side-A・テツノオンナ
「イルダ……ウマイ……イルダ、ウマカッタ……」
ガチャガチャ……
一匹の魔族が、地面に人間の骸骨をきれいに並べている―――――
その骸骨は、ブロードに逆らい空中牢獄から落とされた商人の護衛の女魔法使い――その成れの果てであった……………
商人はその者をイルダと呼んでいた。魔族の耳にその言葉が残り、魔族はその骸骨をイルダだと、認識した――――――
そのイルダと呼ばれた『物』は魔族にとって今まで食べた事の無い程美味い、極上の餌だった――
だが餌は、食べればなくなる――
他にも、ブロードたちに逆らい殺された者や、別の事情で空中牢獄から落ちた者はいたが、イルダ以上の餌はなかった――
だからその魔族は、食らいつくし、しゃぶりつくし、もはや骨だけになろうとも、後生大事にイルダを残していた――
すでに骸骨となったイルダをきれいに組み立てなおし補修をし、きちんと清掃までする――そうすれば、もう一度イルダを食えるかもしれない、と……………
「貴様は何をやってんだ?」
「ブロードサマ……ウマイ、イルダマタクイタイ」
名残惜しそうに骸骨を弄んでいる魔族に、ブロードが半眼で声をかける――
「しゅ、趣味悪……なんてもんで遊んでんだよ……」
ブロードの手の中で、その魔族が何をやっていたのかが見えたビューティードールも、嫌悪感丸出しの声を出す――
「……イルダトオナジカタチ……ソレクエル? チッコイケド」
「意外と固いし、食いでがないぞこいつは――」
ブロードは握っていない方の手でビューティードールをつつきながら言う。
「そういう感じじゃ、コイツ、ゴーレム型のダンジョンモンスターだと思うのだがな?」
「ゴーレム型?」
ブロードとは、あまり会話をしたくないと思っていたビューティードールだが、別の目的もあって聞き返してしまう――
「――ダンジョンモンスターでもっとも多い形――材料にコアの力と魔力を与えて動く形とし、心分けをしてマスターの意志通りの行動をとらせる――鉱山等で資源鉱石に対して使われることもあるな――ちゃんとした兵士の形なら、戦力として使えなくはないが――とりあえず動く形、程度では戦いの役に立たん――それならば―――」
ジャラジャラジャラ!!
ブロードの持つ鎖が意志をっているかのように動き出す!!
「構造をよく知っている武器や相手を倒す罠をダンジョンモンスター化した方が役に立つ――ゴーレムタイプの名品、リビング・ウェポンやリビング・トラップ――!! 生きた武器や罠はもの素晴らしい!! 心を分け与えた存在だからマスターを裏切ることもない!!」
ジャラジャラ~~!!
鎖が蛇のように動き、砦の倉庫から鉄の塊を担いで持ってくる――
「……エレメンタル型もそうだが、形無き物に形を与えるのは難しい――が、元々に形があり、なおかつその記憶がまだ鮮明ならば、形を再構築することはたやすい!!」
コゥ―――――ッ!!
「元は生物であった物に材料と魔力を与えてかつての姿を再現したダンジョンモンスターを、アンデット型という――」
「アッ、アッ、アアッ!!」
ブロードが持つダンジョンコアが輝き鉄の塊と魔族が弄んでいた骸骨が融合する!!
数刻の後に光が消えると、骸骨はかつての姿をほぼ再現していた!! ―――――鉄製ではあるが……
「オオ!! イルダ、ウマイ!!」
ガギ!!
魔族が再現されたイルダに喜びすぐに食いつくが、鉄の塊に牙は通らずはじかれてしまう!!
「カタイ~~~~~!!!!!!」
「まあ、鉄製だしな……本来こういったアンデットタイプは柔らかい材質の物で作るか、元となっている生物と同じ素材で作るのが基本だが……お前、ビューティードールの技術を応用すれば、こう言ったアイアンレディなんかも作れるという事だな!」
そう言って鉄でできた女を立たせようとするブロード――
「ちっ! やはりかなりの重量があるな――心をわけ与えて動くようにしてやってもいいが、扱いは面倒そうだ――」
足元で名残惜しそうにまだカジカジと嚙んでいる魔族を見ながら嘆息するブロード――
その時―――――
「ブ、ブロード将軍~~!!」
ドゴン!!
