14.従騎士の憤り
第二幕:華麗なる式典(3)
従騎士アイツ 視点
なんだってこう、悪い事というものは続くのだろうか?
神を呪いたくなるほど、主の不運は降って湧いてくる。
大方、大出世をした主を妬んだ高位の貴族の青二才か世間知らずの腑抜け騎士どもが噛んでいるのだろう。
やることが陰険この上ない。
式典前夜になってようやく王宮から届いた黒騎士団団長としての式典用軍服。
ぱっと見、冴えない簡素な衣装であったが主が着るとそこそこ見栄えがあったのでぎりぎり納得した。
製作者に、かの御方がかかわっていなかったら問答無用で作り直させていただろう。
主は、青騎士団の副団長であり第二位騎士の宮廷騎士だが生家は北の辺境伯であるシュワート家に名を連ねるお方だ。
田舎貴族と陰口をたたく者がいるが、実際は帝都の公爵とあまり身分の差はないのだ。
そういう主も身分の序列をしっかり把握してはいないようだが。
とにかく、私は他者の悪意で主が恥をかかされるのが許せない。
つまり、恥をかかせる輩にはそれなりの報復をこっそり考えるほど腹が立っていた。
なぜならば、本来ならあり得ないことが実際に起こったのだ。
よりにもよって、今この時間帯に対処のしようがない物を使って。
明らかに丈がおかしい主の礼典用の外套。
「どうやら、どうしても俺を道化師にしたい者がいるらしい」
感情が測れない声音だったが、長年つかえている私にわかった。
かなりご立腹のようだ
普段あまり腹を立てない主だが、さすがに限界を超えたようだ。
しばし考えていた主が、意を決したように顔をあげると私に、
「……、アイツ頼みがある」
そう言って、ある人物を召喚すべく主は私に命令を下した。
私は、目立たぬよう軍服を脱いで簡素な服に着替えた。
その後、明日の即位式典の前祝いとばかりに賑やかな帝都の市民街を足早に駆け抜けて職人街のはずれにあるゲーベン裁縫組合の入口をくぐった。
営業時間が終わるのか、見るからに受付の者が片づけをしているのがわかる。
けれど、受付の者は私を見て嫌な顔をすることもなく「何かご用でしょうか?」と愛想よく応じてくれた。
私は、主に言われた人物を主のもとへ連れていくために受付の者にユーリィ・ルヴェルネという人物の居場所を聞いた。
その際怪しまれないように、こっそりと誰からの召喚かも伝えておく。
主からここの裁縫組合は信用が置けると聞いていたからだ。
受付は一つ頷くと余計な詮索をせずに探している人物を呼びに行ってくれた。
幸いまだ、この裁縫組合に居たらしい。
呼ばれて出てきたのは、外見が15-6歳の少女のような娘だった。
透き通るような澄んだ緋色の髪に大きな翡翠の瞳。
さして美しいという顔立ちではないのだが、柔らかな雰囲気を纏った娘だった。
私は、単刀直入に経緯を説明して彼女に主の召喚に応じてくれるよう言うと、彼女は躊躇うことなく応じてくれた。
彼女は手早く仕事道具が入っている荷物を奥から持って戻ってくるとフード付きの外套をすっぽり頭からかぶって私を促すように外へ飛び出した。
私は、あわてて彼女に追いつくと彼女の手荷物を彼女から渡してもらい彼女を先導しながら主のいる青騎士団の兵舎へ駆けもどった。
年若い娘を兵舎へ連れ込むこと、事情はどうあれ格好の攻撃の材料となってしまう。
それを判っていたのかどうかわからないが、彼女のとった行動は(姿を外套で隠すこと)大変ありがたかった。
何事もなく主の私室に彼女を召喚することができてほっとしていると、目の前で彼女が主に対して洗練された完璧な礼をとっているのを目撃した。
昨今の大貴族の公爵の姫君でさえここまで完成された礼をとれる者は見たことがない。
それをあんなと、言っては悪いが下級階層の職人街に住むこの娘がとれるとは思いもよらなかったので正直なところ驚いた。
私は、彼女が主に対して無礼な振る舞いをしないか近くで監視しようと思ったのだが、先ほどの礼をみてその考えを改めて入口のすぐ脇で主と彼女とのやり取りを黙って見ていることにした。
主と彼女の間には余分な会話は一切なく、無駄なく動く彼女に感心する。
その手腕は素人目にも凄いと思える腕前だった。
主をみると、魅入られるように彼女の作業を見ていた。
その表情は変わらないが、主が彼女を見る目がとても優しい眼差しになっていることに私は気付いた。
ある意味仰天するほど驚いた。
主のあんな眼差しは過去一度も見たことがない。
普段、感情を顔に表さない主だが眼差しでいつも表情を表す。
これを知っているのは、主のご家族と私くらいだろう。
休みなく動いていた彼女の手が止まると、主の外套は見違えていた。
さっそくその外套を試着した主からご満悦な気配を感じた。
たしかに、先ほどの冴えなく簡素で私がようやく妥協して及第点を出した衣装は、不思議なことに外套一つで洗練された納得いく完成された衣装に変っていた。
ここまで衣装全体の印象が変わるとは思いもよらなかった。
これならば、私も文句はない。
彼女は外套の出来栄えを確認しつつ主の周りを回ると主に肩周りに不具合がないかと、確認をとっていた。
主もそれに答えて肩を動かしていた。
その動きからなんとなく動きづらそうに見えた。
彼女は主から上着を受け取ると、あっという間に主が動きやすいように上着を補修してしまった。
驚きの連続だ。
これが特級裁縫士の力なのか、とつくづくその技量に感服した。
初めて会った時はこんな娘で大丈夫かと危ぶんだが、とんでもないことだと今更ながらに考えを改めた。
裁縫士にとって最高の称号を持つ人物だけはあるのだ。
考えれば、主は初めから彼女を認めていたではないか。
これまで、主の人を見る目は外れた試しがない。
私もまだまだということなのだろう。
しかし、主はまだ気づいていないようだ。
ご自身が、あんなに柔らかい眼差しで彼女を見ていたとは……。
主の変化を見て、想像できる未来の予感が私を嬉しくさせつつもほんの少しだけ不安にさせた。
従騎士アイツ視点の式典前夜でした^^文字ばかりで読みにくかったかも知れまれません(汗
とりあえず次話はようやく場面が式典になります!
第二幕で一番盛り上がる?場面になる予定ですが……うまく表現できるかちょっぴり不安ですが、頑張って書きたいと思います!
補足ですが、ユーリィの実年齢は18歳です^^;(11話で計算すれば出てくる年齢なので一応)
いつも拍手&励ましコメントありがとうございます^^ちょっとこれは答えねばという質問があったのでこの場をかりてアンサー拍手の御礼写真の彼の衣装、白タイツではないです(汗
一応、細身のズボンです ⇒http://www.partycastle.net/content/267620 に実物あるのでお暇なら見に行ってみてください^^
※誤字のご指摘ありがとうございました!すぐに修正しましたがまたどこかありましたらご指摘お願いいたします
※一部修正しました(滝汗
2014/04/09 一部登場人物の容姿色を変更