6.兵宿舎にて
青騎士団兵宿舎にて 従騎士アイツ 視点
この大陸の近隣諸国を根こそぎ属国として栄える主大国、ネーヴェル帝国。
後3日後に、皇太子であるアーシェント・ルクツヘイム・ノイ=プリンツ・カイザーリヒ・ネーヴェル殿下がその帝国の頂点と言うべき皇帝の玉座に即する。
それに伴い青騎士団副団長を務められている我が主は、光栄にも栄誉ある皇帝直属の2翼騎士団である黒騎士団の団長に任命された。
とても喜ばしことなのだが、黒騎士団の方翼である白騎士団の団長の従騎士がよりにもよってあの野郎と思うとこれから先最高に最悪な気分だ。
奴との切りたくてたまらない腐れ縁は中流階級者の士官学校で同期であった所から始まる。
成績は、いつも私の次のある次席。
剣の腕前も私の次の次席。
関係ないことだが、舞踏祭の際のモテ度も私の次の次席。
奴は、事あるごとに私の次席に居、私を追い落とさんとばかりに何かにつけて宣戦布告してきた。
が、実を言うとその頃の私は奴のことはほとんど眼中になく、その宣戦布告を右から左へ聞き流し相手をすることはなかった。
早く士官学校を卒業し最北の祖国へもどり主と決めていたあのお方の元へ帰参することのみ考えていたのだから。
卒業後、次に奴と会ったのは、互いに主人に仕える従騎士となった時だった。
奴は、我が主の懇意している年の近い親友の一人の従騎士となっていた。
故に、必然的に奴と顔を合わすことが多くなり私がそのことを知った時感じた悪い予感は的中した。
顔を合わせるたびに、奴は奴が仕える主人に対して大げさなほどの賛辞を私の前で語る。
確かに奴の主人は、有能で出来た人物なのは語られなくても分かっている。
だが、優れて有能と言うならば我が主の方が上だと私は自負している。
先日、何時ものよう私は奴につかまり、奴の主自慢を聞くはめになった。
この時私は何時も、奴に好きなだけ言わせておく。
そうしないと後が面倒になると知っているので、私は何の感情も表さないように平静を装って奴の主自慢語りをただ聞く。
新皇帝陛下に献上する忠誠のカフスの出来を素材の高価さとそれを作製した裁縫士の賛辞から始まり思いつく限りの美辞麗句を羅列し語りながら、「流石は私の主!」と陶酔する奴の自慢話を散々聞かされた。
奴から解放された後、我が主のカフスの出来がふと気になり何気なさを装い「カフスはご用意できていますか?」と聞いてみると主は快く(我が主は常に無表情故にめったなことで感情をあらわにしないのでその感情の起伏や心中を察するには少しばかりコツがいる)私にそれを見せて下された。
のだが、……。
それを見た瞬間私は、自分の血の気が引くのを自覚しながら己の失態を呪った。
何故もっと早く主に進言出来なかったのかそれが悔やまれる。
主が見せてくれたのは何の変哲もない銀製のカフス。
これでは駄目なんです! 我が主ぃ!!
内心でそう絶叫した私は、なるべく平静を装い新皇帝陛下へ献上するカフスについてご説明申し上げた。
それを聞いた主は、私にこのことを至急主のお父君であるシュワート辺境伯にお知らせすべく早馬を出すことをお命じになるとご自身は、軽装に身なりを改めマントをはおり足早に青騎士団の兵宿舎を後にした。
私は、主の御命令通り早馬を手配して、主の執務室で主の帰りを待った。
主が、戻って来たのは日が西に沈む直前だった。
事の顛末を主に聞くと、何とか特別なカフスを作ることが出来る特級裁縫士を探し出せ、製作を依頼することが出来たという。
明日の昼にもう一度その裁縫士の元へ行くという。
話を聞くとなんとその特級裁縫士はこともあろうに我が主を使用人の様にカフスの材料の買いつけを頼んだという。
なんと、身の程知らずな!!
と、私は顔に何の表情を表さないよう苦心しながらに内心でそう憤慨した。
憤慨したが、後に省かれた事の顛末と主の思いを知った私は己を恥じた。
それと同時に、私は「流石我が主!」と、主の懐の深さ、優しさを再認識した。
私は、卑下する訳ではないのだが奴を主馬鹿と思っている。
その度合いだけは奴には負けた感が否めない。
が、結局のところ、私も奴と似たモノ同士で「主馬鹿」と言うことには変わりないということに私は気づくこともなかった。
アイツ君、たぶん君は一生主馬鹿と気づけないでしょう(苦笑
従騎士アイツ(26歳/♂)の視点でお贈りしまいたw
主ともども感情を表に出さないことに長けていますが、主様は天然で従騎士
殿は故意ですw
※誤字のご指摘ありがとうございました!修正いたしました