大声で叫びながら空から降ってきたものがいる――
「パラガ?」
それは砦に近づく人間をさらいに行かせた空飛ぶ魔獣体を持つ魔族、パラガだった――
「や、やられやした!! あいつら、ベリアの正規軍のようやす!! ひいきいているのは、あ、あの勇者ナパーラ!!」
「何!!」
飛行形態の魔獣体から魔人体に戻り、大声で報告するパラガ――その後に、生き残りの魔族も次々に砦に飛び込んでくる!!
「勇者の軍の生き残り、豪将ナパーラ――か!? ………あの男は、大魔王レイナガルデ様には逆らわないはずだ!!」
「どういう事?」
「あの時、魔王軍と勇者の軍は全滅していた――それを、魔王軍の生き残りを救っていた大魔王レイナガルデ様が、ほんのお情けついでで勇者の軍の生き残りの命を救ったというのだ――」
「おお、慈悲深き大魔王レイナガルデ様……」
「豪将ナパーラもその大魔王レイナガルデ様に救われた一人と聞く――その恩義ゆえ勇者の軍の生き残りは大魔王レイナガルデ様に逆らわない――中にはそのまま大魔王レイナガルデ様の仲間になった者までいるという――」
「あの時って……?」
「勇者グレイドが死んだ――そして、大魔王レオンガルデ様がお亡くなりになられた、あの戦いの事だ!!」
「そんな戦いが、あったんだ……それ、私たちは知らないな」
「は? たかだか3年前の話だぞ? お前自体はつい最近作られたダンジョンモンスターだったとしても、お前のマスターなら知っているんじゃないのか? 心を分け与えられているなら、マスターの記憶を少しは受け継いでいるはずだ!」
ブロードも、ビューティードールもお互いにお互いから情報を引き出そうとしている。
そして、ビューティードールにはもう一つ目的があった。
「うん―――――!?」
何かに感づいたブロードは隠し砦の入口の方を見る!!
「パラガ!! お前たち生き残りはちゃんと空を飛んで逃げたんだろな!?」
「え、当たり前ですぜ、ちゃんと空飛んで遠回りして逃げてきやした!! この砦の場所は奴らにわからないはず!!」
「ならばなぜ、何者かが、まっすぐここに向かって来ている!?」
「「―――!?」」
ドゴン!!
砦の入口が大きな音を立てて歪み始める!!
ドゴン!! バギン!! メリメリ……ズドン!!
それは、巨大な戦斧の連続打撃だった――!!
バゴ~~ン!!
砦の入口が戦斧によって破壊され、その向こうにゴツイ大男が現れる!!
「勇者ナパーラ……………!?」
ブロードが相手を確認し、その名を叫ぶ!!
「あ~~はっはっは!! お前らがこの近辺で起きている誘拐事件の犯人たちだな!! 俺様は、このベリア王国の王子ジータ様だ!! おとなしくさらった人々を開放しろ!!」
ナパーラの後から現れた身なりのいいガキがそう叫んでいるが、ブロードは気にしない。
そのガキ以外にも何人か人間――それと、見た事ないモンスターらしき物――誰かが作ったダンジョンモンスターか? ――が現れるが、それも気にしない――
一番の強敵はナパーラだ!!
