プロローグ
10年前、兄が姿を消した。
兄は、いつも唐突に一人旅に出てはしばらくするとフラッと帰って来ていたので今回も最初は特に気にしていなかったのだ。
だけど、兄はいつまで経っても戻ってこなかった。
届いたのは、1通のメッセージと写真だけ。
『ずっと探していたネペンテス島を見つけたぞ! 俺は島へ行くがたとえ帰って来なくても心配はしないで欲しい。10年後にきっとまた出会えるから——お前に、その意思があれば、だがな』
訳の分からないメッセージだった。
兄は、いつだってよく分からない発言をする人だったが嘘はついたことはないのは弟である僕がよく知っている。
だから、きっとこのメッセージはいたずらでもなくて、〝本当〟なのだろう。
僕は、兄を信じることにした。
両親には、兄は放浪の旅に出たと適当なことを言っておいた。
兄は、いつも適当だったから、両親もすぐに信じてくれて兄の失踪届などを出すようなことはしなかった。
そうして家族3人でぼんやりと生きていたけれど、僕が19歳の頃に両親は交通事故で亡くなってしまった。
僕は、とうとう一人になってしまった。
兄もどこに行ったか分からない、両親もいなくなってしまったし、恋人がいるわけでも大親友がいるわけでもなかった。
だから、早く兄に会いたかった。
僕は、ただ平凡にこの10年を過ごしてきた。
そうして、時は流れていき兄のメッセージに書かれていた10年後がやってきた——