side-J・クラウドキャッシュ
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「俺の名は神城真一、ヒューマノイド研究部に所属しているイケメンな高校生だ! ――そんな俺は今、とてつもない現実を突きつけられ呆然としている!!」
少々芝居じみた言い方で今までの事を振り返えり、状況を整理してみる――
「なんと俺はあの有名な『クラスメイトと異世界で大活躍』とか『異世界行ったら本気出す』とかの主人公と同じ日本から異世界へ行き、チートをもらって大活躍する異世界転移物の人間だったのだ!!」
「おい! 何おかしななことを言っている!!」
「そうじゃ! 在学中に生徒が異世界なんぞに行ってみい! わしらの責任問題になるではないか!」
ついつい出てしまったオレの独白に、突っ込みを入れる七瀬さんと中野先生――
「あ、すいません……まさか漫画やアニメだけの存在だと思っていた異世界が、本当に存在するなんて思っていなかったんで……」
オレの言葉に七瀬さんはため息をついてタブレットの立体映像を消す――
「まあいい。とりあえず、神城君――それと今スマホを持っている者は、ちょっと協力してくれ」
七瀬さんはそのままタブレットを操作し、QRコードを画面上に映し出す――
「このQRコードからダウンロードできるアプリを起動すれば、どんなにノイズがひどくなっていても近くの自衛隊や警察組織にSOSが発信される――ゴージャスな不審者、ノーヴェル・マシーに直接遭遇した時、もしくはあの強烈なピンク色の光を見た目撃したらすぐに起動してほしい――」
七瀬さんは周りを見渡してそういうと、
「じゃあまずは神城君、君からインストールしてくれ」
と言ってきたのでオレはスマホを取り出してアプリインストールを開始する――
「忠告はしておく――くれぐれも、いたずらに使おうなよ! その場合は即刻アンインストールしてもらうことになるからな!」
「あれ~けっこうなデータ量があるわね……」
隣で梨乃亜もスマホを操作しているが、
『データ容量が不足しているためアプリをインストールできません』
と表示されている。
「無造作に何でもないアプリをインストールしまくっているからだろ」
「ちょっと! 他人のスマホを覗き見るのはマナー違反よ! っていうか、私のスマホにはファロちゃんをはじめとするかわいいガイノイドちゃんたちの動画でいっぱいなのよ! ――しかたがないからちょっと画像や動画をクラウドにキャッシュして――」
「ハイハイ、後ろの皆さんもインストールしたがっているから場所をあけようね」
オレが梨乃亜を横にずらし、応接室の外で様子をうかがっていた生徒たちに順番を譲る。
「ところで神城君――君、おかしなことを言っていたな――チートをもらうって?」
インストールに苦戦中の梨乃亜を置いて、部室に戻ろうとした時に七瀬さんが声をかけてきた――
応接室のそばにいた生徒の何人かもインストールが終わって部活に戻っていったり、そもそもスマホを持たずにいたためスマホを取りに行ったり、友人を呼びに行ったりしている。
「え? まあ、普通に異世界転移した人間ってチートっていうか……何かしらの特殊な恩恵がもらえるもんでしょ?」
「誰に? まさかと思うがゴージャスな不審者、ノーヴェル・マシーにか?」
「え? そう言えば――そうですね……」
言われてみれば、あのノーヴェル・マシーは……異世界転移物の漫画やアニメの冒頭で出てくるチートをくれる神様とかそういう存在ではないように思える――超常の力は持っていそうだが、それを気前よくくれるような存在には見えなかった――
「それに、チートというものは、漫画やアニメで言われているような別世界に行った時にもらえる恩恵などではてないぞ」
中野先生が教師らしい口調で話を始める。
「元々はコンピュータゲームの用語で『ズル』という意味で、バグを利用したりプログラムの不備を突いたり書き替えたりして他者よりかなり有利な状況でゲームを進めることをさす言葉だ。そのためにはバグの情報をしいれたり、プログラムの知識を身につけておかなければならぬもの、他者からタダでもらうなど言語道断――」
「あ、え~と!! ええっと!! あの、ノーヴェル・マシーが言っていたダンジョン大陸っていう異世界? についてなにか情報はあるんですか!?」
長くなりそうな中野先生の言葉を大声で遮って七瀬さんに質問を投げかる――
「少しはね」
「異世界に行って、帰ってきた人間――帰還者、リターナーがいるとか?」
漫画やアニメの異世界転移物ではそういったキャラクターも存在している――
「いや、行方不明となっている人たちのスマホからクラウドにデータが送られてくることがある。それらを分析してダンジョン大陸とやらの状況を少しでも知ろうとしている――」
「え? それってどういうことですか?」
今だ並んでいる数人の生徒がアプリをインストールするためにQRコードを使っているため、七瀬さんはスマホを取り出した。
「浅科ちゃん……だっけ? 彼女はやっていなかったみたいだけど、スマホにはダウンロードしたプログラム、セーブしたデータ、撮影した写真や動画を自動的にクラウドコンピュータへバックアップを行う機能がある――設定をきちんしていれば、不慮の事故でスマホが破損したりしても、データを修復できるし、キャッシュしたデータを消去することでスマホ内のデータ容量の節約にもなる――」
確かに、オレのスマホにもその機能はある――ファロの動作テストでは膨大な動画データがあるのだから――
「もちろん、個人情報だから本来は本人以外の閲覧は禁止されている――だが僕は、ノーヴェル・マシーが関わって行方不明になったと思われる者たちのデータについては閲覧できるように権限を得ている――」
そういってスマホにパスワードを打ち込み、かけていたモノクルを外す――
「あれ? 七瀬さん、片方の目……?」
七瀬さんの片方の目はもう片方の目と色が異なる――オッドアイというものか?
