44.彼と定例軍議
何故こうも、苛々するのか
練武祭前の全騎士団による定例総会。
祭中警備の最終確認のためのものだ。
これは、事前に決まっていたことだった故に、欠席することはできない。
鬱々とした気持ちで総会が開会するのをじっと待つ。
祭りの前日に、よりにも寄って衣装変更の知らせが遅れたなどの嫌がらせが起こるなど思いもしなかった。
今、黒砦の裁縫室は戦争状態だろう。
彼女には、申し訳なく思う。
彼女のことだ、必ずやり遂げてくれると確信している。
願うは、この定例総会が火急かつ速やかに終わることを願っていた、のだが・・・・・・何故、こう厄介事が立て続けに起こるのだろうか。
いいかげんにして欲しい
そもそも、この総会は、軍部の最高司令官の陛下をはじめ騎士団の上層のみの総会だ。
例外的に、議題が今回の祭りの件なので祭典を司る部署の祭典事務総長と大神官が来席するのは判る。
が、何故、ここに財務大臣がいるのか。
財務関係の議題が上がるためにいるのだとしたら手元に配られた総会資料に有るのかと見てみてもそのような資料は見当たらない。
それ以前に、大臣が座っている位置が理解できない。
なぜ、皇帝陛下の直ぐ脇に堂々と座っているのか。
全ての議会の場においてその役職の位で着席の位置は決まっている。
大臣が、座った位置は通常なら宰相が座る場所だ。
いない場合は、暗黙の了解で空席となるのが通例。
陛下が何も言わない故に、「おかしいだろ!」と、指摘したいのをグッとこらえた。
誰もが困惑的に疑問視するなか、陛下の総会の開幕の合図と共に、進行役が読み上げる練武祭時の各騎士団による全体的の警備連携体制、祭事の進行時の警備の確認に漏れがないか配られた配置図を確認しながら耳を傾ける。
何事もなく議事が進み、あらかた確認がし終え定例会議も終わりに近づいた時だった。
今まで黙って座っていた、おもむろに皆の注意を引く前置きを発してから大臣が口を開いた。
曰く、
昨今、拡大の一途をたどる霧獣被害を考え、今回の練武祭から黒騎士団の閲兵の廃止し王都周辺の警備に回るよう変更要請
前話を踏まえて、御前試合時の警備は黒白騎士団が半々で行うところを白騎士団のみに変更し、御前試合の黒騎士団代表は出場の中止とすること
この二つを事前の打診もなく行き成り提案してきた。
どう考えても今この現段階で出す提案ではなく、さらに黒騎士団を排除しようと丸分かりな内容だ。
まだ財務関係や軍費のことを言ってくるのであれば納得いくが、なんの権限もない畑違いな分野の提案を平然としてきた為、暫し唖然としてしまう。
判らないようにさりげなく陛下ご様子を伺うと、明らかに眉間にしわを寄せ不快を表していた。
と、いうことはこの提案は、陛下の許可を事前に経ていない提案ということが伺える。
大臣はその二点を提案した後、白騎士団がいかに優秀であるかを語り、然も自分の提案に正当性があると説いている。
その演説を聞き流しながら、熱弁を振るう大臣が白騎士団団長の身内だということにふと気づく。
白騎士団団長が反応が気になり、そっと伺うと傍目から見てもわかるほど彼は呆気にとられた顔で絶句していた。
矢継ぎ様に途切れない大臣の語りを止めるタイミングを失っているようだ。
この総会場に居る他の方達は、大臣の役職故か爵位故か何の反応も示すことなく沈黙を保って彼の演説を聴いている。
呆れているのか、答えを出すまでもないのか、何を考えながら聴いているかは判らない。
白騎士団団長は、申し訳なさげに無言で謝意視線を大臣以外に送っていた。
終の見えない大臣の白騎士団への賛辞の演説は、陛下「だまれ」の一言と無言の圧力でピタリと止まった。
むろん、彼の提案は棄却された。
越権行為も甚だしい、なんの権限もない者の提案が通る道理がないのだ。
そもそも、明日から始まる祭りの変更など今更不可能だ。
何が、大臣を増長させているのか。
自分のこの素晴らしい提案は、通らないはずはない
と、思っていたのだろう。
口止めをされ提案を棄却されるその瞬間まで。
陛下の言葉によって黙らざる得なくなった彼は、顔を真っ赤に染、憤慨した顔を隠しもせずなぜか俺を睨んできた。
どう考えてもこれは彼の自業自得であり、俺に対しては完全な八つ当たりである。
ここでふと、思いつく。
今までのすべての嫌がらせと言える数々の黒幕はこの男ではないかと。
全部が全部そうとは言えなかもしれないが、彼の言動からどうも黒騎士団を目の敵にしているのは明らかだ。
勘弁してくれ ・・・・・・
俺は、内心で深く深くため息をこぼした。
恨みを買うことした覚えもなく、そもそも俺からすれば関わるもの嫌な人種なのだ。
大臣の提案は黙殺され、陛下の目配せで進行役が今総会の閉会の言葉を告げた。
それを合図に陛下が席を立ち、白騎士団長を伴い会議室を後にする。
大臣も最後にもう一度俺を憎々しげに睨んだ後、会議室からそそくさと出て行った。
ようやく終わったかと、出そうなため息を我慢し、チラッとみた窓の外は日が沈み既に薄闇に染まっていた。
俺はすぐさま黒砦に帰還するために、まだ室内にいる他騎士団の団長たちに立礼して、足早に出口に向かった。
が、何故か出てすぐの廊下で待ち受けていた文官に呼び止められた。
財務に所属する高位の文官だと誇示するような派手に着飾った高官用の外衣まとい、横柄な態度で黒騎士団の軍費について不明な点があるため同行願うと有無を言わせず財務の執務室の一つに強引に連れて行かれた。
そこでさらに三人ほどの文官が待ち構えており、何やら訳の判らない書類の束を俺に見せ代わる代わる意味のわからない説明を延々と繰り返す。
その内容は、どう見ても黒騎士団には関係ないものや、明らかに偽造されて事実無根なことばかりだ。資料を求めると、もたもたといつまでたっても出してこない。
どう考えても、嫌がらせをされているのだとしか考えられない。
俺をどうしても引き止めたいらしい。
だが、そう分かっていても下手な対応すれば、後々面倒くさいことに成りそうなので疎かな対応ができない。
詰問の都度、おかしいところを指摘しているうちに、窓の外の暗さでかなりの時間が過ぎてしまったことに気づく。
いい加減俺の我慢の限界を超えていた。
ほかの書類を持ってこようとした文官を視線で威圧的に静止、殺気を少しばらまくと四人の文官は一瞬で青ざめ、文官の中でも一番役職が高い者が「お帰りになって結構です」と、息も絶え絶えのか細い声で漸くそう言った。
言質はとった。
おれは、さっさと踵を返すと無言のまま財務執務室を後にした。
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