39.錬武祭にむけて
毎年行われる軍部の状態を把握するための錬武祭
肌寒くなる竜王季人馬月の10日に毎年決まって行われる。
早朝、まだ日が昇る前から開催され、日が沈み月が空の頂点に来るころ終わる。
祭りの内容は、まずは部隊行進。
決められた時間帯に各騎士団の精鋭部隊が、帝国外門から大通りを通り王宮謁見広場まで行進しバルコニーに現れた皇帝に閲兵し各騎士団の砦または駐在地へ戻る。
夜明けの前の色を表す青騎士団は、日が昇る前の薄暗い早朝に。
朝日が昇る色を表す白騎士団は、日が昇ると同時に。
日が頂天にある色を表す黄騎士団は、正午の鐘の音と共に。
夕日が沈む色を表す赤騎士団は、夕日が沈むと同時に。
夜更けの色を表す黒騎士団は、月が頂天にある時に。
その部隊行進の合間に帝都内にある国営の闘技場にて、各騎士団の演武や代表者が闘う武闘大会などが行われる。
この祭りには、地方伯もしくはその代理人が帝都に来ることが義務付けられており、その滞在は創神祭までとされている。
当日はもとより、盛大な祭り故に出店などの地元商人はもとより地方からはるばる商隊を組んでやってくる商人や、歌や踊りを披露する巡業者たちが多く訪れる。
その経済効果は凄まじく、今年は、新皇帝即位に合わせて、二大騎士団の編制もあったことからその効果は計り知れない。
部隊行進は、いわば皇帝の威光を示す一種の見世物だ。
草臥れた軍服や汚れた軍旗を掲げれば、皇帝の威光を汚し騎士団の恥となる。
故に、各騎士団はことさら鍛錬に力を入れ、武具や軍旗の新調に奔走する羽目となった。
なったのだが、ここで困ったことが起きたのだ。
軍旗を作るのは、いいのだがそれを作れる技術を持っている者は数少なく。
運の悪いことに、総括して軍旗を制作していた者が高齢の故最近亡くなったのだ。
その弟子は居るのだが、誰一人としてその職人の技をモノに出来た者はおらず、市井の職人に頼もうにもその技術を持つ者のほとんどは上位階層の貴族お抱えとなっており、頼むことは到底できない。
ましてや、その技術を持つ、昨今降嫁された皇帝の妹姫に頼むわけも行かずほとほと困りかけていた所に一般兵が持ってきた噂話があった。
中流層の職人街に、特級裁縫士がいる
という、聞いたこともない話だった。
しかし、何年か前に薄らとそんな話を聞いた事があると言う同僚の言葉を信じ、使いの者をその裁縫士が所属しているはずである裁縫組合に向かわせると、どういうわけかそこを引き払ったのかもぬけの殻だった。
さらに奇妙なことに、ここ最近中流層の職人街から職人達が居なくなっているという。
職人だけではなく、それを支える素材や材料の卸問屋から職人相手の飲食店などその数は片手を有に越えている。
居なくなった者達の行き先を調べると全て同じ場所へと移転していることが分かった。
何故そこなのか、疑問は尽きない。
黒騎士団の常駐する黒砦
噂に聞くと、廃墟寸前の様な場所を現騎士団長が、瞬く間に再建したとか。
それをなした者の恐るべき手腕に仰天したのはまだ記憶に新しい。
その砦に、かの特級裁縫士が居ると言う。
藁にもすがる思いで軍旗の話を持っていくと、難色を示すことなく快く受けてくれた。
初めて対面した、特級裁縫士に一抹の不安を感じたが出来上がった軍旗を見せられた時、確かな技量に素直に感服した。
これを機に彼女の名前を軍関係者で知らない者はいなくなる。
偉大なる、特級裁縫士ユーリィ=ルヴェルネの名を。
第五幕の開始プロローグなものなので誰視点でもありませんが、しいて言うなら某騎士団の団長視点でしょうか・・・次回は、ユーリィ視点となる予定です。
2012/06/05 一部修正加筆