その時、下の騒ぎに気付いたのか上空から声がする――
「お、おいあれを見ろ!!」
隠し砦の上空――そこには一枚の板みたいな物が浮いている。
それは、空中牢獄――ブロードたち魔族がさらってきた人間たちを閉じ込めるために作った空に浮かぶ牢獄だった。
そこには近くの村の住人や行商人やその護衛など魔族たちによってさらわれてきた人々が多く閉じ込められており、日に一回程度の食事とブロードが気が向いた時におこなう大魔王レイナガルデをたたえる歌を聞かされ時以外は何もないはずだった。
今日は食事だけでブロードの歌はなく、それぞれに思い思いに過ごしていただけだったが―――――
にわかに空中牢獄の下――魔族たちの砦が騒がしくなってくる―――――
長い間この牢獄に閉じ込められており、何人かの人間が落下死してしまっているのを見ている者たちはその喧騒に興味を示さなかったが、まださらわれ日も浅い人間の中には興味を持って下を覗く者たちもいた―――――
そして見る!!
巨大な戦斧を担ぐ筋骨隆々なおっさんの姿!!
それは、このベリア王国で知らぬ者はいない最も頼れる男の姿!!
かつて勇者グレイドや同じくベリア出身のアニスたちと共に勇者の軍に入り、魔王軍と戦っていた豪将!!
「ナパーラ将軍!!」
下を見ていた人間が期待を込めてそう叫ぶ!
それは、絶望していた人間たちに希望が芽生えた瞬間だった――
「ナパーラ将軍!? 助けがきたのか!?」
「豪将ナパーラ――勇者ナパーラ!!」
「おいおい! 押すな!! 落ちたら何にもならないぞ!!」
「どうやら囚われていた人々はあそこにいるようですね」
勇者ナパーラと共に突入した彼の仲間と思われる魔法使い――ベリア王国の宮廷魔術師マジュリッツ――が騒ぎ出した人々をめざとく見つける!
「アレは……どうやって浮いているんだ?」
その後ろから弓を構えながらやってきた少し風変わりな格好をした少年が、空中牢獄を見ながら言う。
「あれは、浮遊鉱石でしょう。ああいう感じで空に浮かぶ鉱石で、大魔王レイナガルデの居城・浮遊魔城や天宮ミュージアムと呼ばれる施設の主要構成物質と聞いています」
「なるほど。日本には存在しないファンタジー物質、というわけか……欲しいな……あれ……」
目の前にいる魔族を警戒しながら、ブツブツと何かを言い出す少年――日本から来た異世界転移者、獅子戸大地――
「さらわれた国民たちよ!! この俺様ベリア王国王子ジータ様が助けに来てやった!! 感謝しろ!! そして、この事件の黒幕らしいそこの魔族!! この俺様だお前を倒す!! 覚悟をするんだな!!」
ジャラ……………
剣を構えて朗々と叫ぶジータ王子には目もくれず、ブロードは自らの武器であり、自身の心を分け与えた存在でもある鎖を手に取る――
ガシャン!!
「グギャ!!」
その横で、気まぐれで作り出した鉄の女が倒れてまだ足元をかじっていた魔族が下敷きになるが、気にしない。
トン、タッタッタッタッタ――
ブロードの手から逃れたビューティードールがうまく地面に着地し、軽快に走って逃げていくが気にすることはできない。
「マスター!」
「おっ! リクちゃん! ここまでの誘導信号発信御苦労!」
大地がビューティードール――リク・ドゥ・リネ――を持ち上げる! そして、定位置である肩の上へ―――――
「……あの小僧がビューティードールのマスターか――つまり、大魔王レイナガルデ様にあのビューティードールを献上するならば、あの小僧をどうにかすればいいってことだな――」
ブロードは鎖を構えながらゆっくりとそう言う――
「それもすべて、お前を倒してからの話だがな!! 勇者ナパーラ!!」
巨大な戦斧を構える豪将ナパーラも、それに同意するかのように一歩、また一歩とゆっくりと近づいてくる!!
「……誰か俺様の話、聞いてる?」
ナパーラのちょっと後で何かをつぶやいている人間がいるが、だれも気にしない―――――
「勇者ナパーラ――……お前を討ち取れさえすれば、このベリア王国を大魔王レイナガルデ様に献上するのがたやすくなる――そのためにここでお前を倒す!!」
その時、砦が何かの影に覆われた――




