side-J・ショッピングモールの対決、真一vs梨乃亜
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――オレたちの通う高校でゴージャスな不審者ノーヴェル・マシーに異世界誘拐事件が起こった。
異世界にかどわかされて連絡がつかなく行方不明となったのは、二人――
東屋皐月、高校三年ヒューマノイド研究部の部長。
大上遊戯、高校三年演劇部の部員。
以上の二人が、異世界に行ってしまった――
そして、そんな事件が起きた数日後の休日――オレ、神城真一は近所のショッピングモールの玩具売り場で偶然、浅科梨乃亜と会っていた――
「と言うわけで――異世界に行ってしまった大上先輩のかわりにこの俺、神城真一がヤッタルデーについて解説をしようと思う!!」
「わ~~パチパチパチ♪」
「まず、アニメ第一期『浪花大戦ヤッタルデー』に出てくる主役ロボヤッタルデー!! 飛行機形態からファイター形態に変形可能――だが、パーツ変更タイプだったので二つの形態で使う余剰パーツが多数存在し、不注意でそれらがなくなり変形ができなくなっちゃったと嘆くキッズが続出したという!!」
「へ~~変形パーツだけでなく、いくつかパターンのある拳もなくなりそうね。もちろんロケットパンチも搭載されているのでしょう?」
「ああ、フィギュアには実装されている。劇中では使われなかったがな――その反省を生かしてか、アニメ第二期『浪花決戦ヤッタルデー』の時に販売されたヤッタルデー決戦仕様では余剰パーツをなくす試みがとられた。変形ギミックは形を変えて内部に組み込むことができるようになったんだ」
「決戦仕様の横に並んでいる、この黒い色のヤッタルデーは?」
「それは宇宙海賊の一人、アーマネシーが作った偽物『ノアールヤッタルデー』――登場回数は少ないがアーマネシーのキャラ性とあいまってかなり人気があり、ヴィランロボなのに立体化されたという経緯がある――ま、ヤッタルデーのカラバリだから作れたと、ネットで非難してた連中もいたけどね」
「カラバリ……カラーバリエーション……俗にいう色違いね。そういうのは他にもあるの?」
「全体を銀色のパーツで構成された『シルバーヤッタルデー』や金色のパーツの『ゴールドヤッタルデー』が『ノアールヤッタルデー』の他に公式発売されているヤッタルデーのカラバリはそれらくらい――だけど、個々人がネットに上げている物の中には思い思いの着色がされたヤッタルデーがある!!」
「なるほど」
「そして、これが最新版――!! つい先日発表されたばかりの新シリーズ、『浪花激戦ヤッタルデー』仕様のヤッタルデーだ!!」
「おお~~! 今までのとどう違うの?」
「さあ? だって激戦仕様のヤッタルデーは今日発売されたばかりの新商品だから、今までの大戦、決戦のヤッタルデーとの違いは買ってみて初めてわかるものじゃない?」
「真一君は買う気ないの?」
「あのさ、俺は今日――ファロの新武装とかを吟味するためにこのショッピングモールに来たんだ――この間のバトル・オブ・ヒューマノイド学生の部で優勝した時にもらった商品券をそろそろ使いたかったからな――そしたらヤッタルデーのフィギュアコーナーでただずんでいた梨乃亜がいたんだろ?」
「………私も、このショッピングモールに来たのはヒューマノイド関係よ。でもこのヤッタルデーを見てると――いなくなったちゃった東屋部長を思い出してね――なんであの時部長がいなくなった部室にアニロボのヤッタルデーがあったのかしら?」
「……ヤッタルデーを持ち込んだのは大上先輩だったんだが」
「大上先輩……ダンディな髭のおじ様の話をしていたあの太った人よね……あの人も東屋部長と一緒に異世界に行っちゃったって――」
「ああ……もしも大上先輩が異世界に行ってなかったら……喜び勇んで激戦仕様のヤッタルデーを買いに来てただろうな……」
その様子は容易に想像できた――
この、ヤッタルデー関連の専門コーナーで新発売の激戦仕様ヤッタルデーを抱えて小躍りしながらはしゃぐ相撲部のエース……うん、忘れよう。
「とりあえず、ヒューマノイド関連商品を見に行くか! しっかしいつも疑問に思うんだが……なんでヒューマノイド関連商品はおもちゃ売り場と併設しているんだろ?」
「どうしても、ヒューマノイドをフィギュアや着せ替え人形の延長上としか見てない人もいるらしいからね――ああいう人たち、みたいな?」
そういって梨乃亜が軽く指さした方を見ると、二人の男が今まさに玩具売り場をこえ、ヒューマノイド関連商品の売り場へ入っていくところだった――
「これはこれは疾風怒濤の疾風殿でごじゃりますな。貴殿もここにきているとは奇遇、でごじゃる」
「これはこれは、秀作氏――貴方のようなやんやごとなきお方がこのような場所に赴かれるとは――目的はもちろん、アレ、でござるな?」
「さようでごじゃる。麿は必ずかの女人を後宮に迎え入れるでごじゃる」
「そう――」
「「アニメ『魔法少女飛翔苺ちゃん』の主人公、草薙苺ちゃんモデルの限定ガイノイドを!!」」
公家と忍者のコスプレ――なんてしてるわけがなく、ごくごく普通の格好をしている大学生くらい二人組が、魔法少女飛翔苺ちゃんの会話でもりあがりながら、ヒューマノイド関連商品の売り場へ入っていく――その手にある紙袋の中からはもちろん、苺ちゃんフィギュアが顔を出していた……………
「そういえば……『魔法少女飛翔苺ちゃん』モデルの限定ガイノイドも今日発売だったのか……」
「ああいった人たちにとってはフィギュアもヒューマノイドも大差ないんでしょうね」
「……そうだな……」
