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紡ぎ唄のように - Spinnerlied genannt -  作者: 久郎太
第二幕:華麗なる式典
15/45

15.カフスの真価

新皇帝アーシェント・ルクツヘイム=カイザー・ネーヴェル 視点


 見渡す限り、人、人、人。

 新皇帝としてはじめて国民の拝謁を受けるため専用のバルコニーに出て手を振る。

 それに合わせて、地が揺れるほどの歓声が上がった。

 私の2歩後ろには、先ほどわが身を守る剣と盾として忠誠を誓った白と黒の二人の騎士、その後ろに元老院のお歴方と私の側近が並ぶ。

 右の袖に白騎士の、左の袖には黒騎士の忠誠のカフスが納まっている。

 白騎士のカフスの製作者が誰なのか入ってきた情報で判っていたが、黒騎士のカフスの製作者は判らなかった。

 皇帝直属の諜報部隊の手によってもその情報だけは私の耳に入ってこなかった。

 二つのカフスを見比べる。

 一見すると白騎士のカフスの方が黒騎士のカフスより称賛される造作だ。

 だが、良く見れば黒騎士のカフスの方が技術、完成度的には群を抜いているのが見て取れる。

 しかし、忠誠のカフスはそれだけでは駄目なのだ。

 忠誠のカフスの真価は、造作や装飾ではないのだ。

 その真価の事実を知るのは歴代の皇帝のみ。

 秘匿事項で口伝でしか伝えられないこの話を私も即位が決まった時、父である先代の皇帝から直接伝えられた。

 それは『更新の儀』と呼ばれている。

 皇帝の代が変わり即位式の後にある国民への初御目見の際にそれは行われるという。

 どういう儀式なのかは詳しくは父から聞き出すことはできなかった。

 ただ、その時の衝撃はものすごく、結果父の胸には消えない傷と痛みが今でも残っているという。

 その傷が更新の儀が終了した印なのかどうなのかは父も判断しかねていた。

 父の父、私の祖父も父と同じだったらしい。

 父の御世で多少の内乱はあったにせよ平和だったということはつつがく、その儀式が行われたのであろう。

 全くの憶測なのだが。

 起こる、とわかっていてもそれが何時・・なのか分からないのは正直緊張を強いられる。

 けれど、皇帝なる者動揺する姿を国民や臣下に見せるわけにはいかない。

 まさか、それこそが『更新の儀』の意味なのかと疑ったその時だった。

 私の目の前に黒い外套が翻った。

 耳障りな金属音が鳴り響き、砕けた剣の破片が視界に舞う。

 あまりも突然のことで、一瞬固まってしまった私が我に返った時、黒騎士が私を庇うようにあたりを窺っていた。

 気付けばあたりの音や大勢の人が動く気配が一切消えていた。

 

 『ほぉ、こ度は骨のある剣と盾だな。 けれど、更新の儀を完了するには邪魔だ。 少し大人しくしていてもらおう』


 そう、声が聞こえた瞬間、黒騎士がくぐもった声を挙げた。

 どうやら身体が硬直したかのように動かないようだ。

 私が声の主を探ろうとしたその瞬間、魔術の類かどこからともなく光の矢が飛来し、その矢から私を守るように目の前に現れた光の盾が硝子が砕ける音とともに消滅する様が確かに見えた。

