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第1章第2話

 兄に言われた通りに舟に乗ると、本当に自動で動いた。

 いったいどんな仕掛けになっているのだろうか。兄のメッセージを見返すと、〝してもらっている〟と書かれている。

 兄が今、ネペンテス島で一緒にいる誰かにしてもらっているということだろうか。

 


 こんな魔法みたいなことを……



 舟は、ゆっくりとネペンテス島へと向かっている。どんな島なのか、安全かどうかも何も分からないのに僕は、ほぼ身一つで来てしまっていた。

 でも、確かに兄からメッセージが届いたのだ。

 兄は、島へ行ってから幸福すぎる日々を送っていると言っていた。危険な島ではないはずだ。


 どくん、どくん、と心臓が高鳴っている。


 『もうすぐだな』


 兄からメッセージが届いた。


 

——もうすぐ、10年ぶりに兄に会える。

 


 断崖絶壁の島が見えてきた。



「おーい! カイルー!」

 


 島の舟着き場から、誰かがこちらへ向かって手をぶんぶんと大きく振っている。


「……兄さん?」


 確かに、僕の名前を呼んでいるのは10年前に姿を消した兄さんだ。


 だけど、10年経っているはずなのに兄の姿は最後に見た日から何も変わっていないように見えた……。




「大きくなったなぁ。俺と同い年になったのか?」


 島に降り立ち、目の前に立っている兄さんは確かに兄さんだけど、やっぱりあの日から何も変わっていない、年を取っていない兄さんがそこにはいた……。



 僕が、ぼんやりと兄さんを見つめていると兄さんは「あぁ、そうかー」と呟いた。


「まあ、10年前と何も変わっていない兄が目の前に現れたら驚くよなー」

「ほ、本当に兄さんなの?」

「あぁ確かにお前の兄さんだ」


 そう言って兄さんは笑った。

その笑顔は、確かに大好きな兄さんの笑顔で、だけど信じられない自分もいて、僕はどうしたら良いか分からず俯いた。


「とりあえず島へ入ろう。詳しい話は道中するから。足元、危ないから手を繋いでやろう」

「あ、ありがとう」


 その優しさと、手の温もりはやっぱり兄さんだ。

手も暖かいし人肌を感じるから、幽霊とかではないだろう。


 不安になりながらも、僕は兄さんに手を引かれながら後をただ着いていった。



「何だ、これ……!」


 少し歩いた断崖絶壁の先には、見たことの無い景色が広がっていた。


「すごいだろ~~」

「見た目は、普通の島だったのに……」


 断崖絶壁の島の中には、予想が出来ないくらい大きな……一言で言うならば、〝近未来都市〟が広がっていた。

 

 近未来都市なんてものは、空想上のものでしか見たことがなかったけれど、そこに描かれていたような空間とほぼ同じものが広がっていたのだ。

 

 高層ビルに覆われていて、謎の球体が宙を浮いていて、頭上に道があるし、家屋も現実世界でならありえないような所に建っている。とても、現代人が成せる技とは思えない……。

 

 僕がしばらく圧倒されて動けないでいると、兄さんが優しく僕の肩を叩いた。


「ネペンテス島、ここは見ての通り近未来都市だ。日本ではない。だけど、外国でもなくどこの国にも属していない島。当然、地図にも載っていない。だが、10年に1度地上でスーパーブルームーンが見える時に、現代人もこの島の姿を見ることが出来る。この島には、この島で生まれ育った未来人と、俺たちのように現代から紛れ込んできた現代人が共に暮らしている島なんだ」


 兄はさらっと説明をしてくれたが、一発で理解できるはずもなく僕はへぇ……と相槌を打つしか出来なかった。


「俺は、10年前にこの島に入りそして未来人の妻が出来た」

「へぇ……って、え!? 妻!???」

「あぁ、とても素敵な人だ。この後会わせる。その前に、お前を連れていないといけない所があるが……ここだ」


 そう言って、兄さんが立ち止まった場所は近未来都市の中には不釣り合いな現代にもありそうな、こぢんまりとした教会のような場所だった。


「教会?」

「まあ、そんなような場所だ。現代で言う、役所みたいな所かな。この島で1番偉い人にお前を紹介しこの島に住まわせてもらう許可を得る。ここに来てくれたってことは、この島で生きて行く覚悟を持って来たってことで良いんだよな?」


 今更のようでいて、とても重要なことを兄さんは聞いてきた。


「まだ、この島のこと全然理解出来てないけど、でも、今更戻る気はないよ。それに、そう簡単に戻れないんでしょ?」

 

 僕は、頭が良い方だと思っている。

まあ例え頭が良くなくたって、10年帰って来ていない兄がいる島に入って自分がそう簡単に出られるとは思わないだろう。


 この島には、きっと何かがある。


「理解が早くて助かる。海流の言う通り、この島に一度入ると次に出られるチャンスが巡ってくるのは10年後だ。10年に一度だけ、ネペンテス島は地上へ上がる。その時にだけ、現代に残して来た人と再び繋がることが出来るし、戻りたいと言えば戻ることも出来る」

「だから、ずっとエラーになってたのに今日だけ兄さんとメッセージのやり取りが出来たんだね」

「そう言うことだ。それから、最後に1つ最も重要なことをまだ伝えていなかったから伝えるな」

「……うん」



「ネペンテス島の水を飲むと、〝永遠の命〟を手に入れられるんだ。だから、俺はネペンテス島に来たあの日のまま、22歳で年齢が止まっている。時間は存在するが、この島の水を飲んでいる限り老いはこないんだ」


 今までのどんな情報よりも信じられなくて、だけど、どうして兄が10年前の姿のまま元気で生きているのかその理由に納得がいった。

 

「お前はまだ、この島の水を飲んでいないからまだ〝永遠の命〟は手に入れられていない。欲しくなければ水を飲まなければ良いだけだ。まあ、そんなことは不可能なのだが……。水を飲まなければ人はいずれ死ぬ。得体の知れない島で死んで良いと言うならば飲むことを強要しはしない」

「兄さんも、誰かに同じことを言われてそれで、飲んだの?」

「あぁ。今の妻に言われた。迷う理由はなかったな。俺は、死ぬのが何より怖いことだと思っていたから……」

「そっか。うん、僕も死ななくて良いのならその方が良いな。無限に時間があるってことでしょ? それって最強じゃん」


 そう言って、僕は笑った。

兄さんも僕の答えを聞いて、ふっと微笑んでくれた。


「じゃあ、入るぞ」

「うん」


 偉大な魔王に挑むかのような気持ちで、僕はその教会のような場所へ足を踏み入れたのだがそこで僕たちを待っていたのは、可憐な少女だった——

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