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紡ぎ唄のように - Spinnerlied genannt -  作者: 久郎太
第二幕:華麗なる式典
13/45

13.彼の式典前夜

第二幕:華麗なる式典(2)

 俺は、つくづく運が良いのか悪いのか……。


 カフスを受け取り、ほっとして帰路に就いた俺。

 今はまだ自分の住まいである青騎士団ブラオの兵舎の一室に戻り一息つく間もなくそれは起こった。


「……、どういうことだ?」

 言葉にならなく、とりあえずそれだけ口にできた。

「どうやら、故意か偶然かは判断付きませんが、一言でいえば寸法を間違えて作られたようです」

 従騎士のアイツはそう言って何とも言えない顔になった。

 王宮より贈られてきた式典用の真新しい黒騎士団団長シュバルツ・ライターの礼典用軍服。

 黒生地に装飾は金の刺繍のみの見た目簡素なものだったのだが、試着して鏡の前に立てばかえって俺らしさが出ていて「まぁ、いいか」と納得した。

 けれど、一つだけどうしても納得いかないものがあったのだ。

 それは、外套マンテル

 どう身につけても、丈が足りなく滑稽に見えてしまう。

「どうやら、どうしても俺を道化師にしたい者がいるらしい」

 俺は、溜息を吐いて外套をはずすと長椅子に放り投げた。

 同じ人物か、違う人物か。

 けれど、ここまでやられるとさすがに腹が立ってくる。

 外を見ると、日が落ちてまだそんなに立っていない。

「……、アイツ頼みがある」

 俺は、ある人を召喚すべく従順なる従騎士に命令を下した。



 アイツに頼んで連れてきてもらったのは、俺のカフスを作ってくれた特級裁縫士のユーリィ・ルヴェルネ。

 彼女はアイツに促されて俺の私室にはいると、すっぽりと全身を覆う外套のフードを下ろした。

 そこに現れたのは、鮮やかな赤銅色の髪と翡翠の瞳。

 なぜか、安堵させるような雰囲気を醸し出す彼女。

「召喚に応じて、馳せ参じました」

 そう言って、彼女は完璧で洗練された礼を俺にした。

 その様を見ていたアイツが彼女の所作に目を見張っていたのを目端にとらえた。

「依頼の内容は」

 俺がそう聞くと、

「従騎士様より、お聞きしております。 さっそく作業に入っても?」

 打てば響くような返しで、俺の返事を待つ彼女。

「頼む」

 余分なことは一切言わずにそれだけを言うと、彼女は一つ頷いてアイツが持っていた彼女の荷物を受け取って投げ捨てられていた、外套を手にとって広げた。

 そこからは、あっという間だった。

 自分の荷物から裁縫道具を出し、その中から大きな裁ちバサミを取り出すと彼女は何のためらいもなく外套に刃を入れた。

 元の外套の長さは見る見るうちに俺の肩甲骨あたりの長さになる。

 なめらかな手の動きで切り口の始末をすると、彼女は荷物の中から見覚えのある布を取り出した。

 俺のカフスを作るために分解された婚礼衣装の残り布。

「まとめて染色してよかったです。 騎士様のお役に立てた」

 そう言って彼女はいったん手を止めて、俺の目をしっかり見てほほ笑んだ。


 気にしないでください


 そう彼女が言った気がした。



 不思議な光沢を放つ、黒く染まった聖布。

 短くなった元の外套と縫い合わされていく。

 どのくらいの時間がたったのだろうか。

「試着をお願いします」

 彼女の作業に魅入っていた俺は、その声で我に返った。

 俺の目の前に完成された外套が差し出されていた。

 ずっしりとした重量をしていた外套だったはずだが、渡された外套は羽のように軽かった。

 羽織った外套を装飾が施された留め金で留めて鏡に立つ。

 そこに映し出された姿は、まるで最初から対の外套だった様に式典の軍服に似合っていた。

 外套の丈は申し分なく、俺の身の丈に合ったものになっている。

 それに、簡素に見えた軍服の印象が洗練されたものに変わっていた。

「丈は、大丈夫そうですね。 あとは……」

 そう言うと彼女は俺の周りを回りながら丹念に衣装を見ていた。

「……、騎士様肩周りは大丈夫ですか?」

 そう言われて、俺は肩を少し動かしてみる。

 普通にしていればあまり気にならないが、肩を動かすとほんのわずかだが違和感があった。

「お直ししますか?」

 俺のほんのわずかな気配を感じたのか、彼女が下から見上げてそう聞いてきた。

「頼めるか?」

 一瞬のためらいも迷いもなく俺はそう聞いていた。

 彼女は、なぜかホッとしたような顔をしてから笑顔で「承りました」と答えた。

 外套をはずして上着を脱ぎ彼女に渡す。

 彼女は、俺の肩周りの採寸をするでもなくいきなり上着の肩周りの修正に入った。

 外套の時よりも遥かに短い時間で、再び差し出された上着を試着するとウソのように違和感がなくなりさらに動きやすくなっていた。


 これなら、有事の際でもいつものように動ける


 そう思った時、はっとした。

 彼女は、気付いていたのだろうか?

 剣を握る者として、些細なことでも命取りになることがあるということに。

「……、わかっていたのか?」

 ただ一言それだけを彼女に聞くと、彼女は肯定するように頷いた。

「ありがとう」

 感謝してもしきれないほどの、借りが彼女にある。

 しかし、俺の口から出た感謝の言葉はありきたりの言葉だった。

 けれど、それを聞いた彼女は目を奪われるような心底うれしそうな満面の笑顔を俺に返してくれた。




 明日は、式典当日。

 彼女の仕事に報いるためにも堂々と臨もうではないか。

 例え、何が起こっても。

 俺はそう己を鼓舞した。

















不幸が続く騎士様ことアーヴェンツ

時系列は少し戻ってしまっていますが、どうしてもれたかったエピソードなので(汗

次話は、このエピソードの他視点になります。こちらもどうしてもいれたかったので(滝汗

そのあと、ようやく場面が式典にもどりますのでしばしおつきあいしてください

※誤字脱字のご指摘ありがとうございます!修正いたしましたが、目に着くよな部分がありましたらご指摘ください。

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