side-J・バトル・オブ・ヒューマノイド
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『決まった!! バトル・オブ・ヒューマノイド学生の部、準決勝第2試合~~勝者は、神城真一選手の駆るガイノイド・ファロちゃん!! その小さくも美しい姿態、情熱を思わせる紅いツインテール、しなやかな動きを見せる機械少女の劇的勝利だ!!』
「「「「「おおおおお!!!!」」」」」
歓声に応えるオレと身長約50cmの小さな女の子――の形をしたオレの持つ技術の最高傑作・ガイノイドのファロ!
オレの体に付けているセンサーを介する簡易的なモーションキャプチャでオレとファロは同じポーズを取る。そして両手に持つコントローラーでさらに動きを操る――つまり、
「俺とファロは一心同体というわけさ!」
「ふん! 一心同体なのは何もお主だけではないぞ」
「!……お前は!?」
「吾輩こそ準決勝第1試合の勝者、その名も気高き――獅子戸大地――そして吾輩の相棒、美少女アンドロイドのリク・ドゥ・リネ――リクちゃんだ!」
「美少女アンドロイド!?」
決勝戦の対戦相手――獅子戸大地がオレたちの前にファロと同じくらいの大きさの、黒いレオタードにうさ耳とうさしっぽをつけた人呼んでバニースーツを身を身につけた一体のヒューマノイドを出してくる――凹凸の激しいわがままボディにかわいらしい笑顔はその肩書に恥じない美少女――アンドロイド?
『ここでもう一度説明しておきましょう! 人造人間全般を指す言葉は皆さんご存じヒューマノイド! そのヒューマノイドの中で男性型はアンドロイドと呼ばれます。そしてファロちゃんのような女性型はガイノイドと呼びます!』
「―――――そして、美少女アンドロイド、とは―――――」
「その通り!! 男性型であるアンドロイドに魔改造ほどこし女性の形に整えた存在!! 最初から女性型のガイノイドを使わず己が持つ技術のすべてを造形改造に注ぐヒューマノイド美術の集大成!!」
大地が胸を張ってポーズを取ると、相手方もモーションキャプチャーのスイッチが入ったのか美少女アンドロイド・リクも同じようにその大きな胸を強調するかのように、胸を張る――
「さらに言うが、その魔改造の過程でヒューマノイドとしてのバランスが崩れほとんどが観賞用になるという悲劇の機体――だが、吾輩はその美少女アンドロイドをバトル・オブ・ヒューマノイドの決勝戦に勝ち上がれる所にまで――完成させた!!」
「……素晴らしい……すごい情熱だな!!」
オレは素直に関心する。
「そして言っておく! リクちゃんがバニースーツを着ているのは、吾輩の趣味である!!」
「そうか、いい趣味だな!」
「おお、わかってくれるか! お主とはいい酒がのめそうだ!」
「おいおい、俺らはまだ高校生だろ!」
「そうか、では後ほど共にマックスバーガーにでも行くか!」
ここでオレはちょっとした提案をする――
「いいぜ、負けた方のおごり、でな!」
「…………いいだろう!! どうせ勝つのは吾輩とリクちゃんだ!!」
「いや、優勝は俺とファロが頂く!!」
モーションキャプチャーのスイッチを入れたオレも対抗して力強決めポーズをとる!
『それでは、バトル・オブ・ヒューマノイド学生の部、決勝戦のスタートです!!』
――大地とリク――彼らはこの大会で一番の強敵だった!!
このバトル・オブ・ヒューマノイド学生の部では――ヒューマノイドで何かしらのアタックアクションを起こし、それを相手のヒューマノイドに当てて相手を倒すことができれば勝利となる――いたってシンプルなルールだ。
まあ、倒されたとしてもすぐに起き上がったりした場合はダメージなしと判断され試合続行となる。そういうとこはかなりガバガバ――
とりあえず、立ってアタックアクションができるヒューマノイド――それが出場するための最低ライン――
ちなみに、武器の装備は禁止されていないが、人間のように使いこなせたら、それだけで称賛されるレベル。
普通は使いこなせない――それどころか、持っているだけでバランスを崩し、起き上がれなくなる機体までいるほどだ。
だからこそ、今までの相手にそこまでの強敵はいなかった。――高校性、そして一応参加権限のある中学生も――まだ趣味レベルの人間が作ったヒューマノイドということで、技術的な面やバランス調整に甘い所があり、そこに付け込んで勝利~~というか、勝手に自滅してくれたことまであったのに……………
大学生? 普通に一般の部で出場してる――あっちはすごくレベルが高かった――
大地の美少女アンドロイド、リクはかなり高水準のバランス型!! 一般の部に出場していても善戦できるレベルだろう!!
だが、それはオレとファロも同じこと!!
オレは位置取りを調整すると攻撃のポーズを取る!! それに対し、防御の姿勢を取るリク!! バニースーツの足元は……さすがに、ハイヒールとかじゃない――
続いて攻撃を繰り出してくるリク――大ぶりの蹴りをうまくファロを動かし避ける――
少し離れたところでリクと同じポーズを取っている大地を気にしてはいけない……向こうから見れば、オレも似たようなものだ……
『バトル・オブ・ヒューマノイド学生の部決勝戦! それにふさわしい戦いがおこなわられております!!』
実況を聞きながら考える――ここまでオレと互角に戦えるヤツがいるとは思わなかった――このまま戦えば、負けるかもしれない!!
