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(仮)東乱の王  作者: 都津 稜太郎
2.温泉街
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1.北歴482年 夏


 俺が生まれ育った温泉街は、大陸を東西に分つカサム山脈の切れ間に位置する、古くからの交通の要衝だった。遠い昔に帝国が関所を設置したこの場所は、源泉が湧き出た事から同時に湯屋町として徐々に発展していくことになる。

 高祖父が幼い頃に所有者は王国に変わり、戦乱の世の習わしで砦の建築が始まった。

 関所から砦に変わった時に湯屋町は内包されず、砦は街の西側の隘路に沿って完成し、それから半世紀が経った頃、父が幼い頃に王国は分裂、砦の所有者は共和国に変わった。


 そして俺が15になったばかりの今、戦火が迫りまたもや所有者が変わろうとしている。


 そんな中でも誰一人逃げ出すこともなく、この街の人たちは呑気にいつも通りの生活を送っていた。


 これにはいくつか理由があるのだが、古くから湯治に使われるこの温泉街は、商人や兵士の休憩所として、市民の観光地として有名かつ有用で、ここを破壊する事は全てを敵に回す事になると同義だった。その為、ここに湯屋町が出来て以来、戦乱の只中にあっても破壊や略奪を逃れて来たという背景がある。

 いつも通りに過ごす街の人達を見て、今は亡き母が幼い頃に語ってくれた、この温泉街の歴史と住まう人々の気性について、今更ながら実感している。


「今度の支配者は、西方の民族らしいぞ。帝国の正当後継者を名乗っとるんだとよ」

「ハハハハッ、帝国の正当後継者なんぞ”ごまん”といるわな!!」

「わしも正当後継者じゃ!」

「なにを言っとるんだ、おめぇはオンボロ宿屋の隠居老人だろう!」

「いやいや、実はな今から300年前に……」


 次の支配者について、街の酒場で昼間から酒を飲みながら、呑気に老人たちが話している。この老人達は温泉宿の代替わりを終えた元店主達だった。1人がこちらに気づく。


「おー!”ミルス”の所の倅じゃないか!おめぇも一杯やるか?」

「こちとら忙しく使いっ走りだよ」


 うちの3件となりの湯屋のじいさんもいたようで、店の奥から買ったばかりの酒を片手にフラフラ表に出てくると「ご苦労!ついでに酒も頼む!」なんて言って陽気なもんだ。


「なーに言ってんだ爺さん、今手に持ってんだろ!」

「そうじゃったな!ガハハ」

「忙しいんだ!じゃあな!」


 陽気に絡んでくる暇人の爺さん達から逃げるように歩き出し、地元の商人と、様々な所からやって来る行商人達が、所狭しと品物を広げている広場へとやって来た。この広場も戦争が迫っている事などお構いなしに商売をしている。

 済まさなければいけない用事はいつも通り簡単で、お客に出す料理の材料に買い足す石鹸くらいだ。そしていつものなじみの店に行けば大体、一通りそろうのだ。


「よー、おやじさん。活きが良いやつある?」

「ん?おー”ターリ”か、いつも通りか?」

「うん、魚と肉、あと少しの石鹸かな。量はいつも通りで!」

「はいよ、そこらで待ってな」


 「そこらで待ってな」と言われ適当に店内をぶらつくと、相変わらずそこそこの品ぞろえに、行き届いた清掃が、店主の性格のマメさを伺わせる。

 大げさに言うと街で5番目に大きいこの店で、せかせかと働く熊の様な見た目のおやじは、俺の父親とは長い付き合いで物心ついた頃から知っている。だから、阿吽の呼吸と言っても差し支えないこのやり取りも、ごまんと繰り返したものだ。


「戦争が近いせいで明日から高くなるぞってミルスに伝えておけ」

「おやじさー、高くするくらいなら、人雇いなよ」

「うるせぇガキだな。それとこれとは関係ねぇ!仕入れ値が高くなるって言ってんだ!あと人は雇わん!」


 そも街の中で自分の店舗を持って店を出している時点で、商人として成功している筈なのだが、この熊の様な男は、けちな性格だからか頑として人を雇わず朝から晩まで働いている。


