29.ある男の決意
白騎士団 団長ゲルプターク 視点
彼女の姿を追わない日は無い
彼女を思わない日は無いというのに
今、宮廷に彼女はいる。
本来なら、彼女が居るはずのない場所。
彼女をここに導いたのは、僕と対をなす黒騎士団の団長である彼。
その彼の元、彼に仕える者として。
ある時は、忙しそうに。
またある時は、彼の従騎士と共に奔走して。
それを見るたび、つくづく思う。
彼女のあんな姿は知らない
生き生きと働く姿。
はじけるような笑顔。
僕と居た時に見せた笑顔とは、全く違う。
いつも、笑顔を絶やさなかった彼女。
けれど、その笑顔にほんの少しの曇りがあったことに僕は気付かない振りをしていた。
それを問うた時、彼女の笑顔が消えるような気がして。
ただ、彼女に側にいてもらいたくて、彼女の側にいたくて。
臆病な僕は、向かい合わなければならないことから逃げた。
心からの笑顔を見たのは、あの日。
彼女に、求婚したあの時。
雲間から、日が射すような心底うれしそうな笑顔。
その笑顔を、心底欲していたものを自らの手で打ち砕いた。
もう、僕にはそんな資格は無いのに、どうしても彼女の姿を追ってしまう。
彼女の目の前にでて、謝罪することもできない愚か者なのに。
無意識に、彼女を探し求めてしまう。
けれど、もう、それも止めなければ。
後十数日したら僕は、彼女と違う女性と婚姻を結ぶのだから。
彼女のことは、もう断ち切らなければならない。
女性と言う者は、すべてとは言わないがとても聡く嫉妬深い。
特に特権階級に位置する『夫人』『姫君』と称される方たちは特に。
僕の母は、実父の愛妾だった女性は、その犠牲になった一人。
それがなければ、僕の様に秘密裏に隠され育てられる者は生まれはしないのだから。
僕の妻となる人と初めて会ったあの日、その瞳に僕への思慕を見つけてしまった。
なればこそ、僕の思いは固く封じなければならない。
ほんの少しでも悟られてはいけない。
もし、懸念しすぎだと、言われても、僕はそう思えない。
打てる手はすべて打たなければ。
彼女に、その黒い思念が向かないように。
彼女を巻き込まないように。
僕が、今できる事はそれだけ。
それしか、彼女に対して出来ることは無い。
それしか、出来ないことがとても不甲斐ない。
これが、報いなのだろう。
僕が、君にした罰。
僕が、君の心を踏みにじった代償。
これにて幕間終了です。
やはり幕間なのでこちらも短いです。
どうしても、悪役に出来ない彼。彼も可哀想いえば可哀想なのですが(苦笑
次幕は、実は増やした幕になります。
最初はなかった幕になりますが、どうしても入れないとこれから先ちょっと説明不足になってしまうような気がしたので(汗
これによってさらにお話が長くなります(滝汗
本当にまだ序盤なんです……
気長にお付き合いいただければ幸いです。