アニメキャラクターのヒューマノイドは定期的に発売される――フィギュアとの違いは、動作プログラムを組めば自動で動かせる等あるが、ああいう人たちは観賞用に使うんだろうな……
「……そういえば……」
梨乃亜がフト思い出したように言う――
「真一君、あなたあのゴージャスな不審者のに対する警戒はしているの? 狙われているんでしょ?」
「ああ、それなら大丈夫――七瀬さんからもらったアプリはきちんといつも発動可能にしているし、それに――」
そういってオレはカバンを開けてその中からあるものを取り出す―――――
「特殊警棒に暴漢撃退スプレーをちゃんと準備している! ――もしあのゴージャスな不審者が接触してきたらとっつかまえて大地や東屋部長を含む、異世界拉致被害者全員を取り戻してやる!!」
「……異世界の不審者の前にこの世界の警察に捕まらないようにね」
「あ、それなら大丈夫――実は俺、警察には顔が利くから――」
「は?」
オレの言葉に一瞬ポカンとした表情を見せる梨乃亜――
「え? は? えっと……? 神城真一……貴方、過去何かの犯罪をやらかして逮捕されたことがあったて事!?」
「いやいやいや!! そう無茶苦茶ドン引きするな!! 俺の親父が警察なんだよ!!」
「あ……ええっと……そ、そ~~言うことね……」
梨乃亜が、納得いかないって顔でオレを見てくる――オレの方がなんか納得いかないんだが……
「――ところでさっきカバンを開けた時にファロちゃんが見えたんだけど――ここに連れてきているの?」
「当たり前だろ? 今日はファロの強化装備を買うために来たんだからまず試着させてみて、似合うかどうか確かめないといけないだろ!」
「ふ~~ん、じゃ、ちょっとファロちゃんと一緒に来てくれる!」
「どこへ?」
「もちろん、ヒューマノイド専門のブティックよ!」
ヒューマノイド専門のブティック――そこは、想像していたのと大きく違った――
「……こういう所って、あまり来なかったけど――人間のブティックと結構違うんだな……」
何段かの鍵付きのケースにそれぞれヒューマノイド用の衣装が、陳列されている――ケースの上部には所々、マネキンよろしくヒューマノイドが様々の服を着て決めポーズをとっている。
中には動作プログラムが施されてされているのだろう、同じ動作を繰り返しているヒューマノイドもいる――
そして、それぞれの洋服のケース前には、服のデザイン、そして――値段とQRコードが書かれた注文カードがセットされている。
「ヒューマノイド関連ショップにはよく来るが、こういう場所にはあまり来なかった――が、こういう風になっていたのか……」
ゆっくりとあたりを見渡し、客層を確認する――
「意外と、男性客も多いんだな――」
「皆れっきとしたヒューマノイド技術者よ……ヒューマノイドを着せ替え人形の延長上と思っているようなオタクはいないわ……多分!」
「フォッフォッフォ!! 苺ちゃんの限定ガイノイドを無事麿の後宮に迎え入れることができたでごじゃるから、次は高級女官にふさわしい素晴らしい衣装を吟味するでごじゃる」
「むむむ、拙者は少々予算オーバー気味……これは苺ちゃんにふさわしい衣装を選びに選びつくさねばならぬでござる!!」
「ならば、AI試着BOXへと赴くでごじゃる、疾風殿」
「AI試着BOX……了解したでござる秀作氏」
「ファロちゃんもちゃんとした女の子なんだから、おしゃれにもっと気を使いなさいよ!!」
あ、目をそらした――
「こういう衣装とかもファロちゃんに似合いそうね――」
そう言って衣装ケースの前のカードをいくつか抜き取る梨乃亜。
「おいおい、ちょっと待てよ! ファロは空を飛ぶために翼とプロペラが格納されているバックパックを背負っているから、どうしても背中の空いたデザインの服しか装着できないんだぞ!」
「……ああ、そう言えば、そうだったわね――」
梨乃亜が少し残念そうな顔をし、いくつか棚の商品を眺めている――
「これなんか、ファロちゃんに絶対に合いそうなんだけどな……」
梨乃亜がそうぼやいている横で、オレはフト、とある商品棚に目を奪われる――
そこは、ほんの少しきわどい衣装が並んでいるコーナーだ……………
「あ、そのコーナーの衣服はファロちゃんに着せるのは難しいわよ」
「へ? なんで?」
オレが見ているのは、他の商品と変わらない女性用の衣服が並んでいるように見える――
「そこは、美少女アンドロイド専用のコーナーだから」
「美少女アンドロイド?! 大地の……リクみたいな?」
男性型ヒューマノイド・アンドロイドに魔改造を施し美少女の姿に変えた物――美少女アンドロイド――オレがよく知るのは大地が使っていた、バニーアンドロイドのリクだが――
「……美少女アンドロイド用の衣装コーナーがあるなんて……よくよく考えたら普通のガイノイド用の衣装とどう違うんだ?」
「わからない? 美少女アンドロイドはね、おっぱいがないのよ」
「は? おっぱいが……ない?」
「というか、本来男性型であるアンドロイドにおっぱいがあるのはおかしな話でしょ? だから美少女アンドロイド用衣装にはおっぱいがついているのよ――ま、パットっていう感じかしらね? が、備わっているのよ。つまり、美少女アンドロイドのおっぱいは外付けになってるの」
「……………な、なるほど……………」
「その証拠にここに並んでいる美少女アンドロイド用の服は全部胸のサイズが違うでしょ? アンドロイドのまっ平らな胸にパットとしておっぱいを装着するから、美少女アンドロイドは様々なサイズのおっぱいが選べるのよ」
ということは、あの時ファロが蹴ったリクの胸も偽物だったのか?
