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紡ぎ唄のように - Spinnerlied genannt -  作者: 久郎太
第三幕:新たなる始まり
23/45

23.彼女の奮闘(2)

 まさか、こんなことになるなんて思いもしなかった



 アーヴェンツ様が、とてもお困りのようだったので咄嗟に出てしまった提案。

 その提案を吞んで私にお屋敷を管理する人たちを雇ってきてほしいと頼まれてしまった。

 常識的に、そういうことはお屋敷を総管理する家令または男性の使用人なら執事が、女性の使用人なら侍女長が自薦他薦で決する仕事。

 一介の裁縫士であり、臨時の侍女でしかない私が間違ってもする仕事ではない。

 ないのだけれども、アーヴェンツ様の期待のこもった瞳を見てしまったら『否』と言えない。

 幸い、私だけではなくアイツ様を相談役としてとの条件付きということだったので不安だったけれどその頼まれごとを断りきれずにお受けしてしまった。


 ネーヴェル帝国の帝都シュタットにある職人街には色んな工房の他それを束ねる様々な組合ギルドが混在している。

 その全ての組合の上に、貴族の要望に応じた者を紹介する総合斡旋所がある。

 そこには貴族のお屋敷に仕える使用人の(上は侍従、侍女から下は下僕、下女までの)ための窓口といっていい部門が必ずある。

 それも、その貴族の爵位とお屋敷の大きさによって細かく格付ランクされていてその爵位によって斡旋所も異なる。

 アーヴェンツ様が賜った離宮が、どのくらいの規模のお屋敷なのかはまだ見ていないのでどの格付に当てはまるかはわからない。

 おふた方も忙しすぎてまだその離宮を見ていなく詳細を聞くことが出来なかったため、次の私の休養日にアイツ様に付き添っていただいてその離宮の下見に行くことになった。



「……これって、離宮と言いますか、どう見ても『お屋敷』という感じではありませんよね?」

 目的の場所につき馬車を降りた私は、被っていたフードを少し上げて目の前の建物を見上げながら私はそうつぶやいた。

「……」

 一緒に降りたアイツ様も、驚いるのか私と同様見上げながら唖然とした表情を浮かべていた。

 思わず、忘れないようにとメモをした離宮の所在地を見て地図と比べる。

 何度見比べても離宮の所在地に間違いはない。

 でもどうしてもそれは、離宮というお屋敷には見えないのだ。

 一般的に離宮と聞いたら、やはり前庭がひろがり瀟洒とか優美とか豪奢とかと形容がつくようなお屋敷を想像するのが普通。

 皇帝陛下から下賜されたものだからそれは素敵なお屋敷とばかり思っていた。

 でも、今私とアイツ様の目の前に佇む建物はどう見てもお屋敷という言葉が当てはまらない。


 なぜなら、一言で言い表せばその建物、否、建造物は『城壁』と呼べる代物だった


 高くそびえる城壁の様な石造りの高い壁。

 離宮と思われる建物などそこから伺い知ることはもちろんできない。

 ご丁寧に城壁の周りには深い水堀があり跳ね橋は、連絡が行っていたのか幸い降りていた。

 けれど、城門は固く閉ざされている。

 アイツ様が、城門のわきにある物見の窓をたたくと兵士と思しき人が顔をのぞかせた。

 一言二言アイツ様がその兵士に告げると木が擦れるような音を立てながら片方の門戸が人一人分通れる幅だけ城門が内側に開いた。

 私は、アイツ様の後に従ってその城門を潜った。

 その先には、広がった景色を見て私は固まってしまった。

 私の目の前に小さな街が広がっていた。

 アイツ様も同様に固まっていたのだけれども、案内の兵士に促されて我に返るや否やその兵士について歩き始めた。

 私もあわててそのあとを追った。

 通りには客となるような人はほとんどいなく、けれど、鍛冶、雑貨、薬剤、衣料、食材の店が混在している。

 その通りを抜けた先に砦のような建物が建っていた。

 その砦で、私たちを待っていたのは、好々爺とした初老の男でこの砦の管理を代々任されているという家令だった。

 

 彼の名前は、シュテュッツェ・ホーファ=ネーム


 初代黒騎士団の団長の従騎士だった者の血筋とか。

 砦の客間に案内されたあと、主にアイツ様がネーム氏からこの砦の説明を受けることになった。

 なんでもここは、何代か前の皇帝が鍛錬をするためだけに作られた離宮で当時の黒騎士団長に下賜されて以来今では歴代の黒騎士団長にの住まいとなる砦であると同時に、黒騎士団の兵舎も兼ね備えているという。

 けれどここ二代前の皇帝の時代から、黒騎士団に所属する上層部の騎士は宮廷の方にも部屋を賜るようになりこの砦に居を置く者がほとんどいなくなってしまったと言う。

 現在ここにいるのは、実働を担っている4つ中隊長を務める第三位騎士とその従騎士、見習い騎士と配下の兵士のみ。

 砦までの通りにある店は、騎士団達の装備から日常品を賄うために特別に許可された職人とその家族たちの住まい。

 兵舎は、砦の中にあり、騎士と兵士用の専用の居住区が存在しているという。

 今の砦の管理状況を聞くと、余りにも維持管理する下働きの人員が足りずなんとか砦の客間と共同浴場などの最低限の掃除や共同食堂の管理等は、妻子持ちの騎士の奥方を中心に職人の家族の妻子が行ってくれてはいるが、本当に何とか体面を整えるのが精いっぱいの状態。

 維持費も年々減っており、人を雇える状態ではない。

 再三、維持費の向上は駄目でもこれ以上の削減をしないでもらうよう進言させていただいても取り合ってもらえなかったという。

 極めつけは、黒騎士団団長の交代とそれに伴い上層の騎士たちの退団、この先どうなるかと案じていた時に訪問した新黒騎士団の団長の従騎士であるアイツ様。

 ネーム氏は、アイツ様に砦の現状を全てお話になり現黒騎士団長であるアーヴェンツ様に執り成していただきたい旨を切々に語っていた。

 私は、この時ホッとしていた。

 アーヴェンツ様から大変な役目を仰せつかって本当にどうしようと思っていたのだから。

 実際は、ちゃんと離宮には(砦だったけれども)管理する家令のネーム氏がいるのだから私が出しゃばらなくても彼と話し合いをすることでこの問題は解決するのだから。

 無意識に入れていた肩の力を抜いて、そっと客間を伺い見る。

 ちゃんと掃除は行き届いているのだけれども、絨毯じゅうたん窓幕カーテン長椅子ソファー凭枕クッションなど清潔そうだけれどもかなり傷んだ感じに見える。

 長年、大事に使ってきたのだろうけれどもやはり物には限度がある。

 現段階でアーヴェンツ様がどちらに居を置かれるかはわからないけれど、こちらのお針子の仕事をさせて頂こうと密かに思った。

 どちらにしてもアーヴェンツ様の所有物になるのでやはり、居はその主の顔となるのだからちゃんと整えないといけないから。

 私がそう考えているうちに、アイツ様とネーム氏の話し合いは終わったようで今日は一旦宮殿のアーヴェンツ様の居室にもどり主である彼と話し合った後、後日改めてもう一度来ることを約束して砦を後にした。




















彼女の奮闘もう一話続きます


誤字指摘ありがとうございます!修正しました


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