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紡ぎ唄のように - Spinnerlied genannt -  作者: 久郎太
第五幕:晴れ舞台に華を
41/45

41.彼女の再会

2012/04/26 サブタイトルを修正しました

 黒砦に備蓄されている生地の保管庫からの帰り道のことだった



 普段使っていない私専用の仕事部屋の横にある部屋からぼぞぼぞと声が聞こえた気がした。

 そこは、いずれ雇う黒騎士団専属の裁縫士達の仕事部屋になる予定の場所だ。

 はて?と、思いながら、好奇心に負けて方扉の戸を音を立てない様にそっと開けてみた。


 え?


 そこには、数人の人が居た。

 それも、私が良く見知った人達。

 とても驚いてしまい戸を大きく開けてしまった事に、茫然としていた私は気付いていなかった。

 そのうちに、一人の女性が私に気づいたらしく満面の笑みを浮かべて突進してきたと思うと、その豊満な胸に私を抱き寄せた。


「きゃぁ! ユーリィ!!お久しぶりねぇ!!」


 と、喜声を上げながら。


 そう、この部屋に居たのは、私が所属していたゲーベン裁縫組合ソーイングギルドの組合長と所属裁縫士の人々だった。


 私をぎゅうぎゅっと抱きしめているのは、裁縫組合の組合長であり裁断士パタンナーのエントさん。

 自分と一回りほど年が離れた素敵な女性ひと

 彼女は組合員を良くまとめ、また、狂いの無い裁断をする彼女の手腕は、惚れ惚れする。


「エント、そんなにきつく抱きしめたら、ユーリィが壊れてしまうよ?」

 と、優しそうな声で声をかけながらエントさんの直ぐ脇に移動してきたのは、夫でゲーベン裁縫組合の受付をしながら、組合の事務・会計管理をしているフォルトさん。

 エントさんより年上でとても優しい男性ひとだ。

 ゲーベン裁縫組合は、上流階級の仕事を受けられない組合の為、入ってくるお金はとても少なく、その少ない収入で組合を上手く運営していた手腕は本当にすごいと思う。


 私達から少し離れたところでニコニコと笑みを浮かべているのは、お針子ネーエンの3人、シュトリック、ヴァール、ドゥルヒ。

 年は、私の一つ下か同じ年。

 3人は縫い専門なのだけれども、それとは別に彼女達が作り出す針刺繍ニードルポイントは、とても繊細で思わずため息が出るほどの秀逸品だ。

 昔、そのレースを欲した商人が買い叩きもぜずに、色を付けて買い取ったほど。

 噂によると、そのレースは公爵夫人のドレスの一部として使われたらしい。


 エントさんの行動をやれやれとばかりに苦笑を浮かべながら眺めているのは、機織士シュトッフのアレー。

 私より2、3歳年上の女性。

 彼女は布を織るのがとても速く、それだけでなく出来栄えも上級品。

 匠の一族である北方辺境伯領を拠点とする布商人が、遠路はるばる買い付けに来るぐらいの腕前なのだ。


 腕を組んでアレーと同様に苦笑を浮かべているのは、染物士フェルベンのホイ。

 アレーの旦那さんでもある。

 彼に生みだせない色は無いと言われるほどの腕前の持ち主。

 彼もアレーと同じく、彼が染めた布や糸を買い付けに来る商人が絶えない。




 何故、ここにみんな居るの?




 いまだ、最初の驚きから抜け出せない私を見て、エントさんは笑いをこらえながら私の疑問に答えてくれた。

 話によれば、私がアーヴェンツ様の専属裁縫士となり組合を抜けた後のから始まる。

 個々には刺繍、織物、染物の依頼は変わらず有ったのだが、一番組合への実入りが大きい完成品の依頼が激減してしまい、組合に入ってくる収入がかなり減り困窮したとの事。

 そもそも組合の経営は、所属する裁縫士が完成品を作ることによって初めて金銭が発生する。

 完成品とは、ドレスやハンカチーフ、髪飾りのレースのリボン等。

 例えば、組合に依頼主が完成品ドレスを一着頼むとする。

 それを作る裁縫士を組合員の中から難易度によって選出して紹介することによって依頼主と組合の間に手数料が発生する。

 また、裁縫士が仕事を斡旋してもらい契約書作成等の事務手続きの謝礼に完成品を作ったときにもらえる報酬うち(材料費を抜く既定の技術料)の3割を組合に納さめる事になっている。

 ドレスや高価な装飾品の依頼が来れば、単価が驚くほどの高さになるので入ってくる謝礼も莫大な金額になることもあるのだ。

 これが、完成品でなく部品パーツ刺繍のみや装飾に使用する素材としてのレース、布生地、染料糸などだと2割で、修繕の依頼は修繕の具合によりけりだけれども1~3割となっている。

 これは、帝都に存在する全ての裁縫組合に適用されている仕組みだ。

 組合は、この依頼主と組合の間の紹介手数料と裁縫士と組合の間の謝礼ではいる収入で運営しているのだ。

 私が自分で言うのも変だけれど、ゲーベン裁縫組合のなかで完成品の依頼が一番多かったのは私だった。

 その事を聞いて私が顔を曇らせると、彼女は、苦笑しながら「貴方のせいではないから」と軽く私の頬をつねってそう言ってくれた。

 何時、知り得たのかは分からないけれど、組合の状態を知ったアーヴェンツ様が組合全員を黒騎士団の専属裁縫士として迎え入れてくれたとのこと。

 それを期にみんなは、職人街にある組合を引き払い黒騎士団の職人専用の寮へみんな揃って引っ越してきたとのことだった。

 この部屋にいたのは、今日ここで顔合わせをするとの事だったのでみんなで待っていたらしい。



 アーヴェンツ様、……私、何も聞いてませんよ?



 と、内心思ったけれど、多忙な方なのでつい伝え忘れたのだろうと、一人納得する。


「また、貴女と仕事が出来る。 ここの団長さんには感謝しなければね」

 と、組合長は、満面の笑顔で私にそう言った。

 その言葉と同時に他の組合員の人たちも頷いてくれる。

「私も、私もみんなとまた仕事が出来るなんて、夢にもおもわなかったです!」

 笑顔でそう言うと、他の面々も組合長と私を中心に集まってきて、私に「またよろしくね!」声をかけてくれた。

 また、みんなと一緒に仕事が出来る。

 そう思うと、とてもうれしくてちょっと涙ぐみそうになった。




 余談だけれども、私はアーヴェンツ様専属の裁縫士であるとともに兼任で黒騎士団の専属裁縫士筆頭となるらしい。

 このことは後に知ることになるのだけれども、この時の私は自分がそんな肩書になっていたなんて知る由もなかった。












 裁縫士とは実のところ総称だったりします。実際は専門の称号が個々に有り、用途によって使い分けたりしています。


大変ながらくお待たせいたしました(滝汗

2か月もあいてしまっての投稿……orz 待っていてくださった皆様に感謝!


※誤字脱字のご指摘ありがとうございました。修正しました。


2012/06/05 一部修正加筆

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