「……まあ、あのリクが特殊だっただけで本来の美少女アンドロイドは観賞用だからな――バトル用に作られた俺のファロにひらひらドレスとかは似合わないか」
「何言ってるのよ! ファロちゃんは女の子なのよ! おしゃれに気を遣うのは当然じゃない!!」
そう言って梨乃亜はケースの前に設置されているカードを何枚か引き抜く――
「おいおい、そんなに買うつもりか? まさか俺の優勝賞金が狙いか!?」
「そんなわけないでしょ! このショッピングモールにはあれがあるのよ!」
「……あれ?」
「AIを使ったヒューマノイド用試着BOX!」
ヒューマノイド専門のブティックの奥まったところに、モニター付きのBOXがいくつも並んでいるコーナがあった――そこにいる人たちはそれぞれ手持ちのヒューマノイドをBOXにいれ、モニターのそばにあるスロットに衣装カードを挿入している――すると、BOX内のヒューマノイドの情報とカードの衣装情報がAIによって組み合わされ、モニターにその衣装を身に着けた映像が映し出されるのだった――
「フォ~~フォッフォッフォ! 眼福眼福。麿の慧眼通り苺ちゃんには赤いバニースーツがよく似合うでごじゃる」
「秀作氏、このメイド服姿の苺ちゃんもなかなかの御姿でござるぞ!」
「おおうおおおう、素晴らしいチョイスでごじゃるな疾風殿! では共に――」
「いざ、まいらん!!」
「「マジカルストロベリーシューティング!!」」
マジカルストロベリーシューティングとは、魔法少女飛翔苺ちゃんの主人公が放つ必殺魔法である――限定ガイノイドにはその必殺魔法使用時の動作とBGM、最後の決めポーズと決め台詞までデフォルトでプログラムされているのである――
「見てのとおり、多少の激しい動きでもその衣装を合成し続けてくれる優れものよ! これならファロちゃんに似合う衣装を思いっきり選べるわね」
「注文カードのQRコードにはそんな効果があったのか……」
「気に入ったらモニター画面をスクショして印刷もできるわよ――……一枚200円するけどね」
「へえ、ぼったくるな……」
「まあ、スマホでモニターの画像を撮影するのもOKだから、画像を残すだけなら何とでもなるわ、じゃあまずファロちゃんをBOXに入れてくれる」
「ああ、わかったよ――」
オレはカバンからファロを取り出しBOX内にいれる。
「AIなら飛行用バックパックを背負ってても関係なく描写してくれるわ! とりあえず、まずはこの衣装からね!」
そう言って梨乃亜がスロットにカードを挿入すると、モニター画面のファロの衣装が変化する――
「これって、うちの学校の女子制服か?」
「あくまでも、似たようなもの、だけどね――これを買って今度学校でファロちゃんとペアルック、てのもいいかもね」
「待て待て待て!! ファロは俺と一心同体!! ファロに似合う服は俺が決める!!」
「あら? そういうことなら、真一君のファッションセンスを見せてもらおうかしら?」
「ああいいぜ! 俺がファロのベストコーデを見せてやる!!」
オレ自身、ただのほほんと梨乃亜についてきていたわけじゃない――ファロ似合いそうな衣装をいくつか選んでいた――
結局、この日オレたちは……いや、オレは梨乃亜によるファロのファッションショーに長時間付き合わされることとなり、ファロの新装備を選ぶ時間が無くなった。
しかたなく、オレは新発売の『DXヤッタルデー・激戦仕様』を買って帰ることにしたのだった。
「て? え!? なんで!? どうしてこんなことになった!?」
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