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紡ぎ唄のように - Spinnerlied genannt -  作者: 久郎太
第三幕:新たなる始まり
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26.彼の平穏

 提示した書類を眺める陛下の眉間に、皺が寄るのにそう時間はかからなかった。


 全て見終わったあと、重い溜息を一つついて陛下は公開鑑定の許可とその時立ち会うことの了承の旨を俺に告げた。

 決行は、思っていたよりも数段早く翌日に行われた。

 言い逃れが出来ないように、隙を与えないために当事者である前黒騎士団団長は、翌日なんの情報も与えず陛下の名のもとに召喚された。

 各専門の組合ギルドの鑑定士もその場にすでに召喚されていた。

 もちろん、俺が手配したのではなく陛下の名の元に公式に召喚された者だ。

 ここで俺が召喚した鑑定士など連れて来ようものなら絶対に難癖をつけられるのが目に見えているのでその旨を陛下に告げ、お手数をおかけしてしまったが陛下の采配で召喚して頂いた。


 それは、解りきったこと。



 徹底的に相手の退路を断ち、後の憂いを排除するために






 初めて見たと言っても過言ではない。

 それもそのはず、今陛下の前で平身低頭している男は、俺が黒騎士団団長を拝命した時から、のらりくらりと俺と会うことを拒んでいたのだから。

 まず、第一印象は、最悪。

 何も知らされず、召喚された前黒騎士団団長は、その場に俺が居ることが気に食わないという蔑んだ顔を陛下が臨席しているのにもかかわらず隠そうともしなかった。

 どこぞの親の威光を笠に着るような貴族の馬鹿子息そのまま、剣など握ったことが無いだろうと思われるほどの厚顔で不遜な態度。

 外見だけで判断してはならないことは重々承知の事だが、本当にこの男が前黒騎士団の団長を務めていた者だろうかと疑うほど、何の気概も誇りも感じない。

 まさに俺が嫌いな典型的な腐った貴族。

 思っていたほど年を取ってはいないようだ。

 見た目で判断するなら30代後半当たりだろう。

 この男は5年前に先々代の黒騎士団団長が急病で病死の後に、急遽その位置に就いた者だという事が今回の件で調べたことから判明した。

 それも、どうやら正規の段階を踏んだ気配は無く、そもそも正騎士に推挙された経歴も何やらきな臭い感じがする。

 正騎士になるには、貴族の場合、士官学校を卒業後見習い騎士となり、功績などを考慮された上で正騎士からの推薦をもらい騎士の技能審査の認可を受ければまず第三位騎士としての正騎士に叙される。

 それ以上の位になるには、実績を積み騎士団の中枢核ともいえる師団長以上に就任する必要がある。

 師団長以上で第二位騎士となり、第一位騎士と叙されるのは公爵位を持つ正騎士の武官か各騎士団の団長に就いた時だ。

 俺が、新たに就任した時にごっそりと中枢に当たる第二位騎士が除団した形跡を見れば、ほとんど前黒騎士団団長の取り巻き連中だったのだろう。

 そいつらだとて、正規に正騎士となったかは疑問だ。

 甘い汁の大本がなくなれば、その汁の出所がなくなるのだ。

 つまり留まる必要はないという事。

 それが、あの大量な除団劇の真相だろう。

 調べてわかった時は、なんて腐りきってるんだろうかとあきれた。

 俺が預かる黒騎士団の内情を推し量っても他にもこの宮殿には目立たなくとも政的な腐敗は大なり小なりあるだろう。

 しかし、過去の歴史を鑑みて、こういう代替わりの時に内政の腐敗が一番検挙しやすい。

 まぁ、それは、次代を担う皇帝次第で一概に言えないのだが。

 けれど、こんな目立つ腐敗も放置されていたとなると、これからの陛下の御苦労が目に見えるようでその大変さが忍ばれる。  


 言い逃れも出来ないほど包囲された元黒騎士団団長は、弁明も釈明もできずその場で正騎士の位はもとより、横領した金を全額返金の上、罰金としてさらに莫大な金額を徴収され、領地の一部没収、当分の間の謹慎処分を言い渡された。

 助命嘆願がいくばくか陛下の元に届いたが、聞き入れられるほど多くもなく、また、誰がどう見ても情状酌量の余地は無い為に刑はそのまま実行された。

 もちろん刑罰を受けたものは彼だけではない。

 芋蔓式に、彼の陰で甘い汁を吸っていた者共も洗い出され、同じぐらいの刑に処された。



 これを皮切りに、もともと陛下も内政腐敗の洗い出しを計画していたらしく、各部の一斉検挙がなされ処分されていった。

 推察力、判断力、決断力。

 現皇帝陛下は、どれをとっても前皇帝を上回る素質を持っているように見受けられた。

 この先、道を間違えなければ現陛下は歴史に名君として名を連ねるお方になるやもしれない。


 俺はこの時、この方を支える一枝になろうと改めて心の中で忠誠を誓った。


 

 


 ようやく俺を悩ませていた事柄の1件が片付いた時、まるで計ったかのように、黒騎士団の城砦の改装が終わったと連絡が入った。


 その日は、雲ひとつない晴天の青空。

 まるで、新しい門出を祝福されているようだった。

 俺は今、アイツの先導を受けながら愛馬にまたがり遅すぎず速すぎず速歩トロットの歩法で目的地を目指していた。

 黒騎士団の拠点となる城砦は、皇帝が座す広大な宮城がある帝都の郊外にあり、位置的には真北なる。


 概ねの外見を聞いていたが、聞くのと実際に見るとでは印象が違う。

 まずその大きさに、軽く驚いた。

 まさかこれほどの規模とは、思わなかったのだ。

 強いて表現するなら中規模な街位の大きさがあるように見受けられた。

 近づくにつれ大きくそびえる城壁。

 重厚な城門の前、跳ね橋の前に誰か立っていた。

 見慣れた、赤銅色の髪が日の光に反射して輝いて見えた。

 俺は、彼女の前で馬の足をとめた。

 彼女は、一礼すると俺を見上げ、


「お待ちしておりました、アーヴェンツ様」


 と、温かくどこかホッとさせる柔らかい笑みを浮かべながら彼女は俺を出迎えてくれた。




 ここから全てが始まる


 新しく


 彼女と共に
















ようやく彼の悩みの一つが解決しました。

次話は、今幕最終話となります

すみませぬ、今回も短いですが次話も短い予定です(滝汗


さて、この先通例どおり幕間2話を挟んで新幕に突入予定です!

次幕は、彼女が大奮闘する予定です。それに平行してようやく彼との進展がみこめそうです(汗


文面のご指摘ありがとうございます 修正させていただきました!

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