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第1章第4話

 リビングへ行くと既に机の上にはたくさんの料理が並べられていた。


「すごい、美味しそう……! でも、キッチン見当たりませんでしたけどどこで作ったんですか?」


 この家は、現代とさほど変わりはなかったけれどただ一つ、キッチンだけが見当たらなかったのだ。


「面白い物を見せてあげるわ」


 フローラさんはそう言うと、机の上に1つの小さな石を置いた。


「これは?」

「ここにない物でカイルくんの好物があれば教えてくれるかしら?」

「え、好物ですか? えっと……」


 机の上を見渡すと大体、僕の好きな物が置かれていた。

僕と兄さんの食の好みはほぼ同じなので、そうなるだろう。

 だけど、唯一兄さんが嫌いで、僕が好きな物がなかったのでその食べ物の名前を言った。


「焼き鮭が好きです……」

「分かったわ」


 フローラさんは、そう返事をすると石に手を翳して目を瞑った。

そうすると、次の瞬間、石から光が放たれそして、その石は焼き鮭へと変わった。お皿も知らない間に現れている。


「えっ!???」

「ふふ、すごいでしょ~この島で出てくる料理は、こうやって出しているのよ。石や砂、植物を食べ物に変えられる力をネペンテス島で産まれた人は持っているの」

「す、すごい……。じゃあ、スーパーとか食べ物に関する店は一切ないんだ」

「そう言うことだ。ただ、水だけは天然なのが面白いところなんだよなぁ。と言うことで、そろそろ海流もこの美味しい水を飲む時が来たな」


 そう言って、兄さんはコップに水を注いで手渡してくれた。

水とコップだけは現れるのではなく、現代と同じようにあるのが本当に不思議だ。


「見た目は、普通に水だね」

「それじゃあ、カンパイしましょう!」

「まあ、水で、だけどな」

「そう言えば、ネペンテス島には水以外の飲み物はないの?」

「ないんだよ。だから、水を飲まずに生きて行くことは不可能なんだ」

「そっか、どこまでも不思議な島だね……」


 新しい知識を得れば得るほど、不思議は更新されていく。

この不思議を解消出来る時はくるのだろうか。


「それじゃあ、カイルくんの来島を祝ってカンパーイ!」

「カンパーイ!」

「えっと、ありがとうございます。改めて、これからよろしくお願いします。じゃ、じゃあ、お水いただきます……」


 ただ、水を飲むだけだと言うのにとても緊張する。

手が震えてコップを落としてしまいそうだ。しっかりコップを握って僕は、〝永遠の命〟を手に出来る水を口にした。


「美味しい……!」


 口の中で広がる水の味は、今まで飲んできたどんな飲み物よりも美味しいと感じてしまうほど美味しくて、身体に良さそうな味がした。そりゃあ、永遠の命を手に出来るのだから身体に良さそう、と思うのは当然か。


「だろ! でも飲み過ぎには注意な。1日に汲める水の量は決まっているからな」

「分かった、気を付けるよ」

「明日、一緒に水汲みに行きましょう。あ、それからカイルくんに私から1つお願いがあるの」

「な、何でしょうか?」

「その敬語は無しにしてちょうだい。一緒に住むのだから、もっとフランクに接して欲しいな。私も本当の弟だと思って接するから」

「……わ、分かった」


 ちょっと緊張してしまうけれど、敬語がない方が良いのは僕も嬉しい。

僕たちが仲良くなってくれているのが嬉しいのか、兄さんはにこにこ微笑んでいる。


「料理もどれも美味しい。石とかから現れたとは思えないくらい、慣れ親しんだ味だ……」

「良かった。ところで、カイルくんは何の魔法を与えてもらったの?」

「え、魔法?」

「ちょっと、ソウタ? もしかして忘れてる?」

「かんっぜんに忘れてたわー。まあ、明日でも問題ないからな。明日もう1回ラウレア様の所に行こう。はぁ……」

「も~どれだけラウレアちゃんの所、苦手なのよ。どうせまた行くことになるんだから、1回で済ませた方が自分のためにもなるのにー」

「だなぁ、しくじったなぁ」

「ねぇ、魔法って何?」


 2人は何やら盛り上がっているが、僕にはさっぱりで思わず口を挟んでしまった。


「ごめんね。ちゃんと説明するわね。ネペンテス島に紛れ込んできて、ここで生きて行くことを決めた人には1つだけ魔法をラウレアちゃんから貰えるのよ。ネペンテス島で元々生きている私たちは、生まれた時から1つ魔法が備わっているから不公平にならないようにって。ここは、外部にあまり知られていないとは言え、いつ抗争が起きるかも分からない。外部だけでなく内部で起きる可能性だってある。そう言う時に、対等に戦えるようにする為にも。まあ、必ずしも戦闘に役立つ魔法とは限らないのだけどね」

「戦闘……」


 僕は急に、怖くなってしまった。

ここは安全だ、と思っていたけれど別にそうと決まっている訳ではないんだ。

 兄さんが入った10年間はたまたま安全だっただけで……。


「でも、この水があれば例え戦闘になったとしても死ぬってことはないんだよね?」

「そうね。でも、逆を言えば水を汚染させられたら終わりなの。許された人間しか入れない所に水汲み場はあるけれど、そこに外部の敵が紛れ込んだりしたら、大変なことが起きるわ。内部の人間だけの抗争ならば、まだ負傷だけで済むのだけどね。それだって嫌だけれど……」

「大丈夫さ、何があっても俺が2人を守ってやる」

「ふふ、頼もしいわね」

「兄さんは、どんな魔法を手に入れたの?」

「明日、教えてやるよ」


 兄さんは、何とも言えない表情でそう言った。

 

 それから、話題は楽しい話題に変わって食事を全て終えた。


 今日はもうこれ以上、色々と考えるのは辞めようと決めて楽しみにしていたお風呂へ入った。

展望風呂にゆっくり浸かって、ふかふかのベッドに入ると本当に夢みたいだな、と感じた。

 与えられた部屋はとても広くて、貴族になったような気持ちだ。


 眠って、目が覚めたら現実に戻っているなんてことが起きたら嫌だなと思うと、なかなか眠れなかったけれど気づいたら意識は飛んでいて、目が覚めても広い部屋が見えてほっとした。

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