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紡ぎ唄のように - Spinnerlied genannt -  作者: 久郎太
第一幕:忠誠のカフスを求めて
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9.彼のカフス

 夕方、約束通り俺はゲーベン裁縫組合ソーイングギルドに立ち寄った。

 俺が来るのを待っていたのか、組合に顔を出した俺を彼女は満面の笑みを浮かべて待っていた。

 彼女の宣言通り俺が依頼したカフスは完成していた。


 それは、見た目シンプルな普通のカフスだった。

 むろん、依頼通り俺の紋章が入っている。

 意匠的にいえば、俺が初めに忠誠のカフスにしようとしたカフスと大差ないように見えた。

 が、何かが違う。

 言葉では言い表せないのがもどかしいが、確かに何かが違った。

 悪いものではない、それだけははっきりしている。


「……です。 って、あ、あれ? き、騎士様??」

 彼女のその声で俺は、自分の思考の淵から浮上し我に返った。

 彼女の声で我にかえるまで、まるでカフスに魅入られるように視線が外せなかったことに気づく。

「大丈夫ですか?」

 心配そうに彼女が、その翡翠色の大きな瞳で下から俺を見つめていた。

「……、何でもない大丈夫だ」

 その瞳を思わず近距離で直視してしまい、訳も分からず一瞬言葉に詰まったが、彼女はその俺の言葉を聞いてほっとしたような安心した顔になった。

「それでは、もう一度、ご説明致しますね。 ご所望でした『忠誠のカフス』の守護効果は、騎士様がお亡くなりになるその時まで有効です。 その時まで、決して効力は失いません。 付け加えて言うなれば、騎士様がこのカフスを捧げた主様は、騎士様がいる限りその守護の効力でそのお命は病的疾患以外の人為的害意、呪詛や魔術の害意から完全に守られます」


 完全に守られる?

 なんだその反則的で夢物語のような守護の力は? 


 率直に思った俺の疑問。


 そんな、方法がこの世に存在しえるのか?


 俺の疑問がわかったのか、彼女は少し怪訝そうな顔をした。

「あ、あの、もしかして普通のカフスでよかったのですか?」

 おずおずと彼女はそう聞いてきた。

「普通?」

 カフスに、普通以外の何があるのか?

「あ、あれ? あれれ? 今の儀式につかうカフスって形式だけのもの、だったかな?」

 そんな俺の率直な疑問がわかったのか、なにやら彼女は混乱しているようだ。

「?」

 なにに、混乱しているのか俺にはさっぱりわからない。

「もしかして、守護の祝詞を付加しなくてもよかったのでしょうか?」

彼女は、不安げにおずおずと俺にそう聞いてきた。

「守護の祝詞?」

 聞きなれない単語が彼女から飛び出す。

「はい、えっと、何と申しますか忠誠のカフスというのは、つまり主に忠誠を誓う時にその証として捧げるカフスです、よね?」

 間違いではないので、俺は肯いた。

「私の記憶・・にある、忠誠のカフスとは、それを捧げる主を病的疾患以外のありとあらゆる害意的攻撃から守る守護の祝詞がかけられたモノなのですが……」

 彼女の説明の後半は、段々自信なさげに小さくなっていったが、どうにか聞き取れた。

 つまりは、彼女の説明してくれたような守護の祝詞の効力が真実として、それを踏まえた上で簡潔にまとめると、彼女が作ってくれたカフスはとんでもない代物で、俺が想像していた普通・・のカフスとはかけ離れているということだ。

 だが、その効果を抜きに考え改めて見て思う。

 このカフスは、俺らしさが出た意匠だと思える。

 見た目は確かに単純で質素に見えるが、見る目のあるものが見れば一目瞭然に分かるだろう。

 使っている素材は一級品以外の何物ではないのだし、それを使い仕上げる技術は素晴らしいものだと素人の俺でも良く見ればその良し悪しは歴然だ。

 それに施された刺繍はとても品が良く恐ろしく精巧なのだ。

 ごてごてと宝飾品を織り込んだような品のないものより、俺としては一も二もなくこのカフスの方を間違えなく選ぶだろうことは確実だ。

 その祝詞の効果の云々は半信半疑なのだが、俺としてはこのカフスで満足なのでひとまず「問題はない」と一言彼女にそう言って、受け取ったカフスを彼女の好意で用意してくれた濃紺色のビロード張りで装飾された小箱に納めて失くさないように腰に下げたポーチにしまった。

 改めて彼女を見る。

 俺の言葉を聞いた彼女は、ほっとしたよう表情を浮かべていた。

 彼女がいなければ、俺は明日間違いなく笑い者になっていただろう。

 それに、彼女はこれを作るためにあの素晴らしい婚礼衣装をためらいもなく素材として提供してくれたのだ。

 感謝してもしきれない。

「……、また、なにかあった時依頼させてもらってもいいだろうか?」

 自然と俺はそう口にしていた。

 それを聞いた彼女は、眼を見開いて驚いた表情で俺を凝視して数回瞬きをした後、

「私の腕でかなうものでしたら、何なりとご用命くださいませ」

 と、花がほころぶような柔らかい笑みを浮かべながらそう答えてくれた。
















これにてようやく、第一幕が終わります

次は、式典を軸に話は進む予定です(滝汗

※第二幕の間に幕間が入るかもしれませんが……(汗

自分的には、とっとと進めてラブラブな二人を書きたいのですが、思い通りにはいかないようです(泣

あらすじは、ほぼ決まっているのですが脱線しまくっているような気がするのは気のせいと思いたいですorz

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