「だが……それでこそ、燃える! というもの!! これがバランスが崩れやすく主に観賞用の代表格とまで言われる魔改造アンドロイドでやってるってのは――凄すぎるぜ!! 大地!!」
手の中のコントローラーで位置取りを調整しつつオレは全身を動かし、攻撃を繰り出す!!
オレ自身はその動きに対応できていても、ファロの機体がついて行けずバランスが崩れてしまえば一発で敗北となる!!
「お褒めに預かり光栄だ!! だが、吾輩もリクちゃんも手加減はしない!! 勝利は頂く!!」
大地もファロとリクの対決を真剣な瞳で見ながらオレに言葉を返す!!
――真剣勝負――
パンチ、キック、体当たり――ヒップアタック~~ファロとリクがオレと大地の動きをトレースしながら戦い続ける!!
「悪いが、ここらへんで勝負を決めさせもらうぞ!!」
ぞわぞわぞわ~~~~~!!
大地がそう宣言し、リクがファロから距離をとる!! その瞬間、オレの背中にぞわっとした何とも言えない感触が走る!!
……なんかヤバイ!!
「――っ!!」
そして、リクは右腕をまっすぐにファロに向ける!! それと同時にオレはスイッチを押す!!
――リクは武器を装備しているようには見えない……………だから、飛び道具による攻撃はない!?
いや違う!! 相手は美少女“アンドロイド”!!
「ロケットパンチ!!」
ばびゅん!!!!!
「~~~~っ!!?」
ガイノイドではまず実装されることはないが、アンドロイドであれば時折実装されている武装――手首から先を飛ばして攻撃する――ロケットパンチ!!
飛ばしてしまったパンチをなくしたり、今回のようにモーションキャプチャーを使っているヒューマノイドからすれば人間の動きと機体の動きのバランスが崩れてしまうというリスクさえも背負ったまさに諸刃の武装――
だが、武器がない~~飛び道具を持っていない~~と思い込んでいる相手には、正に必殺の一撃となってくる!!
だけどなぁ!!
「甘かったな!! 俺たちにも切り札があるんだよ!!」
バサッ!! プルルルルルルルルルル~~~~~!!
「なぬぅ!!? つ、翼とプロペラ……飛行能力、だと!?」
そう、これこそがオレの、ファロの切り札!!
背中のバックアップから翼とプロペラが起動し、ファロの機体を上空に押し上げる!!
「くっ!」
大地が苦しそうにうめく――撃ってしまったロケットパンチは戻ってこず、それによりモーションキャプチャー元の人間・大地とモーションキャプチャー先のアンドロイド・リクにバランスの違いを生む!!
――それがオレたちにとって大きな隙となる!!
「かと言って、こっちにも余裕があるわけじゃないけどな…………」
空を飛ぶという事で地に足をつけているオレとのバランスの違いは大地とロケットパンチを撃ってしまったリクとの違いとそう大差ない!!
そして、ポーズには関係のない位置操作コントローラーも前後左右と高さまで加わってより複雑により緻密な操作を要求してくる!!
「だからこれが!! 俺たちの最後の攻撃だ!!」
プルルルルル~~~~~
ファロの頭上にあるプロペラに当たらないように手を上に上げるわけにはいかないし、背後にある翼に当たってもいけない。
オレは両腕を横に出し、片足立ちになる!!
空飛ぶファロも同じポーズをとり、それを見届けてからリクのいる場所に行くよう操作をする!!
「くっ!!」
大地が慌てて体勢を立て直すが、リクがついていけてない!!
「ファロ・フェアリーキック!!」
バン!! ポヨン♪
当たった場所がちょうど胸の部分だったからだろうか? そんな擬音が……空耳かもしれないけど聞こえた後、
ペタン……
シリモチをついた格好で倒れこむリク――大地がどうにかリクの体制を立て直そうとあがいていたが、もう無理と考えたのか棒立ちになる――
その時にモーションキャプチャーのスイッチを切ったのか? リクは倒れた体制のまま動かなくなった。
さて、問題はオレとファロの方だ!!
うまくプロペラを動かして浮力を得、空中で体勢を整えて着地のポーズをとる――
失敗すれば良くて引き分け、再びリクが立ち上がれば敗北になるかもしれない!!
「だが! 先程も言った通り、俺とファロは一心同体!! 失敗はない!!」
スタン!!
着陸のときにうまくポーズをとり、プロペラの速度を下げ翼を収納する。
止まったプロペラも背中のバックパックに収納し直すときちんと慌てず、立ち上がり勝利のポーズをとる!!
「俺たちの勝利だ!!」
『決まりました! バトル・オブ・ヒューマノイド学生の部優勝は、神城真一とファロちゃんです!!』
「「「「「おおおおおおおおおお!!!!」」」」」
先程のよりも大きな歓声がオレたちの勝利を祝福してくれる!!
「素晴らしい戦いであった。吾輩の、いや、我輩とリクちゃんの完敗である」
そう言って大地が握手をもとめてきた――
オレはその手を握ろうとして、手を出そうとしたら……
「おっと、真一殿。ファロちゃんのモーションキャプチャーのスイッチを切ったほうが良いのではないか?」
「あ……」
見ると、オレと同じようにファロも右手を差し出していた。
倒れた、リクに対して――
「いや、なかなか良い構図ではないかな。とにかく真一殿! 優勝おめでとう!!」
「ありがとう!!」
オレは大地とがっしりと手を握り合った。
この日オレはバトル・オブ・ヒューマノイド学生の部優勝という名誉と一人の親友を得ることとなった―――――
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