表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡ぎ唄のように - Spinnerlied genannt -  作者: 久郎太
序  幕:彼女と彼の出合
2/45

2.彼の大事情

 

 困ったことになった


 そう気づいたのは、本当に期日ぎりぎりだった。

 気づかせてくれたのは、長年俺に仕えてくれている従騎士のアイツだった。

 いつも、眉ひとつ動かすことなく淡々と物事を処理し俺に指摘してくれるありがたい存在だ。

 が、出来れば今回はもっとはやく忠告が欲しかったとつくづくそう思う。

 まぁ、俺が確認することを失念していたことが悪いのだが。

 そんなこんなで、俺は今王都にある職人街に居る。

 奴の助言で、幾つかの裁縫組合ソーイングギルドを朝から駆け擦り回っているところだった。


 ことの発端は、先に起こった内乱。

 王家の血を引く馬鹿な貴族が起こした馬鹿げた戦。

 やたら理想だけが高く、さも「正当は我に在り!」と言わんばかりに猪突進をしてきた馬鹿軍隊。

 そんな奴らをこの帝国の皇太子が鎮圧することになり、皇太子直属の三騎士団の内の一つ青騎士団ブラオの副団長をしていた俺も駆り出された。

 戦いそのものは早期短時間で終結を迎えた。

 はっきり言って無意味な戦だったと今でもそう思っている。

 ただ、救いだったのは何もない荒野での戦闘だった為、戦場となった周辺の民に被害が出なかったことだ。

 そのことを唯一の収獲として王都へ皇太子と共に帰還した時、俺の運命が動いた。

 まず、現皇帝が高齢のためこの内乱をきっかけに皇太子が新たな皇帝に即位することが決まった。

 それにともない新たに新皇帝直属の二騎士団が結成されることになった。

 白騎士団ヴァイス黒騎士団シュバルツ

 確かな実績も上げていない俺が、黒騎士団の団長に任命された。

 最北の辺境伯マルクグラーフの三男坊で、第二位騎士であり宮廷騎士ロイヤルリッターである俺がだ。

 ふつうは、もっと位の高い公爵ヘルツォークあたりの子息がなるものだろうと思っていた俺には寝耳に水だった。

 現に白騎士団の団長には、ヴェルツ公爵の子息が任命されているのだから。

 でも、まぁ任命されたからには受けるほかないのが実情だ。

 各騎士団の団長は、団長任命とともに士爵リッターの称号を拝命する。

 今日から三日後に取り行われる皇太子の即位式典と合わせて各団長の正式な任命式と士爵の拝命式も同時に行われる。

 この騎士団長任命式の時に、皇帝に忠誠を誓う意味で個人の紋章エンブレムの入ったカフスを皇帝に捧げると言う。

 そのこと自体は知っていたが、そのカフスが普通の製法で作られるカフスではないことは知らなかった。

 誰にも言われなかったし、任命・拝命式に必要な手順は士官学校に在籍した時に習ったので現在所属している青騎士団の団長にも意見を聞き軽くおさらいするだけでよかった。

 俺の忠実な従騎士アイツが、「カフスはご用意できていますか?」と一言聞いてくるまで俺は、手持ちのカフスを捧げるつもりで居た。

 捧げるカフスを見せた時、アイツは絶句した数秒後、青ざめた顔で俺に説明してくれた。

 皇帝に捧げるカフスには、普通の製法ではないカフスを贈るのが通例だと言う。

 なぜ、ただの従騎士である奴が知っているのかというと、白騎士団長となるヴェルツ公爵家の子息の従騎士に自慢げにカフスの素晴らしい出来を聞かされたようだ。

 なんでもそのカフスには、聖布と呪式糸を使用するらしい。

 その布と糸は、特級裁縫士の称号を持ち、さらに限られた者しか製造できない物という。


 そんなこんなで俺は今、職人街を駆け擦り回っているという訳だ。

 けれど、特級裁縫士のほとんどは貴族のお抱えお針子となっている為、裁縫組合の斡旋所に登録されている特級裁縫士など皆無ということをこの時初めて知った。

 それでも、時間が無い俺は、職人街にあるといわれる裁縫組合をしらみつぶしに回って歩いた。

 何としてでも今日中には、裁縫士を見つけて依頼しなければ間に合わないのだ。

 焦る気持ちを押しこめて一軒一軒訪ね歩いた。

 天にかかる日が西に傾きかけた頃、最後の裁縫組合にたどり着いた。

 実家に頼もうにも、時間的に間に合わないのだ。

 ここがダメだったら俺は、恥をかくことになる。

 元々出身家が最北の辺境伯であり、地位は公爵と同等で高いが王都に暮らす他の貴族からにしては田舎者でしかないのだ。

 今考えてみれば、俺は白騎士団の団長となるヴェルツ公爵の子息の引き立て役なのだろう。

 聞いた話だと年齢も同じ年位と聞く。


 まぁ、仕方がない

 下手に抵抗するより、甘んじて恥を受けた方が潔いか


 そう思い、気楽に最後の裁縫組合の門をくぐった先で、俺は彼女と出会った。
















彼は、心の中では能弁です

しかし彼は、実際必要最低限のことしか喋りません(汗

補足:アイツは従騎士の名前です


2012/06/05 一部修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