プロローグ
「……はぁ……はぁ……はぁ……!!」
ゴーン、ゴーンと、鐘の音が鳴る。
真夜中の街を、街灯を頼りに一人の男が走っていた。
「どこまで追ってくるんだよ、アイツは……!!」
男は、”何か”に追われていた。
もはや、体力も限界だった。
「ウオオオオオオウウ…………」
その”何か”は、呻き声のようなものを上げながら、男を追っている。
「!あそこ、空き家か!」
男は視界の横、右のマンション郡に目をつけた。
「気は引けるが……今は仕方ねえ……」
90度方向転換し、男はマンションの一室、今は使われていなかった部屋に走った。
「ここに入れば、アイツは近づけないはず……!」
そう男は踏んでいた。しかし。
「あれ、鍵かかかってやがる……」
そりゃそうか、と男は1人呟く。
その間に、”何か”はもう既に男の背後に居た。
「ウオオオオオオウウ……」
マンションの通路はその空き部屋で行き止まりになっていた。もう、逃げ場はなかった。
「……ここまでか、俺も」
男は諦めたかのように、その場に座り込む。
「うちには妻と子供が2人いるんだが……あいつら、上手く逃げれたかな」
独り言を言う男に、その”何か”は近づいてくる。
「てかお前、こんな明るい所でも真っ黒なんだな。そりゃ気付くわけねえわ。何人も何百人も喰われる訳だ」
「アウウ……」
黒を纏った”何か”は、化け物のような大きな口を開きながら男に近寄る。
「どうせ、俺も喰うんだろ?ほら、俺はもう諦めたぜ?まあ、俺なんか喰っても美味くはないだろ──」
男がその台詞を言い終える間もなく、”何か”は男に喰らいついた。
「…………」
男は、跡形もなく消えていた。
「……ウウウウウ……」
黒い化け物は、その場を後にした。
夜の沈黙だけを残して。
夜明けとともに、マンションの前でその黒い化け物は霧と化して消えた。
その様子を、黒いローブを纏った一人の男が見ていた。
「よしよし、いい子だ」
その場には誰もいないのに、まるで誰かを褒めているかのように1人話す。
「君のおかげで、俺の野望は叶えられる」
ニヤリとフード越しに笑みを浮かべる男。
「さて、そろそろ離れなければ」
男はその場から去った。
黒い化け物に喰われた男が消息不明とされたのは、翌日の出来事だった。