「あまり人の事情に突っ込むな」
顔認証をおこなっただけだろう――スマホが起動するとモノクルを元に戻す――
「っていうか、異世界に行った人間のスマホのデータをこの世界にあるクラウドコンピュータにキャッシュするって……可能なんですか?」
「時々、異世界とこの世界がつながる瞬間がある――その時にクラウドコンピュータにデータが送信されるんだ――少量で、不鮮明で、こまごましたものだが、解析や分析で情報を得ようとしている――最近データが受信できたのは、昨日だ」
「昨日……大地が、行方不明になった時……」
「そうだ。ノーヴェル・マシーが異世界とこの世界をつなげるピンク色の扉を開く、その時に異世界にあるスマホのデータが――ほんの少しだけ受信できる――」
七瀬さんのスマホに、ある人物が撮ったと思われるタイトル付きの写真が写し出される――
『我は帝王!!』
手作り感満載の大きな椅子に座る男の画像だ。ノーヴェル・マシーを見た後ではどこかチープに見える――
『我が城なり!!』
同じ男がごくごく普通の家の前で決め顔をしている――表札には西山。
『我が臣民たち!!』
どこかの駅前の画像、人が多い――
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心の中で『西山帝王』と名付ける。この男は帝王ムーブをかましている写真を集め、自己満足に浸っているだけのようだ。
しばらくは西山帝王の自画自賛な画像が続いている……ほとんど手作り感満載の舞台やコスプレ、他には町中の風景写真に『我の~~と、タイトルをつけている。
「素人感丸出しの写真ばっかりだね。こんな個人情報丸出しの画像をネットのアップしてたらすぐに特定されるよ」
「大衆公開せずに個人で楽しむ分には問題ないんだろ? てか、ネット公開されてても誰も興味を持たないと思う」
「そもそもこれらの画像はクラウドにキャッシュされている個人の画像を特別な権限を持って閲覧しているものだけのものだ――本来は犯罪であり、やってはいけないことなのだぞ――」
「西山貞二――二カ月ほど前行方不明となる――その時、ピンクの光を見たという証言がありノーヴェル・マシーが関与していると思われる――」
見ていると、二カ月前を境に帝王ムーブの様子が変わる――記録頻度が毎日ではなくなり、タイトルに文字化けでほんの一部しか読み取れない物や不鮮明な写真が多くなる――だけど、中にはちゃんと見られるものもあって――
『✕✕✕まで続く草原に✕』
ただっ広い草原――でもたしか……地平線って日本じゃ北海道くらいでしか見えないんじゃなかったっけ?
『我が新た✕✕、✕✕✕✕』
半分以上が消失しているが、何かの建造物の写真――?
『我✕✕皇后達』
上部が消失しているため顔はわからないが、西山帝王が何人かの女生と一緒に写っている――
そして、
『ドラゴン! ドラゴン! ドラゴン!!』
「なんだこれ!?」
ファンタジーゲームのエネミー、ファンタジーアニメの花形、架空生物の代表格、ドラゴンが写っている写真――!!
「絶対に日本じゃないわねこれ……」
その後も聞いたことや……作り物なら見たことはあるが、実物は見た事がないファンタジー的な存在が写った写真――見た事がない風景が続き、昨日の日付で終わる――終わっているはず――
「え?」
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕』
何も写っていない真っ黒な写真とタイトルが突然、追加される――
ヴァン!! ヴァン!! ヴァン!! ヴァン!! ヴァン!!
「な!?」
それと同時にけたたましい音と振動が七瀬さんのスマホとタブレットから発せられる!!
「誰かがあのアプリを起動した!? いたずら? いや、ノーヴェル・マシーが現れたのか!?」
オレの手からスマホをひったくり音を止めてどこかにつなげる――
「―――――何処でアプリが起動した!?」
七瀬さんがスマホの向こうの相手に問いかける!!
スピーカーになっていないので相手側の声は聞こえないが……………
「なんかとてつもなく嫌な予感が、する……………」
「―――――この学校!? 場所は?」
「え……?」
スマホから耳を離し中野先生の方を向く七瀬さん――
「中野さん、ヒューマノイド研究部の部室は何処ですか?」
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