「おやじー、働きすぎて体壊すなよー」

「んだぁ、余計なお世話だ!ミルスによろしく伝えとけ」

「はいよ!じゃあなー」

「まいどあり」


 帰り道に通り過ぎた酒屋では、まだいつも通りのお爺3人衆が飲んだくれていた。絡まれたところを、食べ物あるからと言って切り抜けて急いで帰宅する。

 自分の家でもある宿屋は、飲んだくれの爺共がいる酒屋から、山側である西側に5本入ったところにある。山に登り始めの所にあるので、行きはいいのだが帰りがつらい。少し息が荒くなりながら帰宅すると、宿の受付には誰もおらずお客が待っていた。


「おっと!!申し訳ない!お客さんですね??」

「……そうだ。1泊頼む」

「はいよ!おーい、親父!……いないのかな?自分が受付します。えーっと1、2、3人ですね」

「あぁ、後でもう3人来る予定だ」

「2人部屋3つにしますか?」

「3人で分けれるか?」

「はいよ3人一部屋で二部屋ね。他に希望有りますか?」

「飯はどうなる?」

「右のそこで作ってるんで、朝晩と食べれます。別料金ですがね!あと、温泉は左のその廊下の奥です。そっちはなんぼ入っても無料!」

「わかった。もし受付に”カルードはいるか?”と聞かれたら、いると言ってくれ。合流する予定のやつらだ」

「了解しました!そんで一泊だと料金は、一人あたり銀貨3枚ね。6人で金貨1枚と8銀貨」

「金貨2枚で頼む、釣りはいらん。武器の預けは兄ちゃんでいいんか?」

「俺でいいよ!はい、これ鍵ね」


 3人の男達が順番に武器をカウンターに置いた。その時に外套の隙間からチラリと見える鎧と身なりが、そこら辺をうろつく旅人には似ても似つかない。だがそこから邪推、詮索するのも宿屋の息子として野暮な事だと知っている。


「はいこれで、武器は全部ね?部屋は登ったところの右奥二部屋」

「どうも」


 ぞろぞろと階段を登って部屋に向かって行く客を見送り、荷物を店の奥に置いて戻って来ると、いつの間にか親父がカウンターに呑気に座っていた。


「親父!どこ行ってたんだよ」

「いや、温泉の出が悪くてなー、配管修理してたんだ。治ったぞ」

「まぁ、いいや。客来て3人部屋二つ6人ね!それと足元のそれに、熊親父のとこで買ったのが入ってるから」

「おう、じゃあ俺はこれ持って厨房行ってくるわ。受付任せた」

「はいよ」


 一応この街の様子でも戦争が近いという事もあってか、それ以降新たな客が数組と”カルード”のお仲間のみで、いつもの通りの大盛況とはいかない。ただただ受け付けで暇な時間を過ごし、最近親父から習っている帳簿の付け方や文字の練習をするくらいだった。

 勉強しているといつの間にか夜は更け始めて、燭台の蝋燭が少し短くなっている。このままだと厨房の片づけを終えた親父に「蝋燭の無駄遣いするな!」と怒られそうだ。温泉の石鹸補充をしていなかったことを思い出して、今日の勉強は終わりにして、宿屋の息子としての仕事を始めることにした。

 女風呂は今日誰も泊まっていないので、掃除するところもなく石鹸を補充して終わり。問題は男風呂だ。こっちは泥だらけの旅人とかが使うもんで、いつも掃除に時間がかかる。


「おー、今日はきれいだ」


 そもそも泊っている人が少ないからかもしれないが、更衣室はほぼ汚れていない。床の掃き掃除を始めようとすると、1つの籠に衣服が置いてあるのが目に留まった。別にこれだけなら気に留める必要はないのだが、問題はその中身だ。明らかに”剣”が見える。どこのどいつかは分からないが、受付の時に武器を預けないのは重大なルール違反で、追い出さなければならない。そもそも預けないにしても、剣をこんな所に置いて温泉に入るなんぞ、盗んでくれと言っているようなものだ。

 取り敢えず預かろうと近くで見てみると、素人目にも分かるほどそれはそれは古く、だが手入れが良く行き届いている剣だった。


「ったく!誰だよホントぉ……」


 頭の中に強い衝撃が走った。殴られたのとは違う……内からの衝撃だった。

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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