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紡ぎ唄のように - Spinnerlied genannt -  作者: 久郎太
幕間Ⅰ:即位式前夜
11/45

11.ある男の懺悔

とある公爵ヘルツォークの庶子 視点


 手放すしかなかった


 あの日、あの内乱を治めるために出兵する前の晩、僕の人生は激変した。


 僕は、帝都にある教会が経営する孤児院で育った。

 母親が病気で亡くなり、父親は誰だか分らなかった。

 母が亡くなった時に、孤児院から迎えが来て僕はそこで5歳から13歳まで育った。

 彼女に出会ったのも孤児院だった。

 彼女は、僕らと少し違っていた。

 この孤児院にいる子らは共通していることがある。

 孤児院に迎える子は、運営している神官長自らが必ず迎えに来ているのだ。

 けれど、彼女は違った。

 僕が8歳で、彼女が5歳の冬だった。

 大雪が音もなく降り注ぐ夜中、彼女は孤児院の門前に佇んでいた。

 彼女を見つけたのは僕だった。

 その日の夜、寒さで目が覚め外を見ると雪が降っていた。

 初雪だった。

 思わず窓に駆け寄り雪を見ていたら、門の前にいる彼女に偶然気付いた。

 驚いた僕は、上着も着ずに外に飛び出したのを今でも覚えている。

 彼女は、寒さ避けのつもりなのかぼろぼろの荒い毛皮をなんとか纏い、着ている服も寒さなんて凌ぐのは困難なほどの薄着だった。

 襤褸を纏っていたけれど、僕の目には彼女はとっても清く映った。

 それは、僕を見上げた彼女の翡翠の瞳がとても澄んでいて荒んだ色がなかったから。

 僕は、孤児院の管理責任者の神官長に彼女がここに居られるよう頼み込んだ。

 最初、難色を示していた神官長だったが彼女がここの下働きをするという条件で彼女は、ここに居ることが許された。

 彼女は5歳にしては、驚異的に裁縫の腕がずば抜けていた。

 そのため、彼女は孤児院でお針子の仕事を受け持つことになり、孤児院に暮らす子供たちの普段着から祭りの晴れ着まですべて彼女一人でこなしていた。

 それができたのは、後で知ったのだがここは特殊な孤児院で、ここにいる子供たちの人数が10名に満たなかったからだった。

 僕が士官学校へ入学する13歳の春まで、彼女とは一緒にここで過ごした。

 士官学校は全寮制で僕は卒業する16歳までそこで暮らすことになったのだが、学校が休みの時は孤児院に出向いて彼女と会っていた。

 年を重ねるごとに、彼女との関係が変わっていった。

 初めは妹のように、士官学校を卒業して皇太子直属の騎士団の一つである赤騎士団ロートに入団する頃には、恋愛対象の異性として意識していた。

 彼女の傍はとても居心地がよく、彼女の雰囲気がそう感じさせるのかとても癒された気分になった。

 いるだけで、温かな気持ちになり心穏やかだった。

 騎士団の仕事が多忙だったけれど、何とか時間をつくり彼女と会う時間を大切にした。

 僕が21歳の誕生日を迎えた日、僕は彼女に求婚した。

 彼女も、はにかみながらも頷いてくれた。

 僕は、ついにこの時を迎えられたと舞い上がっていた。

 けれど、舞い上がった僕を地のどん底に落とす事実を告げられたのは、求婚した次の日の晩だった。


 おまえは、わしの息子だ

 名門ヴェルツ公爵ヘルツォーク当主のたった一人の跡取り息子だ、と


 衝撃だった。

 あまりにも受け入れがたい現実だった。

 内乱の戦闘はそれらを一時忘れられるわずかな猶予の時間だった。

 無我夢中で何も考えずに剣をふるった。

 気付いた時には、僕は皇太子の命を救った英雄の一人になっていた。

 それが、きっかけで皇太子の皇帝即位式には、皇帝直属の白騎士団ヴァイスの団長を拝命することとなった。

 僕の父親だと言った公爵は、「さすが我が息子」と、つい最近まで僕を認知もしていなかったというのに自分の手柄のように周囲の者たちを相手に自慢話に花を咲かせていた。

 上流階級には、中・下級の民に何をしても許されると思っている輩が山といる。 

 父も例に洩れずそういう部類だと僕は思っている。

 こんな場所に彼女を連れ込むことはできない。

 ましてや公爵をいずれ継ぐ身となってしまった今では、下手をすれば彼女は排除される可能性が高い。

 だから、今ならまだ間に合う。

 内乱が終わり、現実と向かい合わなければならなくなったとき、僕は断腸の思いで彼女に一通のカードを送った。

 面と向かって言う勇気がなかった。

 一言だけ走り書きするようにカードに書きつけ署名をして僕の従騎士をしてくれている彼に頼んで届けてもらった。

 

 君との婚約はなかったことにして  ヴィンター


 そう、そっけなくわざと書いた。

 僕のことをひどい男と思うようにそれだけを書いた。

 彼女を巻き込むことはできないから、巻き込みたくないから。


 ヴィンター


 その名前を持つ男は今日でこの世からいなくなる。

 

 僕は、ゲルプターク・ヴェルツ=フライヘア・ホイティエ


 謝罪してもしきれない、会わせる顔もない。

 けれど、君の幸せは祈らせて。


 君の幸せが続くことを願う、ユーリィ
















これにて幕間の話は終了です。次回こそ、第二幕が開幕します!


舞台を悩んだのですがクリスマスが近いのもあって、雪の夜にしてみました。

この物語で、本当に心底「嫌な奴!」というのも出てきますが、今回の視点の彼は最初からそういう設定だったのでご容赦を(滝汗

※要は、嫌な奴になりえないキャラなのですが……この後の展開でどうなるかは書く著者にもわかりません(汗

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