だってこの10年の兄さんのことはまだまだ知らない。


 後でちゃんと聞かないとな、と思った。


「ラウレアちゃん、こんにちは~」


 フローラさんは、にこやかに挨拶をしながら教会の中へと足を踏み入れた。

 

 

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