 しかし、光の盾を貫通した光の矢は盾を通り越して来たが、私に届く前に霧散した。


 『これは、これは。 今代の皇帝は、祝福されたようだ、真の忠誠のカフスを手に入れられたか』


 称賛するような声音で姿なき声が、私の耳に届く。


 『更新の儀、恙無く終了とす。 契約を違うことなく御身の世に栄えあれ』


 それを最後に声はもう聞こえなくなった。

 同時に思い出される、即位のときに大神官が唄った戒めの唄の一節が脳裏によぎった。



 その技と思いで奴らを封じる彼らの守護を乞う


 この地を統べる者よ忘れることなかれ


 この地を真に守ることが適うのは、かの血族のみ


 汝の役目は民を治め、かの血族を守護すること也



 声の主は、『彼ら』のものだと唐突に理解した。

 と同時に『彼ら』の存在は神話やおとぎ話ではなく実在していると実感する。

 そう実感したときには、あたりの音と気配は元通りになっており黒騎士も何事もなかったかのように元の立ち位置に戻っていた。

 けれど、国民からは見えないバルコニーに散らばる剣の刃の破片が、先ほど起こったことが夢ではないと告げていた。

 国民の拝謁が終わり、私は二人と傍に控えていた側近と重鎮を伴いバルコニーを後にした。

 即位式典はこの後の祝賀会のみとなる。

 それまでの間少し休みたい気もしたが、先程の件について何やら言いたそうにしていた元老院のお歴方をそのままにしては置けないだろう。

 そう思い、そのまま引き連れて元老院の定例議会を行う一室にひとまず入り、私が定位置に着席するのを見て白黒の騎士2名を除いて皆それぞれの席に着席する。

「さて、その顔色を見ると先ほどの件を一部始終見えていたのだな?」

 確認するように着席した者達を見まわしながら私はそう聞いた。

 皆、そろって首肯する。

「あれは、先代と先々代の時にも起こったこと同じことと考えてよろしいか?」

 最年長の元老院の議長がそう聞き返してきたので、頷いた。

「しかし、あの砕けた光の盾みたいなのは何だったのだ? それに光の矢は先代や先々代のように陛下の御身を貫くことはなかった」

「わしは見たぞ! あの光の盾に浮かんだ紋章は、白騎士であるホイティエ殿の紋章だったぞ?」

「では、真の忠誠のカフスが作動したと?」

「そうであろう? でなければ説明がつかんではないか?」

「ホイティエ殿のカフスを作られたのは確か、陛下の腹違いの妹君のアプルフェル姫とか?」

「さすがは、特級裁縫士の称号をお持ちのお方だ! もしかして、姫は聖なる血族の再来かもしれないぞ?」

「やや、それはなんと幸先のよい事だ!」

等、私が頷いたのを皮切りに元老院のお歴方は、私に発言する暇も与えず話し始め盛り上がり果ては納得して話を纏めすっきりした顔になっていた。

 正直、元老院の方たちが本物の忠誠のカフスの真価を知っていたことには驚いたのだが、私の祖父の代から傍で勤めていた者たちだ知っていたがあえて公言していなかったのだろう。

 納得してもらえたので、とりあえず休憩を取りたい私は、この場でいったん解散を告げ部屋を後にした。


 白騎士、黒騎士には下がるように命じて自室に戻り人心地付く。

 先ほどの議会室で話し合い(一方的であったが)で指摘しなかったことがある。

 確かに光の矢は、ホイティエの紋章が浮かんだ光の盾によって私の身に届くことはなかったように見えた。

 が、実際は光の矢は私の身に届いていた。

 届いていたが、貫く前に霧散したのだ。

 そう、盾によって相殺されたのではなく、盾以外の何かによってかき消されたのだ。

 両腕のカフスを見る、右のカフスは見るも無残に砕けていたのに対して、左のカフスは不思議な光沢をうっすらと放っていた。

 白騎士ホイティエのカフスも元老院が言うようにそれなりに力を持った忠誠のカフスなのだろう。

 けれど、黒騎士ルフィトのカフスは正真正銘の忠誠のカフス。

 真に私の身を守ったのは彼が捧げてくれた左袖にあるカフスの力なのだ。

 『更新の儀』で『彼ら』が、行った契約の更新の代償とそれを回避するための唯一の策。

 あの光の矢が私を貫いていれば傷は残り痛みも消えることなく死ぬまで残ると聞いている。

 それを、防ぐための唯一の対策が光の矢を防ぐ守りを生み出す忠誠のカフス。

 そういうことだ。

 ばらばらであった事実をつなぎ合わせれば導き出される真実。

 おのずと導き出される答え。

 黒騎士のカフスを作った者は、間違えなく血族の血を引いている者だろう。

 これを作ることが出来る人物が唯人であるはずがないのだから。

 それに、あの手に負えない異母妹が、かの血族の再来であってたまるか。

 頭痛の種である異母妹の顔が脳裏をよぎり気分が悪くなる。

 

 ふと、もう一度あの時のことを思い出す。

 あの『更新の儀』の時、動けたのは黒騎士ただ一人だった。

 私でさえ、指一つ動かせなかったのだ。

 黒騎士とカフスの製作者。

 この世界にはまだ私が知らない隠された真実があると確信している。

 けれどそれは、歴史の紐を解けばおのずと判ってくるであろう。


 私は、幸運なのだろう。

 時の采配に感謝したい。


 歴代の皇帝が見いだせなかった者達が存在するこの時、皇帝の座を継げたことに。



















ようやくカフスの真価を書くことができました!うまく書ききれているかちょっと不安ですが(汗

この話の視点、初めは別人物の視点でした。が、何といっても一番の当事者で一番近い視点が皇帝さんだったので急遽変更して執筆投稿と相成りました^^

皇帝さんのフルネームや謎の声の人もようやく(まぁ、文中で皇帝さんが『彼ら』とばらしてますが)登場させることができました^^

次話は、2人のそれらしい場面が書けるとよいのですが……orz

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